探偵の知識

所有権

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
所有権は、法令の範囲内で、自由に使用・収益・処分できる権利です(民法206条)。所有者は、所有物に対して全面的な支配をなし、所有物の使用価値、交換価値を全面的に把握します。所有権は、売買等の契約、取得時効等によって取得することができるほか、民法239条以下に規定された所有権特有の取得原因によっても取得することができます。

建築中の建物への第三者の工事と所有権の帰属 (最判昭54.1.25)

■事件の概要
A建設株式会社は、Yから本件建物の建築を請け負い、さらにこれをX建設株式会社に下請けに出した。Xは、自己の調達した資材を使って建築工事を行い、棟上げを終え、屋根下地板を張り終えたが、Aが約定の請負代金を支払わなかったため、その後は施錠をせず、覚書を壁に張り、工事を中止したまま放置した。そこで、Yは、Aとの請負契約を合意解除し、B建設株式会社に対し、工事続行に伴い建築中の建物の所有権はYの所有に属する旨の特約をして本件建物の残工事をBの下請けにおいて、請負契約に従い自らの材料を供して工事を行い、独立の不動産である建物とした。

判例ナビ
Xは、Yに対し、所有権に基づく本件建物の明渡しと不法行為(Yのカギ交換)に基づく損害賠償を請求する訴えを提起しました。Xが本件建物の所有権を主張する理由は、右の工事で本件建物が独立の不動産となった時点での主たる部分はXが自らの資材で建設した動産であり、右工事部分に帰属する動産であるから、両者が合体してできた本件建物の所有権は、民法243条によりXに帰属するというものでした。第1審、控訴審ともに、Xに請求を棄却したため、Xが上告しました。

■裁判所の判断
建築中の建物が独立した不動産としての建物となるに至るまでの工事が請負人によって施行された場合において、当該建物の所有権の帰属は、加工の法理によって決すべきである。
建物の工事の請負人が建築主の承諾を得てその材料の全部又は主要部分を提供して建物を建築したときは、当該建物の所有権が原始的には請負人に帰属すべきものと解するのが相当であるから、その後に建築主と請負人との間において建物の所有権を建築主に帰属させる旨の特約がされたとしても、これによって右の帰属がいまだ独立の不動産としての形態個性を備えるに至らない段階で建物に関する所有権の帰属を決することはできない。

解説
建築した建物の所有権帰属の問題について、本判決は、材料に施される工作が特段の価値を有することを重視し、動産と動産が付合する場合を想定する民法243条ではなく、加工に関する246条2項によって決定することを明らかにしました。また、246条2項により完成建物の所有権の帰属を決定する場合、どの時点で、同条項にいう価格の比較をすべきかが問題となりますが、本判決は、建物が独立の不動産となった時点ではなく、加工者の工事が〜〜終了したと認められる時までの間に加工者が加えた工作及び材料の価格と建物が独立の不動産としての形態をそなえるに至るまでに建築主が加えた工作及び材料の価格との価格を比較して決すべきであるとしてる。そして、Xが建築した建物の価格よりもBが施工した工事と材料の価格の方がはるかに大きいから、本件建物の所有権はB(BとY間の特約により、さらにY)に帰属するとして、Xの上告を棄却しました。

過去問

建物建築を請け負った建築業者が、未だ独立の不動産に至らない建前の段階で工事を中止したので、別の建築業者が材料を供して独立の不動産である建物に仕上げた場合、当該建物の所有権の帰属は、加工の法理によって決すべきである。 (公務員2018年)
○ 判例は、建築途中の建物に、第三者が材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合、その建物の所有権の帰属は、符合の規定である民法244条ではなく、加工の規定である246条2項に基づいて決定すべきであるとしています(最判昭54.1.25)。

囲繞地通行権 (最判平21.1.20)

■事件の概要
Aは、公道に面した自己所有の土地を甲地と乙地に分割し、袋地となった甲地をXに売却し、乙地をBに売却した。甲地の売却にあたって、Aは、Yから貸借していた袋地である丙地に、Yに無断で、通路(本件通路)を設け、Xが無償で通行できる旨の合意をした。その後、Bが甲地との境界部分に石垣を設置し、建物を建てたため、Xが甲地から公道に出入りするには、丙地を通行するしか方法がなくなったが、Yは、丙地について、Aとの賃貸借を解除し、Xが丙地を通行することを禁止した。

