法の下の平等
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、人は生まれながらにして自由平等であるという平等の原則を明文で保障しています。さらに、憲法は、婚姻の両性の合意に基づいてのみ成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として (24条1項)、婚姻、離婚、相続等家族に関する法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等の立脚して制定されなければならないとしています (同条2項)。
事件の概要
Xは、10数年にわたり実父から夫婦同然の生活を強いられるという悲惨な境遇から逃れるため、実父を殺害し、尊属殺(刑法200条)により起訴された。
判例ナビ
第1審は、Xに対し、刑法200条は憲法14条1項に違反するとして普通殺人罪を規定する同法199条を適用した上で、過剰防衛と心神耗弱を理由に刑を免除しました。これに対し、控訴審は、刑法200条を適用した上で、心神耗弱と酌量減軽により懲役3年6月の実刑判決を言い渡しました。そこで、Xは、刑法200条は憲法14条1項に違反し無効であると主張して上告しました。
総裁判所の判断
憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段の事由は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきことは、当裁判所の判例の示すとおりである。そして、刑法200条は、自己または配偶者の直系尊属を殺した者は死刑または無期懲役に処する旨を規定しており、被害者と加害者との間における特別な身分関係の存在に基づき、同法199条の定める普通殺人の所為と同じ類型の行為に対してその刑を加重するもので、尊属に対する殺人が、道義的に非難されるべきであることは否定できないにしても、同じ程度の加害行為に出ながら、特に甚だしく非人道的な殺人と、実父による性的虐待という同情されるべき事情の下での殺人を、ひとしく普通殺人の場合よりも著しく重い刑を科することは、その立法目的達成のために必要とされる限度を遥かに超えた、きわめて不合理な差別的取扱いであると言わなければならず、個人の尊厳を基本とする憲法の理念と相容れないものであるといわざるを得ない。
解説
本件は、性別変更審判を受けるために前提として生殖腺除去手術を受けることを求める性同一性障害者特例法3条1項4号(本件規定)の合憲性が争われた事案です。本決定は、身体への侵襲を受けない自由が、人の意思によって決定できない性別という属性によって制約されていることを明らかにするとともに、生殖腺除去手術の強制が身体への侵-を伴わない自由に対する重大な制約になることも認めました。そして、本決定は、審判を受ける者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、それとも自己の性別に係る法上の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかの過酷な二者択一を迫る深刻な制約を課すものであるとし、本案規定を憲法13条に違反しないとしていた従来の判断 (最決平31.1.23) を変更して、憲法13条に違反するとしました。
なお、Xは、「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」と規定する特例法3条1項5号についても、憲法13条、14条1項に違反すると主張しましたが、この点については、審理を本件の係属する原審に差し戻しました。
に違反し、いわゆる加害目的身分犯の規定であって、このような刑の加重は、刑法199条のほかに、刑法205条の同意殺人・自殺関与・嘱託殺人罪の場合にもみられる。そこで、刑法14条の規定が右のいずれかの場合にも適用があるかどうかという問題となるのであるが、それは右のような個別的取扱いが合理的な理由に基くものであるかどうかによって決せられるわけである。
刑法200条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することもって一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる背倫の度合の殺人罪の場合より厳重に処罰し、もって特に強くこれを鎮圧しようとるところにあるものと解される。ところで、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的人倫というべく、このような目的の刑罰法規が、立法目的の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害することが右の行為に出るほかない窮状の結果であって、行為自体は、他人の反倫理的な行為をあえてした者の背徳性に対して特に非難に値するということができる。このような点を考えれば、尊属の殺害を通常人の殺害に比して一般に高度の社会的道義的非難をうけて当然であるとして、このことをその刑罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを処罰の根拠として具体的事件の量刑上尊重することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもってただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがってまた、憲法14条1項に違反するということもできないものと解する。…しかしながら、…刑の程度が極端であって、前示のごとき立法目的の達成手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化すべき合理的根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。この観点から刑法200条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役のみであり、普通殺人罪に関する刑法199条の法定刑が、死刑、無期懲役ほか3年以上の有期懲役となっているのと比較して、刑の種類および幅員において重い刑に限られていることは明らかである。…現行法上許される2回の減軽を加えても、尊属殺につき有罪とされた単純に対して刑を言い渡すべきときには、処断刑の下限は懲役3年6月をくだることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することはできないのであり、普通殺の場合と比しいちじるしく不合理なものといわなければならない。…刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役のみに限定している点において、その立法目的のために必要な限度を超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比していちじるしく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがって、原審判決にも刑法199条を適用するほかはない。この見解に反する従来の判例はこれを変更する。
