公判手続き|総説|公判手続の意義
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 公訴の提起により、裁判所が当該被告事件を審理・裁判することができる状態となり(訴訟係属〔第2編公訴第2章11(2)),裁判が確定すると目的を達して被告事件は裁判所の手から離れる。この間の手続段階を広義の公判手続という。このうち、とくに公判期日に公判廷において行われる手続(法282条
1項)のことを公判手続(狭義)と称する。
(2)「公判期日」とは、裁判所,当事者(検察官及び被告人),その他の訴訟関係人が公判廷に出席して訴訟活動を行うためにあらかじめ定められた時のことをいう。公判期日は、年月日及び時刻で指定され、その時刻に開始される。開始された後に断続して手続が行われたり、仮に翌日まで手続が続いたとしても、その内容により同一公判期日とみるべき場合があり得る。
公判期日は裁判長が定める(法 273条1項)。裁判員裁判でなくとも、審理に2日以上を要する事件については、できる限り、連日開延し、継続して審理を行わなければならないので(「連日的開廷」法281条の6第1項),これを考慮した期日指定を要する。訴訟関係人は、指定された期日を厳守し、審理に支障を来さないようにしなければならない(法281条の6第2項)。期日の変更は訴訟の遅延を来すおそれがあるので、公判期日の変更はやむを得ない事由のある場合に限られる。当事者は、裁判所に対し、やむを得ない事由を疎明して公判期日の変更を請求することができる(法 276条1項、規則179条の4)。裁判所は職権で公判期日の変更をすることができるが(法276条1項)、原則として当事者の意見を聴かなければならない(法276条2項、規則180条)。なお、ひとたび指定された公判期日をできるだけ維持するため様々な規定が設けられている(例.
法 277条、規則179条の4~179条の6.規則182条~186条)。
(3)「公判延」とは、公判期日の手続を行う法廷を意味し(法282条1項)、裁判所またはその支部で開かれる(裁判所法 69条1項)。公判期日は、通常、裁判所の建物内の法廷として定められている場所で行われる。裁判所内の他の場所であっても、公開主義の要請(II2)を満たすようその場所が法廷であることを表示し、公業の傍聴が可能である状態が確保されていれば公判廷と認められよう。なお、最高裁判所は、必要と認めるときは、裁判所以外の場所で法廷を開き、またはその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる(裁判所法 69条2項)。
公判延は、裁判官及び裁判所書記官が列席し、かつ、検察官が出席して開かれる(法 282条2項)。裁判員の関与する判断をするための審理をすべき公判期日においては、裁判官。裁判員及び裁判所書記官が列席し、かつ、検察官が出席して開かれる(裁判員法54条1項)。
刑事訴訟の当事者である被告人には、公判延に出頭する権利と義務があり、原則として被告人の出頭がなければ開延することはできない(法286条)。もっとも事件の実体審理に係わらない手続を行うことは、被告人の利害に直結しないので、被告人の出頭がなくとも、この規定の趣旨には反しないと解される(最判昭和 28・9・29刑集7巻9号1848頁参照)。
被告人の出頭義務については、次のとおり、いくつかの例外が法定されている。
(4) 例外は、被告事件の性質・法定刑の程度(②③④⑤),及び被告人の属性・状況等(①②⑥⑦⑧⑨)に基づく。
①被告人が法人である場合には、代理人を出頭させることができる(法283条)。法人の訴訟行為については法人の代表者が代表するとされているが(法27条)。代理人の出頭を認めるこの規定により、代表者が出頭しなくてもよい。
代理人の資格について特段の制限はない。
②刑法39条または41条の規定(責任能力)を適用しない罪に当たる事件
(利法犯に実例はない。行政的取締法規違反の罪に実例があった)について、被告人が意思能力(新政龍力の途)を有しないときは、その法定代理人が被告人を代理して出頭し、被告人の出頭を要しない(法28条)。
第1章総説
③原則として50万円以下の金または料料に当たる事件については、被告人は公判期日に出頭しなくてもよい。また、代理人を出頭させることができる(法284条)。代理人の資格について特段の制限はない。
④拘留に当たる事件の被告人は、判決の賞告をする場合には、公判期日に出頭しなければならないが、その他の場合には、裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる(法285条1項)。
⑤長期3年以下の拘禁用または原則として50万円を超える罰金に当たる事件の被告人は、冒頭手続(法291条)及び判決の童告をする場合には、公判期日に出頭しなければならないが、その他の場合には、①と同様、裁判所は、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる(法285条2項)。
