公判手続き|公判手続の関与者|被告人|被告人の出頭確保-召喚・勾引・勾留
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1)前記のとおり、被告人が出頭しなければ公判手続を行うことができないのが原則である(第1率1(3/4)。それ故、被告人の出頭を確保するための強制処分として、被告人の召喚・勾引・勾留が認められている。以下、その意義と要件等について説明する。
(2)「召喚」とは、特定の者に対して、一定の日時に一定の場所に出頭すべきことを命ずる裁判である。被告人(法57条)のほか、証人、鑑定人。通訳人翻訳人、身体検査を受ける者に対しても行うことができる。正当な理由がないのに召喚に応じない被告人は、後記のとおり、これを引することができる(法58条2号)。ただし、被告人に出頭義務がない場合(法283条・284条・285条)の召喚は、出頭の機会を与える意味しかないので、これに被告人が応じなくても、勾引することはできない。
裁判所は、規則で定める相当の猶予期間を置いて、被告人を召喚することができる(法57条・275条)。公判期日には被告人を召喚しなければならない(法273条2項)。召喚状の送達と出頭との間の猶予期間は、原則として最少限度12時間(規則67条1項)であるが、第1回公判期日については、簡易裁判所の場合3日、その他の裁判所の場合5日である(規則179条2項)。もっとも、この猶予期間は被告人の利益のために設けられているのであるから、被告人に異議のない場合は、これを置かなくてもよい(規則67条2項・179条3項)。
召喚は召喚状を発して行う(法 62条)。召喚状には一定の事項を記載し(法63条、規則102条),原本を送達する(法65条1項)。ただし、次の場合には、召喚状の送達があった場合と同一の効力が認められる。①被告人から期日に出頭する旨を記載した書面を差し出したとき(法65条2項)、②出頭した被告人に対し、口頭で次回の出頭を命じたとき(法65条2項)、③裁判所に近接する州事施設等にいる被告人に対し、刑事施設職員等を介して通知したとき(法65条3項、刑事収容施設法 286条),④裁判所の構内にいる被告人に対し、公判期日を通知したとき(法 274条)。
また。裁判所は、必要があるときは(例、検証の立会い[法113条3項・11条)、指定の場所に被告人の出頭または同行を命ずることができる。召喚状によらず、猫子期間を要しない。召喚によるべき場合を出頭命令で代えるのは許されない。出頭命令・同行命令について、被告人が正当な理由がないのにこれに応じないときは、その場所に引することができる(法88条)。急速を要する場合には、裁判長または受命数判官も、召喚、出頭命令、同行命令をすることができる(法69条、則71条)。
(3)「勾引」とは、特定の者を、一定の場所に引致する裁判及びその執行をいう。被告人のほか、証人や身体検査を受ける者に対しても行うことができる。
裁判所が被告人を引することができるのは、被告人が、①住居不定のとき、
②正当な理由がなく召喚に応じないとき、または応じないおそれがあるとき、
③正当な理由がなく出頭命令、同行命令に応じないとき、のいずれかに当たる場合である(法58条・68条)。急速を要する場合には、裁判長または受命裁判官も引をすることができる(法69条、則71条)。
勾引は、一定の事項(法64条、規則102条・71条)を記載した勾引状を発して行わなければならない(法62条)。なお、裁判所は、勾引を他の裁判所の裁判官に嘱託することができる(法66条・67条、規則 76条)。勾引状は、検察官の指揮により、検察事務官または司法察職員が執行する(法70条1項本文・
71条)。その場合、勾引状を発した裁判所または裁判官は、その原本を検察官に送付する(規則 72条)。なお、急速を要する場合には、裁判官も執行を指揮することができる(法 70条1項但書)。被告人の現在地が分からないときは、裁判長は、検事長にその所在捜査及び勾引状の執行を嘱託することができる(法72条)。
勾引状の執行は、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ直接、指定された裁判所その他の場所に引致しなければならない。受託裁判官が発した場合は、その裁判官に引致しなければならない(法 73条1項)。急速を要する場合には、被告人に公訴事実の要旨と勾引状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができるが、その後できる限り速やかに、勾引状を示さなければならない(法73条3項)。勾引状の執行を受けた被告人を護する場合において必要があるときは、仮に最寄りの刑事施設に留置することができる(法 74条、刑事収容施設法286条)。
