刑事手続の目的|適正な手続の保障
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
法1条が「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ」と述べるのは、刑罰法令の「適正」な適用実現という表現と相俟って、公共の利益である利間法令の適用実現過程が、基本的な正義・公正の観念にかなったものであり、不当・不合理な基本的権利・自由の侵害・制約になってはならぬという大原則を表明したものである。恋法31条は、単なる手続の法定のみならず、法の定める「適正」な手続を保障しているのであり、「法の適正な過程(aue process of law)」の観念は、まさに憲法の明記する個々の刑事手続関連条項(憲法31条~39条)と刑事訴訟法の条文群に具現されている。
以下に詳述する刑事手続の目的は、それ自体、国家の役割として極めて重要な事柄ではあるが、目的は必ずしも手段を正当化しない。目的達成のために国家権力が手段を選ばず暴走すれば悲惨な事態を生じることは、歴史の教えるところである。手段である「刑事手続」がそれ自体として「適正な作動過程」でなければならぬこと、それが憲法と刑事訴訟法の最も基本的な「精神」である。
刑事手続法とは、その「精神」が、法技術的諸制度として具体的に造型・体現されたものにほかならない。
なお、最高裁判所も,違法に収集された証拠物の証拠能力に関する判断に際して、「事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、...・・・憲法31条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると」と説示して、同条項が「法の適正な手続」を意味することを明示している(最判昭和53・9・7集32巻6号 1672
頁)。
* 憲法31条の要請する「適正」ないし「基本的正義・公正」の観念は、さらに、実定刑事訴訟法の個別的適用過程に対して、司法的統制のための具体的な裁判規範としても機能し得る。文面上合理的に設計された強制処分の個別事案における発動過程が、憲法上最高の価値である個人の尊厳(憲法13条)を著しく侵害する場合には、裁判所は、基本権の擁護者として、憲法31条違反を理由にそのような法適用を阻止すべきである(憲法81条)。刑事訴訟法の定める人の身体を対象とする捜素や身体検査と証拠物の差押え(法 218条)は、法制度として一般的に不合理なものではないが、個別事案におけるその発動が、対象となる人の生命・身体に著しい危険を及したり、個人の尊厳に係わる人格的法益を着しく侵書することが見込まれる場合がその例である。
なお、立法府が判断を誤り、憲法の刑事手続関連条項の保障を侵害することが文面上も明らかな手続を内容とする「法律」を制定した場合には、個別事件におけるその具体的適用場面において、裁判所が当該立法の違憲無効(個別の憲法条項違反
及び憲法31条違反)を宜言できるのは然である(憲法81条)。
「法の適正な手続」の観念はこのように具体的な裁判規範としても機能し得るのであるが、他方で、その具体的な意味内容は必ずしも明瞭でないところがある。例えば、不利益を被る対象者に対して告知と聴聞(notice and hearing)の機会を与えることは、「適正手続」の内容として比較的具体的で明瞭なものであろう。しかし、「基本的な正義・公正(fundamental fainness)」の観念に至ると、何がそれに反するかは、これを判定する裁判官の主観的信念に委ねられてしまうおそれもある。したがって、適正手続の内容を成すことが明らかなより具体的な恋法の基本権条項(恋
法 33条以下等)ないしその意味内容の趣旨に即した文言の拡張解釈によって魅法
判断が可能である場合には、できるだけ具体的な基本権の内容を明示・特定して議論を進めるのが望ましいと思われる。
以下に詳述する刑事手続の目的は、それ自体、国家の役割として極めて重要な事柄ではあるが、目的は必ずしも手段を正当化しない。目的達成のために国家権力が手段を選ばず暴走すれば悲惨な事態を生じることは、歴史の教えるところである。手段である「刑事手続」がそれ自体として「適正な作動過程」でなければならぬこと、それが憲法と刑事訴訟法の最も基本的な「精神」である。
刑事手続法とは、その「精神」が、法技術的諸制度として具体的に造型・体現されたものにほかならない。
なお、最高裁判所も,違法に収集された証拠物の証拠能力に関する判断に際して、「事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、...・・・憲法31条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると」と説示して、同条項が「法の適正な手続」を意味することを明示している(最判昭和53・9・7集32巻6号 1672
頁)。
* 憲法31条の要請する「適正」ないし「基本的正義・公正」の観念は、さらに、実定刑事訴訟法の個別的適用過程に対して、司法的統制のための具体的な裁判規範としても機能し得る。文面上合理的に設計された強制処分の個別事案における発動過程が、憲法上最高の価値である個人の尊厳(憲法13条)を著しく侵害する場合には、裁判所は、基本権の擁護者として、憲法31条違反を理由にそのような法適用を阻止すべきである(憲法81条)。刑事訴訟法の定める人の身体を対象とする捜素や身体検査と証拠物の差押え(法 218条)は、法制度として一般的に不合理なものではないが、個別事案におけるその発動が、対象となる人の生命・身体に著しい危険を及したり、個人の尊厳に係わる人格的法益を着しく侵書することが見込まれる場合がその例である。
なお、立法府が判断を誤り、憲法の刑事手続関連条項の保障を侵害することが文面上も明らかな手続を内容とする「法律」を制定した場合には、個別事件におけるその具体的適用場面において、裁判所が当該立法の違憲無効(個別の憲法条項違反
及び憲法31条違反)を宜言できるのは然である(憲法81条)。
「法の適正な手続」の観念はこのように具体的な裁判規範としても機能し得るのであるが、他方で、その具体的な意味内容は必ずしも明瞭でないところがある。例えば、不利益を被る対象者に対して告知と聴聞(notice and hearing)の機会を与えることは、「適正手続」の内容として比較的具体的で明瞭なものであろう。しかし、「基本的な正義・公正(fundamental fainness)」の観念に至ると、何がそれに反するかは、これを判定する裁判官の主観的信念に委ねられてしまうおそれもある。したがって、適正手続の内容を成すことが明らかなより具体的な恋法の基本権条項(恋
法 33条以下等)ないしその意味内容の趣旨に即した文言の拡張解釈によって魅法
判断が可能である場合には、できるだけ具体的な基本権の内容を明示・特定して議論を進めるのが望ましいと思われる。