探偵の知識

行政立法・行政計画

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

ガイダンス
行政立法とは、行政機関が、法条の形式で、一般的抽象的な規範(ルール)を定めることをいいます。行政立法は、国民の権利義務に関する法規としての性質を持つ法規命令と法規としての性質を持たない行政規則に分類されます。

■事件の概要:委任の範囲 (最判平22.1)
Xは、スペインで購入して日本に持ち帰った外国製刀剣(サーベル)2本について、銃砲刀剣類所持等取締法(法)14条1項の「美術品として価値のある刀剣類」に当たるとし、同条2項に基づき、Y(東京都教育委員会)に登録を申請した。これに対し、Yは、登録の方法等を定めた銃砲刀剣類登録規則(規則)4条2項により登録の対象は日本刀に限られるとして登録拒否処分(本件処分)をした。

判例ナビ
登録を受けないと、Xは、サーベルを所持することができません。そこで、Xは、本件処分の取消しを求めて訴えを提起しました。第1審、控訴審ともにXの請求を棄却したため、Xが上告しました。

裁判所の判断
銃砲刀剣類所持等取締法(以下「法」という。)14条1項による登録を受けない刀剣類が、法3条1項6号により、刀剣類の同条本文による所持禁止の除外対象とされているのは、「刀剣類には美術品として文化財的価値を有するものがあるから、このような刀剣類について登録の道を開くことによって所持を許し、文化財として保存活用を図ることは、文化財保護の観点からみて有意義であり、また、このような美術品として文化財的価値を有する刀剣類に限って所持を許しても危害の予防上重大な支障を生ずるものではないとの趣旨によるものと解される。このことは、法4条による刀剣類の所持の許可の場合は、危害予防の観点から、これを所持する者が法5条1項各号に該当しない者でなければ許可を受けることができないものとされているのに対し、法14条1項による登録の場合は、登録を受けようとする者について右のような定めはなく、当該刀剣類自体が同項所定の「美術品として価値のある刀剣類」に該当すると認められれば、その登録を受けることができる、登録を受けた後もこれを所持できるものとされており、しかもその登録事務は文化庁長官が所掌していることと照らしても明らかである...。

そして、このような刀剣類の登録の手続に関しては、法14条3項が「1項の登録は、登録審査委員の審査を経てしなければならない。」と定めるほか、同条5項が「第1項の登録の方法、第3項の登録審査委員の任命及び服務、同項の鑑定の基準並びにその手続に関し必要な事項は、文部省令で定める。」としており、これらの規定を受けて銃砲刀剣類登録規則(昭和33年文化財保護委員会規則第1号。なお、右規則は、昭和43年法律第99号附則5項により、文部省令としての効力を有するものとされている。以下「規則」という。)が制定されている。その趣旨は、どのような刀剣類を法が登録において文化財的価値を有するものとして登録の対象とするかが相当であるかの判断には、専門技術的な検討を必要とすることから、登録に際しては、専門的知識経験を有する登録審査委員の鑑定に基づくことを要するものとするとともに、その鑑定の基準を設定すること自体も専門技術的な領域に属するものとしてこれを規則に委任したものというべきであり、したがって、規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の趣旨の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一応の裁量権が認められているものと解するのが相当である...。

そして、規則に定められた刀剣類の鑑定の基準をみると、規則4条2項は、「刀剣類の鑑定は、日本刀であって、次の各号の一に該当するものがあるか否かについて行なうものとする。」とした上、同項1号に「姿、鍛え、刃文、彫物等に美しさが認められ、又は各派の特徴が明らかにされているもの」を、同項2号に「資料的価値があると認められるもの」を、同項3号に「銘文、茎、外装等が歴史的価値のあるもの」を、同項4号に「前各号に掲げるものに準ずる刀剣類で、その外装が工芸品として価値のあるもの」をそれぞれ掲げており、これによると、法14条1項の文理上は日本刀以外の刀剣類を除外していないものの、右鑑定の基準としては、日本刀であって、美術品として文化財的価値を有するものに限る旨のものが定められていることが明らかである。

そこで、右の規則が法の委任の趣旨を逸脱したものであるか否かをみるに、刀剣類の文化財的価値に着目してその登録の道を開くという前記の趣旨を考慮すると、いかなる刀剣類を美術品として価値があり、その登録を認めるべきかを決定するに当たっても、その刀剣類が我が国において有する文化財的価値に関する考慮を欠かすことはできないものというべきである。そして、...関する文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、右のように我が国において伝統的に美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するものの登録を認めて我が国において美術品としての文化財的価値を有すると認められる登録の対象であるとしたこと、法14条1項の趣旨に沿う合理性を有する基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない、そうすると、Xの登録申請に係る本件サーベル2本はXがスペインで購入して日本に持ち帰った外国製であって、規則4条2項所定の鑑定の基準に照らして、登録の対象となる刀剣類に該当しないことが明らかであるから、以上と同旨の判断に立って、Xの右登録申請を拒否したYの本件処分に違法はないとした原審の判断は正当として是認することができ、論旨は採用の余地はない。