(最大判昭30.5.27)
夫婦同氏制の合憲性 (最大判平27.12.16)
解説
本判決は、最高裁が初めて出した違憲判決です。刑法200条の尊属に対する敬愛・報恩という立法目的は違憲ではないが、法定刑が死刑または無期懲役に限られている点が重すぎて立法目的達成に必要な限度を超えており違憲であるとしました。本判決を受けて、刑法200条は法改正により削除されました。
過去問
尊属に対する尊重報恩が社会生活上の基本的人倫であることは言うまでもないが、卑属がただ尊属なるがゆえに特別の保護を受けてしかるべきであるなどの理由によって尊属殺人に係る特別の規定を設けることは、一種の身分制道徳の見地に基づくものというべきであり、個人の尊厳と人格価値の平等を基本的な拠点とする民主主義の理念を根抵とするものであることから、普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設け、尊属殺なるがゆえに差別的取扱いを認めること自体が憲法14条1項に違反する。(公務員2021年)
1x. 判例は、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的人倫であり、このような自然的愛情ないし普遍的人倫の維持は、刑法上の保護に値するとして、普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設けても憲法14条1項に違反しないとしています (最大判昭48.4.4)。
事件の概要
Xは、婚姻後も婚姻前の氏を称したいと思っていたが、民法750条(本件規定)が「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定しているため、婚姻の際に、夫の氏を称すると定め、婚姻前の氏は通称として使用することとした。しかしその後、Xは、本件規定は、憲法13条、14条1項、24条に違反すると主張し、同条を改廃する立法措置をとらないという立法不作為の違法を理由に、国に対し、国家賠償を求める訴えを提起した。
判例ナビ
Xが本件規定を違憲と主張する理由は、①憲法13条が保障する「氏の変更を強制されない自由」を侵害する、②憲法14条1項が保障する「夫婦の間の氏の選択の平等を保障すること」を侵害するという性差別を生じさせる、③夫婦にのみ不利益を負わせている点で法の下の平等に違反するという3点です。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xは、上告しました。
総裁判所の判断
1 憲法13条違反の有無について
氏は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するものというべきである。…しかし、氏は、婚姻及び家族に関する法制度の一部として法がその具体的な内容を規律しているものであるから、…具体的な法制度を離れて、氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し、違憲であるかを論ずることは相当ではない。
そこで、民法における氏に関する規定を通覧すると、…氏の性質に関し、氏に、名と同様に個人の呼称としての意義があるものの、名はとどまり称された存在として、夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称することなどにより、社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。そして、家族は社会の自然的かつ基礎的な集団単位であるから、このように個人の呼称の一つである氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性が認められる。
本件で問題となっているのは、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であり、自らの意思に基づかずに氏を改めることが強制されるというものではない。
氏は、個人の呼称としての意義があり、名とあいまって社会的に他人に個人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば、自らの意思のみによって自由に定めたり、又は改めたりすることを認めることは本来の性質には合わないものであり、…氏に、名と区切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。
以上のような氏の制度上の位置付けの下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえないし、本件規定は、憲法13条に違反するものではない。
もっとも、上記のように、氏が、名とあいまって、個人を他人から識別し特定する機能を有するほか、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格を一体として示すものであることから、氏を定めるにあたって、そのことによっていかなるアイデンティティの喪失感を抱いたり、従前の氏を使用する中で形成されてきた他者から識別し特定される機能が阻害される不利益や、個人の信用、評価、名誉感情等が影響し不利益が生じることがあることは否定できず、特に、近年、婚姻年齢の上昇、婚姻件数の増加する中で社会的な地位や業績が築かれる期間が長くなっていること等から、婚姻に伴い氏を改めることにより不利益を被る者の増加してきていることは容易にうかがえるところである。これらの婚姻に伴い生じる個人の信用、評価、名誉感情等を維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、後記のとおり、氏を定めた方が婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえるのであり、憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる。