被告人を勾引したときは、直ちに被告人に対し公訴事実の要旨を告げ、弁護人がないときは、弁護人選任権と国選弁護人選任請水権があることを告げなければならない(法76条1項)。この告知は、受命裁判官または裁判所書記官にさせてもよい(法 76条3項・4項)。勾引された被告人は、弁護人がないときは、裁判所または刑事施設の長もしくはその代理者に弁護士、弁護士法人または弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる(法78条1項、刑事収容施設法 286条)。なお、この旨も被告人に教示しなければない(法76条2項)。
被告人の申出を受けた前記裁判所等は、直ちに被告人の指定した弁護士、弁護土法人または弁護士会にその旨を通知しなければならない(法78条2項)。
勾引状による身体拘束の持続時間は、指定の場所に被告人を引致した時から
24時間であり(法59条・67条3項・68条後段)。その間必要があれば、被告人を刑事施設等に留置することができる(法 75条、刑事収容施設法286条)。この時間を経過すると勾引状の効力は消滅するので、それまでに勾留状が発せられない限り、被告人を釈放しなければならない(法59条)。
(4) 被告人の出頭を確保するため一定期間その身体を拘束する「勾留」の要件・手続等は次のとおりである。なお、捜査手続で行われる被疑者の勾留〔第1編捜査手続第3章Ⅲ〕との相違点にも留意する必要がある。
(a) 勾留の意義と要件「勾留」とは、被告人の身体を拘束する裁判及びその執行である。「未決勾留」とも称する(法495条、刑法21条)。もとより、刑罰ではないが、被告人の身体拘束はその事実上の効果において自由刑の執行に類似するから、一定の場合にこれを本刑に算入すべきものとされている(本刑通算という)(法495条、刑法21条)。勾留の第1次的目的は、被告人の公判出頭を確保し、証拠隠滅を防止するという公判審理に係るものである。このほか、有罪判決確定の場合に備えて自由刑の執行を確保する目的をも併有する側面がある(最決昭和25・3・30 刑集4巻3号457頁参照)。
裁判所が被告人を勾留することができる要件は、被告人が罪を狙したことを疑うに足りる相当な理由がある場合であって、かつ、被告人が、①住居不定のとき、②罪証を隠減すると疑うに足りる相当な理由があるとき、③逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき、のいずれかに該当する場合で、さらに勾留という長期間の身体拘束を行う必要性・相当性が認められる場合である(法60条1項)。なお、一定の軽徴な犯罪については、被告人が住居不定の場合に限り、勾留することができる(法60条3項)。急速を要する場合には、裁判長または受命裁判官も勾留を行うことができる(法69条)。
前記、勾留の必要性・相当性については明文がないが、身体拘束処分を行わなければならない積極的必要性と拘束により生じるであろう被告人の不利益とを衡量勘案して、前者が微弱である場合や後者が著しく大である場合には、勾留の実質的必要性を欠き、勾留は相当でないと判断すべきである。当該犯罪の重大性と嫌疑の程度、狭義の必要性たる逃亡・罪証隠滅のおそれの程度等という勾留の積極的必要性の程度が衡量要素に含まれることになる。家出中で住居不定に該当する被告人について、確実な身引受人によりその公判出頭が確実と認められる場合や、勾留の理由はあるものの、被告人の年齢・健康状態を勘案して長期間の身体拘束が相当でないと認められる場合等がその例である。
*狭義の勾留理由すなわち「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は、手続の発展段階等その判断時点における諸般の事情により変動し得るはずであり、理由ありとされる嫌疑の程度は、手続段階等判断時機により異なり得る。
