探偵の知識

物権的請求権

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス

物権的請求権とは、物に対する他人の不当な干渉を排除して、物権本来の内容を回復するための権利をいいます。物権的請求権には、①物の返還を請求する物権的返還請求権、②物権に対する妨害を止めさせる物権的妨害排除請求権、③将来物権が侵害されるおそれがある場合に、その予防を請求する物権的妨害予防請求権の3つの態様があります。

物権的請求権の相手方

■事件の概要

甲土地上に存在する乙建物は、Aが所有していたが、Aが死亡し、その妻Yが相続によりこれを取得してその旨の登記を経由した。Yは、乙建物をBに売り渡したが、Bへの移転登記はなされておらず、乙建物はY所有名義のままとなっている。その後、Xは、甲土地を競売による売却により取得した。

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Xは、Yに対し、所有権に基づく建物収去土地明渡請求訴訟を提起しました。第1審、控訴審ともにYの主張を認めてその請求を棄却したため、Xが上告しました。

■裁判所の判断

土地所有権に基づく物権的請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。したがって、未登記建物の所有権が登記名義人の意思に基づき第三者に譲渡された場合には、これにより建物の所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、右譲渡人は、土地所有権による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであり、また、建物の所有権を現に有しない登記名義人が、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきである。もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとえ建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、信義則上、右建物の所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である。けだし、建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰趨につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲受人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の困難の程度は、土地所有者が地上建物の譲渡人による所有権の喪失を否定しその帰趨を争うので、あたかも建物についてその物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上は、土地所有者との関係においては、建物の所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。もし、これを、登記に関わりなく建物の「真実の所有者」をもって建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば、土地所有者は、その探索の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になるという不合理を免れるおそれがある。他方、建物の所有者が真実その所有権を他に譲渡したのであれば、その旨の登記を行うことは通常はさほど困難なこととはいえず、不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、その建物収去の義務を否定することは、信義に反し、公平の原則に照らして許されないものといわなければならない。

解説

土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求の相手方について、本判決は、従来の判例(最判昭35.6.17)の立場を踏襲し、原則として「現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者」であるとしています。しかし、建物が譲渡された場合、現在の所有者を探し出すことは、土地所有者にとって必ずしも容易ではありません。そこで、本判決は、自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した建物譲渡人は、譲渡後も引き続き登記名義を保有しているときは、土地所有者に対し、譲渡によって建物の所有権を失ったと主張して建物収去土地明渡しの義務を免れることはできないとし、Xの請求を認容しました。

この分野の重要判例

◆建物の譲渡担保権者の相手方【原則論】(最判平35.6.17)

本条は土地の所有者たる上告人(原告)が、被上告人(被告)は上告人所有の右土地に家屋を所有し、何等の権限なく不法に上告人の土地を占拠し、よって上告人の土地所有権を侵害しているとして、土地の所有権にもとづき、その妨害排除をもとめるべく家屋の右登記及び右建物の収去を請求する損害賠償の訴である。右のような土地の所有権にもとづく物上請求権の訴訟においては、現実に家屋を所有することによって現実にその土地を占拠して土地の所有権を侵害しているものを被告としなければならないのである。

過去問

1 A所有の甲土地上に権原なくB所有の登記済みの乙建物が存在し、Bが乙建物をCに譲渡した後も建物登記をB名義のままとしていた場合において、その登記がBの意思に基づいてされていたときは、Bは、Aに対して乙建物の収去および甲土地の明渡しの義務を免れない。(行政書士2021年)

2 Aは、甲土地を購入して所有していたが、甲土地上には土地使用権原のない乙建物が存在し、当初Bが乙を所有していた。乙の登記名義はBであるが、Bは既に乙をCに譲渡しており、現在はCが所有権を有している。この場合、Aは、土地所有権に基づいてCに対して妨害排除請求をすることができる。(公務員2015年)

1 〇 他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、その建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできません(最判平6.2.8)。

2 〇 Cは、現実に乙建物を所有することによって現実に甲土地を占拠してAの甲土地所有権を侵害しています。したがって、Aは、土地所有権に基づいてCに対して妨害排除請求をすることができます(最判昭35.6.17)。