2 憲法14条1項違反の有無について
本件規定は、夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており、夫婦がいずれの氏を称するかを夫と妻となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。…したがって、本件規定は、憲法14条1項に違反するものではない。
もっとも、氏の選択に関し、これまでは夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている状況にあることに鑑みると、この現状が、夫婦となろうとする者が双方の真に自由な選択の結果によるものかについて現実の吟味もされるところであり、仮に、社会に存する意識的な意識や慣習による影響があるのであれば、その影響を勘案して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは、憲法14条1項の趣旨に沿うものであるといえる。そして、この点は、…憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たっても留意すべきものと考えられる。
3 憲法24条違反の有無について
憲法24条は、1項において「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定しているところ、これは、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。
本件規定は、婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。…婚姻及び家族に関する事項は、関連する制度についてその全体的枠内が定められていくものであることから、当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであるところ、憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項を前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる。
そして、憲法24条が、本質的に様々な要素を検討して行われるべき立法作用に対してあえて立法上の要請、指針を明示していることからすると、その要請、指針は、単に、憲法上の権利として保障される人格権を内容とするものではなく、所定の形式的平等が確保されればそれで足りるというものでもない。憲法上直接保障された権利とはいえない人格的利益や性質をも考慮すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容にどう影響することや事案上特に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点で立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる。
他方で、婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における国民の意識を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や家族といった共同体についての総合的な判断によって定められるべきものである。特に、憲法上直接保障された権利とまでいえない人格的利益や実質的平等は、その内容として多様なものが考えられ、それらの実現の在り方は、その時々における国民生活、国民生活の状況、家族の在り方等との関係において決められるべきものである。
そうすると、…婚姻及び家族に関する法律を定めた法律の規定が24条、1項、13条に違反しない場合に、更に憲法24条にも違反するものとして是認されるのは、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に限られると解するのが相当である。
以上の観点から、本件規定の憲法適合性について検討する。
夫婦同氏制は、旧民法の施行された明治31年に我が国の制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものである。前記のとおり、氏は、家族の呼称としての意義があるところ、現行の民法の下においても、家族は社会の自然的かつ基礎的な集団単位と見られ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を果たしている。特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために夫婦とその子が同じ氏である仕組みを確保することにも一定の意義が考えられる。また、家族を単位とした社会保障、税制等の制度において、夫婦が同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成することを基礎に個人を位置付けることにも意義を見いだすことができる。さらに、氏が、婚姻前の氏と異なることとなる不利益は、通称の使用が広まることによって一定程度緩和され得るところ、上記のような夫婦同氏制それ自体に合理性が認められる。もっとも、夫婦となろうとする者の婚姻前の氏に対する愛着、婚姻前の氏によって形成された個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。しかし、氏の変更に適応したり、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば、妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じていることも是認できる。さらには、夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けるかを選択するため、あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することも十分うかがわれる。
しかし、夫婦同氏制は、婚姻前の氏の通称として使用することまで許さないというものではなく、婚姻前の氏を使用することが社会的に許容されることによって一定程度は緩和され得るものである。