それは、例えば、捜査段階において通常逮捕の理由と被疑者勾留の理由の文言が同じであっても、捜査の進捗により、勾留段階ではより高度の嫌疑を要すると解されているのと同様である。被告人の勾留について、裁判所は、法60条の要件があり、かつ、その必要性があるときは、職権で被告人を勾留することができ、その時期には特段の制約がないから、例えば、控訴審裁判所が、第1審の無罪判決の賞告により勾留状が失効した被告人(法 345条参照)を法60条で再留することも可能である(最決平成 12・6・27刑集54巻5号461頁)。しかし、被告人が第1審で無罪判決を受けたという事実を尊重すべき手続段階においては、法 60条の「相当な理由」の判断は、「無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては、第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である」(最決平成19・12・13刑集61巻9号843頁)。また、必要性・相当性についても慎重な判断を要する(最決平成23・10・5刑集65巻7号977頁)。
(b)勾留の手続身体不束のまま起訴された被告人を勾留する場合の手続は、のとおりである。なお、被疑者段階において検察官の請求により勾留された者が、同一の犯罪事実で勾留期間中に起訴された場合には、起訴と同時にそれまでの被疑者勾留が被告人留に切り替わり、特別の手続なしに被告人勾留が開始されることになる(法208条1項・60条2項)。
蔵疑者勾留との大きな適いは、被告人の幻間が、すべて職権によるものであり、検察官に勾留請求権が認められていない点である(実務上、検察官が起訴に際して用いる「求状」という語は、身体不束の被告人について、裁判所または裁判官の職権発動すなわち勾留の裁判を促す申出である)。
身体不拘束の被告人を勾留するには、逃亡している場合を除き、被告人に対し、被告事件を告げこれに関する陳述を聴く「勾留質問」を行わなければならない(法61条)。なお、逮捕留置中の被疑者に対して公訴提起があった場合には(このような逮捕中の起訴に際して検察官が裁判官に対し被告人としての勾留の職権発動を求めることを「逮捕中求状」と称する),「裁判官」が、速やかに,被告事件を告げ、これに関する陳述を聴く。裁判官は勾留状を発しないときには、直ちに被告人の釈放を命じる(法 280条2項)。
被告人に弁護人がないときは、弁護人選任権と国選弁護人選任請求権があることを告げなければならない(法77条1項)。この告知に当たっては、法78条
1項に定める弁護人選任に係る事項〔前記(3)」の教示をしなければならない(法
77条2項)。この告知等は、受命裁判官または裁判所書記官にさせてもよい(法
77条4項・76条3項)。実務上は、勾留質問の際にこの告知と後記勾留通知先の指定聴取等を行うのが通例である。被告人が逃亡していた場合には、勾留後直ちに弁護人選任権と公訴事実の要旨とを告げるとともに、前記弁護人選任に係る事項の教示をしなければならない(法 77条3項)。
勾留は、一定の事項(法 64条、規則70条・71条)を記載した「勾留状」を発して行わなければならない(法62条)。勾留状の執行方法は、前記引状の場合とほほ同様である(法70条1項・71条・72条・73条3項・74条、規則72条)。
勾留状を執行するには、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ、直接、指定された刑事施設等に引致しなければならない(法73条2項、刑事収容施設法 286条)。刑事施設等にいる被告人(例、別件で身体拘束中の者、刑の執行中の者)に対して発せられた勾留状は、検察官の指揮により、刑事施設職員等が執行する(法70条2項,刑事収容施設法 286条)。
被告人を勾留したときは、直ちに弁護人にその旨を通知しなければならない。
被告人に弁護人がないときは、弁護人選任権者である被告人の法定代理人、保佐人、配者、直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者1人にその旨を通知しなければならない(法79条)。これらの者がないときは、被告人の申出により、その指定する者1人(例,友人、雇主、住居管理人等)にその旨を通知しなければならない(規則79条)。
なお、検察官は、裁判長の同意(移送の同意という)を得て、勾留されている数告人を他の刑事施設等に移すことができるが、このような勾留場所の変更は、直ちに裁判所と弁護人に通知しなければならない。被告人に弁護人がないときは、勾留したときと同様に、被告人の指定する者1人に、この旨を通知しなければならない(規則 80条・305条)。
裁判所(裁判官)は、移送により生ずる被告人の利益・不利益と公判への支障の有無・程度等を考慮して、職権で移送決定(命令)を発することもできると解される(最決平成7・4・12集49巻4号 609頁)。
