ホーム

探偵の知識

公判手続き|公判期日の手続|証拠調べの実施(その1)一証人尋問|証人の意義

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1)「証人」とは、裁判所または裁判官に対し、自己の直接経験した事実またはその事実から推測した事実を供述する第三者をいい。その供述を「証言」という。自己が直接経験した事実であれば、それが特別の知識・経験によって知ることのできた事実に関するものでもよい(法174条)。この証人をとくに「鑑定証人」と称する(例。医師が自分の診察した患者の当時の症状について供述する場合)。
証人が直接経験した事実のみならず、その事実から推測した事実を供述することも差し支えなく(法156条1項)。その場合には特別な知識・経験に基づく推測も許される(法 156条2項)。しかし、直接体験に基づかない単なる想像や個人的な意見の陳述には証拠能力がない〔第4編証拠法第2章Ⅱ 1(5)〕     直接主義・口頭主義は、事実体験者の公判期日における口頭供述を最良証拠とみる原理であり(注320条1項前段)、この意味で証人は最も重要な証拠というべきである。憲法は、刑事被告人に対し、「すべての証人に対して問する機会を充分に与へられ」ることと、「公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」ことを保障している(意法37条2項)。刑事事実認定における証人の重要性に鑑み、その十分な吟味の機会を基本権として保障したものである。
(2) 検察官は、当初から起訴事実を証人の証言により立証しようと,証人尋問の請求を行う場合もある。しかし、従前は、大部分の証人尋問は、目撃者や被害者等の第三者(いわゆる参考人)の司法察職員または検察官に対する供述調書(被害届や告訴調書なども同様)の取調べ請求に対し,証拠とすることについての被告人の同意(法 326条)が得られなかった場合、すなわち、捜査段階で作成された書証の内容に争いがある場合に行われていた。この場合、検察官はその書証(不同意書面と称する)の取調べ請求を撤回し、不同意書面に代えて、原供述者である目撃者等の第三者を証人として取調べ請求するという経緯をたどって証人尋問が行われるのである。もっとも、量刑に関連して、弁護人が請求するいわゆる情状証人の尋問はこのような経緯をたどらずに行われている。
近時は、直接主・口頭主義の要請を重視し、両当事者に争いがなく書証に法 326 条の同意が見込まれる場合であっても、事茶の核心となる重要事実(外、被害状況、犯行目撃状況)については、証人で立証する運用が行われている。事実認定者にとって最良・高品質の証拠は、書証ではなく事実を直接体験した者の公利証言であるから、充実した審理と正確な事実認定に金する的確な週用というべきである(第1章Ⅱ 2)。前記いのない事の立証に関する規則の定めは(規則198条の2)このような事の核心部分に関するものではない。このような運用は、むしろ「当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適りな証拠調べ」の実施といえよう。