公判手続き|公判期日の手続|冒頭手続
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1 公判開始後、証拠調べ手続に入る前の段階を「冒頭手続」という。冒頭手続のはじめに、裁判長は、被告人として出廷している者と、起訴状に記載されている被告人とが同一人物であることを確認するための質問をする。これを「人定質問」と称する(規則 196条)。起訴状には、通常、被告人の氏名・生年月日・本籍・住居・職業などが記載され(法 256条2項1号、規則164条1項),検察官が起訴の対象とした被告人は特定・表示されているから、公判廷では、これらの事項を被告人として出廷している者に対して質問・確認する形で進行するのが通常である。被告人が公判延で氏名等を黙した場合には、検察官に被告人の顔写真の提出を求めるなど他の適切な方法によって人違いでないことを確かめることを要する。人違いが判明したときは、出廷している者は被告人ではないので、これを事実上排除し、真の被告人を出頭させ手続をやり直すこととなる〔第2編公訴第2章Ⅱ 2〕。
(2)人定質問が済むと、検察官が起訴状を読する(法291条1項)。起訴状の記載事項のうち。被告人の特定に関する事項は人定質問で明らかになるから、「公訴事実」と「罪名及び罰条」(注256条2項2号3号・3項・4項)だけを期読するのが慣行である。その際、起訴状の記載に不分明な事項があれば、裁判長、階席裁判官は検察官に釈明を求めることができ、被告人及び弁護人は、裁判長に対し、釈明のための発問を求めることができる(規則 208条)。裁判所として、審判対象の画定や被告人の防興の観点から必要と判断し、また、被告人及び弁護人が引き続き被告事件について陳述を行う上で必要または有用な事項であると判断すれば、検察官に釈明を求めることがある〔第2編公訴第3章Ⅲ〕裁判長等の求釈明があれば、検察官には釈明する訴訟法上の義務が生じる。
*法290条の2による被害者特定事項を明らかにしない旨の決定〔Ⅶ 2)や法290条の3による証人等特定事項を明らかにしない旨の決定〔II5(3)*】がなされた場合、起訴状の期読は、被害者特定事項または証人等特定事項を明らかにしない方法で行う。氏名に代えて「被害者」としたり、規則 196条の4または規則196条の7により定められた呼称を用いることなどによる。この場合には、被告人に対し、被害者または証人等の氏名等が記載されている起訴状を示さなければならない(法291条2項・3項)。なお、2023(和5)年改正による「起訴状抄本」等の送達措置〔第2編公訴第2章II1(2)**〕がとられた場合(法271条の2第4項)には、被告人に対する起訴状の星示は例外的場合に限られる(法 291条4項)。
(3) 起訴状読に引き続き、裁判長から被告人に対し、終始沈黙し、または個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨、陳述をすれば自己に有利な証拠となることもあるが、不利益な証拠となることもある旨が告げられた上で、被告人及び弁護人の双方に,被告事件について陳述する機会が与えられる(これを罪状否と称することがある)(法291条5項、規則197条)。
これは、被告人が、裁判所に対し、起訴事実について、直接、口頭で主張・意見を述べることのできる最初の機会であり、裁判所としては、事件の争点を把握し、公判運営の指針を得る機会となる。陳述は、起訴事実そのものの認否や正防衛・心神耗弱等法律上の犯罪阻却事由ないし刑の減免事由の主張等に関するものが通例であるが、訴因の不特定や公訴権濫用を理由とする手続打切りの主張など手続的事項に関しても、この段階で意見が示されることがあり得る。管轄違いの申立て(法331条2項)や移送の請求(法19条)は、この段階までにしなければならない。
