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探偵の知識

公判手続き|公判手続の関与者|被告人|被告人の保釈及び勾留の執行停止

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

保釈と勾留の執行停止は、いずれも勾留の執行を停止して、被告人の身体拘束を解く制度である。なお、2023(和5)年の法改正により、保釈等をされた被告人の逃亡防止と公判期日への出頭を確保するための規定が整備・導入された。その概要は(5)*で説明する。
(1)「保釈」とは、一定額の保証金の納付を条件に勾留の執行を停止することである。保釈請求権者すなわち勾留されている被告人,弁護人,法定代理人,保佐人、配者,直系親族,兄弟姉妹は、保釈を請求することができる(請求による保釈[法88条1項])。なお、この請求は、勾留の取消請求と同様,現実の身体拘束が解かれたときは、その効力を失う(法 88条2項・82条3項)。
裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる(職権による保釈[法 90条])。勾留による拘禁が不当に長くなったときは、前記のとおり、裁判所は、保釈請求権者の請求または職権により、勾留を取り消すか、保釈を許さなければならない(法91条1項)。いずれの場合でも、裁判所が保釈許否の決定をするには、あらかじめ検察官の意見を聴かなければならない(法92条1項)。
*2016(平成 28)年の法改正により、職権による裁量保釈について、「適当と認めるとき」の判断に当たっての裁判所の考慮事項が次のとおり明記された。「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上。社会生活上又は防の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」(法90条)。ここに列記された考慮事項は、従前から被告人の身体拘束の許否に関する裁判所の判断(例、勾留の必要性・相当性[法60条]。勾留の必要[法87条]。裁量保釈の許否[法90条])において考慮勘案されていた要素を確認的に明記したものである。
(2)保釈の請求があったときは、原則として、これを許さなければならない。
これを必要的保釈または権利保釈と称する(法89条柱書)。第1審で有罪判決があるまでは無罪の推定があるとされる被告人の地位を考慮したものと説明されている。それ故、第1審で拘禁刑以上の刑に処する判決の宜告があると、必要的保釈の適用はなくなり、保釈の許否は裁判所の裁量となる(法344条)。
もっとも。権利保釈には、次の除外事由が定められている。この場合には、保釈請求があっても、裁判所はその裁量により許否を定めてよい。これを任意的保釈または裁量保釈と称する(法 89条1号~6号・90条)。なお、単なる逃亡のおそれは、除外事由とはされていない。
①被告人が死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を狙したものであるとき(法 89条1号)。「したものである」とは、現にそのような罪の訴因で起訴されているという意味である。また、罪に当たる訴因と勾留の根拠とされた罪とは同一でなければならない(身体拘束に関する事件単位原則)。
勾留の基礎となっていない罪を考慮することはできない。例えば、強盗致傷罪と恐喝罪で起訴されている被告人について、勾留の基礎となっているのが恐喝罪だけである場合には、1号に該当しないことになる。
②被告人が前に死刑または無期もしくは長期 10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の告を受けたことがあるとき(同条2号)。
③被告人が常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき(同条3号)。
④被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(同条4号)。
罪証隠滅のおそれの判断方法や判断要素は、手続の発展段階に応じて変動し得る。捜査段階に比し、事案解明のための証拠収集自体は通常完了しているから、隠滅のおそれは一般的には減少している。その上で、公判手続の進行に伴い。
例えば、被告人が冒頭手続で公訴事実を認め、検察官請求証拠のすべてに同意し、その取調べが終了するに至れば、罪証隠滅のおそれは著しく減少したと認められる場合が多いであろう。なお、後記公判前整理手続が実施された事件では、第1回公判期日前であっても、整理された争点と当事者の立証計画を前提として、被告人を釈放した場合に、なお客観的に罪証識行為の余地があり得るか:被告人になお罪証減行為に及ぶ意図が認められるか等を具体的・実質的に検討すべきである。4号に当たる場合において、保釈を許可した原々決定を取り消し保釈請求を却下した原決定を違法として取り消し、保釈決定を維持した事例として、取決平成26・11・18刑集68巻9号1020頁,最決平成27・
4・15判時2260号129頁がある。
⑤被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加え、または、これらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき(同条5号)。なお、裁判員の参加する裁判の場合には、裁判員補充裁判員または選任予定裁判員に、面会、文書の送付その他の方法により接触すると疑うに足りる相当な理由があるときも、本号に該当する(裁判員法 64条1項)。
⑥被告人の氏名または住居が分からないとき(法 89条6号)。
