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探偵の知識

公判手続き|公判期日の手続|被害者等による意見陳述及び被害者参加等一|被害者等による意見の陳述

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 犯罪被害者に対する配慮と保護を図るための2000(平成12)年法改正により、被害者等による心情その他の意見の陳述手続が導入された(法292条の2)。被害者は訴訟の当事者ではないが、当該事件の刑事手続の帰趨に深い関心をもつ被害者やその遺族の立場に配慮して、公判手続の場で主体的に意見を陳述する機会を設けたのである。意見陳述ができるのは、被害者またはその法定代理人で、被害者が死亡した場合またはその心身に重大な故障がある場合には、その配供者,直系親族もしくは兄弟姉妹である(「被害者等」法201条の2第1項1号参照)。
裁判所は、被害者等から被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、原則として公判期日に意見を陳述させる(法292条の2第1項)。被害者の申出はあらかじめ検察官に対して行い、検察官が、意見を付してこれを裁判所に通知する(法 292条の2第2項)。検察官を介する申出の方式は、検察官が裁判所に意見を付した通知をする前提として、被害者等との意思疎通を一層充実させる機能を果たすであろう。また,意見陳述とは別に行い得る検察官による被害者等の証人尋問内容との調整にも資する。裁判所は、審理の状況等諸般の事情を考慮して、意見の陳述に代えて書面を提出させたり、意見の陳述をさせないことができる(法292条の2第7項)。
(2)被害に関する心情その他の被告事件に関する意見とは、被害者の抱く被害感情や被告人に対する処罰感情。事件に対する評価などをいう。犯罪事実自体は厳格な証明の対象であるから[第4編証拠法第1章718)、犯罪事実自体に関する被害者の陳述内容を犯罪事実の認定のための証拠とすることはできない第3編公判手続
(法292条の2第9項)。もっとも、裁判所は被害者の意見を量刑の資料として考
慮することはできる。
(3)意見陳述は証人尋問ではないから、性質上、その有用性を弾動する反対尋問はあり得ない。しかし、陳述内容の趣旨を明確にしたり確認する必要性はあるので、裁判官と訴訟関係人は、意見陳述の後に被害者等に質問することができる(法292条の2第3項・4項)。裁判長は、被害者の意見陳述や訴訟関係人の質問が、重複したり事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、これを制限することができる(法292条の2第5項)。
なお、意見を開する機害者等が心理的圧迫から精神の平想を害されないようにするため。証人保護に関する。付添い・遮蔽・ビデオリンク方式に関する規定〔Ⅲ 5 (4)〕が準用される(法292条の2第6項)。
この意見陳述の時機について特別の定めはないが、証拠調べではないから、証拠調べ手続が終了し弁論手続に入る前の段階,すなわち両事者の立証が終了し,被告人質問が実施された後の時点で行われるのが適切であろう。