⑥被告人が心神喪失の状態にあり、かつ、無罪・免訴・刑の免除・公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる(法 314条1項但書)。被告人に訴訟能力がないときは(心神喪失の状態)。その状態が継続している間、公判手続を停止するのが原則である(法 314条1項本文)〔第5章I】。ここに掲げられているのは、いずれも被告人に有利な裁判であるから、既に取り調べられた証拠によりこれらの裁判をすることができる場合には,被告人に防活動をさせなくとも手続から早期に解放する方が適切との趣意による。
⑦被告人が出頭しなければ開廷できない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け。正当な理由がなく出頭を拒否し,刑事施設職員による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる(法 286条の2)。必要的出頭規定(法286条)を逆手にとった被告人による審理進行妨害行為に対処する規定である。
本来被告人出頭が要件とされている事件における例外なので、厳格適正に適用するための手統が定められている(規則 187条の2~187条の4)。この例外は、当該期日の公判手続についてのみ適用があるから、法定の例外事由の有無は、各期日ごとに判断されなければならない。他方。事由が認められれば、それが判決食告期日であっても被告人不出頭のままで行うことができる。引数を著し<困難にしたかどうかの判断は具体的事情に即して慎重を要する。単なる出頭拒否の意思表明だけでは足りず,当該被告人の客観的な外部的挙動が基本的指標となろう(想定される例として、出頭拒否目的で、全裸になる。収容されている施設の扉等にしがみついて離れない、騒ぎ暴れ回って手がつけられない。断食して身体を衰弱させ歩行困難となる等)。
⑧被告人が出頭したが、裁判長の許可を受けないで退廷したり(法288条1項参照)。秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられたときは(法288条2項裁判所法71条2項参照),被告人の陳述を聴かないで判決をすることができる(法341条)。判決は口頭弁論に基づくことを要するとした法43条1項の例外(「特別の定」に当たる。判決をすることができるのであるから、その前提となる公判審理も被告人不在のまま実施できる。被告人が自らの責めに帰すべき事由により防禦・陳述の権利を放棄ないし喪失したというべき場合である(最判昭和29・2・25刑集8巻2号189頁、最決昭和53・6・28刑集32巻4号724頁)。
⑨証人尋問の際に,証人が被告人の面前では圧迫を受け、十分な供述をすることができないときは、弁護人が出頭している場合に限り、被告人を一時退延させて証人尋問を続行することができる。なお、この場合は,供述の終了後に被告人を入延させ、証言の要旨を被告人に告知して、その証人を尋問する機会を与えなければならない(法 304条の2)。被告人の証人審問権(憲法37条2項前段)行使に配慮する趣旨である。なお、前記⑧は、被告人の責めに帰すべき事由で防禦上の権利を喪失したというべき場合であるから、供述後の証言要旨の告知と尋問の機会付与の規定は準用されないと解される。
(5)公判廷における被告人の自由な防興活動を保障し、手続の公正を確保するため、公判廷では、手錠をかけるなどして被告人の身体を拘束してはならない(法287条1項本文)。ただし、被告人が暴力を振るったり、逃亡を企てた場合は、拘束することができる(法287条1項但書)。また、被告人の身体を抑しない場合でも、これに看守者を附することができる(法287条2項)。なお、これは被告人が黒力を振るいまたは逃亡を企てた場合についての定めであり、身体拘束中の被告人について刑事施設職員が付き添って在廷しているのは、刑事収容施設法等の法規に基づき裁者に対する護権行使のためであって、前記規定の適用によるのではない。被告人は、裁判長の許可がなければ退廷することができない(法288条1項)。
裁判長は,被告人を在廷させるため、相当な処分をすることができる(法288条2項)。
(6)公判期日等への弁護人の出頭・在廷が法律上必要的とされる場合については、別途説明する(第2章W2(3)。なお、刑事裁判の充実・迅速化の観点から。期日指定に係る訴訟揮の実効性を担保するため、裁判所は、必要と認めるときは、検察官または弁護人に対し。公判準備または公判期日に出頭し、かつ.これらの手続が行われている間在席し、または在延することを命じることができ、正当な理由なくこれに従わない者に対しては、決定で、週料等の制裁を課すことができる。裁判所が前記制裁の決定をしたときは、検察庁の長や当該弁護士の所属する弁護士会または日本弁護士連合会に通知し、適当な処置をとるべきことを請求しなければならず、処置請求を受けた者は、そのとった処置を裁判所に通知しなければならない(法278条の3.則303条)。
