探偵の知識

職業選択の自由

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
職業選択の自由(憲法22条1項)は、公共の福祉に反しない限度で保障され、国民の生命、健康に対する危険を防止・発生・緩和するために、また経済的弱者の保護のために、職業活動を規制し、社会的・経済的弱者を保護するために様々な規制が加えられています。

小売市場距離制限事件(最大判昭47.11.22)
■事件の概要
小売商業調整特別措置法(本法)は、政令で指定する市の区域内に、新たに小売市場(10以上の小売業者がテナントとして入る1つの建物)を開設するには、都道府県知事の許可が必要であるとし(3条1項)、許可の条件の1つとして、既存の小売市場と一定の距離を置かなければならないとする距離制限規制を設けている。市場経営等を行う株式会社Yの代表者Xは、知事の許可を受けないで小売市場を開設したため、同法違反で起訴された。

判例ナビ
第1審は、Xを有罪として罰金15万円を科し、控訴審もXの控訴を棄却した。そこで、Xは、本件規制は、自由競争を不当に制限し、消費者の利益を無視して既存業者を保護するものであるから、憲法22条1項に違反し、無効である等と主張して上告した。

■裁判所の判断
憲法22条1項は、国民の基本的人権の一つとして、職業選択の自由を保障しており、そこで職業選択の自由を保障するというなかには、広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含しているものと解すべきであり、ひいては、憲法が、個人の自由な経済活動を基盤とする経済体制を…予定しているものということができる。そして、右規定に基づく個人の経済活動に対する法的規制は、個人の自由な経済活動からもたらされる諸々の弊害が社会公共の安全と秩序の維持の見地から看過することができないような場合に、消極的に、かような弊害を除去ないし緩和するために必要やむをえない合理的規制である限度において許されることはいうまでもない。のみならず、憲法の他の条項をあわせ参酌すると、憲法は、全体として、福祉国家的理想のもとに、社会経済の均衡のとれた調和的発展を図っており、その見地から、すべての国民にいわゆる生存権を保障し、その一環として、国民の勤労権を保障する等、経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請していることも看取される。このような憲法の精神に照らすと、個人の経済活動の自由を絶対視するものではなく、国民の共同生活の維持発展のためには一定の合理的規制措置を要請しているものと解すべきである。

個人の経済活動の自由に対する法的規制は、それが個人の精神的自由に属する活動の場合と異なって、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解するのが相当であり、国は、積極的に、国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し、もって社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るために、広く、個人の経済活動に対し規制措置を講ずることも、それが右目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、許されるべきであって、決して、憲法の禁ずるところではないと解すべきである。
ところで、社会経済の分野において、法的規制措置を講ずる必要があるかどうかの判断は、これが社会経済の分野において、どのような手段・態様の規制措置が適切妥当であるかは、立法府が、立法政策の判断として、立法府の裁量に委ねられるべきものである。したがって、立法府の右判断が立法政策の判断として、立法府の裁量に委ねられるべきものである。

これを本件についてみると、…小売市場の許可制を伴う距離制限の措置をとっているのは、…経済的基盤の弱い小売業者の事業活動の機会を適正に保障し、かつ、小売市場の正常な秩序を阻害する要因を除去する必要があるとの判断のもとに、その一方策として、小売市場の濫設に伴う小売業者間の過当競争によってもたらされるであろう小売業者の共倒れから小売業者を保護するためにとられた措置であると認められ、…消費者の利益を犠牲にして、小売市場に対し独占的利益を付与するものであると認めるまでのものとはいえない。したがって、本件の許可制に、このような弊害が存するとしても、その規制が立法府の裁量権を著しく逸脱するものではなく、…過当競争による弊害が特に顕著と認められる場合についてのみ、これを規制するものである。これらの点からみれば、本件の許可制は、わが国の社会経済の発展と国民生活の安定という観点から、中小企業保護政策の一方策としてとった措置ということはでき、その立法目的において、一応の合理性を認めることができないわけではなく、また、その規制の手段・態様においても、それが著しく不合理であることが明白であるとは認められない。そうすると、本法3条1項、2条1項の許可制の規定が憲法22条1項に違反するものではない。

ことは明らかであって、結局、これと同趣旨に出た原判決は相当であり、論旨は理由がない。

解説
本判決は、①営業の自由が憲法22条1項で保障されていること、②経済活動の規制には、社会公共の安全と秩序の維持の見地からする規制(消極的目的規制)と福祉国家の理念に基づく規制(積極的目的規制)があること、③積極目的規制の合憲性は、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白である場合に限って、これを違憲とする「明白性の原則」によって判断すべきであることを、明らかに示しています。その上で、④小売市場の許可制は、経済的基盤の弱い小売業者を過当競争による共倒れから保護するという積極目的規制であると認定し、明白(性)の原則に当てはめて合憲とし、Xの上告を棄却しました。

