抵当権の効力
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
抵当権は、抵当地上に存する建物を除き、その目的である不動産(抵当不動産)に付加して一体となっている物(付加一体物)に及びます(民法370条)。付加一体物に何が含まれるのか、条文上は明らかではありませんが、付合物(242条本文)は、独立性を失って抵当不動産の構成部分となるため、付合した時期が抵当権設定の前後かに関わらず、付加一体物に含まれます。
従物に対する抵当権の効力 (最判昭44.3.28)
■事件の概要
Xは、BからYに対して現在および将来に負担する金銭債務の担保として、Aが所有する宅地(本件宅地)に根抵当権の設定を受け、その旨の登記もなされた。この宅地には庭園が造られており、そこに、石灯籠、庭石、植木が備えられている。その後、Aの債権者Yがこれらの石灯籠、庭石、植木に対して強制執行を申し立てた。そこで、Xは、第三者異議の訴え*を提起した。
*第三者が強制執行の排除を求める訴え(民事執行法38条1項)。
判例ナビ
第1審、控訴審ともに、Xの請求を認容したため、Yが上告しました。
■裁判所の判断
石灯籠および取り外しのきく庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物であり、本件植木および取り外しの困難な庭石等は宅地の構成部分であるが、右従物は本件根抵当権設定当時右宅地の常用のためこれに付属せしめられていたものである…、そして、本件宅地の構成部分の効力は、右構成部分の及ぶことはもちろん、右従物にも及び、この場合右根抵当権は本件宅地に対する根抵当権設定登記をもって、その効力が右の各従物についても対抗しうるものというべく、右従物の効力が及ぶ旨を公示する等特段の事情のないかぎり、民法370条により右従物にも右根抵当権の効力を対抗しうるものと解するのに相当するのである。そうだとすれば、Xは、根抵当権により、右物件等を独立の動産として競売の効力の対象外であると主張するほか、右物件の価値を確保するため、右物件の譲渡または引渡を妨げる権利を有するから、執行債権者たるYに対し、右物件等についての強制執行の排除を求めることができる…。
解説
抵当権の効力は、抵当権設定時の従物にも及ぶとするのが従来からの判例です(大判昭大8.3.15)。本判決は、従来からの判例を踏襲した上で、民法370条により抵当権設定登記が従物に対する抵当権の対抗力を有することを明らかにし、Yの上告を棄却しました。
◆この分野の重要判例
抵当権設定後の賃借権に対抗するための登記 (最判昭40.5.4)
土地賃借人の所有する地上建物のために設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法612条の適用上賃借人と土地所有者に対する対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者の間においては、右建物の取得して前提とする価格で競落された時の特段の事情がないかぎり、右建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である…、けだし、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって一個の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである。したがって、買戻人たる土地所有者が右賃借権の移転を承認しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従物の所有者に対して、土地所有者において競落人に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。
過去問
宅地に抵当権が設定された当時、その宅地に備え付けられていた石灯籠及び取り外したのできる庭石は、抵当権の目的である宅地の従物であるため、その抵当権の効力が及ぶ。
(公務員2021年)
借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限りに借地権には及ばない。
(行政書士2018年)
○ 1. 石灯籠および取り外しのできる庭石は抵当権の目的たる宅地の従物であり、抵当権設定当時に宅地と付されてられたこれらの従物には、抵当権の効力が及びます(最判昭44.3.28)。
× 2. 借地上の建物に設定された抵当権の効力は、原則として借地権にも及びます(最判昭40.5.4)。
賃料債権への物上代位 (最判平元.10.27)
■事件の概要
Aは、Bに賃貸している自己が所有する本件建物に、まずCのために抵当権を設定し、次いでYのために抵当権を設定し、それぞれの登記をしたが、Xが本件建物をAから買い受け、Bに対する賃貸人の地位も承継した。その後、Cが抵当権の実行を申し立て、競売開始決定がされたため、Bは、以後の賃料を供託した。そこで、Yは、抵当権に基づく物上代位権の行使として供託金還付請求権を差し押さえ、供託金の還付を受けた。
判例ナビ
Xは、Yが受けた還付金は不当利得であると主張して、その返還を求める訴えを提起しました。不当利得であるとする理由は、抵当権は目的物を占有することができない非占有担保権であるから、本件家屋の利用形態である賃料、すなわち、供託金に物上代位することはできないというものです。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xは、上告しました。
■裁判所の判断
抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、目的不動産の賃借人が賃貸した抵当権の請求権について抵当権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、民法372条によって不動産所有権に関する民法304条の規定が抵当権にも準用されているところ、抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保物権であるから、抵当権は、目的物の使用を収取権限を有するものではないし、抵当権設定者の目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定の目的物が抵当権を行使する場合には何ら変わるところはないし、右規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はなく、また抵当権が実行された場合には、賃料債権についてもその物上代位請求権について抵当権を行使することができるものというべきであるからである。
そして、目的不動産について抵当権を実行しうる場合であっても、物上代位の目的となる金銭その他の物について抵当権を行使することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり、目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも、先行の担保権者等の債権がなければ、抵当権者ないしこれに代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使することができるものというべきである。
解説
抵当権者は、目的物が譲渡されても、抵当権を実行して競売代金から弁済を受けることができるので、目的物の賃料債権への物上代位を認める必要はないかにも思えます。しかし、本判決は、単に民法372条が304条を準用しているという形式的理由ではなく、判決文にあるような詳しい理由付けをして物上代位を肯定し、Xの上告を棄却しました。
◆この分野の重要判例
抵当権設定後の賃借人への物上代位 (最決平12.4.14)
民法372条によって抵当権に準用される民法304条1項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的に責任を負担するものであり、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に帰属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。物上代位の目的とする。これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃借権を賃借人から取得することによって抵当不動産の価値を同視するような場合には、賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。
過去問
抵当権者による賃料への物上代位は、抵当権の実行までは抵当権設定者に不動産の使用・収益を認めるという抵当権の趣旨に反するため、被担保債権の不履行がある場合であっても、認められない。 (公務員2022年)
抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸賃料債権(転貸賃料債権)に対しても物上代位権を行使することができる。 (行政書士2018年)
× 1. 抵当権者は、目的不動産の賃料債権についても物上代位権を行使することができます(最判平元.10.27)。
× 2. 抵当権者は、原則として、転貸賃料債権(転貸賃料債権)に対して物上代位権を行使することができません(最決平12.4.14)。
抵当権に基づく妨害排除請求 (最判平17.3.10)
■事件の概要
Xは、A会社からA所有の土地に分譲式のホテル(本件建物)を建築することを請け負い、本件建物を完成させたが、Aが請負代金を支払わなかったため、引渡しを留保した。その後、Xは、Aに対する請負代金債権を担保するため、本件建物の抵当権の設定を受け、その登記がなされるとともに、本件建物をBに賃貸するようXの承諾を得ることを条件に、本件建物をAに引き渡した。しかし、Aは、Xの承諾を得ないで、本件建物をB会社に賃貸し、さらにBも、Xの承諾を得ないで、本件建物をY会社他に転貸し、引き渡した。AとB間の賃貸借契約は、いずれの月も相場の5分の1以下の低額である反面、敷金は賃料の100倍と異常に高額であり、また、3社の役員のー部は共通していた。
判例ナビ
Aが請負代金を支払わないまま事実上の倒産をしたため、Xは、抵当権の実行により本件建物の競売を申し立てましたが、買い手が見つからず、売却できませんでした。そこで、Xは、Yに対して、Yによる本件建物の占有により抵当権が侵害されたことを理由に、抵当権に基づく妨害排除請求として、本件建物を明け渡すことおよび抵当権侵害による賃料相当額の損害金の支払いを求める訴えを提起しました。控訴審のXの請求を認容したため、Yが上告しました。
■裁判所の判断
所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、その状態の排除を求めることができる。
そして、占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記の妨害の状態を排除することができるものである。もっとも、抵当権は、抵当不動産の使用収益を目的とするものではないから、抵当不動産の所有者において抵当権者に対し当該不動産を適切に維持保存するよう求める請求権を有するにとどまり、抵当権設定者が抵当不動産を自ら適切に維持管理しない場合に、占有者に対し妨害排除請求をすることができるものではないのである。なお、抵当権者は、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合でも、抵当権は抵当不動産の使用収益を目的とするものではないから、抵当不動産を占有する権原を有しない。また、抵当権は、抵当権設定者の使用収益権の行使を制約するものではなく、抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理する目的で、抵当不動産の使用及びその収益による利益を取得したりするものではないからである。
