人権の享有主体
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
人権という無形の権利を、生まれながらにして有していることを享有といいます。日本国憲法が規定する人権を日本国民が享有することは明らかですが、外国人が人権を享有できるかどうかは明らかではありません。そこで、外国人や法人が人権の享有主体であるかどうか問題となります。また、日本国民であっても、一般国民と異なる人権の享有を認めるか、身分、心身、ともに発達途上にある未成年者については、保障される人権の範囲や保障の程度が一般国民と異なるかどうか問題となります。
マクリーン事件(最大判昭53.10.4)
■事件の概要
アメリカ国籍のマクリーンは、1年の在留許可を得て来日し、語学学校の英語教師として勤務していたが、在留期間が近づいてきたので、法務大臣に対し、1年間の在留期間更新の申請をした。しかし、法務大臣は、マクリーンが在留中に日米安全保障条約に反対するデモに複数回参加していたことを理由に更新を不許可とした。そこで、マクリーンは、不許可処分の取消しを求めて訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は不許可処分の取消しを認めましたが、控訴審は認めなかったため、マクリーンが上告しました。本件では、外国人が外国人に対し日本国民に在留する権利を保障しているかどうかが問題となりました。また、法務大臣が在留期間の更新を認めなかった理由が、マクリーンが政治活動の自由を保障した憲法21条1項が保障する政治活動の自由が外国人にも保障されるかどうかも問題となりました。
■裁判所の判断
憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてなんら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていること、その考えと同じくするもので、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではないと解すべきである。
思うに、憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。しかしながら、…わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわくの中で与えられているにすぎないものであり、在留の許否を決定する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法上の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当該外国人の在留中の行為として当を得ないものと評価し、また、右行為から将来当該外国人が日本の利益を害する行為を行うおそれがあると推認することは、右行為から将来当該外国人が日本の利益を害する行為を行うおそれがあると推認することは、何ら憲法の規定に反するものではない。
解説
本判決は、憲法の人権規定が外国人にも適用されることを最高裁が初めて認めたものです。ただし、人権規定のすべてが適用されるのではなく、「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き」という限定が付されている点に注意が必要です。例えば、入国の自由(最大判昭32.6.19)、参政権(最判平7.2.28)、社会権(障害福祉年金について最判平元.3.2)生存権保護給付について最判平21.8.7)などは、外国人に保障されません。これに対し、本件で問題となった政治活動の自由は、保障されます。ただし、本判決は「わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等」は保障されないとしていますので、保障の程度は、日本国民と同じではありません。
過去問
1 外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものとするのが判例であり、在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当該外国人のわが国にとって好ましいものとはいえないと評価し、当該行為から将来当該外国人がわが国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、なんら妨げられるものではない。(公務員2019年)
1 ○ 判例は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものであるから、在留中の外国人の行為が合憲合法であっても、法務大臣がその行為を当該外国人の日本国にとって好ましいものとはいえないと評価し、また、当該行為から将来当該外国人が日本の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、なんら妨げられるものではないとしています(最大判昭 53.10.4)。
外国人公務就任権(最大判平17.1.26)
■事件の概要
韓国籍のXは、保健婦としてY(東京都)に採用されたが、課長級の管理職選考試験を受験しようとしたところ、日本国籍ないことを理由に受験の申込みを拒否された。そこで、Xは、Yに対し、管理職選考試験の受験資格を有することの確認と受験を拒否されたことによる精神的苦痛を理由とする慰謝料を求めて訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、受験資格の確認、慰謝料請求のいずれも棄却しましたが、控訴審は慰謝料請求を認めた。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
1 地方公務員は、一般職の地方公務員(以下「職員」という。)に本旨に掲げるもの(以下「公の職務」という。)を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが(同法13条1項参照)、普通地方公共団体が、法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより職員を任用することは、国民主権の原理として当然に予定するところである。したがって、国民主権の原理として国民主権を前提として、給与、勤務時間その他勤務条件について地方公共団体は、職員に任用した外国人について、国籍を理由として、(労働基準法3条、その他の労働条件につき合理的取扱いをしてはならないものとされており(労働基準法3条、その他の労働条件につき、地方公務員法24条6項に基づき給与に関する条例で定められる昇格(給料表の上の等級への変更)等も上記の勤務条件に含まれるものというべきである。しかし、上記の定めは、普通地方公共団体が職員を採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないものとするものではない。また、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもない。
