探偵の知識

代理受領の第三者効

2025年11月19日

書名: Law Practice 民法Ⅰ【総則・物権編】〔第5版〕
著者名: 千葉 恵美子, 潮見 佳男, 片山 直也 (編者), 出版社名: 商事法務, 発行年月日: 2022年10月15日 (第5版第1刷発行), 引用ページ: 不明, ISBNコード: 978-4-7857-2991-2

A会社(以下、「A」という)は、B会社(以下、「B」という)より建物の建築を1億5000万円で請け負い、建築工事を完了し建物をBに引き渡した (2024年10月)。工事代金は3回に分けて支払われることになっており、Bはすでに2回の支払は済ませ、残りの5000万円の支払については工事完成・建物引渡後の同年10月16日と約束されている。

C信用金庫(以下、「C」という)は、2024年5月に、Aに対して6000万円の融資をするに際して(返済期日は同年10月10日)、Aの代表取締役Dに連帯保証人になってもらうと同時に、上記工事の残額代金債権5000万円(以下、「本件債権」という)につき、AがBに対する本件債権の取立てをCに依頼し、そのための代理権をAがCに付与する合意をした。しかし、BがAに支払ってしまうと困るため、Cの担当者がBの本社を訪れて、権限を有するBの社員と交渉して、貸金回収目的であるといった事情を説明して、Cへの支払を書面により承諾してもらった。

その後、Aは2024年10月10日の返済期日にCに6000万円の支払がなかったため、CはAにその支払を請求したが、支払がされないため、Cは本件債権からの支払を受けることにした。これに対して、Aが他から入金の可能性があるので、10月末まで支払を延ばしてほしいと懇願してきたため、Cは本件債権の取立てを見合わせることにした。しかし、Aは、Bに対してCへの取立ての委任は解除されているのでCにないとBの担当者を安心させて、BとAの口座への振込みをさせたうえで、これを引き出して建築資材の購入などに使用した。

この事例で、CはBに対してどのような請求ができるか。

●参考判例●

① 最判昭44・3・4民集23巻3号581頁
② 最判昭61・11・20判時1219号63頁

■解説■

1 代理受領の意義:BのAへの弁済は有効

本件債権にCによって債権質が設定され、Aによる債権譲渡設定の通知がなされたならば、もはやBのAへの弁済は無効になる。また、担保のために本件債権がCに譲渡されその通知がAによりBになされた場合にも、Aへの弁済は無効である。

ところが、公共工事についての地方公共団体に申する債権については、法令により債権の譲渡・質権設定が禁止されているため、これらの方法によることができない。そこで、担保目的で債務者から債権についての取立受領権限の付与を受けて、事実上優先的保護を図るという担保目的の取引が、実務慣行により発生したのである。このような担保目的の取立受領権限を趣旨する実質的担保取引を代理受領という。

本問は、民法上の問題であるため、私人間の場合を想定した事例としたが、その問題点は、公共工事の代金債権と変ることはない。

代理受領では、債権質の設定とは異なり、債務者の返済権限を奪うものではなく、債務者の代理人として取立てるにすぎないので、債務者(本問ではA)に支払われてしまえば、その弁済は有効である。そのため、債権者への支払がされないようにしておく必要があり、代理受領では、債権回収を確実なものとするために、第三債務者(本問ではB)の承諾を得ておくのである(取立委任の受任者の保護を第三債務者に、口約束か、黙諾か、請求します」といったような記載がされ、この解釈ないし判断が難解になる。それにもかかわらず、本問でいえばBがAに支払ってしまったらどうなるのかが問題になるのである(甲斐道太郎「契約方式による担保権一代理受領」遠藤浩=林良平=水本浩編著『現代契約法大系(6)』〔有斐閣・1984〕34頁以下)。