解説
抵当不動産の不法占有者に対する抵当権者の妨害排除請求は、すでに大判平11.11.16が、抵当不動産の占有の方法が占有者に対する妨害排除請求の代位行使という構成で認めていました。しかし、本件のように、占有権を有する者が抵当不動産を占有している場合には、平成11年判決が採った構成を用いることはできません。そこで、本判決は、平成11年判決をー歩進め、占有権に基づく占有であっても抵当権侵害を生ずる場合があることを認め、抵当権に基づく妨害排除請求を代行使してその侵害状態を是正できるとした。
◆この分野の重要判例
抵当権に基づく返還請求 (最判昭57.3.12)
抵当権者は、第三者の同意を得ないで工場から搬出された右動産について、第三者が即時取得をしない限りは、抵当権の効力が及んでおり、第三者の占有する当該動産に対し抵当権を行使することができるのであるから(同法25条参照)、抵当権の担保価値を保全するためには、目的動産の処分等を阻止するだけでは足りず、搬出された目的動産を元の場所に戻して回復を回復すべき必要があるからである。
過去問
抵当権設定後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者が、その占有権原の登記なくして抵当権設定登記後の競売手続きの買受を対抗する占有が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は占有者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。
(公務員2019年)
工場抵当法により工場に属する建物とともに抵当権の目的にされた動産が、抵当権者に無断で同建物から搬出された場合には、第三者が即時取得しない限り、抵当権者は、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができる。
(行政書士221年)
○ 1. 抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から受けた占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても、占有権原の登記なくして抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる(最判平17.3.10)。
○ 2. 工場抵当法2条により工場に属する土地または建物とともに抵当権の目的にされた動産が、抵当権者の同意を得ないで、備え付けられた工場から搬出された場合、第三者が当該動産を即時取得しない限り、抵当権者は、搬出された動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができます(最判昭57.3.12)。
抵当権は、抵当地上に存する建物を除き、その目的である不動産(抵当不動産)に付加して一体となっている物(付加一体物)に及びます(民法370条)。付加一体物に何が含まれるのか、条文上は明らかではありませんが、付合物(242条本文)は、独立性を失って抵当不動産の構成部分となるため、付合した時期が抵当権設定の前後かに関わらず、付加一体物に含まれます。
従物に対する抵当権の効力 (最判昭44.3.28)
■事件の概要
Xは、BからYに対して現在および将来に負担する金銭債務の担保として、Aが所有する宅地(本件宅地)に根抵当権の設定を受け、その旨の登記もなされた。この宅地には庭園が造られており、そこに、石灯籠、庭石、植木が備えられている。その後、Aの債権者Yがこれらの石灯籠、庭石、植木に対して強制執行を申し立てた。そこで、Xは、第三者異議の訴え*を提起した。
*第三者が強制執行の排除を求める訴え(民事執行法38条1項)。
判例ナビ
第1審、控訴審ともに、Xの請求を認容したため、Yが上告しました。
■裁判所の判断
石灯籠および取り外しのきく庭石等は本件根抵当権の目的たる宅地の従物であり、本件植木および取り外しの困難な庭石等は宅地の構成部分であるが、右従物は本件根抵当権設定当時右宅地の常用のためこれに付属せしめられていたものである…、そして、本件宅地の構成部分の効力は、右構成部分の及ぶことはもちろん、右従物にも及び、この場合右根抵当権は本件宅地に対する根抵当権設定登記をもって、その効力が右の各従物についても対抗しうるものというべく、右従物の効力が及ぶ旨を公示する等特段の事情のないかぎり、民法370条により右従物にも右根抵当権の効力を対抗しうるものと解するのに相当するのである。そうだとすれば、Xは、根抵当権により、右物件等を独立の動産として競売の効力の対象外であると主張するほか、右物件の価値を確保するため、右物件の譲渡または引渡を妨げる権利を有するから、執行債権者たるYに対し、右物件等についての強制執行の排除を求めることができる…。
解説
抵当権の効力は、抵当権設定時の従物にも及ぶとするのが従来からの判例です(大判昭大8.3.15)。本判決は、従来からの判例を踏襲した上で、民法370条により抵当権設定登記が従物に対する抵当権の対抗力を有することを明らかにし、Yの上告を棄却しました。
◆この分野の重要判例
抵当権設定後の賃借権に対抗するための登記 (最判昭40.5.4)