以上の諸点を総合的に考慮すると、本件規定が夫婦に夫婦同氏制を強制し、夫婦の別氏を称することを認めないものであるとしても、上記のような状況の下で直ちに個人の尊姓と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって、本件規定は、憲法24条に違反するものではない。
解説
本判決は、Xの主張 (①~③ (判例ナビ参照)) をすべて検討し、①「氏の変更を強制されない自由」は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容とはいえないから、憲法13条に違反しない、②民法750条が定める夫婦同氏制それ自体は男女間の形式的な不平等が存在するわけではないから、憲法14条1項に違反しない、③夫婦同氏制が直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認められないから、民法750条を合憲としたXの上告を棄却しました。
過去問
夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況は実質的に法の下の平等に違反する状態というが、婚姻前の氏の通称使用が広く定着していることからすると、直ちに違憲とはいえない。(行政書士2019年)
1x. 判例は、わが国において、夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況があることは認められるとしても、それが民法750条の在り方自体から生じた結果であるということはできないとしています。したがって、「夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況」が実質的に法の下の平等に違反するとはいえません(最大判平27.12.16)。
非嫡出子相続分差別違憲決定(最大決平25.9.4)
事件の概要
2001(平成13)年7月に死亡したAの遺産について、Aの嫡出子Xが、Aの嫡出でない子(非嫡出子)Yに対し、遺産分割の審判を申し立てた。
判例ナビ
原審は、民法900条4号ただし書の規定のうち、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(本件規定)は憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出された法定相続分を前提にAの遺産の分割をすべきものとしました。そこで、Yは、本件規定は憲法14条1項に違反し無効であると主張して、特別抗告しました。
総裁判所の判断
1 憲法14条1項適合性の判断基準について
憲法14条1項は、相続人の間の平等を、どのように実現させるかを定めるものであるが、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならない。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律、国民の意識を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われているのは、このように立法府に委ねられた相続制度のうち、本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり、立法府に与えられた上記のようは裁量権を考慮しても、そのような区別をすることが許容される限度を超えるものである場合には、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
2 本件規定の憲法14条1項適合性について
昭和22年改正法が制定されるに至るまでの間の我が国の社会、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の間にある法律上の差別等に関し、これまでの当裁判所における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、我が国の法律体系の中における家族のあり方がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが社会で確立されてきているものということができる。以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。
3 先行規定としての事実上の効果について
本件決定は、本決定が「遅くとも平成13年7月当時において」憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により、上記時点以降に開始した相続に適用される。…また、本決定に基づいて形成された裁判所の効力も否定されることになる。しかしながら、…本件規定が、当然の前提として父母の婚姻という形で形成された安定な身分秩序を侵害することを懸念し、いわば解決済みの事案に効果が及ぶことは、著しく法的安定性を害することとなる。…一次決定の判断は、Xの相続が開始から本決定までの期間になされた他の相続につき…Xの遺産分割の審判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
解説
1 解説 民法900条4号ただし書のうち、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は、「平成13年7月当時において」違憲であると判断しました。本決定を受けて、削除する法改正が行われました。
2 本決定は、平成13年7月以降本決定までにされた遺産分割等に先例的拘束性(最高裁の判例が将来の裁判を事実上拘束すること)が及ぶかどうかが問題となりました。先例的拘束性が時間的に及ぶとすると、既に確定している法律関係までくつがえり、法的安定性が害されてしまいます。そこで、本決定は、先例的拘束性は本件規定を前提としてなされた確定的な法律関係には及ばないしました。
過去問
1 嫡出でない子の法定相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする規定は、国民が現用する法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものであり、立法府に与えられた合理的な裁量の限度を超えるものではなく、憲法14条1項に違反しない。(司法書士2022年)
1x. 判例は、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われており、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたとしています(最大決平25.9.4)。