前記のとおり、これらの除外事由に当たる場合でも、職権による裁量保釈(法90条)が可能であるが、その際には、勾留の基礎とされていない被告人の他の犯罪事実を考慮することができる。判例は、「[勾留状が発せられている]事実の事案の内容や性質、あるいは被告人の経歴、行状、性格等の事情をも考慮することが必要であり、そのための一資料として、勾留状の発せられていない・・・事実[被告人の他の公訴事実]をも考慮することを禁ずべき理由はない」と説示している(最決昭和44・7・14刑集23巻8号 1057頁)。
13)保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない(法93条1項)。
保証金額は、狙罪の性質、情状、証拠の証明力。被告人の性格、資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない(法 93条2項)。正当な理由なく出頭しないときは保釈を取り消して保証金を没取する(法86条)という心理的強制により被告人の逃亡を防止して出頭を確保しょう
とするのが保釈制度であることから、このような考慮事項が定められている。
また。保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を付けることができる(法93条3項)。この条件も、被告人の出頭を確保する趣意であるから、それと無関係な条件を付けることは許されないというべきである(例.もっぱら再犯防止のための条件は不可)。なお、2023年の法改正により、裁判所の許可を受けないで指定された期間を超えて制限された住居を離れてはならない旨の条件を付して保釈を許す場合を想定した規定が付加された(法93条4項~8項)。被告人が当該条件に係る住居を離れ、許可を受けず正当な理由なく当該期間を超えて住居に帰着しないときは、2年以下の拘禁刑で処罰される(法95条の3)。
保釈許可決定は、保証金の納付があった後でなければ、これを執行することができない(法 94条1項)。裁判所は、保釈請求権者でない者に保証金を納めることを許すことができる(法 94条2項)。裁判所は、有価証券または裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書をもって保証金に代えることを許すことができる(法94条3項)。保釈の保証書には、保証金額及びいっでもその保証金を納める旨を記載しなければならない(規則 87条)。保証金の納付がなされると,裁判所はその旨を検察官に通知し,検察官の執行指揮により被告人の身体拘束が解かれ釈放される(法472条1項本文・473条参照)。
(4) 裁判所は、適当と認めるときは、職権による決定で,勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、または被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる(法95条1項)。保釈と異なり保証金の納付は不要である。勾留の執行停止には、その期間を指定し、終期となる日時に出頭すべき場所等を指定することができる旨が 2023年改正により明文化された(法95条2項~5項)。期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人が、正当な理由なく終期として指定された日時に指定された出頭すべき場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑で処罰される(法95条の2)。なお、執行停止は裁判所の職権によってのみなされるので、被告人や弁護人の申出は、裁判所の職権発動を促すものにとどまる(裁判所に応答義務はない。最判昭和24・2・17州集3巻2号184頁)。
勾留の執行を停止するには、原則として検察官の意見を聴かなければならない(規則88条)。委託による勾留執行停止の場合には、委託を受けた親族、保護団体その他の者から、いつでも召喚に応じ被告人を出頭させる旨の書面を差と出させなければならない(則90条)。
(5) 裁判所は、次の場合には、検察官の請求または職権により、決定で、保釈または勾留の教行停止を取り消すことができる(法96条1項)。いずれも被告人の身体物を期間・継続する合理的理由と必要性が生じた場合である。
①被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
②被告人が逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
③被告人が罪証を隠滅しまたは罪証を隠減すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
④被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者もしくはその親族の身体もしくは財産に害を加えもしくは加えようとし。
または、これらのものを怖させる行為をしたとき。なお、裁判員の参加する裁判の場合,裁判員、補充裁判員または選任予定裁判員に、面会、文書の送付その他の方法により接触したときも本号に該当する(裁判員法 64
条1項)。
⑤被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
⑥被告人が、正当な理由なく、後記「報告命令」(法95条の4)の規定による報告をせず、または虚偽の報告をしたとき。
