利益相反行為
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
利益相反行為とは、親権者と子の利益が相反する行為(民法830条1項)および親権者が数人の子に対して親権を行う場合において、その1人の子と他の子との利益が相反する行為(同条2項)をいいます。親権者と子の利益が相反する場合、親権者は、子のために、家庭裁判所に対し特別代理人の選任を請求しなければなりません。また、数人の子がいて、その1人と他の子との利益が相反する場合は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。
遺産分割等と利益相反行為(最判昭43.10.8)
■事件の概要
1957(昭和32)年5月、Aは、妻Xと協議離婚をし、自己の所有する土地・建物(本件土地建物)をXと子B1(成年)、B2~B4(未成年)に贈与した(持分は、各5分の1)。
1960(昭和35)年3月、Xは、知人CがDから35万円を借り入れるにあたり、自らは共有者の一員として、また、未成年者であったB2、B3、B4の親権者としてこれらを代理し、さらに、成年であるB1の代理人として、右借金について各連帯保証契約(本件連帯保証契約)を締結するとともに、同一債務を担保するため、本件土地建物に抵当権を設定し(本件抵当権設定契約)、その旨の登記を経た。その後、Dは、Cに対する抵当権つき債権をEに譲渡し、Eが抵当権を実行し、Fが本件土地建物を競落し所有権移転登記を経由した。
判例ナビ
Xらは、本件連帯保証契約および本件抵当権設定契約は、B1については無権代理行為にあたり、B2、B3、B4については利益相反行為にあたると主張して、Yに対し、所有権移転登記抹消登記手続を請求する訴えを提起しました。第1審は、Xらの請求を棄却しましたが、控訴審は、B1、B2、B3、B4の請求を認容し、Xの持分(5分の1)の限度でYの所有権取得を認めました。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
1 抵当権の無効設定契約の無効であるときは、その抵当権が実行され、その不動産が競落されても、競落人は、その不動産を取得することができないことは、当裁判所の判例とするところである。
原判決が確定したところによれば本件抵当権設定行為はB1、B2、B3、B4の各持分については無効であるというのであるから、Yが所論の競売手続において競落人として代金を支払ったとしても、B1らの各持分についてこれを取得するに由ないものといわなければならない。
2 原判決がその挙示の証拠のもとにおいて確定した事実、とくに昭和35年3月10日DからEに対する金35万円の貸付について同人の懇望により、Xが、みずからは共有者の一員として、また、未成年者であったB2、B3、B4の親権者としてこれらを代理し、さらに、B1の代理人たる名義をかいて、右借金について各連帯保証契約を締結するとともに、同一債務を担保するため、いわゆる物件一体として本件不動産全部について抵当権を設定する旨を約しその旨の登記を経た等の具体的事実関係のもとにおいては、親権者が抵当権に未成年者の責任の負担する本件不動産における子の持分の競売代金が分割に充当される限度において親権者の責任が軽減され、その意味で親権者が自らの不利益において利益を受け、また、親権者が親権に服する子の保証責任の選択を追求して、親権者から弁済を受けるときは、親権者と子との間の求償関係および子の持分の上に抵当権によって親権者による代位の問題が生ずることの、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自体目的から当然予想されるのであって、B2・B3・B4の関係において本件連帯保証債務負担行為およびこれより行われた本件抵当権設定行為が、民法830条にいう利益相反行為に該当する...。
解説
利益相反行為に当たるかどうかの判断基準については、親権者の意図や当該行為の実質的効果等を考慮せず、行為の外形から判断すべきであるとする形式的判断説が従来の判例です(最判昭42.4.18)。本判決もそれを前提とした上で、第三者の債務について、親権者と子ともに連帯保証をし、かつ、共有する土地建物に抵当権を設定する行為が利益相反行為に当たるとしました。
この分野の重要判例
◆遺産分割と利益相反行為(最判昭49.7.22)
民法826条2項所定の利益相反行為とは、行為の客観的性質上数人の子相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指すものであって、その行為の結果現実に子の間に利害の対立が生ずるか否かは問わないものと解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と認められるから、前記条項の適用上は、利益相反行為に該当するものといわなければならない。したがって、共同相続人中の未成年の未成年者が、相続権を有しない1人の親権者の親権に服するときは、右未成年者のうち当該親権者によって代理される1人の者を除きその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要するものであって、もし1人の親権者が数人の未成年者の法定代理人として代理行為をしたときは、被代理人全員につき法定条項に違反するものというべきであり、かかる代理行為によって成立した遺産分割の協議は、被代理人全員による追認がないかぎり、無効であるといわなければならない…。