2 保佐するためには、弁済の効力を否定できないか

Cを保護するために、弁済の効力を否定することもまったく不可能ではない。その方法としては、A・B・Cの三者間で、Aの受領権限を否定しCにのみ受領権限を認めるという合意があったと契約解釈により導く方法である。契約自由の原則からして不可能とまではいわないとしても、そこまでの合意をしていると契約解釈することが許されるかははなはだ疑問であろう。

そこで、次にBがCへの支払を約束しておきながら、Aに支払うことは信義則に反する行為であり、信義則上弁済の有効性を主張できないという解決も考えられる。しかし、そこまでの強い効力をこの合意に認めてよいのかは疑問である。

結局、Bのなした弁済を無効とすることは無理というほかはない。なお、代理受領という取引自体の法的性質としては、①単なる取立委任説、②債権質権類似の無名契約説、③第三者のためにする契約説、④目的無名契約説、⑤債権担保契約説などが考えられている(平井・前掲40頁参照)。

3 Cを保護する法的構成2:損害賠償による保護

(1) 第三債務者の義務

(a) 債務を負担する意思表示ではないとすると第三債務者BのCへの代理受領の承認を法的にどう分析すべきかが、この問題を解くキーポイントになる。これを単に、Cの取立権限を認めてCが請求してきたらCに支払うというだけの約束であれば、何ら法的な債務の負担の合意ではない。

しかし、債務を負担する意思表示ではないとしても、Cが本件債権から債権回収を図ろうと考えていることを知りつつ、また、これに意思表示ではないとしても支払を約束してCを安心させている。Cは担保をとったも同然と信頼して、それゆえにAに融資を行ったのである。これによりCに保護に値する利益が成立し、BはAに弁済することによりそれを侵害しない信義則上または不法行為上の義務を負うということも考えられる。そこが、その保護の対象となる権利ないし利益をどう構成したらよいのかという点でさらに疑問が生じよう。債権侵害であろうか、それとも一種の担保といった期待利益であろうか。しかし、そうすると債権侵害において違法性が認められるためには主観的要件として侵害の認識といった強度の違法性が必要ではないか、といった疑問をぬぐえない。

(b) 債務の負担という構成

債権回収上の義務や不法行為上の義務とは異なり、契約上の独自の債務(521頁、522頁参照)があるので、CはBの意思表示に対して何らかの債務を負担することはないのである。そのように解釈したとしては、保証債務とは異なるが、BがCにAに代位すべき給付を行う義務(さらには共存的債務引受)、または、Aに支払をしないという不作為義務を共存的に負担するということが考えられる。

契約自由の原則からこのような債務を負担する合意を無効とする理由もなく、問題は、そのような合意がされていると承認することができるのかということである。ただし、信義則上の義務を根拠として肯定すれば、別に合意することを説くよりもAに支払う義務を負うとの構成を肯定でき、その違反による債務不履行を語ることになる。

(c) 判例による解決

判例は、本問のように、第三債務者(本問のB)が、代理受領が解除されたという債務者(本問のA)の言を信頼して承認もせずに債務者に弁済をした事例について、おおむね次のように判示して、債務者(本問のC)による第三債務者(本問のB)に対する損害賠償請求を認容している(参考判例①)。

代理受領の委任状が提出された当時、担保の事実を知って代理受領を承認したのであり、X(債権者)からはこの請負代金を受領すれば、債務者に対する右貸金(担保権の満足が得られるという利益)を害すると判断され、この承認は、「単に代理受領を承認するというにとどまらず、代理権に基づいて得られるXの右利益を承認し、正当の理由がなく右利益が侵害されるという趣旨をも当然包含するものと解すべきであって」したうえで、Yとしては、この「承認の趣旨に反して、Xの右利益を害する(Yの過失で右のような義務がある)」と解するのが相当である(右利益の遺失の範囲で損害賠償義務がある)。

