探偵の知識

人身の自由

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス

人身の自由とは、身体の自由を意味します。憲法は、不法な逮捕・監禁、恣意的な刑罰権の行使等から身体の自由を守るため、18条で奴隷的拘束からの自由を保障するとともに、31条以下に刑事手続に関する詳細な規定を置いています。

第三者所有物没収事件(最大判昭37.11.28)
■事件の概要

Xは、韓国に向けて洋服の生地等を密輸出しようと企て、貨物船に貨物を積み込んで出港したが、途中、水上警察に逮捕され、起訴された。

■判例ナビ

第1審は、Xを懲役6月に処するとともに、関税法118条1項に基づいて貨物を没収し、控訴審も、第1審判決を支持した。実は、没収された貨物は、Xの所有物ではあったが、Yも、第1審も控訴審も貨物の所有者が誰であるかを認定しませんでした。そこで、Xは、貨物の所有者に財産権侵害の機会を与えないことなく没収したことは、憲法29条、29条に違反すると主張して上告しました。

■裁判所の判断

関税法118条1項の規定による没収は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等で同項但書に該当しないものにつき、被告人の所有に属するか否とを問わず、その所有権を剥奪して国庫に帰属せしめる処分であって、被告人以外の第三者の所有に係わる場合においても、被告人に対する附加刑としての没収の言渡により、当該第三者の所有権剥奪の効果をもたらす趣旨であると解するのが相当である。
しかし、第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であって、憲法の容認しないところであるといわなければならない。けだし、憲法29条1項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同31条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑罰処分の効果が第三者の所有物の没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑罰処分の効果が第三者の所有権の及ぶのであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防御の機会を与えることが必要であって、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。そして、このことは、右第三者に、事後においていかなる権利救済の方法が認められるかということとは、別個の問題である。然るに、関税法118条1項は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没収する旨規定しながら、その所有者たる第三者に対し、告知、弁解、防御の機会を与えるべきことを定めておらず、また刑訴法その他の法令においても、何らかの保障規定を設けていないのである。従って、前記関税法118条1項によって第三者の所有物を没収することは、憲法31条、29条に違反するものと解せざるをえない。そして、かかる没収の言渡を受けたXは、たとえ第三者の所有物に関する場合であっても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、Xとしても既に貨物に係る物の占有権を剥奪され、またこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。

解説

本判決は、第三者の所有物を没収する場合、所有者に告知、弁解、防御の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、憲法31条、29条に違反することを明らかにしました。また、訴訟において、他の憲法上の権利が侵害されたことを主張することができるかという問題がありますが、本判決は、これを認めました。なお、本件貨物の没収については、X以外の第三者の所有物の没収の言渡しは違憲であるとして、原判決を破棄しました。

過去問

1 被告人に対する没収の裁判が第三者の所有物を対象とするものであっても、当該被告人は、当該第三者に対して何らの告知、弁解、防御の機会が与えられなかったことを理由に当該没収の裁判が違憲であることを主張することができる。(司法書士2023年)

1 〇 判例は、第三者の所有物を没収する場合、当該所有者に何ら告知、弁解、防御の機会を与えることなくその所有権を奪うことは、憲法の容認しないところであるとした上で、「没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であっても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である」としています(最大判昭37.11.28)。

GPS捜査と憲法35条(最大平29.3.15)
■事件の概要

Xは、複数の共犯者と共謀して行った連続窃盗事案で起訴された。警察は、この連続窃盗事件に関し、組織性の有無、程度や組織内におけるXの役割を含む犯行の全容を解明するための捜査の一環として、X、共犯者のほか、Xの知人女性が使用する蓋然性があった自動車等の合計19台に、Xらの承諾なく、かつ、令状を取得することなく、GPS端末を取り付け、その所在を検索して移動状況を把握するという方法によりGPS捜査を実施した。

■判例ナビ

Xは、本件GPS捜査には重大な違法があり、本件GPS捜査によって直接得られた証拠等は排除されるべきであるとして、無罪を主張しました。第1審は、本件GPS捜査に重大な違法があるとして一部の証拠を排除しましたが、残りの証拠についてXを有罪としたため、Xは控訴しました。控訴審は、本件GPS捜査には重大な違法があるとは認められないとしてXを有罪としたため、Xは上告しました。

■裁判所の判断

1 GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に携わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような情報を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。

2 憲法35条は、「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に明示的に掲げられているもののほか、これらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると、前記のとおり、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑事訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たるとともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があるとも認められるのであるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。

3 GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の「検証」としての性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の現在の所在を明らかにする点において、「検証」では捉えきれない性質を有することも否定し難い。仮に、検証許可状の発付を受け、あるいはそれを併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を許可して対象車両の継続的使用行動を継続的、網羅的に把握することを当然に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけで令状請求の基礎となる嫌疑の程度の濃淡を問わず継続的な情報収集をすることができる。また、GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。
刑訴法の各種強制の処分については、手続の公正の確保の原則から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、他の手段で同旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保が手続として仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。
これらの問題を解消するための手段として、一般的には、実質可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるが、現行の捜査の必要性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法に委ねられていると解される。仮に法解釈により刑訴法の強制処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が令状に様々な条件を付す必要があるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われ得るかについて確信が持てない場合には、「強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない」と規定する刑訴法197条1項ただし書の趣旨にも沿わない。
以上のとおり、GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとも同旨が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特性に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法措置が講じられることが望ましい。
4 しかしながら、本件GPS捜査によって直接得られた証拠及びこれと密接な関連性を有する証拠の証拠能力を否定する一方で、その余の証拠につき、同捜査に密接に関連するとまでは認められないとして証拠能力を肯定し、これに基づき被告人を有罪と認定した第1審判決は正当であり、第1審判決を維持した原判決の結論に誤りはないから、原判決の判決に影響を及ぼすものではないことが明らかである。

解説

強制捜査は、任意処分と強制処分に区別されますが、強制処分は、刑事訴訟法に特別の定めがある場合に限り(刑事訴訟法197条1項ただし書)、かつ、事前に裁判官が発する令状(憲法35条)がなければ行うことができません。本判決は、GPS捜査が強制処分に当たり、令状がなければ行うことができないとした上で、被疑事実と関係のない行動まで過剰に把握するおそれがあること等の問題点があることから、GPS捜査について令状を発付することには疑義があり、立法的な措置が講じられることが望ましいとしています。

過去問

1 GPS端末を秘かに車両に装着する捜査手法は、車両使用者の行動を継続的・網羅的に把握するものであるが、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりする手法と本質的に異ならず、憲法が保障する私的領域を侵害するものではない。(行政書士2021年)

1 X 判例は、GPS端末を秘かに車両に装着する捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものであるとしています(最大平29.3.15)。