(c) 勾留中の被告人との接見・交通身体拘束された被告人は、自ら公判準備・防禦準備を行うことができないので、とくにその補助者となる弁護人との接見・交通を保障しなければならない。勾留されている被告人は、弁護人と立会人なくして接見し、または書類その他の物の授受をすることができる。弁護人選任権者の依頼により弁護人となろうとする弁護士及び裁判所の許可を得て選任された特別弁護人に対しても同様である(法 39条1項)。なお、この接見・授受については、法令で逃亡,罪証隠滅,戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる(法 39条2項,規則30条等)。捜査段階の被疑者勾留とは異なり被告人の被告事件について捜査機関が接見指定をすることはできない(法 39条3項)。
前記弁護人等以外の者とも、被告人は、法令の範囲内で、接見・授受ができる(法80条)。ただし、裁判所は、被告人に逃亡または罪証隠滅のおそれがあるときは、検察官の請求により、または職権で、弁護人等以外の者との接見を禁じ,またはこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、もしくはこれを差し押えることができる(法81条)。これを接見等禁止決定という。勾間によっては防止できない程度の逃亡・罪証隠滅のおそれが必要であり、実務上行われている接見等禁止のほとんどは、罪証隠滅のおそれを理由とするものである。勾留理由である罪証隠滅のおそれの審査と同様、具体的・実質的な検討・判断が必要である。
(a) 勾貿期間と勾留更新
勾留状による身体拘束の効力が継続する期間を勾留期間という。被疑者勾留のまま起訴された被告人の勾留期間は,公訴提起があった日から2ヶ月である(法 60条2項)。公訴提起後はじめて勾留された被告人の勾留期間は、現実に身体拘束が開始された日、すなわち勾留状の執行により被告人を指定の刑事施設等に引致した(法73条2項)日から起算すべきである。身体拘束は被告人に対する不利益処分であるから、期間計算については、時効期間に関する規定を準用して、初日を算入し、末日が休日でも期間に算入する(法 55 条参照)。
2ヶ月の勾留期間が満了しても、とくに継続の必要がある場合には、裁判所は、具体的にその理由を附した決定で、1ヶ月ごとに勾留期間を更新することができる。これを勾留更新という。更新は原則として1回に限るが、次の場合は更新回数に制限がない(法 60条2項)。①被告人が死刑、無期もしくは短期1年以上の自由刑に当たる罪で起訴されているとき、②被告人が常習として長期3年以上の自由刑に当たる罪で起訴されているとき、③被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、④被告人の氏名または住所が分からないとき。なお、被告人に拘禁刑以上の実刑判決の食告があった場合には、勾留更新回数の制限は適用されなくなる(法344条)。未確定ではあっても有罪判決賞告によりそれまでの。いわゆる無罪推定状態が失われ、逃亡のおそれが判決宜告前より高まり、刑の執行のため身体を確保する必要性が強まるからである。
(e) 勾留の効力の消滅勾留状が失効した場合、または、勾留の取消しがあった場合には、勾留状による身体拘束の効力が消滅する。
次の場合,勾留状が失効する。①勾留期間が満了したとき、②無罪、免訴刑の免除、刑の全部の執行猶予、公訴棄却(法338条4号の場合を除く)、罰金または科料の裁判の告知があったとき(法 345条)。これらの場合,一般に被告人の逃亡のおそれは減少し、刑の執行確保のため身体拘束をする必要性も乏しくなるからである。③前記以外の終局裁判が確定したとき。被告人の勾留は当該事件の審判と刑の執行確保のためであるから、終局裁判の確定と共に勾留状は失効する。
その場合、勾間の取消しの裁判がなされる。①間の理由または必要がなくなったとき(法87条1項)、②勾留による拘禁が不当に長くなったとき(法91条1項)。これらの場合。裁判所は、被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配構者、直系の親族もしくは兄弟姉妹の請求(①の場合は検察官も含む)により、または職権で、決定をもって何間を取り着きなければならない。ただし、講来は、後記の保釈や勾留の執行停止等により現実の身体拘束が解かれたときは、その目的を達したものとして、その効力を失う(法87条2項・91条2項・82条3項)。勾留の取消決定をする場合には、原則として検察官の意見を聴かなければならない(法 92条)。
