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探偵の知識

いわゆる「刑事手続のIT化」について

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

2024(和6)年2月15日の法制審議会総会において、法務大臣問第122号に対する答申として、いわゆる「刑事手続のIT化」に関する法改正の要網が示されている。この諮問は、
「近年における情報通信技術の進展及び普及の状況等に鑑み、[下記]・・・・の事項に関して刑事法の見直しをする必要があると思われるので、その法整備の在り方について、意見を承りたい。•・
- 刑事手続において取り扱う書類について、電子的方法により作成・管理・利用するとともに、オンラインにより発受すること。
二 刑事手続において対面で行われる捜査・公判等の手続について、映像・音声の送受倍により行うこと。
三 一及び二の実施を妨げる行為その他情報通価技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること。」というものであった。
情報通言技術の進展及び普及は刑事手続に関する様々の局面で、手続関与者間のコミュニケイションに多くの利便性・効率性をもたらすものであるが、他方、刑事手続においては、関与者特に被疑者・被告人の基本的な権利や、手続運用を支える前記の基本理念との関係で、利便性・効率性を追求するあまり様
牲にしてはならない基本的価値がある。法制審議会答申を準備した刑事法(情報通技術関係)部会においては、このような視点も踏まえて活発な議論が行われた。法制審議会答申「学網(骨子)」の概要は次のとおりで、要綱は第1.
第2第3から成る。なお、将来法改正が見込まれる制度の具体的内容や議論された課題については、本書の関係箇所でも適宜説明を加える。
要網(骨子)「第1-1」は、訴訟に関する書類の電子化に関して所要の規定を設けるもので、①電磁的記録による公判調書の作成等について〔第3編公判
手続第4章X2*)、②竜磁的記録である訴訟に関する書類等の関覧・勝写につ
いて〔第3編公判手続第4章X2*、第5編裁判第1章(2)*)、③申立て等及びその記録の電子化について、④竜磁的方法による告訴・告発等について、⑤電磁的記録の送達について、⑥公判廷における電磁的記録の取調べ等について、⑦供述の内容を記録した電磁的記録等の作成及び取扱い〔第1編捜査手続第4章立
3(2)*】について、それぞれ、訴訟に関する書類の電子化に係る規定を整備するとしている。これらの規定が基備されることにより。裁判所に提出される証拠書類や手続書類が電子データとして作成され、書面のやり取りによってなされている手続が電子データのやり取りにより行われ、裁判所においても、訴訟に関する書類が電子データとして作成・管理・利用されることとなり、刑事手続の円滑化・迅速化に資すると考えられる。
「第1-2」は、電磁的記録による状の発付・執行等に関する規定を整備するもので、逮捕状、勾留状及び鑑定留置状といった裁判所・裁判官の発する令状は、いずれも、書面によるほか。電磁的記録によっても発付することができるとするとともに、紙の状と同様の内容が表示されるように同様の事項を記録することとし、電磁的記録による状は、電子計算機の映像面等に表示して被処分者に示して執行することができるとするものである〔第1編捜査手続第1
章13(4)**,同第3章11(3)**、13(3)*、同第5章皿3(3)*。
「第1-3」は、電磁的記録を提供させる強制処分を創設するもので、これに伴い,現行法に規定されている記録命令付差押えを廃止する〔第1編捜査手続第
5章11(2)**、V*)。
「第1-4」は、電磁的記録である証拠の開示等についての規定を備するもので、現行の証拠開示に関する規定に関して、証拠書類または証拠物の全部または一部が電磁的記録であるときの関覧・謄写の機会の付与の方法等を明確化する規律を設けるとともに、電磁的記録をもって作成された証拠の一覧表の提供等についての規定を整備する〔第3編公判手続第3章14(h)*)。
要網(骨子)「第2-1」は、刑事施設等との間における映像と音声の送受による勾留質問・弁解録取の手続を行うための規定を創設するもので、その要件や、その場合に被告人・被疑者に告げるべき内容などを規定している[第1
編捜査手続第3章皿2(3)* *)。
「第2-2」は、映像と音声の送受信による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度を創設するもので、具体的には①検察官、弁護人、裁判長ではない裁判官,被告人が、ビデオリンク方式で公判前整理手続期日等に出席・出頭することについて〔第3編公判手続第3章112(1)*),②告人,弁護人,被害者
参加人等が、ビデオリンク方式で公判期日に出席・出頭することについて〔第
3編公判手続第1章1(6)*),③裁判員候補者や被告人が、ビデオリンク式で判員等選任手続期日に出席・出頭することについて(第3組公判手続第6率213)
*) それぞれ、手続の性質に即して、一定の要件の下で行うことができると
している。
「第23」は、証人尋問等を映像と音声の送受信により実施する制度を拡充するもので、具体的には、証人尋間をビデオリンク方式で実施することができる場合として、新たに、専門家である証人に鑑定に属する供述を求める場合や、証人が傷病等のために出頭困難である場合、刑事施設等に収容中の証人であって出頭困難な状況にある場合、検察官及び被告人に異議がなく裁判所が相当と認める場合などを加え、雛定を命ずる手続や通訳について、裁判所が相当と認める場合にビデオリンク方式によることができるとする〔第3編公判手続第4章1I5(4)**,W1(4)*、2*)。
なお、映像と音声の送受により手続を行うことに関しては、これらのほかに、被疑者・被告人と弁護人等との接見について、これをオンラインで行うことを被疑者・被告人の権利として位置付ける規定を設けるべきとの意見が述べられ、部会においては、この点についても議論が重ねられたが、「要綱(骨子)」に記載されるに至らなかった。その経緯の詳細については〔第1編捜査手続第9章II3(5)***)。また、被害者がオンラインにより公判を傍聴できるようにすべきであるとの意見も述べられたが、これに対しては、刑事手続にとどまらず民事訴訟などを含めた裁判制度全体に関わる問題であり、慎重な検討を要する、といった意見が述べられ、同様に、「要綱(骨子)」に記載されるには至らなかった。
要綱(骨子)「第3-1」は、電磁的記録をもって作成される文書の頼を害する行為を処罰するための罰則を創設するもので、文書や図画として表示されて行使されることとなる電磁的記録を、行使の目的で偽造する行為などを、文書造と同様に処罰する。
「第3-2」は、電子計算機損壊等による公務執行妨害の罪を創設するもので、公務員が職務を執行するに当たり、その職務に使用する電子計算機やその用に供する電磁的記録を損壊したり、その電子計算機に虚偽の情報や不正の指令を与えるなどすることにより、その電子計算機に使用目的に沿った動作をさせない行為を現行刑法の暴行・脅迫による公務執行妨害罪と同様に処罰する。「第33」は、新たな犯罪収益の没収の裁判の執行及び没収保全等の手続を
※入するもので、職は資産など、その後能についてお記等の制度がなく。債務
者やこれに準ずるものが存在せず。物体性もない財産権について、その没収の裁判の執行及び没収保全等の手続を設けるものである。
「第3-4」は、通信傍受の対象罪を追加するもので、狙罪捜査のための通信傍受に関する法律別表第2に掲げる対象犯罪に刑法 236条2項(利益強盗)。
246条2項(利益詐欺)及び249条2項(利益恐喝)の罪を加えるとしている〔第1編捜査手続第7章I3(2)**)。