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探偵の知識

公判手続き|公判期日の手続|公判期日における証拠調べー総説|証拠調べの順序等

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1)裁判所は、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、証拠調べの範囲,順序及び方法を定めることができる(法297条1項)。この手続は受命裁判官にさせることもでき(法 297条2項),また、公判前整理手続または期日間整理手続において行ってもよい(法316条の5第9号・316条の28第2項)。裁判所は適当と認めるときは、いつでも検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、既に定めた証拠調べの範囲。順序または方法を変更することができる(法297条3項)。
(2) 実務上、証拠調べの順序は、採用決定のあった検察官請求証拠をまず取り調べ,引き続き被告人または弁護人請求の証拠を取り調べるのが原則であり、検察官の立証段階から被告人側の立証段階へと移行するのが証拠調べ手続全体の通常の進行である。ただし、裁判所が相当と認めるときは、この順序を変更して随時、必要とする証拠を取り調べることができる(規則 199条1項)。
また、証拠の取調べは、狙罪事実に関する客観的・直接的な証拠から、主観的・間接的な証拠へと移り。最後に被告人の経歴・性格・境遇・犯罪後の情況等の,量刑上重要な情状に関する証拠に及ぶのが通例である。検察官の証拠調べ請求(証拠等関係カードの記載)もほぼこの順序で行われている。2005(平成17)年の規則改正により、このような従前の運用を明文化し、犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは、できる限り、犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければならないとの規定が設けられている(規則198条の3)。なお、犯行の動機・目的・共犯関係等、犯罪事実に密接に関連するいわゆる「泥構」は、犯罪事実自体の立証に重要な意味を有すると共に、量刑に関する重要な情状事実にも当たるので、このような区分には親しまない。画一的な「手続二分論」はこの点を看過しており、疑問であるう。
(3)実務上。被告人の捜査機関に対する供述調書や前科関係・身上関係を記載した書面は乙号証として、それ以外の証拠は甲号証として証拠調べ請求される。起訴された犯罪事実に争いのない自白事件では、通例。甲号証には、証拠物や被害者・目撃者等被告人以外の者の捜査機関に対する供述調書,捜査機関が作成した捜査報告書、捜査機関の検証・実況見分調書などが含まれる。なお、2005(平成17)年の規則改正により、手点に関する証拠調べに集中するため、訴訟関係人は、争いのない事実については、誘導尋問,法326条の同意や法327条の合意書面の活用を検討するなどして、当該事実及び証拠の内容・性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めなければならない旨の規定が設けられている(規則198条の2)。もっとも、事案によっては、書証より人証による方が心証形成に資することもあり、裁判員裁判では、自白事件であっても、犯罪事実の重要部分について被害者、目撃者等の人証が取り調べられる例も多い〔後記皿1(2))。他方。書証による方が事実を的確に把握できる場合や、証人尋問自体が二次被害を生じさせるおそれがある場合は、書証による立証がなされている。
これに対して、公訴事実の存否が争われる事件の場合には、通常、まず甲号証の証拠能力や証明力をめぐる攻撃・防禦が展開され、その後にて号証(とくに捜査段階で作成された自白調書の任意性・信用性)をめぐる攻防へと審理が進行してゆく。なお、2005(平成17)年の規則改正により、従前、深刻な手いが生じることのあった自白調書等の作成状況をめぐる立証について、検察官は、被告人または被告人以外の者の供述に関し、その取調べの状況を立証しようとするときは、できる限り、取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして、迅速かつ的確な立証に努めなければならない旨の規定が設けられている(規則18条の4)。「取調べの状況を記録した書面」とは、法316条の15第1項8号に掲げられた書面、すなわち、取調べ状況の記録に関する準則(検察官につき「取間べ状況の記録等に関する訓令」、贅察官につき「犯罪捜査規範」182条の2)に基づき、職務上作成が義務付けられている取調べ状況を記録した書面のほか、被疑者や参考人の取開べに際して作成された取調状況報告者がこれに当たる。被疑者取調べ過程の録音・録画は、「その他の取調べ状況に関する資料」として、有用な素材となろう。2016(平成28)年の法改正により録音・録画義務が一定範囲の事件につき法定されたので(法 301条の2)。
それ以外の事件についても実際に録音・録画が実施されていれば、この規則198条の4に基づき、その利用が検討されるべきであろう。