訴訟関係人等が期日指定等に係る裁判所の訴訟指揮に従わないという事象は文明諸国の裁判では稀であるが、日本では、弁護人が裁判所の期日指定に従わず期日に出頭しない事例や、裁判所の示す期日指定方針に応じられないと不出頭をほのめかしたため、裁判所が当初の方針どおりの期日指定を断念した事例が認められたため、審理を主宰する裁判所の期日指定に係る訴訟指揮の実効性を強化担保するため、2004(平成16)年法律62号により設けられた規定である。最高裁判所は、公判期日等への出頭在延命令に正当な理由なく従わなかった弁護人に対する過料の制裁は、訴訟指揮の実効性担保のための手段として合理性、必要性があり,弁護士法上の懲戒制度が既に存在していることを踏まえても、憲法31条・37条3項に違反しない旨説示している(最決平成 27・5・18刑集69巻4号 573頁)。
*法制審議会の法改正要綱(骨子)「第2-2」は、映像と音声の送受による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設を答申しており、公判期日への出席・出頭に関しては、下記のとおり、被告人・弁護人について、極めて限定的なやむを得ない事由がある場合に認めるものとされている。
(1) 被告人・弁護人の出頭 ア 裁判所は、次に掲げる場合(後記(ア(イ)において、事条の軽重、審理の状況、弁護人の数その他の事情を考慮した上、やむを得ない事由があり、被告人の防に実質的な不利益を生ずるおそれがなく、かつ、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、同一機内(裁判官及び訴訟関係人が公判期日における手続を行うために在席する場所と同一の構内をいう。)以外にある場所であって適当と認めるものに被告人を在席させ。映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、公判期日における手続を行うことができる。この場合:その場所に在席した被告人は、その公判期日に出頭したものとみなす。(7)被告人が傷病または障害のため同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。(1)同一構内への出頭に伴う移動に際し、被告人の身体に害を加えまたは被告人(刑事施設または少年院に収容中の者に限る。)を奪取し若しくは解放する行為がなされるおそれがあると認めるとき。イ 弁護人は、裁判所がアにより公判期日における手続を行うときは、被告人が在席する場所に在席することができる。この場合、その場所に在席した弁護人は、その公判期日に出頭したものとみなす。
(2)被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席 ア 裁判所は,被害者参加人またはその委託を受けた弁護士から、裁判官及び訴訟関係人が公判期日における手続を行うために在席する場所以外の場所であって裁判所が適当と認めるものに在席し、映像と音声の送受言により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、公判期日に出席することの申出がある場合、被告人または弁護人の意見を感き、審理の状況、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、申出をした者が当該方法によって公判期日に出席することを許すものとする。イアの申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知する。
1項)のことを公判手続(狭義)と称する。
(2)「公判期日」とは、裁判所,当事者(検察官及び被告人),その他の訴訟関係人が公判廷に出席して訴訟活動を行うためにあらかじめ定められた時のことをいう。公判期日は、年月日及び時刻で指定され、その時刻に開始される。開始された後に断続して手続が行われたり、仮に翌日まで手続が続いたとしても、その内容により同一公判期日とみるべき場合があり得る。
公判期日は裁判長が定める(法 273条1項)。裁判員裁判でなくとも、審理に2日以上を要する事件については、できる限り、連日開延し、継続して審理を行わなければならないので(「連日的開廷」法281条の6第1項),これを考慮した期日指定を要する。訴訟関係人は、指定された期日を厳守し、審理に支障を来さないようにしなければならない(法281条の6第2項)。期日の変更は訴訟の遅延を来すおそれがあるので、公判期日の変更はやむを得ない事由のある場合に限られる。当事者は、裁判所に対し、やむを得ない事由を疎明して公判期日の変更を請求することができる(法 276条1項、規則179条の4)。裁判所は職権で公判期日の変更をすることができるが(法276条1項)、原則として当事者の意見を聴かなければならない(法276条2項、規則180条)。なお、ひとたび指定された公判期日をできるだけ維持するため様々な規定が設けられている(例.
