探偵の知識

実子・養子

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
実子とは、親と自然的血縁関係がある子をいいます。実子には、婚姻関係にある男女間に懐胎・出生した嫡出子と婚姻関係にない男女間に生まれた嫡出でない子(非嫡出子)があり、嫡出子には、民法772条の嫡出推定が及ぶ推定される嫡出子と推定が及ばない推定されない嫡出子があります。さらに、民法に明文規定はありませんが、懐胎しない子との間に親子関係が判例・学説で認められています。
養子とは、養子縁組によって実親の嫡出子としての身分を取得する子をいいます。養子縁組とは、血縁関係のない当事者間に法律上の親子関係を発生させる契約をいい、普通養子縁組(民法792条以下)と特別養子縁組(817条の2以下)の2種類があります。

(嫡出)推定の及ばない子の範囲(最判平26.7.17)
事件の概要
Yの妻Aは、婚姻中にBと不倫関係になったが、その後もYとの夫婦の実態は失われず、2009(平成21)年、Xを出産し、Yは、Xを監護養育していた。しかし、2011(平成23)年、YがAとBの不倫関係を知るに至ったため、Aは、Xを連れて自宅を出てYと別居し、Xと共にB、およびその両親との間で同居するようになった。

判例ナビ
2011(平成23)年、AX間で私的にDNA検査を行ったところ、BがXの生物学上の父である確率は、99.99%であることが判明した。そこで同年12月、Aは、Xの法定代理人として、Yに対し、親子関係不存在確認の訴えを提起しました。原審がXの請求を認容したため、Yが上告しました。

裁判所の判断
民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、同訴えにつき1年(令和4年改正前民法777条)の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる…。そして、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で監護養成されているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように解すると、法律上の父子関係と生物学上の父子関係とが一致しない場合が生ずることになるが、同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることも是認しているものと解される。このような意味での趣旨がなければ、たとえ法律上の夫婦という身分関係を設定する意思があっても、婚姻は無効です(最判昭44.10.31)。
時に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、子の懐胎時期に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかな場合などには、上告理由として同条の推定の及ばないとして嫡出子でないとすることができるから、同条774条以下の規定にかかわらず、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である…。しかしながら、本件においては、AがXを懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず、他に本件訴えの適法性を肯くべき事情も認められない。
以上によれば、本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

解説
(嫡出)推定の及ばない子(本判決は、「推定を受けない嫡出子」と表現しています)とは、民法772条2項の期間内に出生しているものの、その懐胎期間に妻が夫の子を懐胎することが事実上不可能であることが窺える場合をいいます。推定の及ばない子との親子関係は、親子関係不存在確認の訴えによって否認することが認められています。
推定の及ばない子の範囲(判断基準)については、学説上争いがありますが、判例は、夫婦の長期の別居、行方不明、夫の海外での単身赴任等妻が夫によって懐胎することが不可能なであることが外観上明白である場合に推定の及ばない子とする外観説を採用しており、本判決もそれを踏襲しています。そして、本件では、AがXを懐胎した時期にAがYによって懐胎することが不可能である事情が認められないとして、Xの訴えを却下しました。

この分野の重要判例
◆夫婦の出生届と認知の効力(最判昭53.2.24)
嫡出でない子につき、父から、これを嫡出子とする出生届がされ、又は嫡出でない子として出生届がされた場合において、右出生届の戸籍事務管掌者によって受理されたときは、その届出が認知としての効力を有するものと解するのが相当である。けだし、右各出生子の届出をするに至るものが、嫡出でない子を嫡出子と偽るについて事実を表明したものであるが、嫡出でない子について父から出生届がされることは法律上予定されておらず、父が嫡出でない子について出生届がされることは法律上予定されておらず、父が嫡出でない子を嫡出子とする意思の届出であるから、嫡出でない子を嫡出子とするには認知の届出によらなければならないのに、父が、戸籍事務管掌者に嫡出でない子を自己の子であると承認し、各右出生届の受理を申請するものにほかならないこと、各右出生届の受理により、その旨を告白する意思の表示が含まれており、右各届が戸籍事務管掌によって受理されたときは、これに認知届出の効力を認めて差支えないと考えられるからである。

虚偽の嫡出子出生届と養子縁組(最判昭50.4.8)
事件の概要
Aとその妻Xは、子に恵まれなかったため、B夫婦の間に生まれたYを生後間もなく引き取り、AX間の嫡出子として出生届をした。Yは、AXに育てられ、成人して婚姻後も同居してAの家業を手伝っていたが、Xとは不仲であった。そのため、Aが死亡すると、Yは、A所有の本件土地建物からXを追い出した。

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Xは、Yに対して本件土地建物の引渡し等を求める訴えを提起しましたが、訴訟係属中に、Yが本件土地建物について相続を原因とするX共有名義の登記をしました。そこで、Xが本件土地建物の共有名義登記抹消登記手続を求める訴えを提起しました。訴訟において、XはAとYとの間に実親子関係がないことを主張し、Yは、嫡出子出生届に養子縁組の効力が認められるので実親子関係が成立すると反論しました。第1審がXの請求を認容したため、Yは控訴しましたが、棄却されたため、上告しました。

裁判所の判断
所論は、「…嫡出子出生届は養子縁組届として有効と解すべきであるというが、右届出当時施行の民法836条、775条によれば、養子縁組届は法定の届出によって効力を生ずるものであり、嫡出子出生届をもって養子縁組届とみなすことは許されないと解すべきである。」

解説
YはB夫婦の子ですから、YをAとXの嫡出子としてなされた出生届は、虚偽のものです。そこで、本件では、虚偽の嫡出子出生届を養子縁組届とみることができるかどうかが問題となりました。本判決は、これを否定し、Yの上告を棄却しました。

この分野の重要判例
◆形式的養子縁組の効力(最判平28.1.31)
養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は実親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとすることの相続税法の規定によって発生しうるものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものであるにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存しうるものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

解説
当事者に縁組をする意思がない縁組は、無効です(802条1号)。本件は、祖父が税理士の勧めに従って相続税を節税するために孫を養子にしたという事案であり、節税目的の縁組に縁組をする意思を認めることができるかが問題となりました。本判決は、節税の動機と縁組をする意思は併存し得るととして、節税目的の養子縁組であっても直ちに「当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)に当たるわけではないとしました。