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探偵の知識

公訴|公訴権の運用とその規制 |検察官の事件処理

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 捜査の対象とされた「事件」は、原則として、書類・証拠物とともに検察官に送致される(法246条)〔第1編捜査手続第8章11)。検察官は、察から送致された事件及び自ら認知した事件について、必要な捜査を遂げた上(法
191条1項)。法と証拠に基づいて、当該事件に関する措置を決定する。これを検察官の「事件処理」という。
事件処理には、公訴を提起するかどうかを決定する終局処分と、将来の終局処分を予想してその前にする暫定的な中間処分がある。
* 中間処分には、中止処分と移送処分がある。中止処分は、犯人が判明せず、または被疑者や参考人の所在不明・病気等のため、捜査を継続することができず、障害となる事由が長期間解消される見込みがないため、当面終局処分を見合わせるものである。移送処分は、管轄権のある他の検察庁の検察官に事件を送致するものである。被疑者の住所・関連する事件・捜査上の必要等の事情を考慮して行われる。なお、検察官は、事件が所属検察庁に対応する裁判所の管轄に属しないときは、書類及び証拠物とともに、その事件を管轄裁判所に対応する検察庁の検察官(検察庁法5条参照)に送致しなければならない(「他管送致」という。法 258条)。
(2) 終局処分は、公の提起(起訴)と不起訴処分に大別される。検察官は、法定された公訴提起・追行の要件(伝統的には「訴訟条件」という)の有無(例.公訴時効の完成の有無、親告罪の告訴の有無)、狙罪の成否(例被疑事実の花罪構成要件該当性、心神喪失等犯罪成立阻却事由の有無),狙罪の嫌疑の有無・程度(例.犯人であること・北罪の成否に関する証拠の有無・程度)、刑の必要的免除事由の有無(例、親族相盗[刑法214条1項]),訴追の必要性(法218条)を順次検討した。上、起訴・不起訴の処分を決定する。
* 少年の被疑事件については、少年の処遇に関する第1的判断権限が家庭裁判所に委ねられているので(少年法20条参照)、検察官は、犯罪の嫌疑があるか、または家庭裁判所の審判に付すべき事情があるときは、事件を家庭裁判所に送致しなければならない(少年法42条)。これは終局処分の一種である。
なお、家庭裁判所が、少年法20条の規定により刑事処分を相当と認めて検察官に送致した事件については、検察官は、家庭裁判所の判断に従い。公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がある以上、公訴を提起しなければならない(少年法45条5号本文)。起訴便宜主義(II 2)の例外である。
**「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成15年法律110号)」により、検察官は、被疑者が殺人、放火,強盗、不同意わいせつ・不同意性交等、監護者わいせつ・監護者性交等及び傷害のいずれかにたる行為をしたこと及び心神喪失者もしくは心神耗弱者であると認めて不起訴処分をしたときは、原則として、地方裁判所に対し、同法42条1項の決定(医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定等)の申立てをしなければならない(同法33条1項)。心神喪失は被疑事件が罪とならない場合の不起訴処分である。被疑者が狙行時心神耗弱であったと認められこれを考慮して起訴しないときは、起訴猶予とされる。
***検察官が公訴を提起し通常の公判手続を求める場合を「公判請求」という。
これに対し、検察官は、公訴の提起と同時に、簡易裁判所の管轄に属する事件について,略式命令(法461条)を請求することができる。これを「略式命令請求」という。略式命令請求により行われる「略式手続」では、簡易裁判所は、公判手続によらず、書面審理のみで被告人に100万円以下の罰金または科料の裁判(略式命令)をすることができる。起訴される被告人の8割前後が略式手続により処理されている。
略式命令の請求は、検察官が被疑者に手続内容を説明し、通常の手続で審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることに異議がないか確認し、被疑者作成の異議なきことを示す書面を起訴状に添付し、証拠書類・証拠物と共に簡易裁判所に提出して行う(法 461条の2・462条、規則288条・289条)。簡易裁判所は、書面のみに基づき審理・判断し、請求の日から14日以内に「略式命令」を発して、その謄本を被告人に送達する(規則 290条)。略式命令のできない場合(例、罰金・科料の定めのない事件),検察官が略式手続の説明を怠ったり、同意書の添付がない場合、及び裁判所が公判審理が相当と認めた場合(例,事案が複雑であるとき、証人尋問を必要と考えるとき)は、通常の手続で審判しなければならない(法463条)。
略式命令には、主文としての罰金額、罪となるべき事実、適用した法令、及び告知の日から14日以内に正式裁判を請求することができる旨が記載される(法 464条)。判決と異なり証拠の標目は記載されない。
被告人は告知を受けた日から14日以内に、正式裁判の請求をすることができる。
検察官も請求できる(法 465条)。正式裁判の請求が適法であれば、事件は通常の公判手続に移行し、起訴状朗読から審理が開始される(法468条2項)。なお、正式裁判の請求は上訴ではないから不利益変更禁止の原則の適用はない。正式裁判の結果、有罪判決の場合に、科刑が略式命令よりも重いこともあり得る(法468条3項)。判決が確定すると、先に発せられていた略式命令は失効する(法469条1項)。
略式命令送達後正式裁判の請求期間が経過したり、公判手続中判決までの間に正式裁判の請求を取り下げれば、略式命令は、確定判決と同一の効力を生ずる(法470条)。
このほかに、検察官は、簡易・迅速な事案処理を目的とする公判手続として、2004(平成 (6)年法改正(平成16年法律62号)で導入された「即決裁判手続」(法350条の16~350条の29・403条の2・413条の2)を求めることができる。検察官は、事案が明白で軽微であり、証拠調べが速やかに終わると見込まれる事案について、被疑者及び弁護人の同意を得て、公訴の提起と同時に即決裁判手続の申立てをすることができる。申立てがあった場合,裁判所は早期に公判期日を開かなければならず、冒頭手続において即決裁判手続により審判する旨の決定をした上、簡易な方法による証拠調べを行い即日判決の言渡しをする。拘禁刑を言い渡す場合には、刑の全部の執行猶予の言渡しをしなければならない。即決裁判手続による判決に対しては、事実誤認を理由とする上訴はできない。覚醒剤自己使用罪、入法達反の罪窃盗罪等について利用されている〔第3編公判手第5章II)。