法 277条、規則179条の4~179条の6.規則182条~186条)。
(3)「公判延」とは、公判期日の手続を行う法廷を意味し(法282条1項)、裁判所またはその支部で開かれる(裁判所法 69条1項)。公判期日は、通常、裁判所の建物内の法廷として定められている場所で行われる。裁判所内の他の場所であっても、公開主義の要請(II2)を満たすようその場所が法廷であることを表示し、公業の傍聴が可能である状態が確保されていれば公判廷と認められよう。なお、最高裁判所は、必要と認めるときは、裁判所以外の場所で法廷を開き、またはその指定する他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる(裁判所法 69条2項)。
公判延は、裁判官及び裁判所書記官が列席し、かつ、検察官が出席して開かれる(法 282条2項)。裁判員の関与する判断をするための審理をすべき公判期日においては、裁判官。裁判員及び裁判所書記官が列席し、かつ、検察官が出席して開かれる(裁判員法54条1項)。
刑事訴訟の当事者である被告人には、公判延に出頭する権利と義務があり、原則として被告人の出頭がなければ開延することはできない(法286条)。もっとも事件の実体審理に係わらない手続を行うことは、被告人の利害に直結しないので、被告人の出頭がなくとも、この規定の趣旨には反しないと解される(最判昭和 28・9・29刑集7巻9号1848頁参照)。
被告人の出頭義務については、次のとおり、いくつかの例外が法定されている。
(4) 例外は、被告事件の性質・法定刑の程度(②③④⑤),及び被告人の属性・状況等(①②⑥⑦⑧⑨)に基づく。
①被告人が法人である場合には、代理人を出頭させることができる(法283条)。法人の訴訟行為については法人の代表者が代表するとされているが(法27条)。代理人の出頭を認めるこの規定により、代表者が出頭しなくてもよい。
代理人の資格について特段の制限はない。
②刑法39条または41条の規定(責任能力)を適用しない罪に当たる事件
(利法犯に実例はない。行政的取締法規違反の罪に実例があった)について、被告人が意思能力(新政龍力の途)を有しないときは、その法定代理人が被告人を代理して出頭し、被告人の出頭を要しない(法28条)。
第1章総説
③原則として50万円以下の金または料料に当たる事件については、被告人は公判期日に出頭しなくてもよい。また、代理人を出頭させることができる(法284条)。代理人の資格について特段の制限はない。
④拘留に当たる事件の被告人は、判決の賞告をする場合には、公判期日に出頭しなければならないが、その他の場合には、裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる(法285条1項)。
⑤長期3年以下の拘禁用または原則として50万円を超える罰金に当たる事件の被告人は、冒頭手続(法291条)及び判決の童告をする場合には、公判期日に出頭しなければならないが、その他の場合には、①と同様、裁判所は、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる(法285条2項)。
⑥被告人が心神喪失の状態にあり、かつ、無罪・免訴・刑の免除・公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる(法 314条1項但書)。被告人に訴訟能力がないときは(心神喪失の状態)。その状態が継続している間、公判手続を停止するのが原則である(法 314条1項本文)〔第5章I】。ここに掲げられているのは、いずれも被告人に有利な裁判であるから、既に取り調べられた証拠によりこれらの裁判をすることができる場合には,被告人に防活動をさせなくとも手続から早期に解放する方が適切との趣意による。
⑦被告人が出頭しなければ開廷できない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け。正当な理由がなく出頭を拒否し,刑事施設職員による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる(法 286条の2)。必要的出頭規定(法286条)を逆手にとった被告人による審理進行妨害行為に対処する規定である。
本来被告人出頭が要件とされている事件における例外なので、厳格適正に適用するための手統が定められている(規則 187条の2~187条の4)。この例外は、当該期日の公判手続についてのみ適用があるから、法定の例外事由の有無は、各期日ごとに判断されなければならない。他方。事由が認められれば、それが判決食告期日であっても被告人不出頭のままで行うことができる。引数を著し<困難にしたかどうかの判断は具体的事情に即して慎重を要する。単なる出頭拒否の意思表明だけでは足りず,当該被告人の客観的な外部的挙動が基本的指標となろう(想定される例として、出頭拒否目的で、全裸になる。収容されている施設の扉等にしがみついて離れない、騒ぎ暴れ回って手がつけられない。断食して身体を衰弱させ歩行困難となる等)。
⑧被告人が出頭したが、裁判長の許可を受けないで退廷したり(法288条1項参照)。秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられたときは(法288条2項裁判所法71条2項参照),被告人の陳述を聴かないで判決をすることができる(法341条)。判決は口頭弁論に基づくことを要するとした法43条1項の例外(「特別の定」に当たる。判決をすることができるのであるから、その前提となる公判審理も被告人不在のまま実施できる。被告人が自らの責めに帰すべき事由により防禦・陳述の権利を放棄ないし喪失したというべき場合である(最判昭和29・2・25刑集8巻2号189頁、最決昭和53・6・28刑集32巻4号724頁)。
