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探偵の知識

公訴|公訴権の運用とその規制|付審判請求手統

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

1)公務員による職権濫用の罪については、検察官による訴追裁量権限の不適切な行使により不当な不起訴処分が行われる危険があるため、このような犯罪類型に限り(刑法193条~196条、破防法45条、無差別人団体規制法42条・43条、通信傍受法37条の定める罪),その罪について告訴・告発をした者が、検察官の不起訴処分に不服があるとき、その検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に対して、事件を裁判所の審判に付すことを請求する手続が設けられている。これを「付審判請求手続」という(法 262条~269条)。請求に基づき裁判所の付審判決定があると事件について公訴の提起があったものとみなされるので(法 267条)、「裁判上の準起訴手続」ともいわれる。起訴独占主義の第一の例外である。
(2)告訴人・告発人による付審判の請求は、不起訴処分の通知(法260条)
〔前記2(3)〕を受けた日から7日以内に、犯罪事実及び証拠を記載した請求書を、不起訴処分をした検察官に差し出して行う(法262条2項、規則169条)。これは検察官に再考の機会を与える趣意である。検察官は、請求に理由があると認めるときは、公訴を提起しなければならない(法264条)。これに対し、検察官が請求に理由がないものと認めるときは、請求書を受け取った日から7日以内に、公訴を提起しない理由を記載した意見書を添えて、書類及び証拠物とともに、請求書を管轄地方裁判所に送付しなければならない(規則171条)。
(3) 付審判請求を受けた裁判所の審理及び裁判は合議体で行われ、必要があれば「事実の取調」を行うことができる(法265条・43条3項)。これ以外に審理方式に関する具体的規定がないため、請求人の関与の可否等審理手続を巡り議論があった。判例は、「付審判請来事件における審理手続は、捜査に類似する性格をも有する公訴提起前における職権手続であり、本質的には、対立当事者の存在を前提とする対番構造を有しないのであって、このような手続の基本的性格・構造に反しないかぎり、裁判所の適切な裁量により、必要とする審理方式を採りうる」と説示している(最決昭和49・3・13刑集28巻2号1頁)。
(4) 請求を受けた裁判所は、請求に式違反があるとき、請求権消滅後にされたものであるとき、または請求が「理由のない」ときは、請求棄却の決定をする(法 266条1号)。裁判所は検察官の不起訴処分の当否を審査するのであるから、「理由のない」とは、犯罪の嫌疑が不十分の場合のみならず、起訴猶予が相当と認められる場合も含む。
これに対し、審理の結果請求が「理由のあるとき」は、裁判所は、事件を管轄地方裁判所の審判に付する決定をする(法 266条2号)。この付審判決定があると、その事件について公訴の提起があったものとみなされる(法 267条)。付審判決定の裁判書には起訴状に代わるものとして、起訴状に記載すべき事項が記載され、その謄本は請求者、検察官及び被疑者に送達される(174条・34 条)。
なお、裁判所は、同一の事件が検察審査会による審査の対象とされているときは、付審判決定と検察審査会の起訴議決に基づく公訴提起が二重になされることを避けるため、付審判決定をした場合に、その旨を検察審査会に通知することとされている(法 267条の2)。
(5) 検察官が不起訴処分とした事件の公訴追行を検察官に委ねるのは適当でないので、法は、公訴の維持にあたる者を裁判所が弁護士の中から指定することとしている。これを「指定弁護士」という(法 268条1項)。指定弁護士は、事件について公訴を維持するため、裁判の確定まで検察官の職務を行う。ただし,検察事務官及び司法察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託して行うこととされている(法 268条2項)。
指定弁護士は、付審判決定により裁判所に係属した事件の公訴を維持する者であるから、職務の性質上、公訴の取消しができないのは当然である。検察官は、起訴状に記載された訴因をみずから変更する権限を有するが(法312条1項),裁判所が審判に付した法定の対象事件について訴追活動を委ねられた指判断を妨げるような言動をしてはならない旨の規定が設けられている(検察審査会法39条の2第5項)。しかし、検察審査会の「自主的な判断」が「法律に関する専門的な知見」からみて不合理で明白に誤っている場合には、法律の専門家として誤りを指摘・説明し、これを是正するのが審査補助員の責務というべきである。前記のとおり、検察官の不起訴処分には、公訴提起の要件が欠如している場合。証拠上認定できる事実が犯罪を構成しないと認められる場合、犯人性・犯罪事実に関する証拠が不十分と認められる場合。起訴猫子相当と認められる場合がある。このうち。
法的判断である明瞭な公訴提起の要件の欠如(例、公訴時効の完成に手いの余地がない場合)、犯罪の不成立が明白な場合(例。言頼できる精神鑑定に拠れば責任無能力が明白な場合、過失兆の前提となる予見可能性や結果回避可能性がおよそ認められない場合)に、いかに検察審査員の多数が起訴相当の「自主的な判断」をしようと、審査補助員はその法的な誤り・不合理性を指摘・是正するのをためらうべきでない。自主的な判断は「法律に関する専門的な知見をも踏まえつつ」行われる審査に基づくべきだからである。なお、不幸な事故について、業務上過失致死傷罪の成否等の法的判断が争点とされた強制起訴事案として,最決平成28・7・12刑集70巻6号411頁[明石花火大会歩道橋事故・免訴],最決平成29・6・12集71巻5号 315
頁[JR西日本快速列車脱線転覆事故・無罪]がある。
(4) 検察審査会は、起訴議決をしたときは、議決書に、その認定した犯罪事実を記載しなければならない。この場合に検察審査会は、できる限り日時、場所及び方法をもって犯罪を構成する事実を特定しなければならない。「審査補助員は起訴議決書の作成を補助する。起訴議決書の謄本は、検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所に送付される(検察審査会法 41条の7)。再審査と起訴議決を経た事件において、犯罪事実を明示・特定した起訴状を作成するため後記指定弁護士がさらに長期間捜査を行わなければならないような事態は、制度設計上想定外である。
起訴議決には、公訴提起を義務付ける法的効果が付与される。こうして、対象事件に限定がなく、一般国民の健全な社会常識に照らし不起訴処分の不当性が強く認められた事件について(例、起訴猶予の判断が不当とされた場合)、起訴が義務付けられ、公判審理・刑事裁判の場で有罪・無罪を公式に決する途が創設されたのである。起訴独占主義の第二の例外である。
検察官が起訴相当議決を受けて再考の上なお不起訴処分とした事件の公訴提起と追行を検察官に行わせるのは不適当なので、裁判所は、起訴議決に係る事件について、公訴の提起及びその維持に当たる者を弁護士の中から指定しなければならない(同法41条の9)。指定弁護士は、速やかに、起訴議決に係る事件について、公所を提起しなければならない(同法4条の10)。新定弁護士は、起訴議決に係る事件について公訴の維持をするため検察官の職務を行う(同法41条の9第3項)。