証拠法|証拠法・総説|証拠法の意義と基本原則|証拠裁判主義
2025年11月19日
『刑事訴訟法』 酒卷 匡著・2024年9月20日
ISBNISBN978-4-641-13968-8
(1) 刑事訴訟法典第二編第三章第四節「証拠」の冒頭規定である法 317条は、「事実の認定は、証拠による」と定める。これを「証拠裁判主義」と称する。
その第一の意味は、証拠に依拠しない裁判(例,裁判内容を、占いや神に祈る宜書・神意等に委ねること)の排であり、第二は、法定証拠とくに自白に依らねば有罪認定できない方式の排斥、すなわち自白以外の証拠に基づく断罪の許容である。いずれも、近代以前の弊を廃し、近代的刑事裁判の基本原則を宜命するものである。わが国では、1876(明治9)年の断罪依証律(明治9年太政官布告86号)の条項「凡ン罪ラ断スルハ証二依ル」に遡る。現行法の文言は、直接には旧刑事訴訟法の文言「事実認定証拠ニ依ル」をそのまま引き継いだものである。
自白に依拠しなければ有罪認定できないとしていた法定証拠主義からの脱却は、後記「自由心証主義」の採用と相俟って、自白獲得のための制度であった拷問の禁止に途を開いた。
*明治9年太政官布告は、維新後最初期の刑罰法令であった改定律例(明治6年太政官布告 206号)の条項「凡ン罪ラ断スルハロ供結案[自白の意]二依ル」を廃するものであった。同じ明治9年の司法省達は、フランス法に学び、「証拠二依り罪ラ断スルハ専ラ裁判官ノ信認スル所ニアリ」とする自由心証主義を宜命した。こうした自白なしに断罪できる旨の確認が、制度としての拷問廃止(1879年)へと結びついたのである。
(2)以上の歴史的・沿革的意味のほかに、この条項は、認定すべき「事実」と、「証拠による」の文言解釈を介して、次のような意味内容を有するとされてきた。すなわち、「事実」とは、訴訟手続において証明の対象となる一切の事実を意味するのではなく、刑罰権の存否とその量・範囲に関する事実(「公新事実」及びこれに準ずる事実)を意味し、また「証拠による」とは、証拠能力のある証拠について適法な証拠調べを行うことを意味すると解されてきた。このような公訴事実ないし犯罪事実等に関する証明方式は、一般に「厳格な証明」と称されている。
もっとも、刑事手続において証明の対象とされる「事実」の性質や証明活動の行われる手続段階は多様であり、またこれに適用される法規の内容も単純ではないから、事実の証明方法を前記のような最も「厳格な」方式とそれ以外に二分するだけでは足りない。むしろ、証明対象の性質や証明活動の目的に即した個別的な考慮勘案一一厳格な証明方式の合理的緩和と当事者に対する手続保障ーが検討されるべきである[II)。
* 古典的説明に拠れば、「訴訟法上の事実」や犯罪事実に属さない「情状」については、「厳格な証明」方式によることなく「自由な証明」でりるとされる。もっとも、その意味内容は、伝開法則による証拠能力制限の適用がないとされる以外、不分明なところがある。実際には、訴訟手続上の重要な事実等について、その性質に即し、公判廷において法定の証拠調べの方式に準じた扱いをする例もある。そのような個別的勘案が必要かつ適切であろう。
その第一の意味は、証拠に依拠しない裁判(例,裁判内容を、占いや神に祈る宜書・神意等に委ねること)の排であり、第二は、法定証拠とくに自白に依らねば有罪認定できない方式の排斥、すなわち自白以外の証拠に基づく断罪の許容である。いずれも、近代以前の弊を廃し、近代的刑事裁判の基本原則を宜命するものである。わが国では、1876(明治9)年の断罪依証律(明治9年太政官布告86号)の条項「凡ン罪ラ断スルハ証二依ル」に遡る。現行法の文言は、直接には旧刑事訴訟法の文言「事実認定証拠ニ依ル」をそのまま引き継いだものである。
自白に依拠しなければ有罪認定できないとしていた法定証拠主義からの脱却は、後記「自由心証主義」の採用と相俟って、自白獲得のための制度であった拷問の禁止に途を開いた。
*明治9年太政官布告は、維新後最初期の刑罰法令であった改定律例(明治6年太政官布告 206号)の条項「凡ン罪ラ断スルハロ供結案[自白の意]二依ル」を廃するものであった。同じ明治9年の司法省達は、フランス法に学び、「証拠二依り罪ラ断スルハ専ラ裁判官ノ信認スル所ニアリ」とする自由心証主義を宜命した。こうした自白なしに断罪できる旨の確認が、制度としての拷問廃止(1879年)へと結びついたのである。
(2)以上の歴史的・沿革的意味のほかに、この条項は、認定すべき「事実」と、「証拠による」の文言解釈を介して、次のような意味内容を有するとされてきた。すなわち、「事実」とは、訴訟手続において証明の対象となる一切の事実を意味するのではなく、刑罰権の存否とその量・範囲に関する事実(「公新事実」及びこれに準ずる事実)を意味し、また「証拠による」とは、証拠能力のある証拠について適法な証拠調べを行うことを意味すると解されてきた。このような公訴事実ないし犯罪事実等に関する証明方式は、一般に「厳格な証明」と称されている。
もっとも、刑事手続において証明の対象とされる「事実」の性質や証明活動の行われる手続段階は多様であり、またこれに適用される法規の内容も単純ではないから、事実の証明方法を前記のような最も「厳格な」方式とそれ以外に二分するだけでは足りない。むしろ、証明対象の性質や証明活動の目的に即した個別的な考慮勘案一一厳格な証明方式の合理的緩和と当事者に対する手続保障ーが検討されるべきである[II)。
* 古典的説明に拠れば、「訴訟法上の事実」や犯罪事実に属さない「情状」については、「厳格な証明」方式によることなく「自由な証明」でりるとされる。もっとも、その意味内容は、伝開法則による証拠能力制限の適用がないとされる以外、不分明なところがある。実際には、訴訟手続上の重要な事実等について、その性質に即し、公判廷において法定の証拠調べの方式に準じた扱いをする例もある。そのような個別的勘案が必要かつ適切であろう。