⑨証人尋問の際に,証人が被告人の面前では圧迫を受け、十分な供述をすることができないときは、弁護人が出頭している場合に限り、被告人を一時退延させて証人尋問を続行することができる。なお、この場合は,供述の終了後に被告人を入延させ、証言の要旨を被告人に告知して、その証人を尋問する機会を与えなければならない(法 304条の2)。被告人の証人審問権(憲法37条2項前段)行使に配慮する趣旨である。なお、前記⑧は、被告人の責めに帰すべき事由で防禦上の権利を喪失したというべき場合であるから、供述後の証言要旨の告知と尋問の機会付与の規定は準用されないと解される。
(5)公判廷における被告人の自由な防興活動を保障し、手続の公正を確保するため、公判廷では、手錠をかけるなどして被告人の身体を拘束してはならない(法287条1項本文)。ただし、被告人が暴力を振るったり、逃亡を企てた場合は、拘束することができる(法287条1項但書)。また、被告人の身体を抑しない場合でも、これに看守者を附することができる(法287条2項)。なお、これは被告人が黒力を振るいまたは逃亡を企てた場合についての定めであり、身体拘束中の被告人について刑事施設職員が付き添って在廷しているのは、刑事収容施設法等の法規に基づき裁者に対する護権行使のためであって、前記規定の適用によるのではない。被告人は、裁判長の許可がなければ退廷することができない(法288条1項)。
裁判長は,被告人を在廷させるため、相当な処分をすることができる(法288条2項)。
(6)公判期日等への弁護人の出頭・在廷が法律上必要的とされる場合については、別途説明する(第2章W2(3)。なお、刑事裁判の充実・迅速化の観点から。期日指定に係る訴訟揮の実効性を担保するため、裁判所は、必要と認めるときは、検察官または弁護人に対し。公判準備または公判期日に出頭し、かつ.これらの手続が行われている間在席し、または在延することを命じることができ、正当な理由なくこれに従わない者に対しては、決定で、週料等の制裁を課すことができる。裁判所が前記制裁の決定をしたときは、検察庁の長や当該弁護士の所属する弁護士会または日本弁護士連合会に通知し、適当な処置をとるべきことを請求しなければならず、処置請求を受けた者は、そのとった処置を裁判所に通知しなければならない(法278条の3.則303条)。
訴訟関係人等が期日指定等に係る裁判所の訴訟指揮に従わないという事象は文明諸国の裁判では稀であるが、日本では、弁護人が裁判所の期日指定に従わず期日に出頭しない事例や、裁判所の示す期日指定方針に応じられないと不出頭をほのめかしたため、裁判所が当初の方針どおりの期日指定を断念した事例が認められたため、審理を主宰する裁判所の期日指定に係る訴訟指揮の実効性を強化担保するため、2004(平成16)年法律62号により設けられた規定である。最高裁判所は、公判期日等への出頭在延命令に正当な理由なく従わなかった弁護人に対する過料の制裁は、訴訟指揮の実効性担保のための手段として合理性、必要性があり,弁護士法上の懲戒制度が既に存在していることを踏まえても、憲法31条・37条3項に違反しない旨説示している(最決平成 27・5・18刑集69巻4号 573頁)。
*法制審議会の法改正要綱(骨子)「第2-2」は、映像と音声の送受による裁判所の手続への出席・出頭を可能とする制度の創設を答申しており、公判期日への出席・出頭に関しては、下記のとおり、被告人・弁護人について、極めて限定的なやむを得ない事由がある場合に認めるものとされている。
(1) 被告人・弁護人の出頭 ア 裁判所は、次に掲げる場合(後記(ア(イ)において、事条の軽重、審理の状況、弁護人の数その他の事情を考慮した上、やむを得ない事由があり、被告人の防に実質的な不利益を生ずるおそれがなく、かつ、相当と認めるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、同一機内(裁判官及び訴訟関係人が公判期日における手続を行うために在席する場所と同一の構内をいう。)以外にある場所であって適当と認めるものに被告人を在席させ。映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、公判期日における手続を行うことができる。この場合:その場所に在席した被告人は、その公判期日に出頭したものとみなす。(7)被告人が傷病または障害のため同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。(1)同一構内への出頭に伴う移動に際し、被告人の身体に害を加えまたは被告人(刑事施設または少年院に収容中の者に限る。)を奪取し若しくは解放する行為がなされるおそれがあると認めるとき。イ 弁護人は、裁判所がアにより公判期日における手続を行うときは、被告人が在席する場所に在席することができる。この場合、その場所に在席した弁護人は、その公判期日に出頭したものとみなす。
(2)被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席 ア 裁判所は,被害者参加人またはその委託を受けた弁護士から、裁判官及び訴訟関係人が公判期日における手続を行うために在席する場所以外の場所であって裁判所が適当と認めるものに在席し、映像と音声の送受言により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、公判期日に出席することの申出がある場合、被告人または弁護人の意見を感き、審理の状況、申出をした者の数その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、申出をした者が当該方法によって公判期日に出席することを許すものとする。イアの申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知する。