探偵の知識

集会・結社の自由

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
集会・結社の自由は、憲法21条1項によって保障されています。集会にはデモ行進のように場所を移動する場合も含まれます。公権力は、原則として、集会の主催、参加等について、制限を加えることが禁止されます。結社の自由には、結社を結成する自由だけでなく、結成しない自由も含まれます。

泉佐野市民会館事件(最判平7.3.7)

■事件の概要
Xは、関西新空港の建設に反対する集会を開催するため、Y(泉佐野市)市長Zに市民会館の使用許可を申請した。これに対しZは、集会の実質的主催者が本件申請直後に過激派闘争事件を起こしている過激派組織(中核派)であること等から、不許可事由である市民会館条例(本件条例)7条1号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」および3号の「その他会館の管理上支障があると認められる場合」に当たるとしで申請を不許可とした。そこで、Xは、本件条例7条1号、3号は憲法21条1項に違反し、本件不許可処分は憲法21条および地方自治法244条に違反するとして、Yに対し、国家賠償を求める訴えを提起した。

判例ナビ
第1審、控訴審ともに、Xの請求を棄却したため、Xが上告しました。
なお、Xが地方自治法244条違反を主張しているのは、市民会館が同条1項の「公の施設」に当たるからです。公の施設とは、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するために普通地方公共団体が設けた施設であり(地方自治法244条1項)、普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒むことができず(同条2項)、また、住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いをしてはならないとされています(同条3項)。そのため、Xに市民会館を利用させないことが、地方自治法244条に違反するのではないかが問題となるのです。

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■裁判所の判断
1 地方自治法244条にいう普通地方公共団体の公の施設として、本件会館のように集会の用に供する施設が設けられている場合、住民は、その施設の設置目的に応じた限りその利用を原則的に認められることになるので、管理者が正当な理由なくその利用を拒否することは、憲法が保障する集会の自由の不当な制約につながるおそれを生ずることになる。したがって、本件条例7条1号及び3号を安易に適用して拒否することは、本件会館の使用を拒否することによって憲法の保障する集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべきである。

2 このような観点からすると、集会に利用させる公共施設の管理者は、当該公共施設の設置の目的に応じ、また、その規模、構造、設備等を勘案し、公共施設としての使命を十分に達成しうるように適正にその管理権を行使すべきであって、これらの点からみて利用を不相当とする事由が認められないにもかかわらずその利用を安易に拒否するのは、利用の希望が競合する場合のほかは、施設をその目的のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られるものというべきであり、このような場合には、その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な制限を加えうることがあると認められなければならない。そして、右の制限が表現の自由を制約するものとして許されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の危険性の程度等を較量して決せられるべきものである。本件条例7条による本件会館の使用の規制は、このような較量によって必要かつ合理的なものとして是認される限りは、集会の自由を不当に侵害するものではなく、また、検閲に当たるものではなく、したがって、憲法21条に違反するものではない。…そして、このような較量をするに当たっては、集会の自由の制約は、基本的人権のうち精神的自由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準の下に行われなければならない。

3 本件条例7条1号は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を本件会館の使用を許可してはならない事由として規定しているが、同号は、表現の自由を保障しているとはいえ、右のような趣旨からして、市民会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、本件会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が害される危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解釈すべきであり、その危険性の程度としては、…単に危険な事態を生ずる蓋然性があるだけでは足りず、…そういった危険な事態の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。

集会・結社の自由

に、そのような事態の発生が許可権者の主観により予測されるだけではなく、客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合でなければならないことはいうまでもない。

1 主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは、憲法21条の趣旨に反することをみるあき、したがって、本件会館の管理上の支障となることが、本件会館の設置目的を著しく損なう危険性があるかどうかを判断するにあたっては、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは、憲法21条の趣旨に反することをみるあき、したがって、本件会館の実質的主催者と目される中核派は、関西新空港建設反対運動の先導権をめぐって他のグループと激しい対立抗争を続けており、これが常に予想も困難であることから、会館内外でグループ間の衝突が生じ、人の生命、身体又は財産が侵害される危険性があったとはいえない。

2 このように、本件不許可処分は、本件会館の目的やその実質的主催者と目される中核派という団体の性格そのものを理由とするものにほかなら、また、その主観的な判断による蓋然的な危険発生のおそれを理由とするものともいうべく、中核派が、本件許可処分のあった当時、関西新空港の建設に反対して過激な実行力を行使するおそれがあったとしても、本件会館が関西新空港に隣接するという客観的な事実からみて、本件集会が実施された場合には、会館内外又はその付近の路上等においてグループ間の暴力的な衝突が起こり、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が害されるという、本件会館の設置、選択、あるいは住民の生命、身体又は財産が侵害されるという事態を発生することが、具体的に明らかに予見されることを理由とするものと認められる。したがって、本件不許可処分が憲法21条、地方自治法244条に違反するということはできない。

解説
本判決は、集会の自由に対する制約の合憲性を比較衡量の手法を用いて判断しています。そして、「本件条例7条1号の『公の秩序をみだすおそれがある場合』を」「集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が害される危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合」と限定解釈し、さらに、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることを要することにより、合憲であるという結論を導いています。

