捜索・押収|捜索・押収の意義と対象|捜索・押収の意義
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 捜索(法218条1項)とは,一定の場所(例、住居)、物(例,金庫や鞄や自動車)または人の身体(例。身体の外表部及び着衣)について、証拠物等の探素・発見を目的として行われる強制処分をいう(法222条1項・102条)。このほか,被疑者を逮捕するためにその所在を探索・発見する目的で行われることもある(法220条1項1号・222条2項参照)。
(2)押収とは、物の占有を取得する処分をいい。最広義では、刑事訴訟法の定める差押え・記録命令付差押え・領置・提出命令の総称である(用例,法103条~105条にいう押収)。
このうち、提出命令(法99条3項)は、裁判所が、物を特定して所有者、所持者または保管者にその提出を命ずる裁判である。捜査機関のする押収には提出命令は含まれない。法218条・220条・221条の定める差押え、記録命令付差押え及び領置に限られる(用例、法222条1項にいう押収)。従前、証拠物の収集・保全を目的として対象者に一定の作為を法的に義務付ける捜査手段は用意されていなかった。2011(平成23)年法改正で新設された「記録命令付差押え」(法99条の2)等の電磁的記録の取得・保全のための手段には、対象者に一定の作為を義務付けるものがある〔本章V)。
差押え(法218条1項)とは、人の占有を強制的に排除して物の占有を取得する処分をいい,その対象は、証拠物及び没収すべき物と思料されるものである(法222条1項・99条1項)。なお、憲法35条にいう収は、状主義による統制の趣意から、性質上、占有取得過程において対象者の意思を制圧しその重要な権利・自由を侵害・制約する処分類型を意味する。
これに対して、捜査機関の行う領置(法 221条)とは、被疑者等が遺留した物、または所有者・所持者・保管者が任意に提出した物の占有を取得する処分をいい。占有取得過程に強制の要素がないので、憲法35条の押収には当たらず、したがって状は必要でない。ただし、占有取得後の効果は差押えの場合と同じであり、領置された物に対する捜査機関の占有は強制的に維持される。
もっとも領置された物が証拠物や没収すべき物でないことが明らかになれば、留置の必要がないので還付しなければならない(法222条1項・123条・124条)
(公道上のごみ集積所に排出されたごみについて,遺留物として領置することができるとした判例として最決平成 20・4・15刑集62巻5号1398頁)。
* 対象者に作為を義務付ける捜査手段として、法197条2項は、捜査機関が、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる旨定めている。照会を受けた機関や会社等は報告義務を負う(個人はこの規定による照会の対象とならない)。ただし報告義務を間接強制する手段は設けられていない。照会に応じない場合、捜査機関は、必要があれば捜索・差押えという直接強制手段により捜査目的を達成することになろう。照会に対して報告がなされた場合、それは法的義務に基づくものであるから、法律上の守秘義務や契約上の守秘義務には違反せず、したがって刑事上・民事上の法的責任を問われないと解される点に意味がある。協力的な第三者からの捜査情報の取得手段として機能する。なお、捜査機関は、報告を求めるに際して、必要があるときは、みだりにこれに関する事項を漏らさないよう要請することができる(法197条5項)。照会対象から捜査上の秘密が漏洩するのを防ぐ趣意である。
** 作為義務の間接強制や捜査手段としての証拠物等の提出命令制度は立法論上の課題である。このうち、差し押さえるべき物が竃磁的記録に係る記録媒体(例,証内部にも及び得るとすれば、最高裁の創出した条件捜索差押状(いわゆる
「頭前菜尿合状)という法形式の射程は、生体を構成し「物」とはいえない血液等の体設には及ばず。他方、体内に存する証拠物たる尿や無下されて体内に
