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探偵の知識

公判手続き|特別の手続|即決裁判手統|手続

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1)検察官は、公訴を提起しようとする事件について、事案が明白かつ軽微であり、公判での証拠調べが速やかに終わると見込まれることなどの事情を考感し、相当と認めるときは、被疑者の同意を得た上で、公訴の提起と同時に、即決裁判手続の申立てをすることができる。ただし、死刑または無期もしくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件については、申立てをすることができない
(注350条の16第1項・2項)。なお、被疑者に弁護人がある場合には、被疑者の同意のほか、弁護人が同意し、または意見を留保する場合に限る(法350条の16第4項)。
被疑者が同意をするかどうかを明らかにしようとする場合に、貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は,被疑者の請求により、国選弁護人を選任しなければならない(法 350条の17)。
(2) 裁判所は、即決裁判手続の申立てがあった事件について、弁護人が意見を留保しているとき、または申立てがあった後に弁護人が選任されたときは、弁護人に対し、できる限り速やかに、同手続によることについて同意をするかどうかの確認を求めなければならない。また、申立てがあった場合、できる限り早い時期に公判期日を開かなければならず(できる限り、公訴提起の日から14日以内[規則222条の18])、それが可能となるように、裁判所、検察官は、それぞれ、弁護人の選任、証拠開示等の公判準備をできる限り速やかに行わなければならない(法350条の18~350条の21)。
裁判所は、公判期日の冒頭手続において,被告人が訴因について有罪である旨の陳述をしたときは、事件が即決裁判手続によることが相当でないと認めるとき等を除き、同手続によって審判をする旨の決定をする(法350条の22)。即決裁判手続では,裁判所は、適当と認める簡易な方法による証拠調べを行った上(法350条の24),原則として即日判決を言い渡さなければならない(法350条の28)。事者が異議を述べない限り、伝開法則による証拠能力の制限は適用されない(法350条の27)。
裁判所は、即決裁判手続によって審判する旨の決定後、判決を言い渡すまでに,被告人または弁護人が同手続によることについての同意を撤回したとき、被告人が有罪である旨の陳述を撤回したときや、同手続によることが相当でないと認めたとき等には、同決定を取り消さなければならない。この場合には、簡易公判手続決定の取消しの場合と同様に、公判手続を更新しなければならない。ただし、検察官及び被告人または弁護人に異議がないときは、この限りでない(法350条の25)。なお、被告人の権利保護のため、弁護人が選任されていないときは、即決裁判手続に係る公判期日を開くことができない(法 350条23)即決裁判手続の申立てがあった場合において、被告人に弁護人がないときは、裁判長は、できる限り速やかに、職権で弁護人を付さなければならない法 350条の18)。
(3)即決裁判手続では、拘禁刑の言渡しをする場合には、刑の全部の執行猶予の言渡しをしなければならないという科制限がある(法350条の29)。また、手続の迅速・効率化を図るため、即決裁判手続による判決に対しては、罪となるべき事実の誤認を理由とする上訴はできないとの上訴制限が設けられている(法403条の2・413条の2)。被告人は、弁護人の助言を得つつ数行予となるごとなどを承知の上、即決裁判手によることについて同意をし、また。判決が言い渡されるまでは、同意を撤回して通常の手続による審判を受けることができたのであるから、このような手続保障と刑制限を前提に,事実誤認を理由とする上訴を制限しても、被告人の権利の不合理な制約とはいえないであろう。
最高裁判所は、このような理由を説示して、上訴制限が憲法32条に違反するものではないとし、また、被告人に対する手続保障の内容に照らし、即決裁判手続の制度自体が虚偽自白を誘発するものとはいえないから、憲法38条2項に反するものではないと判断している(最判平成21・7・14刑集63巻6号623頁)。