債権譲渡
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
債権譲渡とは、債権の内容を変えないで債権を移転することをいいます。債権譲渡は、投下資本を回収する手段として、また、新たな資金を調達する手段として有用です。
債権は、原則として、自由に譲渡できます(民法466条1項本文)が、債権の性質上、譲渡が許されない場合もあります(同項ただし書)。なお、当事者の特約で譲渡を禁止・制限することもできます(譲渡制限特約)が、特約に反してされた譲渡も有効です(同条2項)。
債権の二重譲渡と優劣の基準(最判昭49.3.7)
事件の概要
Xは、AからBに対する2000万円の債権(本件債権)を譲り受け、1969(昭和44)年2月14日付の確定日付のある債権譲渡証書を同日午後3時頃にBに持参して譲渡を通知した。他方、Aに対し1300万円の債権を有するYは、本件債権について仮差押えを行い、裁判所の仮差押命令は、同日午後4時過ぎにBに送達された。
判例ナビ
Xは、Yよりも先に本件債権を譲り受け、対抗要件も具備したから、Yの仮差押命令の執行は許されないとして、第三者異議の訴えを提起しました。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
*強制執行の目的物について所有権等の権利を有する第三者が、強制執行の排除を求めて提起する訴訟(民事執行法38条1項)。
裁判所の判断
民法467条1項が、債権譲渡につき、債務者の承諾と並んで債務者に対する譲渡の通知をもって、債務者のみならず債務者以外の第三者に対する関係においても対抗要件としたのは、債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務者に対し債権の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権が現に譲渡されていないとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていないかぎり、第三者に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかかる債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存することによるものである。このように、民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によってそれが第三者に表示されるものであることを根幹として成立しているものというべきである。そして、同条2項が、右通知又は承諾が第三者に対する対抗要件たり得るためには、確定日付ある証書をもってすることを必要としている趣旨は、債務者が第三者に対し債権譲渡の事実ないことを表示したため、第三者がこれを信頼してその債権を譲り受けたのち右譲渡人と旧債権者が、債務者と他に二重に譲渡じ債務者においてその譲渡の通知又はその承諾のあった日時を遡及せしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至ることを可及的に防止することにあるものと解すべきであるから、前示のような民法1条の債権譲渡についての対抗要件制度の構造ならびに同条の趣旨によるものではないのである。
右のような民法467条の対抗要件制度の構造に鑑みれば、債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって定めるべきではなく、確定日付のある通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時の先後によって決すべきであり、また、確定日付は通知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。そして、右の理は、債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても異なるところはないもの。
解説
本件は、同一の債権について、譲渡と仮差押えがなされた事案ですが、債権が二重に譲渡された場合と同様に考えることができます。債権が二重に譲渡された場合における譲受人相互間の優劣について、本判決は、確定日付のある通知が債務者に到達した日時または確定日付のある債務者の承諾の日時の先後を基準に決定すべきであるとする到達時説を採用しました。
この分野の重要判例
◆差押え通知と譲渡通知の先後が不明な場合の処理 (最判平5.3.30)
国税徴収法に基づく滞納処分としての差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知とが第三債務者に到達したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互の優劣を決することができない場合には、各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当である。
そして、右のように各通知の到達の先後関係が不明であるためにその相互間に優劣を決することができず、それぞれの立場において取得した第三債務者に対する法的地位が変容を受けるわけでもないから、国税の徴収職員は、国税徴収法67条1項に基づき差し押さえた右債権の取立権を取得し、また、債権譲受人も、右債権譲受の存在にかかわらず、第三債務者に対して債権の給付を求める訴えを提起し、勝訴判決を得ることができる...。しかし、このような場合には、前記のとおり、差押債権者と債権譲受人との間では、互いに相手方に対して自己が優先的地位にある債権者であることを主張することが許されない関係に立つ。
そして、滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知の第三債務者への到達の先後関係が不明であるために、第三債務者が差押債権者のいずれができないことを原因として右債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものと解するのが相当である。
設問
AがBに対して1,000万円の代金債権を有しており、Aがこの代金債権をCに譲渡した。AがBに対する代金債権をDにも譲渡した。Cに対する債権譲渡もDに対する債権譲渡も確定日付のある証書でBに通知した場合には、CとDの優劣は、確定日付の先後ではなく、確定日付のある通知がBに到着した日時の先後で決まる。(宅建士2011年)
債権差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知とが第三債務者に到着したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互の優劣を決することができない場合には、当該各通知が同時に第三債務者に到達したと取り扱われる。(公務員2020年)
解説
本件は、同一の債権について国税徴収法67条1項に基づく滞納処分としての差押えと債権譲渡がなされ、差押通知と譲渡通知の(第三)債務者への到達時が先後不明であったため、債務者が債権額を供託(民法494条2項本文)したという事案です。供託金還付請求権が、差押債権者と譲受人のいずれに帰属するかが問題となりましたが、本判決は、差押通知と譲渡通知は同時に到達したものと扱うとした上で、差押えを領収権者とする譲受人と、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額を各々領収取得するとしました。