なお、勾留の理由の開示制度については、被疑者勾留に際して説明したとおりである〔第1編捜査手続第3章5(2)〕
(2)「召喚」とは、特定の者に対して、一定の日時に一定の場所に出頭すべきことを命ずる裁判である。被告人(法57条)のほか、証人、鑑定人。通訳人翻訳人、身体検査を受ける者に対しても行うことができる。正当な理由がないのに召喚に応じない被告人は、後記のとおり、これを引することができる(法58条2号)。ただし、被告人に出頭義務がない場合(法283条・284条・285条)の召喚は、出頭の機会を与える意味しかないので、これに被告人が応じなくても、勾引することはできない。
裁判所は、規則で定める相当の猶予期間を置いて、被告人を召喚することができる(法57条・275条)。公判期日には被告人を召喚しなければならない(法273条2項)。召喚状の送達と出頭との間の猶予期間は、原則として最少限度12時間(規則67条1項)であるが、第1回公判期日については、簡易裁判所の場合3日、その他の裁判所の場合5日である(規則179条2項)。もっとも、この猶予期間は被告人の利益のために設けられているのであるから、被告人に異議のない場合は、これを置かなくてもよい(規則67条2項・179条3項)。
召喚は召喚状を発して行う(法 62条)。召喚状には一定の事項を記載し(法63条、規則102条),原本を送達する(法65条1項)。ただし、次の場合には、召喚状の送達があった場合と同一の効力が認められる。①被告人から期日に出頭する旨を記載した書面を差し出したとき(法65条2項)、②出頭した被告人に対し、口頭で次回の出頭を命じたとき(法65条2項)、③裁判所に近接する州事施設等にいる被告人に対し、刑事施設職員等を介して通知したとき(法65条3項、刑事収容施設法 286条),④裁判所の構内にいる被告人に対し、公判期日を通知したとき(法 274条)。
また。裁判所は、必要があるときは(例、検証の立会い[法113条3項・11条)、指定の場所に被告人の出頭または同行を命ずることができる。召喚状によらず、猫子期間を要しない。召喚によるべき場合を出頭命令で代えるのは許されない。出頭命令・同行命令について、被告人が正当な理由がないのにこれに応じないときは、その場所に引することができる(法88条)。急速を要する場合には、裁判長または受命数判官も、召喚、出頭命令、同行命令をすることができる(法69条、則71条)。
(3)「勾引」とは、特定の者を、一定の場所に引致する裁判及びその執行をいう。被告人のほか、証人や身体検査を受ける者に対しても行うことができる。
裁判所が被告人を引することができるのは、被告人が、①住居不定のとき、
②正当な理由がなく召喚に応じないとき、または応じないおそれがあるとき、
③正当な理由がなく出頭命令、同行命令に応じないとき、のいずれかに当たる場合である(法58条・68条)。急速を要する場合には、裁判長または受命裁判官も引をすることができる(法69条、則71条)。
勾引は、一定の事項(法64条、規則102条・71条)を記載した勾引状を発して行わなければならない(法62条)。なお、裁判所は、勾引を他の裁判所の裁判官に嘱託することができる(法66条・67条、規則 76条)。勾引状は、検察官の指揮により、検察事務官または司法察職員が執行する(法70条1項本文・
71条)。その場合、勾引状を発した裁判所または裁判官は、その原本を検察官に送付する(規則 72条)。なお、急速を要する場合には、裁判官も執行を指揮することができる(法 70条1項但書)。被告人の現在地が分からないときは、裁判長は、検事長にその所在捜査及び勾引状の執行を嘱託することができる(法72条)。
勾引状の執行は、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ直接、指定された裁判所その他の場所に引致しなければならない。受託裁判官が発した場合は、その裁判官に引致しなければならない(法 73条1項)。急速を要する場合には、被告人に公訴事実の要旨と勾引状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができるが、その後できる限り速やかに、勾引状を示さなければならない(法73条3項)。勾引状の執行を受けた被告人を護する場合において必要があるときは、仮に最寄りの刑事施設に留置することができる(法 74条、刑事収容施設法286条)。
