探偵の知識

学問の自由

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
学問の自由を保障する規定がなかった明治憲法の下では、国家権力による学問の自由の侵害がたびたび起こりました。このような歴史的経緯を踏まえ、日本国憲法は、学問の自由を保障する規定を設けました(23条)。

東大ポポロ事件(最大判昭38.5.22)

■事件の概要
東京大学の学生Xは、同大学構内で大学の公認団体である劇団ポポロ主催の演劇発表会が行われた際、観客の中に情報収集を目的とする私服警察官がいるのを見つけ、これに暴行を加えたため、暴力行為等処罰法違反で起訴された。

判例ナビ
第1審は、Xの行為は学問の自由と大学の自治に対する侵害行為を阻止するためのものであり違法性がないとして、Xに無罪を言い渡し、控訴審も第1審を支持したため、検察側が上告した。

■裁判所の判断
憲法23条の学問の自由は、学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含むものであって、同条が学問の自由はこれを保障すると規定したのは、一面において、広くすべての国民に対してそれらの自由を保障するとともに、他面において、大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて、特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである。教育ないし教授の自由は、学問の自由と密接な関係を有するけれども、必ずしもこれに含まれるものではない。しかし、…大学において教授その他の研究者がその専門の研究の結果を教授する自由は、これを保障されると解するのが相当である。

大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている。この自治は、とくに大学の教授その他の研究者の人事に関して認められ、大学の学長、教授その他の研究者が大学の自主的判断に基づいて選任される。また、大学の施設と学生の管理についても、ある程度で認められ、これらについてある程度で大学に自主的な秩序維持の権能が認められている。
このように、大学の学問の自由と自治は、…直接には教授その他の研究者の研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由とこれらを保障するための自治とを意味すると解される。大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として、施設が大学当局によって自治的に管理され、学生も学問の自由と施設の利用を認められるのである。もとより、憲法23条の学問の自由は、学生も一般の国民と同じように享有する。しかし、大学の学生としてそれに増して学問の自由を享有し、また大学当局の自治的管理による施設を利用できるのは、大学の本質に基づき、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。

大学における学生の集会も、右の範囲において自由と自治を認められるものであって、…真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治を享有しないといわなければならない。また、その集会が学生のみのものでなく、とくに一般の公衆の入場を許す場合には、むしろ公開の集会と異なるところなきであり、すくなくともこれに準じるものというべきである。…本件集会は、真に学問的な研究と発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動であり、かつ、公開の集会またはこれに準じるものであって、大学の学問の自由と自治は、これを享有しないといわなければならない。したがって、本件集会に警察官が立ち入ったことは、大学の学問の自由と自治を犯すものではない。

解説
本判決は、学問の自由に研究の自由と研究結果の発表の自由が含まれることを明らかにしました。これに対し、教授(教育)の自由は、大学における教授の自由のみ学問の自由の内容として保障されるとしています。
本判決は、大学の自治の主体を教授その他の研究者とし、学生は、大学の自治の主体ではなく、大学施設の利用者と捉えています。

過去問
学生の集会は、大学の許可したものであっても真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しないといわなければならない。
(公務員2021年)

1 ○ 判例は、大学における学生の集会は、真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しないとしています(最大判昭38.5.22)。