過去問
国が、積極的に、国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し、もって社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図る目的で、立法により、個人の経済活動に対し、一定の法的規制措置を講ずる場合には、裁判所は、立法府がその裁量権を逸脱し、当該措置が著しく不合理であることが明白である場合に限って、これを違憲とすることができる。
(司法書士2021年)

1 ○ 判例は、「国は、積極的に、国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し、もって社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るために、立法により、個人の経済活動に対し、一定の規制措置を講ずることも、それが右目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、許されるべきであって、決して、憲法の禁ずるところではない」としています(最大判昭47.11.22)。

薬局距離制限事件(最大判昭50.4.30)
■事件の概要
医薬品等に関する事項を規制し、その適正をはかることを目的として制定された薬事法(現医機法)は、医薬等の供給業営業に関して広く許可制を採用し、薬局については、5条において都道府県知事の許可がなければ開設をしてはならないと定め、6条において許可条件に関する基準を定めている。Xらは、Y知事に対し、自己の経営する店舗に医薬品の販売をするために必要な許可申請をしたところ、既存の薬局と一定の距離を置かなければ許可できないとする薬事法の距離制限規定(適正配置規制)に違反するとして不許可処分を受けた。

判例ナビ
Xらは、薬事法の距離制限規定は、憲法22条1項に違反すると主張して処分の取消しを求める訴えを提起しました。第1審はXらの請求を認容しましたが、控訴審がXらの請求を棄却したため、Xらが上告しました。

■裁判所の判断
1 職業選択の自由の保障の目的と許可制
憲法22条1項の職業選択の自由は、これを社会経済の領域に属する活動とみるか、人が自己の生計を維持するために営む継続的活動であるとともに、分業社会において、これを社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有する。各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。…このような職業のもつ人格的価値に着目するとき、職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請されるのであり、したがって、右規定は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。

2 もっとも、職業は、…その性質上、他者との相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強く、…憲法13条の「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこのことを強調する趣旨に出たものと考えられる。このように、職業は、それが自身のうちになんらかの制約の必要性が内在する社会活動であるが、その種類、性質、内容、社会の意義及び影響がきわめて多種多様であるため、…規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較衡量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、職業の自由が、公共の福祉の要請のゆえに全く規制の緩和と、その目的、規制措置の具体的必要性及び合理性について、立法府の判断がその合理性の判断の範囲にとどまるかぎり、立法府の政策上の判断を尊重すべきであるのであり、しかし、その目的が公共の福祉に合致しないことが明らかである場合、または、規制措置が、具体的規制措置について、目的、対象、方法等の性質と内容に照らして、これを決定すべきものといわなければならない。

3 一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置である場合には、許可制が職業の自由に対してよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの、というべきである。そして、この要件は、許可制そのものについてのみならず、その内容についても要求されるのであって、許可の申請に対する拒否事由として規定されているものが右の趣旨に適合しない場合には、更に個別的に右の要件に照らしてその適否を判断しなければならないのである。

二 薬事法における許可制について
医薬品は、国民の生命及び健康の保持上の必需品であるとともに、これに重大な関係を有するものであるから、不良医薬品の供給(不良調剤を含む。以下同じ。)から国民の保健衛生上の安全をまもるために、薬局の開設の規制のみならず、供給業者に一定の資格要件を具備する者に限定し、それ以外の者による開業を禁止する許可制を採用したことは、それ自体としては公共の福祉に適合する目的のための必要かつ合理的な措置として肯定することができる…。

三 薬局及び医薬品の一般販売業(以下「薬局等」という。)の適正配置規制の立法的及び理由について
適正配置規制は、主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的のための規制措置であり、…中小企業の経営の安定等の社会経済政策上の積極的な目的によるものではなく、国民経済の円滑な運営というような社会政策ないしは経済政策的見地を目的とするものではない。また、国民生活上不可欠な役務の提供の分野には、当該役務のもつ高度の公共性にかんがみ、その適正な確保の要請から、法令によって、提供すべき役務の内容の対価等をも厳格に規制するとともに、役務を提供する独占的地位を事業者に与える等の強い規制を施す反面、これとの権衡上、役務提供者に対してその独占的地位を与え、その経営の安定をはかる措置がとられる場合があるけれども、薬事法その他の関係法令は、医薬品の売価の適正化措置としてこのような強力な規制を施してはおらず、したがって、その反面において既存の薬局等に独占的地位を与える必要もないのである。
おそらく、本件適正配置規制にはこのような趣旨、目的はなんら含まれていないと考えられるのである。