存在する証拠物には及ぶと解するのが整合的であろう。
無体の情報(例、電磁的記録たるコンピュータ・データ)は差押えの対象とならない(検証の対象にはなる)。差押えの対象となるのは、それが記録された有体物(例、記録媒体たるディスク、印字された紙等)である。取得目的たる情報内容とその記録媒体との関係は、書類等の紙媒体でそこに記載されている情報内容が主たる取得対象である場合と基本的な法的枠組に変わりはない。もっとも、電磁的記録に固有の性質(可視性・可読性がないこと、改変が容易であること,記録媒体に膨大な情報内容を記録可能であること等)は、状発付段階や差押えの実行段階において、種々の考慮を要するであろう。
* 電磁的記録自体は差押えの対象でないから、状請求書や状に「差し押さえるべき物」(法219条1項,規則155条1項)として、被疑事実に関連する電磁的記録を印字した紙や電磁的記録を複写した記録媒体(ディスク等)との記載がなされる例があった。これらを差し押えるに際し、捜査機関が自らコンピュータを操作して電磁的記録を可視化・可読化する措置(例,ディスプレイへの表示,紙への印字)や、捜査機関が持参し、または処分対象者の所持するディスクへの複写措置は、法111条の定める差押えに「必要な処分」として実行できる。しかし従前は、処分対象者等にこのような措置を行わせる義務付け規定はなかった。
被疑事実に関連するデータが記録されている蓋然性の高い記録媒体は、その全体が関連性ある「証拠物」として差押えの対象になり得ると解されるが、膨大な情報が記録された媒体全体(例。サービス・プロバイダーのサーバ・コンピュータ)の強制占有取得は、処分対象者や無関係の第三者に対する法益侵害の程度が著しく高まる可能性があるから、処分対象者が協力的な第三者である場合には、捜査の必要性と対象者等の被る法益侵害との合理的調整の一手段として、必要なデータのみを取得する方法が望ましい。そこで、前記 2011(平成23)年法改正では、前記「記録命令付差押え」処分のほかに、「電磁的記録に係る記録媒体」の差押えの実行方法の一類型として、記録媒体そのものを差し押えることに代えて、必要な電磁的記録のみを、他の記録媒体に複写させ、印刷させ、または移転させた上、当該他の記録媒体の方を差し押える処分類型を設けている(法222条1項・110条の2第2号)
(2)押収とは、物の占有を取得する処分をいい。最広義では、刑事訴訟法の定める差押え・記録命令付差押え・領置・提出命令の総称である(用例,法103条~105条にいう押収)。
このうち、提出命令(法99条3項)は、裁判所が、物を特定して所有者、所持者または保管者にその提出を命ずる裁判である。捜査機関のする押収には提出命令は含まれない。法218条・220条・221条の定める差押え、記録命令付差押え及び領置に限られる(用例、法222条1項にいう押収)。従前、証拠物の収集・保全を目的として対象者に一定の作為を法的に義務付ける捜査手段は用意されていなかった。2011(平成23)年法改正で新設された「記録命令付差押え」(法99条の2)等の電磁的記録の取得・保全のための手段には、対象者に一定の作為を義務付けるものがある〔本章V)。
差押え(法218条1項)とは、人の占有を強制的に排除して物の占有を取得する処分をいい,その対象は、証拠物及び没収すべき物と思料されるものである(法222条1項・99条1項)。なお、憲法35条にいう収は、状主義による統制の趣意から、性質上、占有取得過程において対象者の意思を制圧しその重要な権利・自由を侵害・制約する処分類型を意味する。
これに対して、捜査機関の行う領置(法 221条)とは、被疑者等が遺留した物、または所有者・所持者・保管者が任意に提出した物の占有を取得する処分をいい。占有取得過程に強制の要素がないので、憲法35条の押収には当たらず、したがって状は必要でない。ただし、占有取得後の効果は差押えの場合と同じであり、領置された物に対する捜査機関の占有は強制的に維持される。