被告人が起訴事実をそのまま認める陳述をしたときは、これを自白とみて、有罪認定の証拠とすることができる旨の判例があるが(最判昭和26・7・26刑集5巻8号1652頁)。陳述の法的性質に鑑みると疑問であろう。陳述は被告人の「意見」・「主張」であり。証拠ではない[第4編証拠法第4辛W2(2】。被告人の醸述内容に不明瞭な点があり、認否が不明の場合、裁判長がその趣旨を明確にするため被告人に釈明を求めることは可能であるが(規則 208条),その範囲を超えて事件に関する供述を求めることは証拠調べに当たり(法311条参照)、冒頭手続段階で行うべきことではない(法292条参照)ので違法である。
なお、被告人の有罪である旨の陳述によって、一定の要件を満たすときには、
証拠調べ手続の簡略化された簡易公判手続〔第5章Ⅰ〕や即決裁判手続〔第5章Ⅱ〕に移行する場合がある。
(2)人定質問が済むと、検察官が起訴状を読する(法291条1項)。起訴状の記載事項のうち。被告人の特定に関する事項は人定質問で明らかになるから、「公訴事実」と「罪名及び罰条」(注256条2項2号3号・3項・4項)だけを期読するのが慣行である。その際、起訴状の記載に不分明な事項があれば、裁判長、階席裁判官は検察官に釈明を求めることができ、被告人及び弁護人は、裁判長に対し、釈明のための発問を求めることができる(規則 208条)。裁判所として、審判対象の画定や被告人の防興の観点から必要と判断し、また、被告人及び弁護人が引き続き被告事件について陳述を行う上で必要または有用な事項であると判断すれば、検察官に釈明を求めることがある〔第2編公訴第3章Ⅲ〕裁判長等の求釈明があれば、検察官には釈明する訴訟法上の義務が生じる。
*法290条の2による被害者特定事項を明らかにしない旨の決定〔Ⅶ 2)や法290条の3による証人等特定事項を明らかにしない旨の決定〔II5(3)*】がなされた場合、起訴状の期読は、被害者特定事項または証人等特定事項を明らかにしない方法で行う。氏名に代えて「被害者」としたり、規則 196条の4または規則196条の7により定められた呼称を用いることなどによる。この場合には、被告人に対し、被害者または証人等の氏名等が記載されている起訴状を示さなければならない(法291条2項・3項)。なお、2023(和5)年改正による「起訴状抄本」等の送達措置〔第2編公訴第2章II1(2)**〕がとられた場合(法271条の2第4項)には、被告人に対する起訴状の星示は例外的場合に限られる(法 291条4項)。
(3) 起訴状読に引き続き、裁判長から被告人に対し、終始沈黙し、または個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨、陳述をすれば自己に有利な証拠となることもあるが、不利益な証拠となることもある旨が告げられた上で、被告人及び弁護人の双方に,被告事件について陳述する機会が与えられる(これを罪状否と称することがある)(法291条5項、規則197条)。
これは、被告人が、裁判所に対し、起訴事実について、直接、口頭で主張・意見を述べることのできる最初の機会であり、裁判所としては、事件の争点を把握し、公判運営の指針を得る機会となる。陳述は、起訴事実そのものの認否や正防衛・心神耗弱等法律上の犯罪阻却事由ないし刑の減免事由の主張等に関するものが通例であるが、訴因の不特定や公訴権濫用を理由とする手続打切りの主張など手続的事項に関しても、この段階で意見が示されることがあり得る。管轄違いの申立て(法331条2項)や移送の請求(法19条)は、この段階までにしなければならない。
被告人が起訴事実をそのまま認める陳述をしたときは、これを自白とみて、有罪認定の証拠とすることができる旨の判例があるが(最判昭和26・7・26刑集5巻8号1652頁)。陳述の法的性質に鑑みると疑問であろう。陳述は被告人の「意見」・「主張」であり。証拠ではない[第4編証拠法第4辛W2(2】。被告人の醸述内容に不明瞭な点があり、認否が不明の場合、裁判長がその趣旨を明確にするため被告人に釈明を求めることは可能であるが(規則 208条),その範囲を超えて事件に関する供述を求めることは証拠調べに当たり(法311条参照)、冒頭手続段階で行うべきことではない(法292条参照)ので違法である。
なお、被告人の有罪である旨の陳述によって、一定の要件を満たすときには、
証拠調べ手続の簡略化された簡易公判手続〔第5章Ⅰ〕や即決裁判手続〔第5章Ⅱ〕に移行する場合がある。