|捜査の端緒|職務質問と所持品検査|「停止」及び「同行」の許容限度
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
1) 職務質問の本来的目的である「質問」を実施・継続するため必要不可欠な、歩行中の人をその場に「停止」させる行為には、様々な態様が想定される。
ここで問題となる対象者の法益は身体・行動・移動の自由であるから、原則形態は有形力を用いない口頭の呼びかけで承諾を求める方法であろう。これが法益侵害のない「最小限度」である。他方で、法は「身柄拘束」に該当する手段を禁じているから、「逮捕」と同一視できる対象者の意思を制圧し身体・行動の自由を奪する有形力の行使があった場合や、有形力を行使しなくとも長時間対象者の移動の自由を侵害・制約する状態にあったと認められる場合は、「身柄拘束」に当たり違法である(職務質問を端緒とし、約6時間半以上も対象者を路上に留め置いて任意同行を求める説得行為を継続した事案に関する判例は、「移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法」と評価しているが[最決平成6・9・16刑集48巻6号420頁]、端的に違法な強制処分である身体拘束状態であったというべきである)。
前記のとおり、警職法が一定の要件を明示して具体的な手段を採る権限根拠を付与していることから、停止させる手段として強制の程度に至らない有形力の行使、すなわち「任意手段」としての有形力行使も許容される場合があり得ると考えられる。しかし、あくまで対象者の承諾を得るのを原則とすべきであり。有形力の行使は、限定的な場合に留めるべきである。普職法1条が厳格な比例原則を求めていることに鑑み、身体・行動の自由に加えられた侵害・制約の程度と手段の「必要取小」との権街の判定に際しては、特に他のより侵害的でない手段が容易に可能であったかどうかに留意すべきであろう。
*停止させる手段の限界について、具体的な基準を示した判例はない。しかし、職務質問に伴う所持品検査の許否につき説示した判例は、その論理に拠れば「任意手段である職務質問の附随行為」である所持品検査について、原則として対象者の承諾を得ること、承諾なき場合、すなわち対象者の意思に反しその法益を侵害する場合については、「限定的な場合において.......【そ]の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである」と説示しているので(後掲最判昭和53・6・20,前掲最判昭和53・9・7),「質問」実施の前提として不可欠な「停止」手段についても,この説示と同様の「比例原則(権衡原則)」が適用されることを前提にしているはずである。なお、この基準は、任意捜査における有形力行使の適否判断基準〔第1章113]と実質的に同じものと見ることができる。有形力行使を伴う「任意手段」という点で共通する察活動について,大枠として別異の法的基準を立てる積極的理由は見出し難い。
**いったん停止させた自動車利用者について、察官がエンジンキーを回転してスイッチを切ったり、キーを一時的に確保するのは、質問対象者が高速で移動可能な自動車を利用していきなり立ち去るおそれを減じ、その場に「停止させ」る状況を確保して「質問」を継続するための合理的な措置として具体的状況のもとで相当な手段と認められる場合もあろう(職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為とした判例として、前掲最決平成6・9・16,最決昭和53・9・22刑集32巻6号1774頁。ただし、いずれも交通危険防止のため必要な応急措置[道交法67条]にも当たるとされている点に留意すべきである)。
***職法の明記する「停止させ」にはおよそ該当しない態様の行為であっても、法の本来的目的である「質問」を実施・継続し得る状況を確保するのに必要不可欠と認められる手段は、職法2条1項により「職務質問の附随行為」として併せ許容されていると解することができる(例えば,ホテル室内に居る対象者に対して職務質問を継続し得る状況を確保するため、部屋の内ドアを押し開け、足を踏み入れて内ドアが閉められるのを防止した警察官の行為を、職務質問に附随するものとして適法とした判例として、最決平成15・5・26刑集57巻5号620頁)。明文のある「質問」の附随行為として醤職法2条1項に「根拠規範」を見出すことができよう。ただし、本来的目的である「質問」との密接関連性・手段としての必要不可欠性は厳格に解さなければならない。この点で、この判例の事案処理は説得的であるが、後記のとおり,「所持品検査」を「職務質問の附随行為」と位置付けて正当化する判例には疑問がある。
(2)「同行」を求める方法についても、停止させる行為と基本的に同様に考えることができる。ただし、単なる「その場で」の「停止」とは異なり、対象者の場所的移動、しかも察署等への移動を伴うから。対象者の行動・移動の自由という法益を侵害・制約する程度は一般に停止より大きい。したがって、同行を求めるための任意手段については、一層厳格な権衡に留意しなければならない。意に反する「連行」状態になっていたかどうかの判断においては、同行を求める際の響察官の態度・人数、それらが「同行」に係る対象者の意思決定に対して及ぼした影響、普察署等への到着後の察官の対応状況,察署等における滞留時間等を総合考慮して、対象者の意思を制圧し、身体・行動の自由を侵害・制約する身体拘束すなわち違法な強制手段になっていなかったかどうか、また、そのような程度・態様には至っていなくとも、同行の方法・態様が必要最小限度の合理的権衡を久いた違法な任意手段となっていなかったかを順次検討しなければならない。
