探偵の知識

詐害行為取消権

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)の取消しを裁判所に請求することができる権利をいいます(民法424条1項)。詐害行為取消権は、詐害行為を取り消して債務者の下から流出した財産を回復することによって債務者の責任財産を保全することを目的とする制度です。

特定物債権と詐害行為取消権 (最大判昭36.7.19)

■事件の概要
Xは、Aとの間で、Aの所有する家屋(本件家屋)を目的とする売買契約を締結し、Aに対してその引渡請求権を有していた。ところが、Aは、他にみるべき資産もないのに、本件家屋に債権額800万円の抵当権を有する債権者Yに対し、その債権に対する代物弁済として、時価1000万円以上の本件家屋を提供し、所有権移転登記もして無資力となった。

判例ナビ
Xは、AY間の代物弁済契約は詐害行為であると主張して、その取消しを求める訴えを提起しました。原審(控訴審)がXの請求を認容したため、Yが上告しました。

■裁判所の判断
詐害行為取消権は、総債権者の共同担保の保全を目的とする制度であるが、特定物債権を保全するため、詐害行為取消権の行使が許されるとすれば、特定物債権者は他の債権者に優先して債権の満足を得ることになり、総債権者の共同担保の保全という制度の目的を逸脱することになるから、債権者平等の原則に反する結果となる。したがって、特定物債権を保全するため、詐害行為取消権の行使が許されるとすれば、特定物債権者は他の債権者に優先して債権の満足を得ることになり、総債権者の共同担保の保全という制度の目的を逸脱することになるから、債権者平等の原則に反する結果となる。
そして、詐害行為取消権の行使が許されるとすれば、特定物債権者は他の債権者に優先して債権の満足を得ることになり、総債権者の共同担保の保全という制度の目的を逸脱することになるから、債権者平等の原則に反する結果となる。

解説
本判決は、被保全債権は金銭債権に限られるとした従来の判例を変更し、特定物債権を被保全債権とする詐害行為取消権の行使を認めました。また、取消しは、債務者の詐害行為によって減少した財産の回復にとどまるべきである(一部取消し)とした上で、詐害行為の目的物が本件家屋のように不可分なものである場合は、一部取消しの限度で価格賠償を請求できるとしました。

過去問

詐害行為取消権は、債権者の引き当てとなる債務者の責任財産を回復するための権利であるから、特定物の引渡請求権を有する債権者に対して有する者は、当該特定物が第三者に譲渡されたことで債務者が無資力となったとしても、詐害行為取消権を行使することはできない。 (公務員2019年)
× 1. 特定物債権といえどもその目的物は債務者の総財産を構成するものであり、特定物債権を保全するためには、詐害行為取消権の行使が許されると解するのが相当である(最大判昭36.7.19)。

詐害行為の受益者と詐害行為取消権 (最判平10.6.12)

■事件の概要
Xは、1993(平成5)年12月1日、Aに対し、900万円を貸し付け、同日、Aは、右貸金債務の担保として、AがBに対して現に有し、もしくは将来取得する売掛代金債権全部を、右貸金債務の不履行を停止条件としてXに譲渡する旨約した(本件債権譲渡契約)。その際、XとAは、右停止条件が成就した場合には、あらかじめAから作成交付を受けた債権譲渡通知書を、XがAの名でCに送付することに合意した。その後、Aは、手形の不渡りを出すして、銀行取引停止処分を受けるとともに、弁済期にXに対して支払うべき貸金の決済を怠った。そこで、Xは、本件債権譲渡契約の停止条件が成就したことにより、AがBに対して有していた300万円の代金債権(本件代金債権)を譲り受けたとして、Aとの合意に基づき、1993(平成5)年12月21日、AとCの連名による債権譲渡通知書を内容証明郵便でBに発送し、右書面は、同月22日、Bに到達した(本件譲渡通知)。他方、Yは、1993(平成5)年12月7日、Aに対し、100万円を貸し付け、Zは、同月10日、Aに対し、300万円を貸し付けた。本件代金債権については、AからBに対し、これをYとZにそれぞれ譲渡した旨の通知が発せられたが、右各通知はいずれも、本件譲渡通知より遅れてBに到達した。そこで、Bは、同月28日、本件代金債権の債権者を了知することができないとして、東京法務局に対し、代金額300万円を供託した。

判例ナビ
Xが、YとZに対し、供託金についてXが還付請求権を有することの確認を求める訴えを提起したところ、YとZは、Xに対し、本件債権譲渡につき詐害行為による取消しを求める反訴を提起しました。第1審、控訴審ともに、Yの反訴請求を認容したため、Xが上告しました。

■裁判所の判断
債務者が自己の第三者に対する債権を譲渡した場合において、債務者がこれについて確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権の対象とならないと解するのが相当である。けだし、詐害行為取消権の対象となるのは、債務者の財産の減少を目的とする行為そのものであるところ、債権の譲渡行為とこれについての確定日付の通知とは別個の行為であって、後者は単にその時から債権の移転を債務者その他の第三者に対抗し得る効力を生じさせるにすぎず、譲渡通知の時に右債権移転行為がされたこととなったり、債権移転の効力が生じたりするわけではなく、債権移転行為自体が詐害行為を構成しない場合には、これについてされた譲渡通知のみを取り消して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることは相当とはいい難いからである…。
以上によれば、YとZが、本件債権譲渡契約締結後に取得したAに対する各貸金債権に基づいて、AのXへの本件代金債権の譲渡についてされた本件譲渡通知を対象として、詐害行為による取消しを求める反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないというべきである。そして、前記事実関係によれば、Xは、Aから本件代金債権の譲渡を受けるとともに、YとZに先立って対抗要件を具備したものであるから、…供託金につき還付請求権を有することの確認を求めるXの本訴請求は、理由があることが明らかである。

解説
本件では、債権譲渡通知が詐害行為取消権の対象となるかが問題となり、本判決は、債権譲渡通知は債権譲渡行為とは別個の行為であり、単なる対抗要件にすぎないことを理由に否定しました。

過去問

債務者が自己の第三者に対する債権を譲渡した場合、当該債権譲渡行為自体が詐害行為を構成しないときでも、債務者がこれについてした確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権の対象としてもよい。 (公務員2012年)
× 1. 債務者が自己の第三者に対する債権を譲渡した場合、債務者がこれについてした確定日付のある債権譲渡の通知は、詐害行為取消権の対象となりません(最判平10.6.12)。