管理職への昇任は、昇格等を伴うのが通例であるから、在留外国人を職員に採用するに当たって管理職への昇任を前提としない条件の下でのみその任用を認めることは、そのように扱うことにつき合理的な理由が存在することが必要である。
2 地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な意思決定に参画する職を占めること、又はこれに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については、次のように解するのが相当である。すなわち、公権力行使等地方公務員の職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに重大な影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである。それゆえ、国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国民の意思に基づいて決定されるべきものであるから(憲法1条、15条1項参照)、原則として日本の国籍を有する者が公権力を行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり、我が国の法体系の想定する主権国家としての諸原則を尊重し、その行使が国民主権の原理に基づいて我が国の法体系が想定する公権力行使等地方公務員に就任することは、我が国がその法体系の想定するところではないものというべきである。
そして、普通地方公共団体が、公務員制度を構築するに当たって、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経由すべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべきである。そうすると、普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとしたとしても、それは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。
解説
本判決は、上記のように述べた上で、東京都が管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して、職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本国籍を有する者であることを定めたとしても、合理的な理由に基づいて日本国民たる職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反しないとしました。なお、控訴審の判決では、Xは憲法22条1項(職業選択の自由)違反も主張しており、控訴審は、「課長級の管理職に昇任するのも管理職に昇任しても差し支えないものとするものであるから、外国籍の職員から管理職選考の受験の機会を奪うことは、外国籍の職員の課長級の管理職への昇任の自由を侵害するものであり、憲法22条1項、14条1項に違反する措置である」として、Xの慰謝料請求を認めましたが、本判決は、この点について判断を示していません。
◆外国人の地方参政権(最判平7.2.28)
憲法15条1項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的な任命権が国民に存することを明らかにしたものにほかならないこと、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び1条の規定に照らせば、憲法の右規定における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうするとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、その保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、…国民主権の原理及びこれに基づく憲法15条1項の規定の趣旨に鑑み、憲法が、我が国の統治の態様の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右の規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。…このように、憲法93条2項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。
解説
本判決は、公務員の選定罷免権(憲法15条1項)は外国人に保障されず、また、93条2項の「住民」には日本国籍を有する者を意味するから、地方参政権も外国人には保障されないとしました。しかし、地方自治の重要性に鑑み、法律で永住者等一定の外国人に地方参政権を付与することは、憲法上禁止されていないとしています。
過去問
1 地方公共団体の管理職の業務は広範多岐に及び、公権力を行使することなく、また、公の意思の形成に参画する蓋然性も少なく、地方公共団体の行う統治作用に関わる程度の低い管理職も存在することから、外国人任用することが許されない管理職とされる範囲と、日本国民である職員に限って管理職に昇任する措置を講ずることは、合理的な理由を欠き、憲法14条1項に違反する。(公務員2022年)
2 憲法93条2項にいう住民とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、当該規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。(公務員2019年)
1 × 判例は、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、憲法14条1項に違反しないとしています(最大判平17.1.26)。
2 ○ 憲法93条2項の「住民」の意味について、判例は、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するとし、同項は、わが国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものではないとしています(最判平7.2.28)。
八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)
■事件の概要
Y(八幡製鉄株式会社)の代表取締役Zは、Yを代表して政党A(自由民主党)に350万円の政治資金を寄付した。これについて、Yの株主Xは、本件寄付はYの定款に定められた事業目的の範囲外の行為であり、かつ、取締役の忠実義務(旧商法254条ノ2〔現会社法355条〕)に違反するとして、Yに対し、株主代表訴訟(旧商法267条〔現会社法847条〕)を提起した。
判例ナビ