四 適正配置規制の合憲性について
薬局等の配置場所の地域的制限の必要性と合理性を裏付ける理由としての指摘する薬局等の偏在、競争激化、…一部薬局等の経営の不安定、不良医薬品の供給の危険又は医薬品乱用の助長の弊害という事由は、いずれもいまだそれによって右の必要性と合理性を肯定するに足りず、また、これらの事由の除去のための手段の適合性をも肯定するものではない。

X 医薬品の供給の適正化のために、…無駄な薬局等の過当競争が回避され、その経営の安定を助長すれば、問題は、無許可薬局等又は無資格薬局等の増加を促進するおそれがあり、その経営の安定化を助長すると主張している。・・・しかし、・・・無駄な薬局等の過当競争を回避する目的のために設置場所の地域的制限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは、目的と手段の均衡を著しく失するもののであって、とうていその合理性を認めることができない。
以上のとおり、薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限の規定が薬事法6条2項、4項(これらを準用する同法26条2項)は、不良医薬品の供給の防止等のための必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法22条1項に違反し、無効である。

解説
本判決は、薬局の距離制限規制を不良医薬品の供給を防止して国民の生命・健康を守る消極目的規制と捉えた上で、距離制限をしないと、薬局の偏在→競争激化→一部薬局の経営の不安定→不良医薬品の供給の危険、という因果関係が生じるとはいえないこと等を理由に違憲無効としました。

この分野の重要判例
◆要指導医薬品ネット販売規制差止請求訴訟(最判平25.1.11)
1 憲法22条1項は、職業における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているところ、職業の自由に対する規制措置は、事柄に応じて各種各様の形態をとるため、その規制目的を画一的に論ずることはできず、その合憲性は、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合、上記のような検討を要する考慮のほか、1項には明記されていない制約が課されることがあり、裁判所としては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的な判断の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものである。

2 要指導医薬品は、製造販売の承認の際に再度審査期間又は再審査のための調査期間を経過しておらず、需要者の選択により使用されることを目的とされている医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品である。そのような要指導医薬品について、適正な使用のため、薬剤師が対面により情報を提供しなければならないとする本件各規定は、その不適正な使用による国民の生命、健康に対する危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであり、このような目的が公共の福祉に合致することは明らかである。

3 そして、本件各規定の目的を達成するため、その販売又は授与をする際に、薬剤師が、あらかじめ、要指導医薬品を使用しようとする者の年齢、他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認しなければならないこととして使用者に関する最大限の情報を収集した上で、適切な指導を行うとともに指導内容の理解を確実に確認する必要があること、ここには、相応の合理性があるというべきである。

4 要指導医薬品の市場規模やその動向に照らすと、要指導医薬品について薬剤師の対面による情報提供を義務付ける本件各規定は、職業選択の自由そのものに制約を加えるものであるとはいえず、職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることももとより、その制限の程度が大きいということはできない。

5 以上検討した本件各規定による規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度に照らすと、本件各規定による規制に必要性・合理性があるとした判断が、立法府の合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできない。したがって、本件各規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。

解説
要指導医薬品(薬機法4条5項3号)とは、需要者の選択により使用されることが目的とされている医薬品で、同法36条の6第1項および3項(本件各規定)において、薬局開設者または店舗販売業者(店舗販売業者等)が販売する際に薬局または店舗において薬剤師の対面による情報の提供と薬学的知見に基づく指導を行うことが義務付けられているものをいいます。本件は、店舗以外の場所(いわゆるネット)に対し、郵便その他の方法により医薬品の販売をインターネットを通じて行う事業者Xが、Y(国)に対し、本件各規定が憲法22条1項に違反すると主張して、上記方法による医薬品の販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める訴えを提起したという事案です。本判決は、本件各規定の目的は公共の福祉に合致し、かつ、職業選択の自由そのものに制限を加えるものではなく、職業活動の内容、態様に対する規制にとどまり、制限の程度も大きいとはいえないとして、憲法22条1項に違反しないとしました。

過去問
職業の許可制は、一般に、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してらす弊害を防止するための消極的、警察的目的措置である場合に限って合憲となる。
(司法書士2021年)

1 × 判例は、職業の許可制は、それが自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的目的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分に達成することができないと認められる場合に合憲となるとしています(最大判昭50.4.30)。