憲法14条1項は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定し、人は生まれながらにして自由平等であるという平等の原則を明文で保障しています。さらに、憲法は、婚姻の両性の合意に基づいてのみ成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として (24条1項)、婚姻、離婚、相続等家族に関する法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等の立脚して制定されなければならないとしています (同条2項)。
事件の概要
Xは、10数年にわたり実父から夫婦同然の生活を強いられるという悲惨な境遇から逃れるため、実父を殺害し、尊属殺(刑法200条)により起訴された。
判例ナビ
第1審は、Xに対し、刑法200条は憲法14条1項に違反するとして普通殺人罪を規定する同法199条を適用した上で、過剰防衛と心神耗弱を理由に刑を免除しました。これに対し、控訴審は、刑法200条を適用した上で、心神耗弱と酌量減軽により懲役3年6月の実刑判決を言い渡しました。そこで、Xは、刑法200条は憲法14条1項に違反し無効であると主張して上告しました。
総裁判所の判断
憲法14条1項は、国民に対し法の下の平等を保障した規定であつて、同項後段の事由は例示的なものであること、およびこの平等の要請は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきことは、当裁判所の判例の示すとおりである。そして、刑法200条は、自己または配偶者の直系尊属を殺した者は死刑または無期懲役に処する旨を規定しており、被害者と加害者との間における特別な身分関係の存在に基づき、同法199条の定める普通殺人の所為と同じ類型の行為に対してその刑を加重するもので、尊属に対する殺人が、道義的に非難されるべきであることは否定できないにしても、同じ程度の加害行為に出ながら、特に甚だしく非人道的な殺人と、実父による性的虐待という同情されるべき事情の下での殺人を、ひとしく普通殺人の場合よりも著しく重い刑を科することは、その立法目的達成のために必要とされる限度を遥かに超えた、きわめて不合理な差別的取扱いであると言わなければならず、個人の尊厳を基本とする憲法の理念と相容れないものであるといわざるを得ない。
解説
本件は、性別変更審判を受けるために前提として生殖腺除去手術を受けることを求める性同一性障害者特例法3条1項4号(本件規定)の合憲性が争われた事案です。本決定は、身体への侵襲を受けない自由が、人の意思によって決定できない性別という属性によって制約されていることを明らかにするとともに、生殖腺除去手術の強制が身体への侵-を伴わない自由に対する重大な制約になることも認めました。そして、本決定は、審判を受ける者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、それとも自己の性別に係る法上の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかの過酷な二者択一を迫る深刻な制約を課すものであるとし、本案規定を憲法13条に違反しないとしていた従来の判断 (最決平31.1.23) を変更して、憲法13条に違反するとしました。
なお、Xは、「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」と規定する特例法3条1項5号についても、憲法13条、14条1項に違反すると主張しましたが、この点については、審理を本件の係属する原審に差し戻しました。
に違反し、いわゆる加害目的身分犯の規定であって、このような刑の加重は、刑法199条のほかに、刑法205条の同意殺人・自殺関与・嘱託殺人罪の場合にもみられる。そこで、刑法14条の規定が右のいずれかの場合にも適用があるかどうかという問題となるのであるが、それは右のような個別的取扱いが合理的な理由に基くものであるかどうかによって決せられるわけである。
刑法200条の立法目的は、尊属を卑属またはその配偶者が殺害することもって一般に高度の社会的道義的非難に値するものとし、かかる背倫の度合の殺人罪の場合より厳重に処罰し、もって特に強くこれを鎮圧しようとるところにあるものと解される。ところで、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的人倫というべく、このような目的の刑罰法規が、立法目的の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害することが右の行為に出るほかない窮状の結果であって、行為自体は、他人の反倫理的な行為をあえてした者の背徳性に対して特に非難に値するということができる。このような点を考えれば、尊属の殺害を通常人の殺害に比して一般に高度の社会的道義的非難をうけて当然であるとして、このことをその刑罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを処罰の根拠として具体的事件の量刑上尊重することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもってただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがってまた、憲法14条1項に違反するということもできないものと解する。…しかしながら、…刑の程度が極端であって、前示のごとき立法目的の達成手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化すべき合理的根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。この観点から刑法200条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役のみであり、普通殺人罪に関する刑法199条の法定刑が、死刑、無期懲役ほか3年以上の有期懲役となっているのと比較して、刑の種類および幅員において重い刑に限られていることは明らかである。…現行法上許される2回の減軽を加えても、尊属殺につき有罪とされた単純に対して刑を言い渡すべきときには、処断刑の下限は懲役3年6月をくだることがなく、その結果として、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することはできないのであり、普通殺の場合と比しいちじるしく不合理なものといわなければならない。…刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役のみに限定している点において、その立法目的のために必要な限度を超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比していちじるしく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがって、原審判決にも刑法199条を適用するほかはない。この見解に反する従来の判例はこれを変更する。
