探偵の知識

参政権

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
参政権は、主権者である国民が、直接又は間接的に国政に参加する権利をいい、選挙権、被選挙権、憲法改正における国民投票権等がこれに当たります。憲法は、参政権が国民主権を具現するために不可欠な権利であることから、15条1項に「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定しています。

衆議院議員定数不均等訴訟 (最大判昭51.4.14)
■事件の概要
1972 (昭和47) 年12月に実施された衆議院議員選挙1区の選挙人Xは、千葉県選挙管理委員会を被告として選挙無効の訴え (公職選挙法204条) を提起した。第1審である東京高等裁判所 (選挙無効の訴えの第1審は高等裁判所と定められている) がXの請求を棄却したため、Xは、最高裁判所に上告した。

判例ナビ
Xの主張は、本件選挙は公職選挙法が定める議員定数配分規定に従って実施されたが、議員1人当たりの有権者数の較差 (いわゆる 「1票の格差」)が最大で約1対5となっており、これは、なんらの合理的根拠に基づかないで、住所 (選挙区) のいかんにより一部の国民を不平等に取り扱うものであるから、憲法14条に違反し、このような規定に基づいて実施された本件選挙は無効であるというものです。

■裁判所の判断
1 憲法は、14条1項において、すべて国民は法の下に平等であると定め、一般的に平等の原理を宣明するとともに、政治の領域におけるその適用として、選挙権について15条1項、3項、43条1項等の規定を設けている。これらの規定を連続し、かつ、右15条1項等の規定が選挙権の平等の原理の憲法中央の反映の発現であることを考慮するときは、憲法14条1項に定める法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等をも含意するものであり、右15条1項等の各規定の文面上単に選挙人資格における差別の禁止が定められているにすぎないけれども、単にそれだけにとどまらず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等をも、憲法の要求するところであると解するのが、相当である。

2 しかしながら、右の投票価値の平等は、各投票が選挙の結果に及ぼす影響力が数学的に完全に同一であることを要求するものであると解することはできない。けだし、投票価値は、選挙制度の仕組みと密接に関連し、その仕組みのいかんにより、結果的に右のような価値の平等に何程かの差異を生ずることがあるのを免れないからである。…憲法は、前記投票価値の平等についても、これをそれらの選挙制度の決定について国会が考慮すべき唯一絶対の基準としているわけではなく、国会は、衆議院及び参議院それぞれについて他にしかるべく考慮することのできる事項を考慮して、公正かつ効果的な代表という目標を実現するために適切な選挙制度を具体的に決定することができるのであり、投票価値の平等は、一応原則として、国会が正当に考慮することのできる他の諸般の目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。

3 衆議院議員の選挙における選挙区割と議員定数の配分の決定には、極めて多種多様で、複雑微妙な具体的、政治的技術的考慮要素が含まれており、それらの諸要素のそれぞれをどの程度考慮に入れ、これらを具体的にどこまで反映させることができるかについては、もとより厳密に一定された客観的な基準が存在するわけのものではないから、結局は、国会の具体的決定にたよるところがその裁量権の合理的な行使として是認されうるかどうかによって決するほかはなく、しかも事の性質上、その判断にあたっては他に類をみることなく、特に慎重な態度が要請される。しかし、限られた簡素な観点からするやすくその決定の適否を判断することができないことは、いうまでもない。しかしながら、このような見地に立つて考えても、具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票の価値の不平等は、国会において通常考慮しうる諸般の要素を斟酌し尽くしてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推認せざるをえないのであり、このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはないというべきである。

4 本件衆議院議員選挙当時ににおいては、各選挙区の議員1人あたりの選挙人数を全国平均のそれとの偏差は、下限において47・30パーセント、上限において98・9パーセントとなり、その開差は、約5対1の割合に達していた、というのである。…右の開きが各選挙人の投票価値の不平等は、……一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているばかりでなく、これを更に超えるに至っているものというほかはなく、これを正当化すべき特段の理由をここにも見出すことができない以上、本件議員定数配分規定の下における各選挙区議員定数と人口数との比率の偏差は、右選挙当時には、憲法の選挙権の平等の要求に反する状態になっていたものといわなければならない。