被告人を勾引したときは、直ちに被告人に対し公訴事実の要旨を告げ、弁護人がないときは、弁護人選任権と国選弁護人選任請水権があることを告げなければならない(法76条1項)。この告知は、受命裁判官または裁判所書記官にさせてもよい(法 76条3項・4項)。勾引された被告人は、弁護人がないときは、裁判所または刑事施設の長もしくはその代理者に弁護士、弁護士法人または弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる(法78条1項、刑事収容施設法 286条)。なお、この旨も被告人に教示しなければない(法76条2項)。
被告人の申出を受けた前記裁判所等は、直ちに被告人の指定した弁護士、弁護土法人または弁護士会にその旨を通知しなければならない(法78条2項)。
勾引状による身体拘束の持続時間は、指定の場所に被告人を引致した時から
24時間であり(法59条・67条3項・68条後段)。その間必要があれば、被告人を刑事施設等に留置することができる(法 75条、刑事収容施設法286条)。この時間を経過すると勾引状の効力は消滅するので、それまでに勾留状が発せられない限り、被告人を釈放しなければならない(法59条)。
(4) 被告人の出頭を確保するため一定期間その身体を拘束する「勾留」の要件・手続等は次のとおりである。なお、捜査手続で行われる被疑者の勾留〔第1編捜査手続第3章Ⅲ〕との相違点にも留意する必要がある。
(a) 勾留の意義と要件「勾留」とは、被告人の身体を拘束する裁判及びその執行である。「未決勾留」とも称する(法495条、刑法21条)。もとより、刑罰ではないが、被告人の身体拘束はその事実上の効果において自由刑の執行に類似するから、一定の場合にこれを本刑に算入すべきものとされている(本刑通算という)(法495条、刑法21条)。勾留の第1次的目的は、被告人の公判出頭を確保し、証拠隠滅を防止するという公判審理に係るものである。このほか、有罪判決確定の場合に備えて自由刑の執行を確保する目的をも併有する側面がある(最決昭和25・3・30 刑集4巻3号457頁参照)。
裁判所が被告人を勾留することができる要件は、被告人が罪を狙したことを疑うに足りる相当な理由がある場合であって、かつ、被告人が、①住居不定のとき、②罪証を隠減すると疑うに足りる相当な理由があるとき、③逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき、のいずれかに該当する場合で、さらに勾留という長期間の身体拘束を行う必要性・相当性が認められる場合である(法60条1項)。なお、一定の軽徴な犯罪については、被告人が住居不定の場合に限り、勾留することができる(法60条3項)。急速を要する場合には、裁判長または受命裁判官も勾留を行うことができる(法69条)。
前記、勾留の必要性・相当性については明文がないが、身体拘束処分を行わなければならない積極的必要性と拘束により生じるであろう被告人の不利益とを衡量勘案して、前者が微弱である場合や後者が著しく大である場合には、勾留の実質的必要性を欠き、勾留は相当でないと判断すべきである。当該犯罪の重大性と嫌疑の程度、狭義の必要性たる逃亡・罪証隠滅のおそれの程度等という勾留の積極的必要性の程度が衡量要素に含まれることになる。家出中で住居不定に該当する被告人について、確実な身引受人によりその公判出頭が確実と認められる場合や、勾留の理由はあるものの、被告人の年齢・健康状態を勘案して長期間の身体拘束が相当でないと認められる場合等がその例である。
*狭義の勾留理由すなわち「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は、手続の発展段階等その判断時点における諸般の事情により変動し得るはずであり、理由ありとされる嫌疑の程度は、手続段階等判断時機により異なり得る。