第1審がXの請求を認めたため、Zが控訴しました。控訴審において、Xは、株式会社の政治資金の寄付は自然人である国民にのみ参政権を認めた趣旨に反し、民法90条に反する行為であるから無効であるとの主張を追加しました。しかし、控訴審が第1審判決を取り消してXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
1 会社は、自然人と同じく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、その有する社会的役割を果たすのに必要な限度で、ある行為が一定の政治的目的かかわりがあるとしても、社会にその存立を期待し要請されるかぎりにおいてなされるのである以上、会社による政治資金の寄付も、客観的、抽象的に観察して、社会の構成員たる会社による政治資金の寄付が、特定の構成員の利益を図るものではない。…要するに、会社による政治資金の寄付は、客観的、抽象的に観察して、社会的な役割を果たすために行われたものと認められるかぎりにおいては、その特定の所属員の政治的な行為とみることは妨げられないのである。
2 憲法第3章の定めるいわゆる参政権が自然人に限られるか否かは明らかである。しかし、納税の義務を有する者として、納税者たる団体において、国又は地方公共団体に、意見の表明その他の活動に出ることも、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるべきものと解すべきであり、会社は、自然人たる国民と同様、国家の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的活動をなす自由を有する。政治資金の寄付もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による選挙権の行使と別に考えるべきである。
解説
本判決は、憲法の政党の存在を当然に予定しているとした上で、議会制民主主義の不可欠の要素である政党に対する政治献金は、会社の目的の範囲内の行為であるとしました(判旨1)。また、会社が人権享有主体であることを認め、憲法が規定する人権規定は、性質上可能な限り法人に適用されるとしました(判旨2)。
◆南九州税理士会事件(最判平8.3.19)
税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の業務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とし、あらかじめ、税理士会にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が会員たる税理士会に及ぶことは、強制加入団体(現税理士法)に服することになる。…その会社は実質的には税理士の自由が保障されていない…。税理士会は、以上のように、その会員はその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の意図する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。…税理士会は、法人として、法及び法を根拠所定の方式による改正を主張したり、法及び法を根拠とする定款に基づいて活動し、その所属員がこれに協力する義務を負うのであり、その一つとして会則に基づいて所属員の納付する会費をもってする義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、個々の思想・信条及び主義・主張を異にする者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会がその目的を逸脱した思想に基づいて活動するにも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。特に、政党など税理士会の上位団体に対して会員としての寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人の政治的信条、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なお、政党など税理士の上位団体は、政治上の主義もしくは施策の推進、特定の候補者の推薦等のため、会員の寄付を広くこれらの政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(商法3条2項)、これらの団体に会員がその寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題であるから、…そうすると、前のような目的を有する税理士会が、このような多数事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力をお願いすることはできないというべきであり、…税理士会が、その所属員の協力を要請することは、法の全く予定していないところである。税理士会がその政党など趣旨を異にする団体に会員の寄付をすること、たとえ税理士会がその法などの法律の改正に関する活動をするためにであっても、法49条2項(現6項)所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。
解説
本件は、税理士会が会員から特別会費を徴収し、それを政治資金規正法上の政治団体に寄付した(政治献金)することが、税理士会の目的の範囲内の行為かどうかが争われました。最高裁は、八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)では政治献金を会社の目的の範囲内としたのに対し、本件では、税理士会の目的の範囲外としました。税理士会が実質的に思想の自由が保障されていない強制加入団体であることを考えると、様々な思想信条を有する会員に政治献金への協力を義務付けることは妥当ではないからです。
過去問
1 会社は、自然人と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進し、または反対するなどの政治的行為をなす自由を有する。(行政書士2017年)
2 強制加入団体である税理士会が、政党など政治資金規正法上の政治団体に会費を寄付することは、それが税理士と税法の制定改正に関する政治的要求を実現するためのものである限り、税理士法に定められた税理士会の目的の範囲内の行為であって、当該政治団体に会費を寄付するために会員から特別会費を徴収する旨の税理士会の総会決議は、会員の思想、信条の自由を侵害するものではなく、有効である。(公務員2022年)
1 ○ 会社は、自然人たると同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有します(最大判昭45.6.24)。
2 × 税理士会が政党等政治資金規正法上の政治団体に会員を寄付することは、税理士会の目的の範囲外の行為であり、政治団体に会員の寄付をするために特別会費を徴収する旨の税理士会の総会決議は、無効です(最判平8.3.19)。