(最大判昭30.5.27)
夫婦同氏制の合憲性 (最大判平27.12.16)
解説
本判決は、最高裁が初めて出した違憲判決です。刑法200条の尊属に対する敬愛・報恩という立法目的は違憲ではないが、法定刑が死刑または無期懲役に限られている点が重すぎて立法目的達成に必要な限度を超えており違憲であるとしました。本判決を受けて、刑法200条は法改正により削除されました。
過去問
尊属に対する尊重報恩が社会生活上の基本的人倫であることは言うまでもないが、卑属がただ尊属なるがゆえに特別の保護を受けてしかるべきであるなどの理由によって尊属殺人に係る特別の規定を設けることは、一種の身分制道徳の見地に基づくものというべきであり、個人の尊厳と人格価値の平等を基本的な拠点とする民主主義の理念を根抵とするものであることから、普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設け、尊属殺なるがゆえに差別的取扱いを認めること自体が憲法14条1項に違反する。(公務員2021年)
1x. 判例は、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的人倫であり、このような自然的愛情ないし普遍的人倫の維持は、刑法上の保護に値するとして、普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設けても憲法14条1項に違反しないとしています (最大判昭48.4.4)。
事件の概要
Xは、婚姻後も婚姻前の氏を称したいと思っていたが、民法750条(本件規定)が「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定しているため、婚姻の際に、夫の氏を称すると定め、婚姻前の氏は通称として使用することとした。しかしその後、Xは、本件規定は、憲法13条、14条1項、24条に違反すると主張し、同条を改廃する立法措置をとらないという立法不作為の違法を理由に、国に対し、国家賠償を求める訴えを提起した。
判例ナビ
Xが本件規定を違憲と主張する理由は、①憲法13条が保障する「氏の変更を強制されない自由」を侵害する、②憲法14条1項が保障する「夫婦の間の氏の選択の平等を保障すること」を侵害するという性差別を生じさせる、③夫婦にのみ不利益を負わせている点で法の下の平等に違反するという3点です。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xは、上告しました。
総裁判所の判断
1 憲法13条違反の有無について
氏は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成するものというべきである。…しかし、氏は、婚姻及び家族に関する法制度の一部として法がその具体的な内容を規律しているものであるから、…具体的な法制度を離れて、氏が変更されること自体を捉えて直ちに人格権を侵害し、違憲であるかを論ずることは相当ではない。
そこで、民法における氏に関する規定を通覧すると、…氏の性質に関し、氏に、名と同様に個人の呼称としての意義があるものの、名はとどまり称された存在として、夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称することなどにより、社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。そして、家族は社会の自然的かつ基礎的な集団単位であるから、このように個人の呼称の一つである氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性が認められる。
本件で問題となっているのは、婚姻という身分関係の変動を自らの意思で選択することに伴って夫婦の一方が氏を改めるという場面であり、自らの意思に基づかずに氏を改めることが強制されるというものではない。
氏は、個人の呼称としての意義があり、名とあいまって社会的に他人に個人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば、自らの意思のみによって自由に定めたり、又は改めたりすることを認めることは本来の性質には合わないものであり、…氏に、名と区切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、親子関係など一定の身分関係を反映し、婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。
以上のような氏の制度上の位置付けの下における氏の性質等に鑑みると、婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえないし、本件規定は、憲法13条に違反するものではない。
もっとも、上記のように、氏が、名とあいまって、個人を他人から識別し特定する機能を有するほか、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格を一体として示すものであることから、氏を定めるにあたって、そのことによっていかなるアイデンティティの喪失感を抱いたり、従前の氏を使用する中で形成されてきた他者から識別し特定される機能が阻害される不利益や、個人の信用、評価、名誉感情等が影響し不利益が生じることがあることは否定できず、特に、近年、婚姻年齢の上昇、婚姻件数の増加する中で社会的な地位や業績が築かれる期間が長くなっていること等から、婚姻に伴い氏を改めることにより不利益を被る者の増加してきていることは容易にうかがえるところである。これらの婚姻に伴い生じる個人の信用、評価、名誉感情等を維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、後記のとおり、氏を定めた方が婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえるのであり、憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる。
