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探偵の知識

公判手続き|公判期日の手続|公判期日における証拠調べー総説|証拠決定

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 証拠調べの請求に対して、裁判所は、証拠調べをする旨の決定またはこれを却下する旨の決定をしなければならない。また、職権により証拠調べをする旨の決定をすることもある。これらを「証拠決定」と称する(規則 190条1項)。
(2)証拠決定をするについて、請求による場合は、証拠調べの請求をした相手方またはその弁護人の意見を聴くことが必要である。職権による場合には検察官及び被告人または弁護人の意見を聴かなければならない(法299条2項、規190条2項)。ただし、被告人が出頭しなくとも証拠調べを行うことができる公判期日に,被告人及び弁護人が出頭していないときは、これらの者の意見を聴かないで決定をしてもよい(規則190条3項)。
裁判所は、証拠決定をするについて必要があると認めるときは,訴訟関係人に証拠書類または証拠物の提示を命ずることができる。これを「提示命令」という(規則192条)。これは、裁判所が、書面等の証拠能力の有無等、証拠決定に必要な事項を判定するためのものであり、この目的に必要な限度で書面の内谷を固読することもできる。もとよりその内容から事件の実体に関する心証を形成することは許されない。
(3) 裁判所は、証拠調べ請求の手続が法令に違反している場合や、取調べ請求された証拠に法定の証拠能力がない場合には〔第4編証拠法第2章】,請求を却下しなければならない。また、適法に取調べ請求された証拠能力のある証拠であっても、刑事手続の目的(111)達成に不可な犯罪事実や量刑に関する事実との関連性・重要性(立証事項を証明するため取り調べることに相応の意味があること)がきしい場合や、既に取り調べられた証拠と重複するなど証拠調ベの必要性がないと認められる場合等、審理目的の越速・的確な達成のため正当な理由が認められるときには、請求を却下することができる。前記規則189条の2が、証拠調べの請求を証明すべき事実の立証に必要な証拠に厳選するよう要請する趣旨からも、裁判所は、証拠の必要性・重要性について請求者に釈明を求め、これを吟味することを要する。なお、このような第1審裁判所による。両当事者の主張と争点を踏まえた証拠採否の合理的な裁量判断に対して、事件を直接審理する立場にない控訴審や上告審が事後的に介入して審理不尽と論難することは、第1審の判断に重大明白な過誤が認められる場合を除き、不である(後記最判平成21・10・16参照)。
証拠調べの決定後にその取調べの必要がなくなったときは、手続を明確にするため、原則として、訴訟関係人の意見を聴いて決定で証拠決定を取り消すべきである。請求により証拠決定をした後、請求の撤回があったときも、証拠決定を取り消さなければならない。
(4) 証拠調べは当事者の請求により行われるのが原則であるが(法298条1項),法は、裁判所が必要と認めるときは職権で証拠調べをすることができると定めている(法 298条2項)。しかし、実務上、職権による証拠調べの実例は少なく、裁判長等が立証の不十分な点について当事者に立証を促すことで事実上その目的を達することができる場合が多い(規則 208条)。これは、当事者追
行主義すなわち主張・立証の主導権を当事者に委ねる手続の基本的構造に則した適切な運用といえよう〔序Ⅱ 4)〔第4編証拠法第1章Ⅳ 4)。
当事者追行主義の審理方式の下では、裁判所には、原則として、職権で証拠開べをしなければならない義務や当事者に対して立証を促す義務はないというべきである(最判昭和33・2・13形集12巻2号218頁)。例外があるとすれば、当事者が請求しない証拠の存在が明白で、その取調べが容易であり、かつ、その証拠を取り調べなければ正確な事実認定を期し難く著しく正義に反する結果が生じるおそれが顕著であるときに、当事者に対して立紙を促す※釈明の限度で訴訟法上の義務が生じると解される。このような裁判所の示酸・初告に対する被告人側の対応が不十分なときは,後見的見地から、さらに職権証拠調べの義務が生じる場合があり得るが、検察官側の立証を助力する方向での職権証拠調ベの義務は到底想定することができない(なお、当事者追行主義との関係で、第1審裁判所の求釈明義務、検察官に対して立証の機会を与える義務の存否に言及した。最判平成21・10・16 刑集63巻8号937頁参照)。