人権という無形の権利を、生まれながらにして有していることを享有といいます。日本国憲法が規定する人権を日本国民が享有することは明らかですが、外国人が人権を享有できるかどうかは明らかではありません。そこで、外国人や法人が人権の享有主体であるかどうか問題となります。また、日本国民であっても、一般国民と異なる人権の享有を認めるか、身分、心身、ともに発達途上にある未成年者については、保障される人権の範囲や保障の程度が一般国民と異なるかどうか問題となります。
マクリーン事件(最大判昭53.10.4)
■事件の概要
アメリカ国籍のマクリーンは、1年の在留許可を得て来日し、語学学校の英語教師として勤務していたが、在留期間が近づいてきたので、法務大臣に対し、1年間の在留期間更新の申請をした。しかし、法務大臣は、マクリーンが在留中に日米安全保障条約に反対するデモに複数回参加していたことを理由に更新を不許可とした。そこで、マクリーンは、不許可処分の取消しを求めて訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は不許可処分の取消しを認めましたが、控訴審は認めなかったため、マクリーンが上告しました。本件では、外国人が外国人に対し日本国民に在留する権利を保障しているかどうかが問題となりました。また、法務大臣が在留期間の更新を認めなかった理由が、マクリーンが政治活動の自由を保障した憲法21条1項が保障する政治活動の自由が外国人にも保障されるかどうかも問題となりました。
■裁判所の判断
憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてなんら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていること、その考えと同じくするもので、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではないと解すべきである。
思うに、憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である。しかしながら、…わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわくの中で与えられているにすぎないものであり、在留の許否を決定する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法上の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当該外国人の在留中の行為として当を得ないものと評価し、また、右行為から将来当該外国人が日本の利益を害する行為を行うおそれがあると推認することは、右行為から将来当該外国人が日本の利益を害する行為を行うおそれがあると推認することは、何ら憲法の規定に反するものではない。
解説
本判決は、憲法の人権規定が外国人にも適用されることを最高裁が初めて認めたものです。ただし、人権規定のすべてが適用されるのではなく、「権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き」という限定が付されている点に注意が必要です。例えば、入国の自由(最大判昭32.6.19)、参政権(最判平7.2.28)、社会権(障害福祉年金について最判平元.3.2)生存権保護給付について最判平21.8.7)などは、外国人に保障されません。これに対し、本件で問題となった政治活動の自由は、保障されます。ただし、本判決は「わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等」は保障されないとしていますので、保障の程度は、日本国民と同じではありません。
過去問
1 外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものとするのが判例であり、在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当該外国人のわが国にとって好ましいものとはいえないと評価し、当該行為から将来当該外国人がわが国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、なんら妨げられるものではない。(公務員2019年)
1 ○ 判例は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものであるから、在留中の外国人の行為が合憲合法であっても、法務大臣がその行為を当該外国人の日本国にとって好ましいものとはいえないと評価し、また、当該行為から将来当該外国人が日本の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、なんら妨げられるものではないとしています(最大判昭 53.10.4)。
外国人公務就任権(最大判平17.1.26)
■事件の概要
韓国籍のXは、保健婦としてY(東京都)に採用されたが、課長級の管理職選考試験を受験しようとしたところ、日本国籍ないことを理由に受験の申込みを拒否された。そこで、Xは、Yに対し、管理職選考試験の受験資格を有することの確認と受験を拒否されたことによる精神的苦痛を理由とする慰謝料を求めて訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、受験資格の確認、慰謝料請求のいずれも棄却しましたが、控訴審は慰謝料請求を認めた。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
1 地方公務員は、一般職の地方公務員(以下「職員」という。)に本旨に掲げるもの(以下「公の職務」という。)を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが(同法13条1項参照)、普通地方公共団体が、法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより職員を任用することは、国民主権の原理として当然に予定するところである。したがって、国民主権の原理として国民主権を前提として、給与、勤務時間その他勤務条件について地方公共団体は、職員に任用した外国人について、国籍を理由として、(労働基準法3条、その他の労働条件につき合理的取扱いをしてはならないものとされており(労働基準法3条、その他の労働条件につき、地方公務員法24条6項に基づき給与に関する条例で定められる昇格(給料表の上の等級への変更)等も上記の勤務条件に含まれるものというべきである。しかし、上記の定めは、普通地方公共団体が職員を採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないものとするものではない。また、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもない。