1 公の施設
公の施設である市民会館の使用を許可してはならない事由として条例の定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは、市民会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、市民会館で集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が害される危険を回避し、防止することの必要性が優越する

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場合にいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるだけでは足りず、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である。(公務員2020年)

1 ○ 判例は、「公の秩序をみだすおそれがある場合」を右のように限定解釈した上で、さらに、危険性の程度について、明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であるとしています(最判平7.3.7)。

広島市暴走族追放条例事件 (最判平19.9.18)

■事件の概要
広島市暴走族追放条例(本条例)は、16条1項において、「何人も、次に掲げる行為をしてはならない。」と定め、その1号として「公共の場所において、当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで、公衆に不安又は危惧を覚えさせるようない集又は集会を行うこと」を掲げている。そして、本条例17条は、16条1項第1号の行為が、本市の管理する公共の場所において、特異な服装をし、集団の威勢若しくは一部の集団を使い、円陣を組み、又は旗を立てる威勢等を示すことにより行われたときには、市長は、当該行為者に対し、当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる。』とし、本条例19条は、この市長の命令に違反した者は、6月以下の懲役または10万円以下の罰金に処するものと規定している。Xは、広島市長の許可を得ないで、市内の広場で他の暴走族のメンバーとともに集会を行い、さらに、市長の権限を代行する市の職員の中止命令に従わず集会を継続したため、本条例16条1項1号、17条、19条違反で逮捕・起訴された。

判例ナビ
第1審、控訴審ともに、Xの行為は本条例16条1項1号、17条、19条違反に該当するとして、Xに懲役4月(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡しました。これに対し、Xは、16条1項1号、17条、19条の各規定が憲法上も内容も憲法21条1項、31条に違反すると主張して上告しました。

■裁判所の判断
なるほど、本条例は、暴走族の跋扈において社会通念上の暴走族以外の集団が含まれる文言となっていること、禁止行為の対象及び市長の中止・退去命令の対象も社会通念上の暴走族以外の者の行為にも及ぶ文言となっていることなど、規定の仕方が適切ではなく、本条例がその文言ど

集会・結社の自由

おりに適用されることになると、規制の対象が広範囲に及び、憲法21条1項及び31条との関係で問題があることは所論のとおりである。しかし、本条例19条が罰則の対象としているのは、同17条の市長の中止・退去命令に違反する行為に限られる。そして、本条例の目的規定である1条は、「暴走行為、い集、集会及び蛇行等における示威行為が、市民生活の平穏の安全確保に重大な影響を及ぼしているのみならず、国際平和文化都市の印象を著しく傷付けている」存在として、「暴走族」を本条例の規制する対象として想定するものである。本条例3条、5条、6条、9条の規定が「暴走族」を想定していることから、本条例は、暴走族に特有の、あるいは、暴走族において顕著な集団による威圧的な行動を規制の対象としているものと解される。そして、本条例の規制する行為は、暴走族の行う「い集、集会、蛇行、暴走行為等暴走族であることを強調するような文字等を刺しゅう、印刷等された服装等の着用者の存在(中略)、暴走族等を強調、連想させるような文言等を刺しゅう、印刷等された旗等」の存在(4号)、「暴走族であることを強調するような大声の掛合い等」(5号)を本条例17条の中止命令等を発する際の判断基準として挙げている。このような本条例全体の仕組みから読み取ることができる趣旨、さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば、本条例が規制の対象としている「暴走族」は、本条例2条7号の定義にもかかわらす、自動車等を用いてことさらとこれに類するような社会的に非難されるべき行為を行うことを目的とした集団であると解される。
 暴走族においてのみとくに顕著な類似集団と社会通念上同様に評価できるものであることが同視できる集団に限られるものと解した。したがって、市長において本条例による中止・退去命令を発し得る対象も、憲法上不当に広範であるとはいえない。そして、このような集団による威圧的、示威的な行為をもって、その規制が、本条例の目的である市民生活の平穏の安全の確保という正当なものであり、この場合において、本条例が規制の対象としている行為は、その態様において他者に不安や危惧を覚えさせるものであって、このような集団による暴走族類似集団による集会が、条例1条、本条例17条、19条等の規定による規制は、広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を著しく害したこと、規制に係る集会であって、これを行うことに直ちに公益に反するものであるから、市長による中止命令の対象とすることの、この性格に徴表した規制に初めて必要とすべきものとするという均衡の考慮が前提となっている。この場合において、その弊害を防止しようとするという規制目的の正当性、弊害防止手段としての合理性について、この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らしても、本条例21条1項、31条に違反するとはいえない。

解説
本判決は、本条例をそのまま適用すると、規制対象が広くなりすぎて憲法21条1項、31条との関係で問題があることを認めた上で、「暴走族」を「本来的な意味での暴走族と社会通念上これと同視できる集団」と限定解釈を加え、このように解釈すれば憲法21条1項、31条に違反しないと結論した。