判例ナビ
Xは、Yに対し、囲繞地通行権(民法210条)を理由に本件通路部分の通行権の確認と通行の妨害禁止等を求めて訴えを提起しました。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xが上告しました。

■裁判所の判断
共有物の分割又は土地の一部の譲渡によって公路に通じない土地(以下「袋地」という。)を生じた場合には、袋地の所有者は、民法213条に基づき、これを囲繞する土地のうち、他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人の所有地(以下、これらの土地を「残余地」という。)についてのみ通行権を有するが、同条の規定する囲繞地通行権は、残余地について特段の障壁が生じた場合にこれを消滅するものではなく、袋地所有者は、囲繞地であった残余地以外の土地を通行しうるものではないと解するのが相当である。けだし、民法213条以下の囲繞地通行権に関する規定は、土地の利用の調整を目的とするものであって、対人的な関係を定めたものではなく、同法213条の規定する囲繞地通行権も、袋地に付着した物権的権利で、残余地に当然に課せられた物権的負担と解すべきものであるからである。袋地の所有者がこれと別に囲繞地通行権によって囲繞地通行権が消滅すると解するのは、袋地所有者の自己の関知しない事情の帰すうによってその法の保障を奪われうるという不合理な結果をもたらし、他方、残余地以外の囲繞地を通行しうるものと解するのは、その所有者に不測の不利益が及ぶことになって、妥当でない。

解説
所有地によって公路に通じない土地(袋地)が生じた場合、袋地所有者は、他の分割者の所有地(残余地)のみを通行して公道に出ることができます(残余地の囲繞地通行権、民法213条1項)。本判決は、残余地が譲渡されてその所有者が変わっても残余地の囲繞地通行権は消滅せず、残余地以外の囲繞地通行権(210条)は生じないとしてます。

◆この分野の重要判例

囲繞地通行権と登記 (最判昭47.4.14)
思うに、袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地所有権ないしこれに立つ利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張することができると解するのが相当である。なんとなれば、民法210条ないし213条は、いずれも、相隣接する不動産相互間の利用の調整を目的とする規定であって、同法210条において袋地の所有者が囲繞地を通行することができるとされているのも、相隣関係にある所有者相互の不動産の所有権ないしこれに立つ利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張する者は、不動産取引の安全保護をはかった公信の原則を媒介としたものと解すべきだからである。したがって、不動産取引の安全保護をはかった公信の原則を媒介としたものと解すべきである。したがって、不動産取引の安全保護をはかった公示制度とはその関係を異にするものであり、実体法上袋地の所有権を取得した者は、右抗要件を具備することなく、囲繞地所有者らに対し囲繞地通行権を主張しうるものというべきである。

囲繞地通行権の態様 (最判平18.3.16)
現代社会においては、自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面、自動車による通行を認めると、一般に、他の土地から道路としてより多くの土地を割く必要かある上、自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。したがって、自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。

解説
本件は、広大な墓地が袋地であり、徒歩で公道に出入りすることは可能であったという事案であり、自動車による通行を前提とする囲繞地通行権の成否とその内容が問題となりました。

過去問

最高裁判所の判例では、共有物の分割によって袋地を生じた場合、袋地の所有者は他の分割者の所有地についてのみ囲繞地通行権を有するが、この囲繞地に特定承継が生じた場合には、当該通行権は消滅するとした。 (公務員2019年)

最高裁判所の判例では、袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないしこれに立つ利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張することができるとした。 (公務員2019年)

Aが購入した甲土地は、他の土地に囲まれて公道に通じない土地であった。Aは公道に至るため甲土地上を隣地である乙土地を通行する権利を有するところ、Aが自動車を所有していても、自動車による通行権が認められることはない。 (宅建士2020年)
× 1. 民法213条により囲繞地通行権は、残余地について特定承継が生じた場合にも消滅しません(最判平21.1.20)。
○ 2. 袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないしこれに立つ利用権を有する者に対して、囲繞地通行権を主張することができます(最判昭47.4.14)。
× 3. 自動車による通行を前提とする囲繞地通行権(民法210条)の成否・具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性等の諸事情を総合考慮して判断されるので(最判平18.3.16)、Aが自動車による通行権が認められないとは言い切れません。