土地賃借人の所有する地上建物のために設定された抵当権の実行により、競落人が該建物の所有権を取得した場合には、民法612条の適用上賃借人と土地所有者に対する対抗の問題はしばらくおき、従前の建物所有者の間においては、右建物の取得して前提とする価格で競落された時の特段の事情がないかぎり、右建物の所有に必要な敷地の賃借権も競落人に移転するものと解するのが相当である…、けだし、建物を所有するために必要な敷地の賃借権は、右建物所有権に付随し、これと一体となって一個の財産的価値を形成しているものであるから、建物に抵当権が設定されたときは敷地の賃借権も原則としてその効力の及ぶ目的物に包含されるものと解すべきであるからである。したがって、買戻人たる土地所有者が右賃借権の移転を承認しないとしても、すでに賃借権を競落人に移転した従物の所有者に対して、土地所有者において競落人に対する敷地の明渡しを請求することができないものといわなければならない。
過去問
宅地に抵当権が設定された当時、その宅地に備え付けられていた石灯籠及び取り外したのできる庭石は、抵当権の目的である宅地の従物であるため、その抵当権の効力が及ぶ。
(公務員2021年)
借地上の建物に抵当権が設定された場合において、その建物の抵当権の効力は、特段の合意がない限りに借地権には及ばない。
(行政書士2018年)
○ 1. 石灯籠および取り外しのできる庭石は抵当権の目的たる宅地の従物であり、抵当権設定当時に宅地と付されてられたこれらの従物には、抵当権の効力が及びます(最判昭44.3.28)。
× 2. 借地上の建物に設定された抵当権の効力は、原則として借地権にも及びます(最判昭40.5.4)。
賃料債権への物上代位 (最判平元.10.27)
■事件の概要
Aは、Bに賃貸している自己が所有する本件建物に、まずCのために抵当権を設定し、次いでYのために抵当権を設定し、それぞれの登記をしたが、Xが本件建物をAから買い受け、Bに対する賃貸人の地位も承継した。その後、Cが抵当権の実行を申し立て、競売開始決定がされたため、Bは、以後の賃料を供託した。そこで、Yは、抵当権に基づく物上代位権の行使として供託金還付請求権を差し押さえ、供託金の還付を受けた。
判例ナビ
Xは、Yが受けた還付金は不当利得であると主張して、その返還を求める訴えを提起しました。不当利得であるとする理由は、抵当権は目的物を占有することができない非占有担保権であるから、本件家屋の利用形態である賃料、すなわち、供託金に物上代位することはできないというものです。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xは、上告しました。
■裁判所の判断
抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、目的不動産の賃借人が賃貸した抵当権の請求権について抵当権を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、民法372条によって不動産所有権に関する民法304条の規定が抵当権にも準用されているところ、抵当権は、目的物に対する占有を抵当権設定者の下にとどめ、設定者が目的物を自ら使用し又は第三者に使用させることを許す性質の担保物権であるから、抵当権は、目的物の使用を収取権限を有するものではないし、抵当権設定者の目的物を第三者に使用させることによって対価を取得した場合に、右対価について抵当権を行使することができるものと解したとしても、抵当権設定の目的物が抵当権を行使する場合には何ら変わるところはないし、右規定に反してまで目的物の賃料について抵当権を行使することができないと解すべき理由はなく、また抵当権が実行された場合には、賃料債権についてもその物上代位請求権について抵当権を行使することができるものというべきであるからである。
そして、目的不動産について抵当権を実行しうる場合であっても、物上代位の目的となる金銭その他の物について抵当権を行使することができることは、当裁判所の判例の趣旨とするところであり、目的不動産に対して抵当権が実行されている場合でも、先行の担保権者等の債権がなければ、抵当権者ないしこれに代わる供託金還付請求権に対しても抵当権を行使することができるものというべきである。
解説
抵当権者は、目的物が譲渡されても、抵当権を実行して競売代金から弁済を受けることができるので、目的物の賃料債権への物上代位を認める必要はないかにも思えます。しかし、本判決は、単に民法372条が304条を準用しているという形式的理由ではなく、判決文にあるような詳しい理由付けをして物上代位を肯定し、Xの上告を棄却しました。
◆この分野の重要判例
抵当権設定後の賃借人への物上代位 (最決平12.4.14)
民法372条によって抵当権に準用される民法304条1項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的に責任を負担するものであり、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に帰属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。物上代位の目的とする。これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃借権を賃借人から取得することによって抵当不動産の価値を同視するような場合には、賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。
過去問
抵当権者による賃料への物上代位は、抵当権の実行までは抵当権設定者に不動産の使用・収益を認めるという抵当権の趣旨に反するため、被担保債権の不履行がある場合であっても、認められない。 (公務員2022年)
