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探偵の知識

公判手続き|公判手続の関与者|検察官|検察機構

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 「検察庁法」は、検察官の権限として、①犯罪の捜査(検察庁法6条),②刑事について、公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求し、かつ、裁判の教行を監替すること、③裁判所の権限に属するその他の事項について、職務上必要と認めるとき、裁判所に通知を求めまたは意見を述べること、④公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務(同法4条)を定めている。
このうち、検察官が犯罪捜査に全面的に深く関与するのはアングロニアメリカ法圏にもヨーロッパ大陸法圏にも例のない日本独自の特色である。他の権限はフランス・ドイツ等ヨーロッパ大陸法圏の検察制度に由来する。これらの権限を総称して検察権と称し、それは国家の行政作用に属する。他方。①②の刑罰権実現のための活動は、刑事裁判権と密接に関連し司法作用と深く係わるので、後記のとおり、検察官については通常の行政官とは異なる地位・権能が認められている。
捜査機関としての検察官(法191条1項)及び公訴提起に係る検察官の役割・活動(法247条・248条・256条)については既に説明したとおりである。前記②の「公訴を行い」には、事件処理、及び起訴した場合にこれを維持して終局裁判を得るまでその遂行に当たることや、公訴の取消し(法 257条)を行うことが含まれる。刑事について「裁判所に法の正当な適用を請求」する権限には、論告・求刑(法 293条1項)。被告人の保釈に関する意見(法92条),上訴(法351条),専審請求(法439条),非常上告(法454条)等がある。「裁判の執行」に関しては、勾引状または勾留状の執行指揮(法70条)、有罪判決の刑の執行指揮(法 472条)等の権限がこれに当たる。
(2) 検察官は、検察権を行使する権限を有する官庁である。個々の検察官が国家意思を決定・表示する独立の官庁として自ら検察権を行使するのであり
(例、自己の名で起訴状により被告人を起訴する)、通常の行政官のように上司・大臣の権限を官庁・大臣の名で行使するのではない。このような検察官の職権行使の独立性が顕著な特色である(「独任性官庁」と称する)。
検察官の職務送行を他からの圧迫・影響から守るため、検察官には強い身分保障が認められている。すなわち、次の場合を除き、その意思に反して、その官を失い。職務を停止され、または体給を減額されることはない(検察庁法25条本文。定年(開法22条)。②熱成処分(同法25 条但書)。③検察官適格審査会の議決による免官(同法23条)、④利員(同法241条)。法上の保障でない点で裁判官と異なるが、任命権者である内閣や法務大臣の裁量的判断による罷免や不利益処分はできない。
(3)検察官の行う事務を続話するところ(官署)を検察庁という(検察庁法1
※)。官署としての裁判所に対応して、最高検察庁(最高裁判所に対応)。高等検察庁(高等裁判所に対応,東京,大阪、名古屋,広島、福岡,仙台、札幌,高松の8、支部6),地方検察庁(地方裁判所・家庭裁判所に対応,都道府県庁所在地のほか函館、旭川、釧路に計50庁、支部 203),区検察庁(簡易裁判所に対応。2023年2月現在438庁)が置かれている(同法2条)。
検察官には、検事総長・次長検事・検事長・検事及び副検事の5種類がある(同法3条)。検察官はいずれかの検察庁に所属する。検事総長は取高検祭庁の長として庁務を楽理し、次長検事は最高校察庁に属して検事総長を補佐する(同法7条)。検事長は高等検察庁の庁務を楽理する(同法8条)。地方検察庁の長として庁務を掌理するのは検事正で、検事がこれに充てられる(同法9条)。
副検事は区検察庁の検察官の職のみに補される(同法16条2項)。なお、検察庁には、検察官のほか、検察事務官等の職員が配置されている。
検察官は、他の法令に特別の定めのある場合を除き、その所属検察庁に対応する裁判所の管轄に属する事項について、検察権を行使する。その職務執行区域も,所属する検察庁に対応する裁判所の管轄区域である(同法5条)。しかし、捜査についてはこのような制限はなく、捜査のため必要があるときは、管轄区域外で職務を行うことができる(法 195条)。
(4) 前記のとおり検察官は各自が独立して職権を行使するが、裁判官の職権の独立とは異なり、国家意思の発動である検察権の行使が全体として統一性を確保されるように、上司の指揮監督権(検察庁法7条~10条)、上司の事務引取・移転権(同法12条)が定められている。これを背景に、個々の検察官は所属検察庁の上司の決裁を経て意思決定・行動をする(例,個別事件の起訴・不起訴の決定)。これを検察官同一体の原則という。
また、検察権は行政作用に属するので、その行使は内閣が国会に対して責任を負うべき事項であるから(恋法66条3項)、内閣構成員である法務大臣は、所管事項として、検察官に対して指揮監者権限を有することが必要である。他方で、検察権は前記のとおり司法作用に密接に関連し公正・独立性の要請があるから、政党内閣の構成員たる法務大臣を介して政治的勢力から検察権の行使に対する圧力・干渉が及ぶおそれを排除する必要がある。この調髪のため、法務大臣は、検察権の行使について、検察官を一般的に指揮監することができるが(例、訓令、通達、会議等の方法による一般的指揮),個々の事件の取調べまたは処分(例、個別事件捜査の具体的方針等)については、検事総長のみを指揮することができるとされている(検察庁法14条)。個別事件の処理については、検察官は検事総長の指揮のみに従えば足りる。法務大臣の検事総長に対する具体的指揮権が発動されれば(いわゆる造船疑獄事件に際し法務大臣が与党幹事長の逮捕を見合わせるよう指揮した実例がある),それについては、政治的批判の問題が生じ得る。そして、政治的批判に、その機会を与えるのが、まさにこの規定の目的である。
*検察官及び検察組織は、刑事司法過程において強大な権限を有する。一般国民からの言頼を維持・確保するためには、法令を守し、厳正公平・不偏不党を旨として、公正誠実に職務を行わなければならないのは当然である。検察官に対する頼を失墜させた恥ずべき不祥事発覚の後、2011(平成 23)年に、検察長官会同において、検察の使命と役割を明確にし、検察職員が職務を遂行するに当たり指針とすべき基本的な心構えを定めた「検察の理念」が策定されている。