公判手続き|特別の手続|簡易公判手続
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 裁判所は、冒頭手続(法291条)において、被告人が起訴状に記載された訴因について有罪である旨を陳述したときは、検察官,被告人及び弁護人の意見を聴き、その訴因に関して簡易公判手続によって審判をする旨の決定をすることができる。対象事件は、比較的軽微なものに限られ,死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件は除かれる(法 291条の2)。
この決定により証拠調べ手続が簡易化され,検察官の冒頭陳述(法 296条),証拠調べの順序等(法 297条),証拠調べ請求(法300条~302条),証拠調べの方式(法 304条~307条)の規定は適用せず、「適当と認める方法」で行うことができる(法 307条の2)。また、伝聞法則による証拠能力の制限も、当事者が異議を述べない限り適用されない(法320条2項)。
有罪である旨の陳述とは、単に訴因として記載された事実を認める旨の陳述では足りず、違法性阻却事由または責任阻却事由の不存在についても認めることが必要である。裁判長は、被告人に対し簡易公判手続の趣旨を説明し,被告人の陳述が自由な意思に基づくかどうか、及び、法の定める有罪の陳述に当たるかどうかを確かめなければならない。ただし,裁判所が簡易公判手続によることができず、またはこれによることが相当でないと認める事件については、この限りでない(規則197 条の2)。
(2) 裁判所は、簡易公判手続による旨の決定をした事件であっても、その事件が簡易公判手続によることができないものと認めるとき(不適法の場合。例事件が対象事件でないことが判明した場合、訴因変更後の訴因について有罪の陳述がない場合、被告人が有罪の陳述を撤回して否認に転じた場合)。またはこれによることが相当でないと認めるとき(不相当の場合。例、有罪の陳述の真実性に疑いが生じた場合、訴訟条件の久如が判明した場合)は、決定を取り消さなければならない
(法291条の3)。決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。ただし、検察官及び被告人または弁護人に異議がないときは、この限りでない(法315条の2)。この場合の更新は、その性質上、原則として冒頭陳述以降の手続を通常の手続によりやり直す必要があろう〔V(1))。
(3) 現行法の制定過程においては、アングロ=アメリカ法圏のアレインメント制度(被告人の有罪答弁があれば、罪責認定のための公判手続を省略し直ちに量刑手続に進む制度)の採否が検討されたものの,被告人が有罪であることを自認する場合でも補強証拠を必要とすることで、結局、その導入は封じられた(法
319条2項・3項)〔第4編証拠法第4章Ⅲ 1(2)*〕。このため、被告人が全面的に事実を認めている場合でも、一律に公判手続を実施せざるを得ず、かえって、証拠調べ手続を事実上簡略化する弊が生じたことなどから、1953(昭和28)年の法改正で導入されたのがこの簡易公判手続である。軽微な自白事件の証拠調べを簡略化して、対象外の重大事件の審理を充実させようというのが制度導入の趣意であった。
しかし、現在、その利用頻度は高くない。その理由として、証拠調べ手続に一般事件と大差はなく(一般の自白事件の証拠調べでも証拠書類の取調べが要旨の告知で足りる等の簡略化が進んだ),判決書を書く労力もほとんど同じであり、被告人に「簡易」な手続で処理されているとの悪印象を与えるなどの事情が指摘されていた。
犯罪事実に争いのない自白事件の処理を、どの様な方式で、どの程度まで、特別の手続を設けて簡略化するかは、捜査手続をも含む刑事司法制度全体に課されている負担の省力化や人的資源の効率的配分という観点から、極めて重要な制度設計上の課題である。後記のとおり、自白事件の簡易・迅速処理を目的として、2004(平成16)年には、あらたに「即決裁判手続」が導入された(ⅠI)。
もっとも、この手続にも、制度的徹底を欠く点や捜査の省力化には必ずしも直結しない難点があり、立法的課題が残されている(捜査の省力化を目的とした公訴取消し後の再起訴制限の緩和について、第2編公訴第1章Ⅱ 2(4)*)。
この決定により証拠調べ手続が簡易化され,検察官の冒頭陳述(法 296条),証拠調べの順序等(法 297条),証拠調べ請求(法300条~302条),証拠調べの方式(法 304条~307条)の規定は適用せず、「適当と認める方法」で行うことができる(法 307条の2)。また、伝聞法則による証拠能力の制限も、当事者が異議を述べない限り適用されない(法320条2項)。
有罪である旨の陳述とは、単に訴因として記載された事実を認める旨の陳述では足りず、違法性阻却事由または責任阻却事由の不存在についても認めることが必要である。裁判長は、被告人に対し簡易公判手続の趣旨を説明し,被告人の陳述が自由な意思に基づくかどうか、及び、法の定める有罪の陳述に当たるかどうかを確かめなければならない。ただし,裁判所が簡易公判手続によることができず、またはこれによることが相当でないと認める事件については、この限りでない(規則197 条の2)。
(2) 裁判所は、簡易公判手続による旨の決定をした事件であっても、その事件が簡易公判手続によることができないものと認めるとき(不適法の場合。例事件が対象事件でないことが判明した場合、訴因変更後の訴因について有罪の陳述がない場合、被告人が有罪の陳述を撤回して否認に転じた場合)。またはこれによることが相当でないと認めるとき(不相当の場合。例、有罪の陳述の真実性に疑いが生じた場合、訴訟条件の久如が判明した場合)は、決定を取り消さなければならない
(法291条の3)。決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。ただし、検察官及び被告人または弁護人に異議がないときは、この限りでない(法315条の2)。この場合の更新は、その性質上、原則として冒頭陳述以降の手続を通常の手続によりやり直す必要があろう〔V(1))。
(3) 現行法の制定過程においては、アングロ=アメリカ法圏のアレインメント制度(被告人の有罪答弁があれば、罪責認定のための公判手続を省略し直ちに量刑手続に進む制度)の採否が検討されたものの,被告人が有罪であることを自認する場合でも補強証拠を必要とすることで、結局、その導入は封じられた(法
319条2項・3項)〔第4編証拠法第4章Ⅲ 1(2)*〕。このため、被告人が全面的に事実を認めている場合でも、一律に公判手続を実施せざるを得ず、かえって、証拠調べ手続を事実上簡略化する弊が生じたことなどから、1953(昭和28)年の法改正で導入されたのがこの簡易公判手続である。軽微な自白事件の証拠調べを簡略化して、対象外の重大事件の審理を充実させようというのが制度導入の趣意であった。
しかし、現在、その利用頻度は高くない。その理由として、証拠調べ手続に一般事件と大差はなく(一般の自白事件の証拠調べでも証拠書類の取調べが要旨の告知で足りる等の簡略化が進んだ),判決書を書く労力もほとんど同じであり、被告人に「簡易」な手続で処理されているとの悪印象を与えるなどの事情が指摘されていた。
犯罪事実に争いのない自白事件の処理を、どの様な方式で、どの程度まで、特別の手続を設けて簡略化するかは、捜査手続をも含む刑事司法制度全体に課されている負担の省力化や人的資源の効率的配分という観点から、極めて重要な制度設計上の課題である。後記のとおり、自白事件の簡易・迅速処理を目的として、2004(平成16)年には、あらたに「即決裁判手続」が導入された(ⅠI)。
もっとも、この手続にも、制度的徹底を欠く点や捜査の省力化には必ずしも直結しない難点があり、立法的課題が残されている(捜査の省力化を目的とした公訴取消し後の再起訴制限の緩和について、第2編公訴第1章Ⅱ 2(4)*)。