抵当不動産が転貸された場合、抵当権者は、原則として、転貸賃料債権(転貸賃料債権)に対しても物上代位権を行使することができる。 (行政書士2018年)
× 1. 抵当権者は、目的不動産の賃料債権についても物上代位権を行使することができます(最判平元.10.27)。
× 2. 抵当権者は、原則として、転貸賃料債権(転貸賃料債権)に対して物上代位権を行使することができません(最決平12.4.14)。
抵当権に基づく妨害排除請求 (最判平17.3.10)
■事件の概要
Xは、A会社からA所有の土地に分譲式のホテル(本件建物)を建築することを請け負い、本件建物を完成させたが、Aが請負代金を支払わなかったため、引渡しを留保した。その後、Xは、Aに対する請負代金債権を担保するため、本件建物の抵当権の設定を受け、その登記がなされるとともに、本件建物をBに賃貸するようXの承諾を得ることを条件に、本件建物をAに引き渡した。しかし、Aは、Xの承諾を得ないで、本件建物をB会社に賃貸し、さらにBも、Xの承諾を得ないで、本件建物をY会社他に転貸し、引き渡した。AとB間の賃貸借契約は、いずれの月も相場の5分の1以下の低額である反面、敷金は賃料の100倍と異常に高額であり、また、3社の役員のー部は共通していた。
判例ナビ
Aが請負代金を支払わないまま事実上の倒産をしたため、Xは、抵当権の実行により本件建物の競売を申し立てましたが、買い手が見つからず、売却できませんでした。そこで、Xは、Yに対して、Yによる本件建物の占有により抵当権が侵害されたことを理由に、抵当権に基づく妨害排除請求として、本件建物を明け渡すことおよび抵当権侵害による賃料相当額の損害金の支払いを求める訴えを提起しました。控訴審のXの請求を認容したため、Yが上告しました。
■裁判所の判断
所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、その状態の排除を求めることができる。
そして、占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記の妨害の状態を排除することができるものである。もっとも、抵当権は、抵当不動産の使用収益を目的とするものではないから、抵当不動産の所有者において抵当権者に対し当該不動産を適切に維持保存するよう求める請求権を有するにとどまり、抵当権設定者が抵当不動産を自ら適切に維持管理しない場合に、占有者に対し妨害排除請求をすることができるものではないのである。なお、抵当権者は、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合でも、抵当権は抵当不動産の使用収益を目的とするものではないから、抵当不動産を占有する権原を有しない。また、抵当権は、抵当権設定者の使用収益権の行使を制約するものではなく、抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理する目的で、抵当不動産の使用及びその収益による利益を取得したりするものではないからである。
解説
抵当不動産の不法占有者に対する抵当権者の妨害排除請求は、すでに大判平11.11.16が、抵当不動産の占有の方法が占有者に対する妨害排除請求の代位行使という構成で認めていました。しかし、本件のように、占有権を有する者が抵当不動産を占有している場合には、平成11年判決が採った構成を用いることはできません。そこで、本判決は、平成11年判決をー歩進め、占有権に基づく占有であっても抵当権侵害を生ずる場合があることを認め、抵当権に基づく妨害排除請求を代行使してその侵害状態を是正できるとした。
◆この分野の重要判例
抵当権に基づく返還請求 (最判昭57.3.12)
抵当権者は、第三者の同意を得ないで工場から搬出された右動産について、第三者が即時取得をしない限りは、抵当権の効力が及んでおり、第三者の占有する当該動産に対し抵当権を行使することができるのであるから(同法25条参照)、抵当権の担保価値を保全するためには、目的動産の処分等を阻止するだけでは足りず、搬出された目的動産を元の場所に戻して回復を回復すべき必要があるからである。
過去問
抵当権設定後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者が、その占有権原の登記なくして抵当権設定登記後の競売手続きの買受を対抗する占有が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は占有者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。
(公務員2019年)
工場抵当法により工場に属する建物とともに抵当権の目的にされた動産が、抵当権者に無断で同建物から搬出された場合には、第三者が即時取得しない限り、抵当権者は、目的動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができる。
(行政書士221年)
○ 1. 抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から受けた占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても、占有権原の登記なくして抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる(最判平17.3.10)。
○ 2. 工場抵当法2条により工場に属する土地または建物とともに抵当権の目的にされた動産が、抵当権者の同意を得ないで、備え付けられた工場から搬出された場合、第三者が当該動産を即時取得しない限り、抵当権者は、搬出された動産をもとの備付場所である工場に戻すことを請求することができます(最判昭57.3.12)。