2 憲法14条1項違反の有無について
本件規定は、夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており、夫婦がいずれの氏を称するかを夫と妻となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。…したがって、本件規定は、憲法14条1項に違反するものではない。
もっとも、氏の選択に関し、これまでは夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている状況にあることに鑑みると、この現状が、夫婦となろうとする者が双方の真に自由な選択の結果によるものかについて現実の吟味もされるところであり、仮に、社会に存する意識的な意識や慣習による影響があるのであれば、その影響を勘案して夫婦間に実質的な平等が保たれるように図ることは、憲法14条1項の趣旨に沿うものであるといえる。そして、この点は、…憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たっても留意すべきものと考えられる。
3 憲法24条違反の有無について
憲法24条は、1項において「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定しているところ、これは、婚姻をするかどうか、いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。
本件規定は、婚姻の効力の一つとして夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない。…婚姻及び家族に関する事項は、関連する制度についてその全体的枠内が定められていくものであることから、当該法制度の制度設計が重要な意味を持つものであるところ、憲法24条2項は、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項を前提としつつ、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえる。
そして、憲法24条が、本質的に様々な要素を検討して行われるべき立法作用に対してあえて立法上の要請、指針を明示していることからすると、その要請、指針は、単に、憲法上の権利として保障される人格権を内容とするものではなく、所定の形式的平等が確保されればそれで足りるというものでもない。憲法上直接保障された権利とはいえない人格的利益や性質をも考慮すべきこと、両性の実質的な平等が保たれるように図ること、婚姻制度の内容にどう影響することや事案上特に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり、この点で立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる。
他方で、婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における国民の意識を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や家族といった共同体についての総合的な判断によって定められるべきものである。特に、憲法上直接保障された権利とまでいえない人格的利益や実質的平等は、その内容として多様なものが考えられ、それらの実現の在り方は、その時々における国民生活、国民生活の状況、家族の在り方等との関係において決められるべきものである。
そうすると、…婚姻及び家族に関する法律を定めた法律の規定が24条、1項、13条に違反しない場合に、更に憲法24条にも違反するものとして是認されるのは、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に限られると解するのが相当である。
以上の観点から、本件規定の憲法適合性について検討する。
夫婦同氏制は、旧民法の施行された明治31年に我が国の制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものである。前記のとおり、氏は、家族の呼称としての意義があるところ、現行の民法の下においても、家族は社会の自然的かつ基礎的な集団単位と見られ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を果たしている。特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために夫婦とその子が同じ氏である仕組みを確保することにも一定の意義が考えられる。また、家族を単位とした社会保障、税制等の制度において、夫婦が同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成することを基礎に個人を位置付けることにも意義を見いだすことができる。さらに、氏が、婚姻前の氏と異なることとなる不利益は、通称の使用が広まることによって一定程度緩和され得るところ、上記のような夫婦同氏制それ自体に合理性が認められる。もっとも、夫婦となろうとする者の婚姻前の氏に対する愛着、婚姻前の氏によって形成された個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。しかし、氏の変更に適応したり、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば、妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じていることも是認できる。さらには、夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けるかを選択するため、あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することも十分うかがわれる。
しかし、夫婦同氏制は、婚姻前の氏の通称として使用することまで許さないというものではなく、婚姻前の氏を使用することが社会的に許容されることによって一定程度は緩和され得るものである。