解説
本判決は、遺産分割協議が826条2項の利益相反行為に当たるとしました。そして、共同相続人の中に相続権を有しない1人の親権者の親権に服する数人の未成年者がいる場合、親権者は、そのうちの1人だけを代理して協議に参加することができ、数人を代理した場合は、代理された者全員の追認がなければ遺産分割は無効であるとしました。
過去問
1 未成年者の親権者Bが、Cの債務を連帯保証するとともに、Aを代理してCの債務を連帯保証し、さらにBが、同債務を担保するため、A及びBの共有不動産について、共有者の一人及びAの代理人として抵当権を設定した場合、Aのための当該連帯保証契約及び抵当権設定行為は利益相反行為に当たる。(公務員2016年)
Aが死亡し、その子B、C、D及びEが共同相続人となったが、D及びEは未成年者だったため、D及びEの親権者で相続権を有しないFがD及びEを代理して遺産分割協議を行い、Aの遺産を全てBに帰属させる旨の協議が成立した場合、当該遺産分割協議は利益相反行為に当たる。(公務員2016年)
1 O 共同担保、債権者が抵当権を実行すると、A所有不動産におけるAの持分の競売代金が弁済に充当される限度においてBの責任が軽減されるので、Bは、Aの不利益において利益を受けることになります。また、債権者がBの連帯保証責任を選択して、Bから弁済を受けると、BとAとの間の求償関係およびAの持分上の抵当権についてBによる代位の問題が生じます。したがって、Aのための連帯保証契約および抵当権設定行為は利益相反行為に当たります(最判昭43.10.8)。
2 O 遺産分割協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生じさせるおそれのある行為ですから、利益相反行為に当たります。したがって、共同相続人である数人の未成年者が、相続権を有しない親権者の親権に服する場合、未成年者のうち当該親権者によって代理される1人の者を除くその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割協議に加わる必要があります(最判昭49.7.22)。共同相続人のうちのいずれか1人を代理し、他の1人については特別代理人を選任してその者が代理しなければなりません(826条2項)。
利益相反行為とは、親権者と子の利益が相反する行為(民法830条1項)および親権者が数人の子に対して親権を行う場合において、その1人の子と他の子との利益が相反する行為(同条2項)をいいます。親権者と子の利益が相反する場合、親権者は、子のために、家庭裁判所に対し特別代理人の選任を請求しなければなりません。また、数人の子がいて、その1人と他の子との利益が相反する場合は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。
遺産分割等と利益相反行為(最判昭43.10.8)
■事件の概要
1957(昭和32)年5月、Aは、妻Xと協議離婚をし、自己の所有する土地・建物(本件土地建物)をXと子B1(成年)、B2~B4(未成年)に贈与した(持分は、各5分の1)。
1960(昭和35)年3月、Xは、知人CがDから35万円を借り入れるにあたり、自らは共有者の一員として、また、未成年者であったB2、B3、B4の親権者としてこれらを代理し、さらに、成年であるB1の代理人として、右借金について各連帯保証契約(本件連帯保証契約)を締結するとともに、同一債務を担保するため、本件土地建物に抵当権を設定し(本件抵当権設定契約)、その旨の登記を経た。その後、Dは、Cに対する抵当権つき債権をEに譲渡し、Eが抵当権を実行し、Fが本件土地建物を競落し所有権移転登記を経由した。
判例ナビ
Xらは、本件連帯保証契約および本件抵当権設定契約は、B1については無権代理行為にあたり、B2、B3、B4については利益相反行為にあたると主張して、Yに対し、所有権移転登記抹消登記手続を請求する訴えを提起しました。第1審は、Xらの請求を棄却しましたが、控訴審は、B1、B2、B3、B4の請求を認容し、Xの持分(5分の1)の限度でYの所有権取得を認めました。そこで、Yが上告しました。
■裁判所の判断
1 抵当権の無効設定契約の無効であるときは、その抵当権が実行され、その不動産が競落されても、競落人は、その不動産を取得することができないことは、当裁判所の判例とするところである。
原判決が確定したところによれば本件抵当権設定行為はB1、B2、B3、B4の各持分については無効であるというのであるから、Yが所論の競売手続において競落人として代金を支払ったとしても、B1らの各持分についてこれを取得するに由ないものといわなければならない。