5 しかるに、…人口の移動が不断に生じ、したがって選挙区における人口と議員定数との比率も絶えず変動するのに対し、選挙区画と議員定数の配分を頻繁に変更することは、必ずしも実際的でなく、また、相当でないことを考えると、右事情によって具体的な比率の均衡が選挙権の平等の要求に反する程度になったとしても、これによって直ちに当該議員定数配分規定を憲法違反とするのではなく、人口の変動の実態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにこれが行われない場合に極めて変則と解せられるべきものとなるに至ったものというべきである。
この見地に立って本件議員定数配分規定をみると、…憲法の要求するところに合致しない状態になっていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がなされなかったものと認めざるをえない。それ故、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に違反し、違憲とされるべきものであったというべきである。そして、選挙区割と議員定数の配分は、議員総数と関連させながら、前述のような微妙、複雑な考慮の下で決定されるのであって、一部のこのようにして決定されたものは、一定の議員総数の選挙区への配分として、相互に有機的に関連し、一部における変動は他の部分にも変動の影響を及ぼすべき性質を有するものと認められ、その故に右規定は、その可分的な部分が憲法違反であるのみならず、右規定は選挙区としての全体を通ずる平等をおびている部分のみでなく、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである。

5 右のように、本件議員定数配分規定は、本件選挙当時においては全体として違憲とされるべきものであったが、しかし、これによって本件選挙の効力がいかなる影響を受けるかについて は、更に別途の考察が必要である。…本件選挙が違法に、議員定数配分規定を無効とする判決をしても、これによって直ちに選挙の状態が是正されるわけではなく、かえって憲法の期待するところに必ずしも適合しない結果を生ずることは、さきに述べたとおりである。これらの事情等を考慮するときは、本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配-分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような結論を判決主文で、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。

解説
近年、国政選挙が行われるたびに 「1票の格差」 を問題とする選挙無効の訴えが提起されていますが、本判決は、その先駆的役割を果たした判決です。本判決が示した重要な判断は多々ありますが、中でも、①憲法が選挙人の投票の価値の平等を要求していることを明示したこと、②本件議員定数配分規定は、投票価値の不平等を 生じさせている部分だけでなく、全体として違憲であること、③議員定数配分規定は、憲法違反といえる投票価値の不平を生じさせていれば直ちに違憲となるのではなく、合理的 な期間内に是正されなかった場合に違憲となること、 ④違憲な議員定数配分規定に基 づいて行われた選挙自体は有効とした、したがって、本件選挙は違法であることを宣言するが、判決主文で当該選挙が違法であることの宣言をすることに留める判決 (請求自体は棄却するもので、「事情判決の法理」 と呼ばれています) 等が特に重要です。

違憲
議員定数配分規定は、その性質上不可分一体をなすものと解すべきであり、憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解することができる。
(行政書士平2014年)

過去問
1 〇 判例は、選挙区割及び議員定数の配分は、相互に有機的に関連し、不可分一体をなすとの理由から、議員定数配分規定は、単に憲法に違反する不平等を招いている部分だけでなく、全体として違憲の瑕疵を帯びるともしています (最大判昭51.4.14)。

政見放送の削除 (判平24.1.17)
■事件の概要
参議院議員選挙の候補者Xは、Yテレビ局 (NHK) において、公職選挙法150条に基づく政見放送の録画を行ったが、Yは、その政見放送の中に身体障害者に対する差別的発言があるとして、自治体の判断 (処分) に照会し、当該部分を削除して放送できない旨の回答を得た上で、その部分を削除して放送した。
Xは、本件削除は政見をそのまま放送される権利を侵害する不法行為に当たると主張して、Yを被告として、損害賠償を求める訴えを提起した。 第1審、第2審は、Xの請求を一部認容したが、控訴審は、第1審判決を取り消してXの請求を棄却したため、Xが上告した。

■裁判所の判断
本件削除部分は、多くの視聴者が注目するテレビジョン放送において、その使用が社会的に許容されないことが広く認識されていた身体障害者に対する侮辱的かつ差別的表現であるいわゆる差別用語を含んでいたもので、他人の名誉を傷つけ善良な風俗を害する等政見放送としての品位を損なう言動を禁止した公職選挙法の規定に違反するとして、右規定に違反する言動がそのまま放送される利益は法的に保護された利益とはいえず、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないと解すべきである。

解説
YがXの発言の一部を削除して放送したことが不法行為に当たるかどうかについて、X は、「政見をそのまま放送される権利」 が侵害されたと主張し、公選法150条1項後段違反を問題としました。 しかし、本判決は、この点には触れず、Xの差別的発言が公選法150条の2が禁止する 「政見放送としての品位を損なう言動」 に当たるとし、それが放送されなくても法益侵害がないから不法行為は成立しないとしました。