それは、例えば、捜査段階において通常逮捕の理由と被疑者勾留の理由の文言が同じであっても、捜査の進捗により、勾留段階ではより高度の嫌疑を要すると解されているのと同様である。被告人の勾留について、裁判所は、法60条の要件があり、かつ、その必要性があるときは、職権で被告人を勾留することができ、その時期には特段の制約がないから、例えば、控訴審裁判所が、第1審の無罪判決の賞告により勾留状が失効した被告人(法 345条参照)を法60条で再留することも可能である(最決平成 12・6・27刑集54巻5号461頁)。しかし、被告人が第1審で無罪判決を受けたという事実を尊重すべき手続段階においては、法 60条の「相当な理由」の判断は、「無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては、第1審段階におけるものよりも強いものが要求されると解するのが相当である」(最決平成19・12・13刑集61巻9号843頁)。また、必要性・相当性についても慎重な判断を要する(最決平成23・10・5刑集65巻7号977頁)。
(b)勾留の手続身体不束のまま起訴された被告人を勾留する場合の手続は、のとおりである。なお、被疑者段階において検察官の請求により勾留された者が、同一の犯罪事実で勾留期間中に起訴された場合には、起訴と同時にそれまでの被疑者勾留が被告人留に切り替わり、特別の手続なしに被告人勾留が開始されることになる(法208条1項・60条2項)。
蔵疑者勾留との大きな適いは、被告人の幻間が、すべて職権によるものであり、検察官に勾留請求権が認められていない点である(実務上、検察官が起訴に際して用いる「求状」という語は、身体不束の被告人について、裁判所または裁判官の職権発動すなわち勾留の裁判を促す申出である)。
身体不拘束の被告人を勾留するには、逃亡している場合を除き、被告人に対し、被告事件を告げこれに関する陳述を聴く「勾留質問」を行わなければならない(法61条)。なお、逮捕留置中の被疑者に対して公訴提起があった場合には(このような逮捕中の起訴に際して検察官が裁判官に対し被告人としての勾留の職権発動を求めることを「逮捕中求状」と称する),「裁判官」が、速やかに,被告事件を告げ、これに関する陳述を聴く。裁判官は勾留状を発しないときには、直ちに被告人の釈放を命じる(法 280条2項)。
被告人に弁護人がないときは、弁護人選任権と国選弁護人選任請求権があることを告げなければならない(法77条1項)。この告知に当たっては、法78条
1項に定める弁護人選任に係る事項〔前記(3)」の教示をしなければならない(法
77条2項)。この告知等は、受命裁判官または裁判所書記官にさせてもよい(法
77条4項・76条3項)。実務上は、勾留質問の際にこの告知と後記勾留通知先の指定聴取等を行うのが通例である。被告人が逃亡していた場合には、勾留後直ちに弁護人選任権と公訴事実の要旨とを告げるとともに、前記弁護人選任に係る事項の教示をしなければならない(法 77条3項)。
勾留は、一定の事項(法 64条、規則70条・71条)を記載した「勾留状」を発して行わなければならない(法62条)。勾留状の執行方法は、前記引状の場合とほほ同様である(法70条1項・71条・72条・73条3項・74条、規則72条)。
勾留状を執行するには、これを被告人に示した上、できる限り速やかに、かつ、直接、指定された刑事施設等に引致しなければならない(法73条2項、刑事収容施設法 286条)。刑事施設等にいる被告人(例、別件で身体拘束中の者、刑の執行中の者)に対して発せられた勾留状は、検察官の指揮により、刑事施設職員等が執行する(法70条2項,刑事収容施設法 286条)。
被告人を勾留したときは、直ちに弁護人にその旨を通知しなければならない。
被告人に弁護人がないときは、弁護人選任権者である被告人の法定代理人、保佐人、配者、直系の親族及び兄弟姉妹のうち被告人の指定する者1人にその旨を通知しなければならない(法79条)。これらの者がないときは、被告人の申出により、その指定する者1人(例,友人、雇主、住居管理人等)にその旨を通知しなければならない(規則79条)。
なお、検察官は、裁判長の同意(移送の同意という)を得て、勾留されている数告人を他の刑事施設等に移すことができるが、このような勾留場所の変更は、直ちに裁判所と弁護人に通知しなければならない。被告人に弁護人がないときは、勾留したときと同様に、被告人の指定する者1人に、この旨を通知しなければならない(規則 80条・305条)。
裁判所(裁判官)は、移送により生ずる被告人の利益・不利益と公判への支障の有無・程度等を考慮して、職権で移送決定(命令)を発することもできると解される(最決平成7・4・12集49巻4号 609頁)。