「債権の満足が得られるという利益」を問題にしているので、債権侵害というよりも実質担保取引により享受する担保的利益を問題にしているものとなる。あるいは民法709条では、権利だけでなく法的に保護される利益も含まれるので(2004年の現代語化で明記)、条文とは齟齬しない。そして、損害は、本問でいうと、CがAに対する債権を回収できないという損害ではなく、CがAのBに対する本件債権から債権回収をするという担保利益を問題にしている。そのため、(2)のように他に担保があって損害は否定されないことになる。

(2) 賠償請求できる損害

代理受領の約束に反して第三債務者により債務者への弁済がなされた場合、債権者に対する不法行為が成立するとも、担保権は不可であろう。担保侵害であるとすると、その担保による確実な回収可能性ということになり、その担保がなくても債権回収できる場合であっても損害ありということになるのであろうか。

この点の参考判例②は、原審判決は、「一種の担保が失われても残存する他種の担保によって十分に担保されているときには、損害の発生には影響がない」として、資力十分な連帯保証人がいるため、「代理受領の喪失による損害はない」としたのを破棄し、「担保権の目的物が債務者又は第三者の行為により全部滅失し又はその効用を失った場合に、他に保証人等の人的担保があって、これを実行することにより債権の満足を得ることが可能であるとしても、かかる場合、債権者としては、特段の事情のない限り、どの担保から債権の満足を得ることも自由であるから、そのうちの一の担保が失われたことによりその担保権から債権の満足を受けられなくなったこと自体を損害として把握することを妨げられない」と判示して、他に保証人等の人的担保が設定され、債務者がその履行請求権を有するときは、右担保権の侵害とみなされるので、代理受領を超えて担保侵害の一般論としても注目される判決である。抵当権侵害については、その抵当権により債権回収しえた金額が損害であり、債務者が資力十分であり債権を保全しえないとしても、損害賠ごうが認められることになる。債権者に行きすぎた保護を与えるものではないか」という疑問は残るが、損害の認定を軽減するという観点からは是認してよい解決である。

4 本問への当てはめと関連問題

(1) 本問への当てはめ

判例を本問に当てはめれば、Bには、承認という先行行為に基づく不作為義務ないし不可侵義務として、本件債権から確実に債権回収ができるという「利益」「不利益」を侵害しない義務が課せ。

そうすると、Bは容易にCの承諾に応じたのに、Aの説明のみを鵜呑みにしてAに支払っており、この義務に違反する過失があるといえ、BはCに対して民法709条(ないし同715条1項)による損害賠償債務を負うことになる。Bとしては、確実な連帯保証人Dがいるので注意は散漫になるという主張をするであろうが、上記判例②によればこのような主張は認められないことになる。

(2) 代理受領の関連問題(Dへの影響が対象)

(a) 債務不履行責任の当否 代理受領の問題としては、まず、債務を負担する意思表示までないとしても、信義則上の義務の成立とその違反による債務不履行を問題にできないかという問題がある。法条文1条3項の移動で新たな権利義務関係によることができ、消滅時効の点で債務不履行責任による利益があるが、信頼保護の義務をそこまで拡大できるのかは問題が残される。

(b) Aに対する求償の問題等 次に、もしBがCに損害賠償をした場合、BはAに求償できるか。また、AのCに対する債務はどうなるかという問題がある。BのAに対する弁済は有効なので、不当利得返還請求は認められない。また、BはAに対する債権を保証人Dの保証債務を代わりに弁済したわけではない。しかし、AがCとBから二重に債務額を超える支弁を受けるのは正当ではないはずであり、CのAに対する債権が存続するというのでは不合理である。こうして、A・B・C三者間の関係になり、BのCに対する賠償金の支払により、CのAに対する債権も消滅すると考えるべきである。そうすると、Cに対してAとDは連帯債務を負うことになるため、公平の観点からBからAへの求償が認められるべきであり、実質的に担保ということと考えれば、BからAへの直接な求償を認めるべきであろう。

(c) Bに対する求償権の問題 さらに、Bと連帯保証人Dとの関係も問題になる。というのは、このAに対する債務につき、BとDの2人が担保を負担することになるからである。①Bが弁済した場合、Dは担保を免れるので(Bの免責行為が有益)、②他方、Bが賠らなければならない。