違憲問題
1 憲法15条第1項により保障される立候補の自由には、政見の自由な表明等の選挙運動の自由が含まれるところ、テレビジョン放送のために録画した政見の内容にいわゆる差別用語が含まれていたとしても、当該政見放送の一部を削除し、そのまま放送しないことは、選挙活動の自由の侵害に当たり、憲法に違反する。(公務員2011年)

1 × 判例は、政見の削除部分がテレビジョン放送においてその使用が社会的に許容されないことが広く認識されていた差別用語を使用 した点で、他人の名誉を傷つけ善良な風俗を害する等政見放送としての品位を損なう言動を禁止した公職選挙法の規定に違反するとした上で、右規定に違反する言動がそのまま放送される利益は法的に保護された利益とはいえず、右言動がそのまま放送されなかったとしても、不法行為法上、法的利益の侵害があったとはいえないとしています (最判平24.1.17)。

在外邦人の選挙権 (最大判平17.9.14)
■事件の概要
公職選挙法は、1998 (平成10) 年改正 (本件改正) で在外選挙制度を創設するまで、在外邦人の国政選挙権行使を認めていなかった。 また、本件改正においても、当分の間、衆議院比例代表選挙及び参議院比例代表選挙に限って選挙権の行使を認めることとされたため、在外邦人が衆議院小選挙区選挙および参議院選挙区選挙において選挙権を行使することはできなかった。Xは、1996 (平成8) 年10月に実施された衆議院議員選挙 (本件選挙) の際、海外に居住していたため、投票をすることができなかった。
*海外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日本国民。

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Xは、本件改正前の公職選挙法が選挙権の行使を認めていなかったこと、および本件改正後の公職選挙法が衆議院小選挙区及び参議院選挙区における選挙権の行使を認めていないことは違法であるとして、これらの選挙において選挙権を有することの確認と国家賠償請求を求めて訴えを提起しました。第1審、控訴審ともに、Xの請求を退けたため、Xが上告しました。

■裁判所の判断
1 国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず、国民の選挙権又はその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして、そのような制限をすることが憲法に違反しないと認められ、選挙権の行使を認めることが事実上不可能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り、上記のやむを得ない事由があるとはいえず、このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また、このことは、我が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても、同様である。

2 内閣は、昭和59年4月27日、…衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」を第101回国会に提出したが、同法律案は、その後第105回国会まで継続審査とされていたものの実質的な審議は行われず、同年6月2日に衆議院が解散されたことにより廃案となったこと、その後、本件選挙が実施された平成8年10月20日までには、在外邦人の選挙権の行使を可能にするための法律は制定されなかったことが明らかである。・・・既に昭和59年の時点で、選挙の執行について責任を負う内閣がその解決の可能性を国会に提起した以上、少なくとも10年以上もの長きにわたって在外選挙制度を創設する法律の制定をしなかったことは、国会が在外選挙制度を設けるか否かについて全く考慮しないまま放置し、本件選挙においては在外邦人が投票をすることを認めなかったことに等しいといえるのであり、やむを得ない事由があったとは到底いうことができない。そうすると、本件改正前の公職選挙法が、本件選挙当時、在外邦人に全く投票の機会を与えないでいたことは、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものであったというべきである。

3 初めて在外選挙制度を設けるにあたり、まず実現の比較的容易な比例代表選出議員の選挙についてだけ在外邦人の投票を認めることとしたことが、全く理由のないものであったとまではいうことはできない。しかしながら、本件改正後になお選挙が繰り返し実施されてきていること、通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどに鑑れば、在外邦人に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また、参議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどが内容とする公職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第11号)が平成12年11月1日に公布され、同月21日に施行されているが、この改正後は、参議院比例代表選出議員の選挙の投票については、公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載者の氏名を自書することが原則とされ、既に平成13年に行われたものについてはこの原則に基づく選挙権の行使がされていることなどを併せ考えると、遅くとも、本件訴訟に関して初めて行われる衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の時点においては、衆議院の選挙区選出議員の選挙及び参議院の選挙区選出議員の選挙について在外邦人に投票することを認めないことについて、やむを得ない事由があるということはできず、公職選挙法附則8項の規定のうち、在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。

解説
本判決を受けて2006 (平成18) 年に公職選挙法が改正され、衆議院小選挙区および参議院選挙区における在外邦人の選挙権行使が認められるようになりました。