管理職への昇任は、昇格等を伴うのが通例であるから、在留外国人を職員に採用するに当たって管理職への昇任を前提としない条件の下でのみその任用を認めることは、そのように扱うことにつき合理的な理由が存在することが必要である。
2 地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な意思決定に参画する職を占めること、又はこれに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については、次のように解するのが相当である。すなわち、公権力行使等地方公務員の職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに重大な影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである。それゆえ、国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国民の意思に基づいて決定されるべきものであるから(憲法1条、15条1項参照)、原則として日本の国籍を有する者が公権力を行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり、我が国の法体系の想定する主権国家としての諸原則を尊重し、その行使が国民主権の原理に基づいて我が国の法体系が想定する公権力行使等地方公務員に就任することは、我が国がその法体系の想定するところではないものというべきである。
そして、普通地方公共団体が、公務員制度を構築するに当たって、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経由すべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべきである。そうすると、普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとしたとしても、それは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。
解説
本判決は、上記のように述べた上で、東京都が管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して、職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本国籍を有する者であることを定めたとしても、合理的な理由に基づいて日本国民たる職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反しないとしました。なお、控訴審の判決では、Xは憲法22条1項(職業選択の自由)違反も主張しており、控訴審は、「課長級の管理職に昇任するのも管理職に昇任しても差し支えないものとするものであるから、外国籍の職員から管理職選考の受験の機会を奪うことは、外国籍の職員の課長級の管理職への昇任の自由を侵害するものであり、憲法22条1項、14条1項に違反する措置である」として、Xの慰謝料請求を認めましたが、本判決は、この点について判断を示していません。
◆外国人の地方参政権(最判平7.2.28)
憲法15条1項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的な任命権が国民に存することを明らかにしたものにほかならないこと、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び1条の規定に照らせば、憲法の右規定における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうするとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法15条1項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、その保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、…国民主権の原理及びこれに基づく憲法15条1項の規定の趣旨に鑑み、憲法が、我が国の統治の態様の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右の規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。…このように、憲法93条2項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第8章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。
解説
本判決は、公務員の選定罷免権(憲法15条1項)は外国人に保障されず、また、93条2項の「住民」には日本国籍を有する者を意味するから、地方参政権も外国人には保障されないとしました。しかし、地方自治の重要性に鑑み、法律で永住者等一定の外国人に地方参政権を付与することは、憲法上禁止されていないとしています。
過去問
1 地方公共団体の管理職の業務は広範多岐に及び、公権力を行使することなく、また、公の意思の形成に参画する蓋然性も少なく、地方公共団体の行う統治作用に関わる程度の低い管理職も存在することから、外国人任用することが許されない管理職とされる範囲と、日本国民である職員に限って管理職に昇任する措置を講ずることは、合理的な理由を欠き、憲法14条1項に違反する。(公務員2022年)
2 憲法93条2項にいう住民とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、当該規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。(公務員2019年)
1 × 判例は、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、憲法14条1項に違反しないとしています(最大判平17.1.26)。
2 ○ 憲法93条2項の「住民」の意味について、判例は、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するとし、同項は、わが国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものではないとしています(最判平7.2.28)。
八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)
■事件の概要
Y(八幡製鉄株式会社)の代表取締役Zは、Yを代表して政党A(自由民主党)に350万円の政治資金を寄付した。これについて、Yの株主Xは、本件寄付はYの定款に定められた事業目的の範囲外の行為であり、かつ、取締役の忠実義務(旧商法254条ノ2〔現会社法355条〕)に違反するとして、Yに対し、株主代表訴訟(旧商法267条〔現会社法847条〕)を提起した。
判例ナビ