保釈を取り消す場合,裁判所は、決定で保証金の全部または一部を没取することができる(法 96条2項)。保釈された者が、刑の言渡しを受けその判決が確定した後、執行のため呼出しを受け正当な理由がないのに出頭しないとき、または逃亡したときは、検察官の請求により、決定で、保証金の全部または一部を没取しなければならない(法 96条7項)。保証書が提出されている場合は、検察官が保証書を差し出した者に納付命令を出して執行する(法 490条)。没取されなかった保証金は、保釈の取消しまたは失効により被告人が刑事施設等に収容されたとき、これを還付する(規則91条1項2号・305条)。勾留の取消し、失効、再保釈等の場合も還付する(規則91条1項1号・3号、2項)。
勾留の執行停止の期間が満了したときは、勾留の執行停止は、当然にその効力を失う。また、拘禁制以上の刑に処する判決の質告があったときる、保釈または勾留の執行停止は、その効力を失う(注343条)。
保釈もしくは部の執行停止について、その取消しまたは失効があったときは、新たに保釈もしくは勾留の執行停止がなされない限り,検察事務官,司法
察職員または刑事施設職員等は、検察官の指揮により、勾留状の謄本とこれらの取消決定の謄本または期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示して、これを刑事施設等に収容しなければならない(法98条1項・3項・71条・343条後段、刑事収容施設法286条、規則92条の2・305条)。急速を要する場合には、検察官の指揮により、被告人に対し、保釈または勾留の執行停止の取消しがあったことなどを告げて刑事施設等に収容することができるが、その後できる限り速やかに前記の書面を示さなければならない(法98条2項、刑事収容施設法 286条)。
2023年改正により、検察官は、保釈等を取り消す決定があった場合または拘禁刑以上の刑に処する判決の賞告により保釈等がその効力を失った場合に、被告人に対し、指定する日時及び場所に出頭することを命ずることができるとされた(法98条の2・343条の2)。出頭命令に違反して指定された日時・場所に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑で処罰される(法98条の3・343条の3)。
*「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第
110号」法制審議会答申(2021年10月)に基づき制定・公布された 2023年法改正
(和5年法律28号)対応部分の概要は、次のとおりである。本文中に記載したものや未施行の規定も併せてその内容と趣旨を説明する。諮問第110号は「近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み、保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し、公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」というもので、刑事法(逃亡防止関係)部会における審議を経て、11項目からなる要綱が法制審議会により答申され、令和5年第211回国会において下記の条項として立法化された。
その第一は、裁判所が、保釈中または勾留執行停止中の被告人に対し、逃亡のおそれの有無の判断に影響のある住居や労働または通学の状況など、生活上または身分上の事項やその変更の報告を命じ得るとする報告命令制度の創設である(法95条の4・96条1項5号)。裁判所が保釈中の被告人の生活状況等を適時に把握し、逃亡のおそれの程度を適切に判断して、保釈の取消しなどの必要な措置を講じることができるようにするものである。
第二は、裁判所が保釈中または勾留執行停止中の被告人を監督する者を選任する監督者制度の創設である(法98条の4・98条の8・98条の9・98条の11等)。具体的には、裁判所が、保釈中の被告人の逃を防止し、公判への出頭を確保するために、被告人を監する「監督者」を選任することができるとし、裁判所は、この監督者に対して、被告人と共に出頭することや、被告人の生活上または身分上の事項について報告することを命じることができ、監督者がその義務に違反した場合や、被告人が逃亡するなどしたことによりその保釈が取り消された場合には、監督者が付した監保証金を没取し得るものとする。この制度については、監督者としての法的責任を引き受ける者は限られるのではないかとの指摘もあったが、保釈中の被告人の逃亡を防止するための選択肢として有益な場合があるとして、新設された。
第三は、公判期日への出頭等を確保するために必要な処罰規定の新設である。次のとおり手続の各段階に応じて罰則を設ける。①保釈中の被告人が、召喚を受けて正当な理由なく公判期日に出頭しない行為(公判期日への不出頭罪・法278条の2)。
②制限住居を離れた保釈中の被告人が、裁判所の許可を受けないで裁判所の定める期間を超えて帰着しない行為(制限住居離脱罪・法 95条の3)、③保釈を取りされた被告人が、検察官から出頭を命ぜられたにもかかわらず正当な理由なく出頭しない行為(出頭命令違反の罪・法98条の2・98条の3・343条の2・343条の3),④勾留の執行を停止された被告人が、執行停止期間の満了時に指定された場所に正当な理由なく出頭しない行為(勾留執行停止期間満了後の不出頭罪・法 95条の2),⑤死刑拘禁刑または拘留が確定した者が、検察官から出頭を命ぜられたにもかかわらず正当な理由なく出頭しない行為(刑の執行のための呼出を受けた者の不出頭罪・法 484条の2)。これらの罪の法定刑は、犯人蔵匿等の罪(刑法103条)の法定刑の上限が3年とされていることなども踏まえ、いずれも「2年以下の拘禁刑」とされた。これらの罰則の新設については、被告人が公判期日に出頭しなかった場合などには、保釈の取消しや保釈保証金の没取という既存の制裁で対処すれば足りるといった意見もあったが、それらの制裁が必ずしも十分な抑止力として機能しない場合もあるため、逃亡の防止や出頭確保の観点から、罰則を設けることが必要かつ相当とされたのである。