以上の諸点を総合的に考慮すると、本件規定が夫婦に夫婦同氏制を強制し、夫婦の別氏を称することを認めないものであるとしても、上記のような状況の下で直ちに個人の尊姓と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって、本件規定は、憲法24条に違反するものではない。
解説
本判決は、Xの主張 (①~③ (判例ナビ参照)) をすべて検討し、①「氏の変更を強制されない自由」は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容とはいえないから、憲法13条に違反しない、②民法750条が定める夫婦同氏制それ自体は男女間の形式的な不平等が存在するわけではないから、憲法14条1項に違反しない、③夫婦同氏制が直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認められないから、民法750条を合憲としたXの上告を棄却しました。
過去問
夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況は実質的に法の下の平等に違反する状態というが、婚姻前の氏の通称使用が広く定着していることからすると、直ちに違憲とはいえない。(行政書士2019年)
1x. 判例は、わが国において、夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況があることは認められるとしても、それが民法750条の在り方自体から生じた結果であるということはできないとしています。したがって、「夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占める状況」が実質的に法の下の平等に違反するとはいえません(最大判平27.12.16)。
非嫡出子相続分差別違憲決定(最大決平25.9.4)
事件の概要
2001(平成13)年7月に死亡したAの遺産について、Aの嫡出子Xが、Aの嫡出でない子(非嫡出子)Yに対し、遺産分割の審判を申し立てた。
判例ナビ
原審は、民法900条4号ただし書の規定のうち、嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(本件規定)は憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出された法定相続分を前提にAの遺産の分割をすべきものとしました。そこで、Yは、本件規定は憲法14条1項に違反し無効であると主張して、特別抗告しました。
総裁判所の判断
1 憲法14条1項適合性の判断基準について
憲法14条1項は、相続人の間の平等を、どのように実現させるかを定めるものであるが、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならない。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律、国民の意識を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われているのは、このように立法府に委ねられた相続制度のうち、本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり、立法府に与えられた上記のようは裁量権を考慮しても、そのような区別をすることが許容される限度を超えるものである場合には、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
2 本件規定の憲法14条1項適合性について
昭和22年改正法が制定されるに至るまでの間の我が国の社会、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の間にある法律上の差別等に関し、これまでの当裁判所における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、我が国の法律体系の中における家族のあり方がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが社会で確立されてきているものということができる。以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。
3 先行規定としての事実上の効果について
本件決定は、本決定が「遅くとも平成13年7月当時において」憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により、上記時点以降に開始した相続に適用される。…また、本決定に基づいて形成された裁判所の効力も否定されることになる。しかしながら、…本件規定が、当然の前提として父母の婚姻という形で形成された安定な身分秩序を侵害することを懸念し、いわば解決済みの事案に効果が及ぶことは、著しく法的安定性を害することとなる。…一次決定の判断は、Xの相続が開始から本決定までの期間になされた他の相続につき…Xの遺産分割の審判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
解説
1 解説 民法900条4号ただし書のうち、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は、「平成13年7月当時において」違憲であると判断しました。本決定を受けて、削除する法改正が行われました。
2 本決定は、平成13年7月以降本決定までにされた遺産分割等に先例的拘束性(最高裁の判例が将来の裁判を事実上拘束すること)が及ぶかどうかが問題となりました。先例的拘束性が時間的に及ぶとすると、既に確定している法律関係までくつがえり、法的安定性が害されてしまいます。そこで、本決定は、先例的拘束性は本件規定を前提としてなされた確定的な法律関係には及ばないしました。
過去問
1 嫡出でない子の法定相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする規定は、国民が現用する法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものであり、立法府に与えられた合理的な裁量の限度を超えるものではなく、憲法14条1項に違反しない。(司法書士2022年)
1x. 判例は、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われており、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたとしています(最大決平25.9.4)。