第1審がXの請求を認めたため、Zが控訴しました。控訴審において、Xは、株式会社の政治資金の寄付は自然人である国民にのみ参政権を認めた趣旨に反し、民法90条に反する行為であるから無効であるとの主張を追加しました。しかし、控訴審が第1審判決を取り消してXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■裁判所の判断
1 会社は、自然人と同じく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実在なのであるから、その有する社会的役割を果たすのに必要な限度で、ある行為が一定の政治的目的かかわりがあるとしても、社会にその存立を期待し要請されるかぎりにおいてなされるのである以上、会社による政治資金の寄付も、客観的、抽象的に観察して、社会の構成員たる会社による政治資金の寄付が、特定の構成員の利益を図るものではない。…要するに、会社による政治資金の寄付は、客観的、抽象的に観察して、社会的な役割を果たすために行われたものと認められるかぎりにおいては、その特定の所属員の政治的な行為とみることは妨げられないのである。
2 憲法第3章の定めるいわゆる参政権が自然人に限られるか否かは明らかである。しかし、納税の義務を有する者として、納税者たる団体において、国又は地方公共団体に、意見の表明その他の活動に出ることも、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるべきものと解すべきであり、会社は、自然人たる国民と同様、国家の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的活動をなす自由を有する。政治資金の寄付もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による選挙権の行使と別に考えるべきである。
解説
本判決は、憲法の政党の存在を当然に予定しているとした上で、議会制民主主義の不可欠の要素である政党に対する政治献金は、会社の目的の範囲内の行為であるとしました(判旨1)。また、会社が人権享有主体であることを認め、憲法が規定する人権規定は、性質上可能な限り法人に適用されるとしました(判旨2)。
◆南九州税理士会事件(最判平8.3.19)
税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の業務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とし、あらかじめ、税理士会にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が会員たる税理士会に及ぶことは、強制加入団体(現税理士法)に服することになる。…その会社は実質的には税理士の自由が保障されていない…。税理士会は、以上のように、その会員はその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の意図する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。…税理士会は、法人として、法及び法を根拠所定の方式による改正を主張したり、法及び法を根拠とする定款に基づいて活動し、その所属員がこれに協力する義務を負うのであり、その一つとして会則に基づいて所属員の納付する会費をもってする義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、個々の思想・信条及び主義・主張を異にする者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会がその目的を逸脱した思想に基づいて活動するにも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。特に、政党など税理士会の上位団体に対して会員としての寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人の政治的信条、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なお、政党など税理士の上位団体は、政治上の主義もしくは施策の推進、特定の候補者の推薦等のため、会員の寄付を広くこれらの政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(商法3条2項)、これらの団体に会員がその寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題であるから、…そうすると、前のような目的を有する税理士会が、このような多数事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力をお願いすることはできないというべきであり、…税理士会が、その所属員の協力を要請することは、法の全く予定していないところである。税理士会がその政党など趣旨を異にする団体に会員の寄付をすること、たとえ税理士会がその法などの法律の改正に関する活動をするためにであっても、法49条2項(現6項)所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。
解説
本件は、税理士会が会員から特別会費を徴収し、それを政治資金規正法上の政治団体に寄付した(政治献金)することが、税理士会の目的の範囲内の行為かどうかが争われました。最高裁は、八幡製鉄事件(最大判昭45.6.24)では政治献金を会社の目的の範囲内としたのに対し、本件では、税理士会の目的の範囲外としました。税理士会が実質的に思想の自由が保障されていない強制加入団体であることを考えると、様々な思想信条を有する会員に政治献金への協力を義務付けることは妥当ではないからです。
過去問
1 会社は、自然人と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進し、または反対するなどの政治的行為をなす自由を有する。(行政書士2017年)
2 強制加入団体である税理士会が、政党など政治資金規正法上の政治団体に会費を寄付することは、それが税理士と税法の制定改正に関する政治的要求を実現するためのものである限り、税理士法に定められた税理士会の目的の範囲内の行為であって、当該政治団体に会費を寄付するために会員から特別会費を徴収する旨の税理士会の総会決議は、会員の思想、信条の自由を侵害するものではなく、有効である。(公務員2022年)
1 ○ 会社は、自然人たると同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有します(最大判昭45.6.24)。
2 × 税理士会が政党等政治資金規正法上の政治団体に会員を寄付することは、税理士会の目的の範囲外の行為であり、政治団体に会員の寄付をするために特別会費を徴収する旨の税理士会の総会決議は、無効です(最判平8.3.19)。