ここで問題となる対象者の法益は身体・行動・移動の自由であるから、原則形態は有形力を用いない口頭の呼びかけで承諾を求める方法であろう。これが法益侵害のない「最小限度」である。他方で、法は「身柄拘束」に該当する手段を禁じているから、「逮捕」と同一視できる対象者の意思を制圧し身体・行動の自由を奪する有形力の行使があった場合や、有形力を行使しなくとも長時間対象者の移動の自由を侵害・制約する状態にあったと認められる場合は、「身柄拘束」に当たり違法である(職務質問を端緒とし、約6時間半以上も対象者を路上に留め置いて任意同行を求める説得行為を継続した事案に関する判例は、「移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法」と評価しているが[最決平成6・9・16刑集48巻6号420頁]、端的に違法な強制処分である身体拘束状態であったというべきである)。
前記のとおり、警職法が一定の要件を明示して具体的な手段を採る権限根拠を付与していることから、停止させる手段として強制の程度に至らない有形力の行使、すなわち「任意手段」としての有形力行使も許容される場合があり得ると考えられる。しかし、あくまで対象者の承諾を得るのを原則とすべきであり。有形力の行使は、限定的な場合に留めるべきである。普職法1条が厳格な比例原則を求めていることに鑑み、身体・行動の自由に加えられた侵害・制約の程度と手段の「必要取小」との権街の判定に際しては、特に他のより侵害的でない手段が容易に可能であったかどうかに留意すべきであろう。
*停止させる手段の限界について、具体的な基準を示した判例はない。しかし、職務質問に伴う所持品検査の許否につき説示した判例は、その論理に拠れば「任意手段である職務質問の附随行為」である所持品検査について、原則として対象者の承諾を得ること、承諾なき場合、すなわち対象者の意思に反しその法益を侵害する場合については、「限定的な場合において.......【そ]の必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである」と説示しているので(後掲最判昭和53・6・20,前掲最判昭和53・9・7),「質問」実施の前提として不可欠な「停止」手段についても,この説示と同様の「比例原則(権衡原則)」が適用されることを前提にしているはずである。なお、この基準は、任意捜査における有形力行使の適否判断基準〔第1章113]と実質的に同じものと見ることができる。有形力行使を伴う「任意手段」という点で共通する察活動について,大枠として別異の法的基準を立てる積極的理由は見出し難い。
**いったん停止させた自動車利用者について、察官がエンジンキーを回転してスイッチを切ったり、キーを一時的に確保するのは、質問対象者が高速で移動可能な自動車を利用していきなり立ち去るおそれを減じ、その場に「停止させ」る状況を確保して「質問」を継続するための合理的な措置として具体的状況のもとで相当な手段と認められる場合もあろう(職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為とした判例として、前掲最決平成6・9・16,最決昭和53・9・22刑集32巻6号1774頁。ただし、いずれも交通危険防止のため必要な応急措置[道交法67条]にも当たるとされている点に留意すべきである)。
***職法の明記する「停止させ」にはおよそ該当しない態様の行為であっても、法の本来的目的である「質問」を実施・継続し得る状況を確保するのに必要不可欠と認められる手段は、職法2条1項により「職務質問の附随行為」として併せ許容されていると解することができる(例えば,ホテル室内に居る対象者に対して職務質問を継続し得る状況を確保するため、部屋の内ドアを押し開け、足を踏み入れて内ドアが閉められるのを防止した警察官の行為を、職務質問に附随するものとして適法とした判例として、最決平成15・5・26刑集57巻5号620頁)。明文のある「質問」の附随行為として醤職法2条1項に「根拠規範」を見出すことができよう。ただし、本来的目的である「質問」との密接関連性・手段としての必要不可欠性は厳格に解さなければならない。この点で、この判例の事案処理は説得的であるが、後記のとおり,「所持品検査」を「職務質問の附随行為」と位置付けて正当化する判例には疑問がある。
(2)「同行」を求める方法についても、停止させる行為と基本的に同様に考えることができる。ただし、単なる「その場で」の「停止」とは異なり、対象者の場所的移動、しかも察署等への移動を伴うから。対象者の行動・移動の自由という法益を侵害・制約する程度は一般に停止より大きい。したがって、同行を求めるための任意手段については、一層厳格な権衡に留意しなければならない。意に反する「連行」状態になっていたかどうかの判断においては、同行を求める際の響察官の態度・人数、それらが「同行」に係る対象者の意思決定に対して及ぼした影響、普察署等への到着後の察官の対応状況,察署等における滞留時間等を総合考慮して、対象者の意思を制圧し、身体・行動の自由を侵害・制約する身体拘束すなわち違法な強制手段になっていなかったかどうか、また、そのような程度・態様には至っていなくとも、同行の方法・態様が必要最小限度の合理的権衡を久いた違法な任意手段となっていなかったかを順次検討しなければならない。