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探偵の知識

公判手続き|公判期日の手続|被害者等による意見陳述及び被害者参加等一|公判手続における被害者特定事項の秘匿措置

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 被害者等の情報を保護するための制度として、既に説明した証拠等事前告知の際における被害者特定事項の秘匿要請(法 299条の3・316条の23)のほか〔II5(3),公判手続における被害者特定事項の秘匿がある。裁判所は、性犯罪に係る事件や、犯行態様、被害状況その他の事情により、被害者特定事項
(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項)が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉または社会生活上の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者等もしくは当該被害者の法定代理人またはこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人または弁護人の意見をき、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる(法280条の2第1項)。この裁判所に対する申出は、あらかじめ検察官にしなければならず、検察官は、意見を付して、申出を裁判所に通知する(法 290条の2第2項)。         (2)また、裁判所は、前記のような事件のほか、事情により被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者もしくはその親族の身体・財産に害を加えまたはこれらの者を畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる(法290条の2第3項)。
(3) 裁判所による前記の秘匿決定があったときは、起訴状及び証拠書類の期読は、被害者特定事項を明らかにしない方法で行う(法 291条2項・305条3項)。
例えば、被害者実名の代わりに仮名を用いたり、単に「被害者」と呼称するなどの方法が用いられる(規則 196条の4)。
また、裁判長は、秘匿決定があった場合において、訴訟関係人のする尋問または陳述が被害者特定事項にわたるときは、これを制限することにより、狙罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがある場合、または被告人の防禦に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合を除き、当該尋問または陳述を制限することができる(法 295条3項)。
* このほか、刑事手続に付随する被害者等関連法制には次のようなものがある。
①被害者等の公判手続の傍聴事件の係属する裁判所の裁判長は、当該事件の被害者等または当該被害者の法定代理人から、当該事件の公判手続の傍聴の申出があるときは、傍聴席及び傍聴を希望する者の数その他の事情を考慮しつつ、申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならない(犯罪被害者保護法2条)。
②係属事件の訴訟記録の閲覧・謄写 事件の係属する裁判所は、第1回公判期日後当該事件の終結までの間において、当該事件の被害者等もしくは当該被害者の法定代理人またはこれらの者から委託を受けた弁護士から、訴訟記録の閲覧または写の申出があるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、関覧・謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧・謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者に閲覧または謄写をさせる(犯罪被害者保護法3条1項)。勝写をさせる場合、裁判所は、謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができ(同法3条2項)、また、関・勝写をした者は、これにより知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係者の名誉もしくは生活上の平穏を書し、または捜査・公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない(同法3条3項)。なお、関覧・膣写に関する裁判所の措置は、司法行政上の措置と位置付けられるので、これに対して刑事訴訟法上の不服申立てをすることはできない。         ③刑事和解 被告人と被害者等は、両者の間の民事上の争い(当該被告事件に係る被害についての争いを含む場合に限る)について合意が成立した場合には,当該被告事件の係属する裁判所に対し、共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができ、その合意が公判調書に記載されたときは、その記載は裁判上の和解と同一の効力を有するものとする(犯罪被害者保護法 19条)。
④損害賠償命令故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(例,殺人、傷害致死,傷害)等に係る刑事被告事件の被害者またはその一般承継人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る)に対し、その弁論の終結までに損害賠償命令の申立てをすることができる(犯罪被害者保護法 24条1項)。「損害賠償命令」とは、当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償請求(これに番する損害賠償請求を含む)について、その民事賠償を利事被告人に命ずることをいう。刑事被告事件について有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が前記の罪に該当する場合に限る)には、裁判所は、原則として、直ちに、前記申立てについての期日を開かなければならない(同法35条1項)。そして、特別の事情がある場合を除き、4回以内の審理期日で審理を終結する(同法35条3項)。裁判所は、最初の審理期日において、刑事被告事件の訴訟記録の取調べをしなければならない(同法35条4項)。当事者は、損害賠償命令の申立てについての裁判に対し、異議の申立てをすることができるが(同法 38条1項),適法な異議申立てがない場合は、損害賠償命令の申立てについての裁判は、確定判決と同一の効力を有する(同法38条5項)。他方,適法な異議申立てがあった場合は、通常の民事訴訟の手続に移行する(同法39条1項)。こうして,被告人すなわち加害者側に異議がなければ、被害者は、刑事手続の結果をそのまま利用し、別途損害賠償請求訴訟を提起することなく、民事上の救済を得ることが可能となる。