Dに対する保証債務に全面的に弁済の代位ができるというのでは、公平ではない。そのため、C・D間には共同保証人相互の求償についての民法465条1項を類推適用して、相互に頭割りでの求償を求めるべきである。

(d) 第三者との関係 さらには、正規の担保ではないので、第三者への対抗はどうなるのかという疑問が残される。代理受領の合意後に、本件債権が第三者に譲渡されたり、質権が設定されたり、さらには第三者が差し押えることが考えられる。対抗要件がないのみならず、あくまでAC間の相対的な義務にすぎないので、他の第三者はCのBとの関係で認められる利益を害しない不可侵義務を負わないというべきである。結局、Cは第三者が差し押えたならば、それを排除できないことになる。

では、二重に代理受領が合意されたらどうなるであろうか。両者に第三債務者が承認してしまえば、相対的な義務であるので、いずれに対しても何という利益そしてそれを侵害しない義務が成立するのであろうか。

【関連問題】

もし本問において、CがAから本件債権について取立・受領権限の付与を受けたのではなく、AがCの有する預金口座に、Bが本件債権の支払金を振り込むことをAに約諾したが、AがBに、AがD銀行に有する口座に振込先を本件債権の支払先を変更することを求め、Bがこれに応じてD銀行のAの口座に本件債権の支払金額を振り込んだ場合だとしたら、CはBに対してどのような法的請求ができるであろうか。

●参考文献●

杉田平一郎・最判解民昭和44年度(上) 133頁/内田貴『担保・保証Ⅰ (第6版新民法対応補正版)』(2006) 210頁/梅秀夫編著『現代担保の判例Ⅱ (ジュリ増刊)』(有斐閣・1994) 107頁(松本恒雄)/谷川宇彦「代理受領(現代的問題)」京都学園法学56号(2008)1頁以下

(平野裕之)

判例索引
(参考判例として掲載されたもののみ太字で示した)

大判明37・12・13民録8輯1591頁

大判明39・3・31民録10輯422頁

大判明40・6・13民録11輯688頁

大判明41・9・25民録14輯941頁

大判明43・12・15民録18輯1276頁

大判明43・12・17民録18輯1301頁

大判大元3・4・5民録20輯345頁

大判大元3・12・15民録20輯1101頁

大判大元5・11・8民録22輯2078頁

大判大元5・12・25民録22輯2509頁

大判大元6・12・27民録23輯2324頁

大判大元7・2・22民録24輯284頁

大判大元7・3・9民録24輯421頁

大判大元7・10・2民録24輯1852頁

大判大元7・10・30民録24輯2087頁

大判大元8・3・6民録25輯414頁

大判大元8・6・13民録25輯1214頁

大判大元8・7・14民録25輯1213頁

大判大元8・11・1民録25輯1944頁

大判大元9・4・27民録26輯899頁

大判大元9・5・11民録26輯640頁

大判大元9・6・1民録26輯858頁

大判大元9・7・16民録26輯1038頁

大判大元10・7・8民録27輯1373頁

大判大元12・12・17民集3巻648頁

大判大元13・11・20民集5巻516頁

大判大元14・7・14民集6巻491頁

大判大元15・3・29民集7巻190頁

大判昭元2・9・26民集9巻13頁

大判昭元4・12・11民集8巻923頁

大判昭元6・6・4民集10巻601頁

大判昭元7・6・8民集11巻1115頁

大判昭元7・6・21民集11巻1368頁

大判昭元9・6・20民集13巻1118頁

大判昭元9・10・13民集13巻875頁

大判昭元9・6・2民集13巻931頁

大判昭元10・4・23民集14巻603頁

大判昭元10・8・10民集14巻1401頁

大判昭元11・2・25民集15巻372頁

大判昭元11・7・2民集15巻1029頁

大判昭元11・12・9民集15巻2172頁