もっとも領置された物が証拠物や没収すべき物でないことが明らかになれば、留置の必要がないので還付しなければならない(法222条1項・123条・124条)
(公道上のごみ集積所に排出されたごみについて,遺留物として領置することができるとした判例として最決平成 20・4・15刑集62巻5号1398頁)。
* 対象者に作為を義務付ける捜査手段として、法197条2項は、捜査機関が、公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる旨定めている。照会を受けた機関や会社等は報告義務を負う(個人はこの規定による照会の対象とならない)。ただし報告義務を間接強制する手段は設けられていない。照会に応じない場合、捜査機関は、必要があれば捜索・差押えという直接強制手段により捜査目的を達成することになろう。照会に対して報告がなされた場合、それは法的義務に基づくものであるから、法律上の守秘義務や契約上の守秘義務には違反せず、したがって刑事上・民事上の法的責任を問われないと解される点に意味がある。協力的な第三者からの捜査情報の取得手段として機能する。なお、捜査機関は、報告を求めるに際して、必要があるときは、みだりにこれに関する事項を漏らさないよう要請することができる(法197条5項)。照会対象から捜査上の秘密が漏洩するのを防ぐ趣意である。
** 作為義務の間接強制や捜査手段としての証拠物等の提出命令制度は立法論上の課題である。このうち、差し押さえるべき物が竃磁的記録に係る記録媒体(例,証内部にも及び得るとすれば、最高裁の創出した条件捜索差押状(いわゆる
「頭前菜尿合状)という法形式の射程は、生体を構成し「物」とはいえない血液等の体設には及ばず。他方、体内に存する証拠物たる尿や無下されて体内に
存在する証拠物には及ぶと解するのが整合的であろう。
無体の情報(例、電磁的記録たるコンピュータ・データ)は差押えの対象とならない(検証の対象にはなる)。差押えの対象となるのは、それが記録された有体物(例、記録媒体たるディスク、印字された紙等)である。取得目的たる情報内容とその記録媒体との関係は、書類等の紙媒体でそこに記載されている情報内容が主たる取得対象である場合と基本的な法的枠組に変わりはない。もっとも、電磁的記録に固有の性質(可視性・可読性がないこと、改変が容易であること,記録媒体に膨大な情報内容を記録可能であること等)は、状発付段階や差押えの実行段階において、種々の考慮を要するであろう。
* 電磁的記録自体は差押えの対象でないから、状請求書や状に「差し押さえるべき物」(法219条1項,規則155条1項)として、被疑事実に関連する電磁的記録を印字した紙や電磁的記録を複写した記録媒体(ディスク等)との記載がなされる例があった。これらを差し押えるに際し、捜査機関が自らコンピュータを操作して電磁的記録を可視化・可読化する措置(例,ディスプレイへの表示,紙への印字)や、捜査機関が持参し、または処分対象者の所持するディスクへの複写措置は、法111条の定める差押えに「必要な処分」として実行できる。しかし従前は、処分対象者等にこのような措置を行わせる義務付け規定はなかった。
被疑事実に関連するデータが記録されている蓋然性の高い記録媒体は、その全体が関連性ある「証拠物」として差押えの対象になり得ると解されるが、膨大な情報が記録された媒体全体(例。サービス・プロバイダーのサーバ・コンピュータ)の強制占有取得は、処分対象者や無関係の第三者に対する法益侵害の程度が著しく高まる可能性があるから、処分対象者が協力的な第三者である場合には、捜査の必要性と対象者等の被る法益侵害との合理的調整の一手段として、必要なデータのみを取得する方法が望ましい。そこで、前記 2011(平成23)年法改正では、前記「記録命令付差押え」処分のほかに、「電磁的記録に係る記録媒体」の差押えの実行方法の一類型として、記録媒体そのものを差し押えることに代えて、必要な電磁的記録のみを、他の記録媒体に複写させ、印刷させ、または移転させた上、当該他の記録媒体の方を差し押える処分類型を設けている(法222条1項・110条の2第2号)