(c) 勾留中の被告人との接見・交通身体拘束された被告人は、自ら公判準備・防禦準備を行うことができないので、とくにその補助者となる弁護人との接見・交通を保障しなければならない。勾留されている被告人は、弁護人と立会人なくして接見し、または書類その他の物の授受をすることができる。弁護人選任権者の依頼により弁護人となろうとする弁護士及び裁判所の許可を得て選任された特別弁護人に対しても同様である(法 39条1項)。なお、この接見・授受については、法令で逃亡,罪証隠滅,戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる(法 39条2項,規則30条等)。捜査段階の被疑者勾留とは異なり被告人の被告事件について捜査機関が接見指定をすることはできない(法 39条3項)。
前記弁護人等以外の者とも、被告人は、法令の範囲内で、接見・授受ができる(法80条)。ただし、裁判所は、被告人に逃亡または罪証隠滅のおそれがあるときは、検察官の請求により、または職権で、弁護人等以外の者との接見を禁じ,またはこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、もしくはこれを差し押えることができる(法81条)。これを接見等禁止決定という。勾間によっては防止できない程度の逃亡・罪証隠滅のおそれが必要であり、実務上行われている接見等禁止のほとんどは、罪証隠滅のおそれを理由とするものである。勾留理由である罪証隠滅のおそれの審査と同様、具体的・実質的な検討・判断が必要である。
(a) 勾貿期間と勾留更新
勾留状による身体拘束の効力が継続する期間を勾留期間という。被疑者勾留のまま起訴された被告人の勾留期間は,公訴提起があった日から2ヶ月である(法 60条2項)。公訴提起後はじめて勾留された被告人の勾留期間は、現実に身体拘束が開始された日、すなわち勾留状の執行により被告人を指定の刑事施設等に引致した(法73条2項)日から起算すべきである。身体拘束は被告人に対する不利益処分であるから、期間計算については、時効期間に関する規定を準用して、初日を算入し、末日が休日でも期間に算入する(法 55 条参照)。
2ヶ月の勾留期間が満了しても、とくに継続の必要がある場合には、裁判所は、具体的にその理由を附した決定で、1ヶ月ごとに勾留期間を更新することができる。これを勾留更新という。更新は原則として1回に限るが、次の場合は更新回数に制限がない(法 60条2項)。①被告人が死刑、無期もしくは短期1年以上の自由刑に当たる罪で起訴されているとき、②被告人が常習として長期3年以上の自由刑に当たる罪で起訴されているとき、③被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき、④被告人の氏名または住所が分からないとき。なお、被告人に拘禁刑以上の実刑判決の食告があった場合には、勾留更新回数の制限は適用されなくなる(法344条)。未確定ではあっても有罪判決賞告によりそれまでの。いわゆる無罪推定状態が失われ、逃亡のおそれが判決宜告前より高まり、刑の執行のため身体を確保する必要性が強まるからである。
(e) 勾留の効力の消滅勾留状が失効した場合、または、勾留の取消しがあった場合には、勾留状による身体拘束の効力が消滅する。
次の場合,勾留状が失効する。①勾留期間が満了したとき、②無罪、免訴刑の免除、刑の全部の執行猶予、公訴棄却(法338条4号の場合を除く)、罰金または科料の裁判の告知があったとき(法 345条)。これらの場合,一般に被告人の逃亡のおそれは減少し、刑の執行確保のため身体拘束をする必要性も乏しくなるからである。③前記以外の終局裁判が確定したとき。被告人の勾留は当該事件の審判と刑の執行確保のためであるから、終局裁判の確定と共に勾留状は失効する。
その場合、勾間の取消しの裁判がなされる。①間の理由または必要がなくなったとき(法87条1項)、②勾留による拘禁が不当に長くなったとき(法91条1項)。これらの場合。裁判所は、被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配構者、直系の親族もしくは兄弟姉妹の請求(①の場合は検察官も含む)により、または職権で、決定をもって何間を取り着きなければならない。ただし、講来は、後記の保釈や勾留の執行停止等により現実の身体拘束が解かれたときは、その目的を達したものとして、その効力を失う(法87条2項・91条2項・82条3項)。勾留の取消決定をする場合には、原則として検察官の意見を聴かなければならない(法 92条)。
なお、勾留の理由の開示制度については、被疑者勾留に際して説明したとおりである〔第1編捜査手続第3章5(2)〕