2 原判決がその挙示の証拠のもとにおいて確定した事実、とくに昭和35年3月10日DからEに対する金35万円の貸付について同人の懇望により、Xが、みずからは共有者の一員として、また、未成年者であったB2、B3、B4の親権者としてこれらを代理し、さらに、B1の代理人たる名義をかいて、右借金について各連帯保証契約を締結するとともに、同一債務を担保するため、いわゆる物件一体として本件不動産全部について抵当権を設定する旨を約しその旨の登記を経た等の具体的事実関係のもとにおいては、親権者が抵当権に未成年者の責任の負担する本件不動産における子の持分の競売代金が分割に充当される限度において親権者の責任が軽減され、その意味で親権者が自らの不利益において利益を受け、また、親権者が親権に服する子の保証責任の選択を追求して、親権者から弁済を受けるときは、親権者と子との間の求償関係および子の持分の上に抵当権によって親権者による代位の問題が生ずることの、前記連帯保証ならびに抵当権設定行為自体目的から当然予想されるのであって、B2・B3・B4の関係において本件連帯保証債務負担行為およびこれより行われた本件抵当権設定行為が、民法830条にいう利益相反行為に該当する...。
解説
利益相反行為に当たるかどうかの判断基準については、親権者の意図や当該行為の実質的効果等を考慮せず、行為の外形から判断すべきであるとする形式的判断説が従来の判例です(最判昭42.4.18)。本判決もそれを前提とした上で、第三者の債務について、親権者と子ともに連帯保証をし、かつ、共有する土地建物に抵当権を設定する行為が利益相反行為に当たるとしました。
この分野の重要判例
◆遺産分割と利益相反行為(最判昭49.7.22)
民法826条2項所定の利益相反行為とは、行為の客観的性質上数人の子相互間に利害の対立を生ずるおそれのあるものを指すものであって、その行為の結果現実に子の間に利害の対立が生ずるか否かは問わないものと解すべきであるところ、遺産分割の協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生ずるおそれのある行為と認められるから、前記条項の適用上は、利益相反行為に該当するものといわなければならない。したがって、共同相続人中の未成年の未成年者が、相続権を有しない1人の親権者の親権に服するときは、右未成年者のうち当該親権者によって代理される1人の者を除きその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割の協議に加わることを要するものであって、もし1人の親権者が数人の未成年者の法定代理人として代理行為をしたときは、被代理人全員につき法定条項に違反するものというべきであり、かかる代理行為によって成立した遺産分割の協議は、被代理人全員による追認がないかぎり、無効であるといわなければならない…。
解説
本判決は、遺産分割協議が826条2項の利益相反行為に当たるとしました。そして、共同相続人の中に相続権を有しない1人の親権者の親権に服する数人の未成年者がいる場合、親権者は、そのうちの1人だけを代理して協議に参加することができ、数人を代理した場合は、代理された者全員の追認がなければ遺産分割は無効であるとしました。
過去問
1 未成年者の親権者Bが、Cの債務を連帯保証するとともに、Aを代理してCの債務を連帯保証し、さらにBが、同債務を担保するため、A及びBの共有不動産について、共有者の一人及びAの代理人として抵当権を設定した場合、Aのための当該連帯保証契約及び抵当権設定行為は利益相反行為に当たる。(公務員2016年)
Aが死亡し、その子B、C、D及びEが共同相続人となったが、D及びEは未成年者だったため、D及びEの親権者で相続権を有しないFがD及びEを代理して遺産分割協議を行い、Aの遺産を全てBに帰属させる旨の協議が成立した場合、当該遺産分割協議は利益相反行為に当たる。(公務員2016年)
1 O 共同担保、債権者が抵当権を実行すると、A所有不動産におけるAの持分の競売代金が弁済に充当される限度においてBの責任が軽減されるので、Bは、Aの不利益において利益を受けることになります。また、債権者がBの連帯保証責任を選択して、Bから弁済を受けると、BとAとの間の求償関係およびAの持分上の抵当権についてBによる代位の問題が生じます。したがって、Aのための連帯保証契約および抵当権設定行為は利益相反行為に当たります(最判昭43.10.8)。
2 O 遺産分割協議は、その行為の客観的性質上相続人相互間に利害の対立を生じさせるおそれのある行為ですから、利益相反行為に当たります。したがって、共同相続人である数人の未成年者が、相続権を有しない親権者の親権に服する場合、未成年者のうち当該親権者によって代理される1人の者を除くその余の未成年者については、各別に選任された特別代理人がその各人を代理して遺産分割協議に加わる必要があります(最判昭49.7.22)。共同相続人のうちのいずれか1人を代理し、他の1人については特別代理人を選任してその者が代理しなければなりません(826条2項)。