第四は刑法の改正である。現行法の逃走罪及び加重罪の主体を、「法令により拘禁された者」に統一・拡大するとともに、逃走罪の法定刑を、現行の「1年以下」から「3年以下の拘禁刑」に引き上げる。改正前の刑法の逃走罪(刑法 97条)の主体は、「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」とされているために、例えば、逮捕状により逮捕されて刑事施設に収容中の者や、勾留状の執行を受けて身柄を拘束されたものの、刑事施設に収容されるに至っていない者が禁から脱して逃走したとしても、この罪は成立しないものとされていた。その上、その法定刑は1年以下の拘禁刑とされており、主体の範囲及び法定刑のいずれの観点からしても、法令により拘禁された者の逃亡を防止する上で十分なものとは言い難い状況にあった。そこで、令状の種類の違いや刑事施設への収容の前後により犯罪の成否を分ける合理性はなく、法令上認められる身体拘束は等しく保護されるべきと考えられることから、その主体を「法令により拘禁された者」に改めるとともに、逃走罪の法定利について、犯人蔵密等の罪の法定刑なども踏まえ、その長期を3年とするものである。
第五は、裁判所の命令により、保釈中の被告人にいわゆる GPS端末を装着させ、一定の区域に侵入した場合には速やかにその身柄を確保することで国外への逃じを防止する制度を新設するものである(法98条の12~98条の24)。この制度については、対象となる被告人の範囲をめぐって、国外逃亡の防止に限らず。国内における逃亡の防止や、被害者を含む証人等への接触の防止のためにも活用できる要件にすべきであるといった意見もあったが、国外に逃亡すると我が国の主権が及ばないため、公判への出頭確保が事実上できなくなることからこれを阻止する必要性が特に高く、また、海空港への接近を探知して身柄を確保するなど、GPS端末を有効に活用する方法も明らかであること、制度を円滑に導入し定着させていくためには、特に活用の必要性が高く、効果的に活用することができ、連用に伴う困難も少ないと見込まれる国外逃亡の防止が必要な場合に限定するのが適切であることから、国外逃亡の防止を目的とした制度として、新設された。
第六は、拘禁刑以上の実刑判決の宜告後における裁量保釈の要件の明確化である
(法344条2項)。拘禁刑以上の実刑判決が宜告された後の裁量保釈(法90条)については、判決の食告前と比較してより制限的に適用されるべきであるとするのが法の趣旨と解されていることから、その趣旨を明確化するものであり、拘禁刑以上の実刑判決があった後の裁量保釈は、法90条に規定する保釈されない場合の不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならないものとし、ただし、実刑判決後でも、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでないものとする。
第七は、保釈中または勾留執行停止中の被告人に対し,控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付け、原則としてその出頭がある場合にのみ、判決を宣告する制度を新設するものである(法 390条の2・402条の2)。現行法上、控訴審においては、被告人に公判期日への出頭義務がないため、保釈中の被告人に拘禁刑以上の実刑判決が宣告されて保釈が失効しても、その場で直ちに収容することができるとは限らず、それによって逃亡の機会を与えてしまうことのないように、判決告期日への出頭を義務付けるなどして、保釈が失効した場合の収容を確保するものである。
第八は、拘禁刑以上の実刑判決の宣告を受けた後に保釈された者が逃亡した場合には、必ず保釈を取り消し、保釈保証金の全部または一部を没取しなければならないとするものである(法96条4項・5項)。これは、保釈の取消しや保釈保証金の没取の威嚇力による逃亡抑止力を、より一層高めることを目的とする。
第九は、拘禁刑以上の実刑判決の賞告を受けた者や罰金の裁判の告知を受けた者の国外を防止し、刑の執行に困難を来すことにならないようにするために、裁判所の許可なく出国することを禁止し、これに違反した者の身体拘束ができる出国制限制度の創設である。拘禁制以上の実刑判決の管告を受けた者は、その判決自体の効力として裁判所の許可なく本邦から出国してはならないものとし(注342条の2)。開金の裁判の管知を受けた被告人やその裁判が確定した者のうち、開金を完納できないこととなるおそれがあるときは、裁判所の許可なく出国することを禁止する命令を裁判所が発することができるものとする(法345条の2等)。
第十は、裁判の執行に関する調査として、裁判官の発する令状により差押えや検証等の強制処分ができるとするものである(法508条1項・509条~516条)。従前
裁判の執行に関する調査については、公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求めることができる旨の規定(改正前法 508条)などがあるのみで、捜査・公判段階であれば可能な差押えや検証などの強制処分も、裁判の執行の段階においては行うことができず、刑が確定した者の収容や罰金の徴収等に支障を来す例が少なくないという実情に対処するものである。
第十一は、刑の言渡しを受けた者が国外にいる期間、刑の時効を停止するものである(刑法33条2項)。公訴時効については、現行法上も犯人が国外にいる場合、その期間。時効の進行を停止することとされているが、刑の時効については、時効を停止する仕組みがないため、刑が確定した者が国外に逃亡しても、時効は進行し、刑の執行ができなくなるという状態が生じる。そのようなことがないようにするため、国外にいる間は、時効の進行を停止するとしたものである。