その他の捜査手段|写真撮影・ビデオ撮影|任意捜査としての撮影の規律
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 「みだりに撮影されない自由」のみを侵害・制約する撮影が任意捜査(法197条1項本文)であるとすれば、それは、事前の令状による審査を経ることなく、「比例原則(権衡原則)」により、当該事案の「具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」(最決昭和 51・3・16刑集30巻2号187真参照)。個別具体的事案における当該撮影の捜査目的達成にとっての「必要」と当該撮影によって侵害・制約された法益の質・程度との合理的権衡の有無により、任意捜査としての適否が定まることになる〔第1章Ⅱ 3〕
(2)前記のとおり、昭和44年大法廷判例の言及する「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合」は、そのような現行犯的状況自体を証拠として保全するために撮影という捜査手段を用いる高度の「必要」が認められる一例である(大法廷判例は、この「必要」を「証拠保全の必要性及び緊急性があり」と具体的に表現している)。犯罪が行われるであろう高度の蓋然性が見込まれる場合に、あらかじめビデオカメラ等の撮影装置を作動させておくことも法197条1項に基づく「必要」な捜査手段とみることができる(そのような実例として,東京高判昭和63・4・1判
時1278号152頁は、「当該現場において罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合であり、あらかじめ証拠保全の手段、方法をとっておく必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影、録画が社会通念に照らして相当と認められる方法でもって行われるときには、現に犯罪が行われる時点以前から犯罪の発生が予測される場所を継続的。自動的に撮影、録画することも許されると解すべきであ[る]」と判示している)。
*犯罪発生の高度の蓋然性が認められる場合は「兆罪があると思料するとき」に該当すると解されるので、「捜査する」ことができる(法 189条2項)。例えば、「おとり捜査」の働き掛け行為や、スリの常習者が実行に着手した場合現行犯逮捕する目的でその挙動を監視する行為も「捜査」である〔第1章11(1)*)。
(3) 他方、撮影時点において現行犯的状況がなくとも、犯罪発生後に、法197条1項に基づき捜査目的達成に必要な撮影が許容される場合があり得るのは、一般の任意捜査と同様である。例えば、最高裁判所は、犯人特定のために対象者の容貌等をビデオ撮影した事案について、次のように説示している(前記載決平成 20・4・15)。
「捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ、かつ、前記各ビデオ撮影は、強盗殺人等事件の捜査に関し、防ビデオに写っていた人物の容ぼう、体型等と被告人の容ほう、体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、公道上を歩いている被告人の容ほう等を撮影し、あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ほう等を撮影したものであり、いずれも、通常、人が他人から容ほう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば、これらのビデオ撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なものというべきである」。
「捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由」すなわち一定の合理的嫌疑の存在は、犯人特定のために容貌等を撮影する捜査の「必要」の当然の前提である。「捜査目的を達成するため。必要な範囲において」との説示は、法 197条1項本文の定める比例原則の表現そのものにほかならない。「相当な方法」とは、当該具体的事案における捜査目的達成のための「必要」が、対象者の「みだりに撮影されない自由」に対する侵害・制約の質・程度と合理的権衡状態にある行為態様であったことを意味すると解される。
(4) 平成20年判例は、対象者の知らないうちにその容貌等を隠し撮りした事案に係るものであるが、そのような態様の撮影も「相当な方法によって行われたもの」と評価されている。昭和44年大法廷判例も「撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行なわれるとき」との表現で撮影方法について言及していることから、「不相当」と評価されるのは、いかなる方法・態様の撮影であるかが問題となり得る。しかし、この点について最高裁判所がどのような撮影方法を想定しているかは不明である。
前記のとおり、「みだりに撮影されない自由」を超えた別個の重要な法益侵害が伴う場合には、もはや任意捜査とは認め難いので、無状撮影は、不相当・違法な任意捜査ではなく、違法な強制捜査と評価されよう。捜査機関が対象者の明示の意思に反してする撮影と積極的な偽計・罔を用いる撮影や隠し撮りとに法益侵害の次元で決定的な差異があるとは思われない。結局。撮影による侵害の質・程度との権衡を欠いた、具体的な捜査目的との関係で合理的必要性の乏しい撮影方法・態様が「不相当」と評価されることになるはずであり、「相当な方法」という指標に独自の意味があるかは疑わしい。
