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探偵の知識

公判手続き|特別の手続|公判手続の更新

2025年11月19日

『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8

(1) 公判手続の更新とは、公判の基本原則である直接主義・口頭主義に反する事情(例,裁判官の途中交替)が生じた場合に、これにより失効した部分(例,交替前の裁判官が公判期日における証人尋問から直接感得した心証)を、公判手続中において補充整備する活動をいう。次の場合、公判手続を更新しなければならない。
①開廷後裁判官が替わったとき。ただし、判決の賞告をする場合はこの限りでない(法315条)。弁論終結後に交替した裁判官は、審理に関与せず判決を代読するのみであるから、更新は必要ない。裁判員裁判において裁判員が替わった場合も更新が必要となる(裁判員法 61条1項)。
②開延後、被告人の心神喪失により、公判手続を停止したとき(規則213条1項)。
③簡易公判手続によって審判をする旨の決定、または即決裁判手続によって審判をする旨の決定が取り消されたとき。ただし、検察官及び被告人または弁護人に異議がないときは、この限りでない(法315条の2・法350条の25第2項)。
なお,このような決定の取消しにより後発的に失効したそれまでの手続を無条件に公判手続に引き継ぐのは適当でないことから、この更新においては、通常の更新とは異なり、原則として、省略されていた冒頭陳述以降の通常手続を実施するべきである【1(2))。
このほか、開廷後長期間にわたり開廷しなかった場合において必要があると認めるときは、公判手続を更新することができる(規則 213条2項)。
(2) 更新の具体的方法は次のとおりである(規則 213条の2)。
裁判長は、まず検察官に公訴事実の要旨を陳述させ、被告人及び弁護人に被告事件について陳述する機会を与える。洗いで、更新前の証拠調べの結果(例.
証人や被告人の公判供述を録取した公判調書、取調べ済みの供述調書。検証調書等の証拠書類や公判期日に取り調べた証拠物等)については、職権で証拠書類または証拠物として取り調べなければならない。裁判長は、取り調べた各個の証拠について、訴訟関係人の意見及び弁解を聴かなければならない。なお、裁判長が前記の書面または物を取り調べる場合において、訴訟関係人が同意したときは、その全部もしくは一部を朗読し、または示すことに代えて、「相当と認める方法」でこれらを取り調べることができる。
こうして、更新前の公判廷供述は公判調書(証拠書類)の記載内容の形に転化して証拠となり、更新後の新しい構成の裁判体が心証を再形成してゆくことになる。更新前にされていた証拠決定や当事者の請求・申立ては、そのまま更新後も効力が維持される。
なお、裁判員裁判において、裁判員が交替した場合の公判手続の更新については、新たに加わった裁判員が、争点及び取り調べた証拠を理解することができ、かつ、その負担が過重にならないようなものとしなければならない旨の規定が設けられている(裁判員法61条2項)。はなはだ困難な要請であるが、関係者の工夫努力が望まれる。裁判員裁判の判決が破棄差戻しとなった場合の差戻し第1審裁判員裁判においても、審理における尋問・口頭陳述とその状況を録音・録画した記録媒体(判具法6条)を利用するなど、心証形成のための更新に工夫を要しょう。