債権譲渡とは、債権の内容を変えないで債権を移転することをいいます。債権譲渡は、投下資本を回収する手段として、また、新たな資金を調達する手段として有用です。
債権は、原則として、自由に譲渡できます(民法466条1項本文)が、債権の性質上、譲渡が許されない場合もあります(同項ただし書)。なお、当事者の特約で譲渡を禁止・制限することもできます(譲渡制限特約)が、特約に反してされた譲渡も有効です(同条2項)。
債権の二重譲渡と優劣の基準(最判昭49.3.7)
事件の概要
Xは、AからBに対する2000万円の債権(本件債権)を譲り受け、1969(昭和44)年2月14日付の確定日付のある債権譲渡証書を同日午後3時頃にBに持参して譲渡を通知した。他方、Aに対し1300万円の債権を有するYは、本件債権について仮差押えを行い、裁判所の仮差押命令は、同日午後4時過ぎにBに送達された。
判例ナビ
Xは、Yよりも先に本件債権を譲り受け、対抗要件も具備したから、Yの仮差押命令の執行は許されないとして、第三者異議の訴えを提起しました。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
*強制執行の目的物について所有権等の権利を有する第三者が、強制執行の排除を求めて提起する訴訟(民事執行法38条1項)。
裁判所の判断
民法467条1項が、債権譲渡につき、債務者の承諾と並んで債務者に対する譲渡の通知をもって、債務者のみならず債務者以外の第三者に対する関係においても対抗要件としたのは、債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務者に対し債権の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権が現に譲渡されていないとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていないかぎり、第三者に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかかる債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存することによるものである。このように、民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によってそれが第三者に表示されるものであることを根幹として成立しているものというべきである。そして、同条2項が、右通知又は承諾が第三者に対する対抗要件たり得るためには、確定日付ある証書をもってすることを必要としている趣旨は、債務者が第三者に対し債権譲渡の事実ないことを表示したため、第三者がこれを信頼してその債権を譲り受けたのち右譲渡人と旧債権者が、債務者と他に二重に譲渡じ債務者においてその譲渡の通知又はその承諾のあった日時を遡及せしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至ることを可及的に防止することにあるものと解すべきであるから、前示のような民法1条の債権譲渡についての対抗要件制度の構造ならびに同条の趣旨によるものではないのである。
右のような民法467条の対抗要件制度の構造に鑑みれば、債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって定めるべきではなく、確定日付のある通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時の先後によって決すべきであり、また、確定日付は通知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。そして、右の理は、債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても異なるところはないもの。
解説
本件は、同一の債権について、譲渡と仮差押えがなされた事案ですが、債権が二重に譲渡された場合と同様に考えることができます。債権が二重に譲渡された場合における譲受人相互間の優劣について、本判決は、確定日付のある通知が債務者に到達した日時または確定日付のある債務者の承諾の日時の先後を基準に決定すべきであるとする到達時説を採用しました。
この分野の重要判例
◆差押え通知と譲渡通知の先後が不明な場合の処理 (最判平5.3.30)
国税徴収法に基づく滞納処分としての差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知とが第三債務者に到達したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互の優劣を決することができない場合には、各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当である。
そして、右のように各通知の到達の先後関係が不明であるためにその相互間に優劣を決することができず、それぞれの立場において取得した第三債務者に対する法的地位が変容を受けるわけでもないから、国税の徴収職員は、国税徴収法67条1項に基づき差し押さえた右債権の取立権を取得し、また、債権譲受人も、右債権譲受の存在にかかわらず、第三債務者に対して債権の給付を求める訴えを提起し、勝訴判決を得ることができる...。しかし、このような場合には、前記のとおり、差押債権者と債権譲受人との間では、互いに相手方に対して自己が優先的地位にある債権者であることを主張することが許されない関係に立つ。
そして、滞納処分としての債権差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知の第三債務者への到達の先後関係が不明であるために、第三債務者が差押債権者のいずれができないことを原因として右債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものと解するのが相当である。
設問
AがBに対して1,000万円の代金債権を有しており、Aがこの代金債権をCに譲渡した。AがBに対する代金債権をDにも譲渡した。Cに対する債権譲渡もDに対する債権譲渡も確定日付のある証書でBに通知した場合には、CとDの優劣は、確定日付の先後ではなく、確定日付のある通知がBに到着した日時の先後で決まる。(宅建士2011年)
債権差押えの通知と確定日付のある債権譲渡の通知とが第三債務者に到着したが、その到達の先後関係が不明であるために、その相互の優劣を決することができない場合には、当該各通知が同時に第三債務者に到達したと取り扱われる。(公務員2020年)
解説
本件は、同一の債権について国税徴収法67条1項に基づく滞納処分としての差押えと債権譲渡がなされ、差押通知と譲渡通知の(第三)債務者への到達時が先後不明であったため、債務者が債権額を供託(民法494条2項本文)したという事案です。供託金還付請求権が、差押債権者と譲受人のいずれに帰属するかが問題となりましたが、本判決は、差押通知と譲渡通知は同時に到達したものと扱うとした上で、差押えを領収権者とする譲受人と、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額を各々領収取得するとしました。