撮影により侵害される法益が憲法 13条に由来する人格的法益であることに鑑みれば、任意捜査としての撮影の事後規律に際しては、捜査目的達成に真に必要であったかを厳格に審査することが望ましい。例えば、犯人特定目的や犯罪実行場面の撮影目的を超えて、対象者の公道上の行動を長期間継続的にビデ才撮影する行為は、特段の事由がない限り合理的必要性をき、不相当な撮影方法というべきであろう。
(2)前記のとおり、昭和44年大法廷判例の言及する「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合」は、そのような現行犯的状況自体を証拠として保全するために撮影という捜査手段を用いる高度の「必要」が認められる一例である(大法廷判例は、この「必要」を「証拠保全の必要性及び緊急性があり」と具体的に表現している)。犯罪が行われるであろう高度の蓋然性が見込まれる場合に、あらかじめビデオカメラ等の撮影装置を作動させておくことも法197条1項に基づく「必要」な捜査手段とみることができる(そのような実例として,東京高判昭和63・4・1判
時1278号152頁は、「当該現場において罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合であり、あらかじめ証拠保全の手段、方法をとっておく必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影、録画が社会通念に照らして相当と認められる方法でもって行われるときには、現に犯罪が行われる時点以前から犯罪の発生が予測される場所を継続的。自動的に撮影、録画することも許されると解すべきであ[る]」と判示している)。
*犯罪発生の高度の蓋然性が認められる場合は「兆罪があると思料するとき」に該当すると解されるので、「捜査する」ことができる(法 189条2項)。例えば、「おとり捜査」の働き掛け行為や、スリの常習者が実行に着手した場合現行犯逮捕する目的でその挙動を監視する行為も「捜査」である〔第1章11(1)*)。
(3) 他方、撮影時点において現行犯的状況がなくとも、犯罪発生後に、法197条1項に基づき捜査目的達成に必要な撮影が許容される場合があり得るのは、一般の任意捜査と同様である。例えば、最高裁判所は、犯人特定のために対象者の容貌等をビデオ撮影した事案について、次のように説示している(前記載決平成 20・4・15)。
「捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ、かつ、前記各ビデオ撮影は、強盗殺人等事件の捜査に関し、防ビデオに写っていた人物の容ぼう、体型等と被告人の容ほう、体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、公道上を歩いている被告人の容ほう等を撮影し、あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ほう等を撮影したものであり、いずれも、通常、人が他人から容ほう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば、これらのビデオ撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なものというべきである」。
「捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由」すなわち一定の合理的嫌疑の存在は、犯人特定のために容貌等を撮影する捜査の「必要」の当然の前提である。「捜査目的を達成するため。必要な範囲において」との説示は、法 197条1項本文の定める比例原則の表現そのものにほかならない。「相当な方法」とは、当該具体的事案における捜査目的達成のための「必要」が、対象者の「みだりに撮影されない自由」に対する侵害・制約の質・程度と合理的権衡状態にある行為態様であったことを意味すると解される。
(4) 平成20年判例は、対象者の知らないうちにその容貌等を隠し撮りした事案に係るものであるが、そのような態様の撮影も「相当な方法によって行われたもの」と評価されている。昭和44年大法廷判例も「撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行なわれるとき」との表現で撮影方法について言及していることから、「不相当」と評価されるのは、いかなる方法・態様の撮影であるかが問題となり得る。しかし、この点について最高裁判所がどのような撮影方法を想定しているかは不明である。
前記のとおり、「みだりに撮影されない自由」を超えた別個の重要な法益侵害が伴う場合には、もはや任意捜査とは認め難いので、無状撮影は、不相当・違法な任意捜査ではなく、違法な強制捜査と評価されよう。捜査機関が対象者の明示の意思に反してする撮影と積極的な偽計・罔を用いる撮影や隠し撮りとに法益侵害の次元で決定的な差異があるとは思われない。結局。撮影による侵害の質・程度との権衡を欠いた、具体的な捜査目的との関係で合理的必要性の乏しい撮影方法・態様が「不相当」と評価されることになるはずであり、「相当な方法」という指標に独自の意味があるかは疑わしい。
撮影により侵害される法益が憲法 13条に由来する人格的法益であることに鑑みれば、任意捜査としての撮影の事後規律に際しては、捜査目的達成に真に必要であったかを厳格に審査することが望ましい。例えば、犯人特定目的や犯罪実行場面の撮影目的を超えて、対象者の公道上の行動を長期間継続的にビデ才撮影する行為は、特段の事由がない限り合理的必要性をき、不相当な撮影方法というべきであろう。