探偵の知識

遺産分割

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
遺産分割は、相続人が数人いる場合に相続財産を各相続人に分配する手続です。遺産分割は、原則として、自由に行うことができます(民法907条1項本文)が、被相続人は、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて分割を禁止することができます(908条)。
遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼって生じます(909条本文)。ただし、第三者の権利を害することができません(同条ただし書)。

遺産分割協議の解除(最判平元.2.9)
■事件の概要
Aが死亡し、共同相続人であるAの妻B、長男Y、次男Xの間で、YがBと同居してBを扶養すること等を条件に、土地等Aの遺産の大部分をYが取得することを内容とする遺産分割協議が成立した。しかし、Yは、Bと同居したものの不仲になり、Bの世話をしなくなった。

判例ナビ
BとXは、Yの債務不履行を理由として遺産分割協議を解除し、遺産分割によりYが所有権移転登記を経由した土地について、法定相続分に従った更正登記手続を求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともにBとXの請求を棄却したため、BとXが上告しました。

■裁判所の判断
共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して当該協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって当該遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割は、被相続人の死亡により共同相続人の共有に属することになった相続財産について、その共有関係を清算し、各相続人の単独所有に確定することを目的として行われるものであり、その協議は、右性質上、いったん成立した以上は、その協議において債務を負担した相続人がその債務の不履行をしたとしても、その債権を有する相続人が法定解除権の行使としてこれを一方的に解除することは許されず、ただ右債務の履行を求めるか、あるいは、その不履行により被った損害の賠償を求めるにとどまるべきものと解するのが、遺産分割の法的安定を著しく害することを避ける所以であるからである。

解説
本件では、相続人の1人が遺産分割協議によって負担した債務を履行しない場合、他の相続人は541条によって遺産分割協議を解除できるかが問題となりました。本判決は、遺産分割協議という協議の目的が達成されるので、協議の不履行という問題は生じないこと等を理由に541条による遺産分割協議の解除を否定し、上告を棄却しました。

この分野の重要判例
◆遺産分割協議の合意解除(最判平2.9.27)
共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を期すものと解されるから、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。

解説
本判決は、共同相続人全員で遺産分割協議の全部または一部を合意解除して改めて遺産分割協議をすることを認めたものです。

◆遺産分割協議と詐害行為取消権(最判平11.8.11)
共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。

過去問
1 共同相続人間において遺産分割の協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して当該遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法第541条によって当該遺産分割協議を解除することができない。(公務員2016年)
2 遺産分割協議は、共同相続人の間で相続財産の帰属を確定させる行為であるが、相続人の意思を尊重すべき身分行為であり、詐害行為取消権の対象となる財産権を目的とする法律行為にはあたらない。(行政書士2013年)

1 O 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して協議において負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は、541条によって遺産分割協議を解除することができません(最判平元.2.9)。
2 X 遺産分割協議は、相続財産の帰属を確定するものであり、詐害行為取消権の対象となる財産権を目的とする法律行為です(最判平11.8.11)。