解説
銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)は、刀剣類の所持を原則禁止しつつ、都道府県の教育委員会の登録を受けた刀剣類の所持を認めています(3条1項6号、14条1項)。登録は鑑定に基づいてされますが、鑑定基準は文部科学省令で定めることとされ、省令としての効力を有する銃砲刀剣類登録規則に定められています。

銃刀法は登録の対象を「美術品として価値のある刀剣類」としているだけで、日本刀に限定していません。しかし、銃刀法の委任を受けた鑑定基準を定める規則が鑑定の対象を日本刀に限定しているため、サーベルを登録することはできません。そこで、この鑑定基準は銃刀法の委任の趣旨に反しないかどうかが問題となりましたが、本判決は、銃刀法の趣旨に沿う合理性を有するとして鑑定基準は無効ではないとしました。

この分野の重要判例
旧監獄法施行規則の違法性(最判平9.7.9)
旧監獄法は、規則121条ないし128条の信書の監視に関する規定を...(中略)...規則120条(及び124条)は、結局、未決勾留者と幼年者との接見を禁止ないし制限する限度において、法50条の委任の範囲を超えた無効のものと解せざるを得ない。

解説
本件は、未決勾留者Xが拘置所長に対し、姪(10歳)との面会許可を申請したところ、不許可とされたため(均)に対し、本件不許可処分は違法であると主張し、未決勾留者の接見を求める訴訟を提起したという事案です。本件では、旧監獄法の委任を受けて未決勾留者と14歳未満の幼年者の接見を禁止する旧監獄法施行規則の規定の効力が問題となり、本判決は、旧監獄法の委任の範囲を超え無効であるとしました。なお、本判決後に制定された監獄法120条は削除されました。また、旧監獄法は、現在では、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(刑事収容施設法)となっています。

■事件の概要:通達の法的性質 (最判昭43.12.24)
墓地、埋葬等に関する法律は、墓地の管理者は、「正当な理由」がなければ埋葬を拒んではならないとし(13条)、これに違反した者に罰則を科している(21条)。1960(昭和35)年2月、厚生省(現厚生労働省)は、かねてからX宗教法人とA宗教法人の対立が先鋭化し、Xが経営する墓地へのAの信者の埋葬を拒否するという事件が生じていたことから、13条の「正当な理由」について、「依頼者が他の宗派信者であることのみを理由として埋葬を拒否することは、『正当の理由』による埋葬拒否とは認められない」旨の通達(本件通達)を発出した。

判例ナビ
Xは、Y(厚生(現厚労)大臣)に対し、本件通達によって宗旨の異同を意に反して埋葬の受忍をすべきことが強制された等として本件通達の取消しを求める訴えを提起した。第1審、控訴審ともに、本件通達は処分に該当しない等としてXの訴えを不適法としたため、Xが上告した。

裁判所の判断
元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指導し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織の内部における命令にすぎないから、これらの者がその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈を誤り国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。このような通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんである。裁判所は、法令の解釈適用に当たっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に反する取扱が法令の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。
このような通達一般の性質、前述した本件通達の形式、内容および所轄庁の引用する一定の決定(告示の形式に照らし何人も了知することができる。)その他原審の適法に確定した事実ならびに墓地、埋葬等に関する法律の規定を併せ考えれば、本件通達は従来なされていた法の解釈や取扱いを変更するものではあるが、それはもっぱら知事以下の行政機関を拘束するにとどまるもので、これらの機関は右通達に反する行為をすることはできないとしても、国民は直接これに拘束されることはなく、従って、右通達が直接にXの所有権を侵害し、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受忍義務を課するものとはいえない。また、墓地、埋葬等に関する法律21条違反の有無に関しても、裁判所は本件通達における法律解釈に拘束されるものではないのみならず、同法13条にいわゆる正当の理由の判断にあたっては、本件通達に示されている事情以外の事情も考慮すべきものと解せられるから、本件通達が発せられたからといって直ちにXにおいて刑罰を科せられるおそれがあるともいえない。さらに、原審においてXの主張するような損害、不利益は、原判示のように、本件通達自体によって生じたものということもできない。
そして、現行法上行政訴訟において取消の訴訟の対象となるのは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的効果を及ぼす性質を有するような行政庁の処分でなければならないのであるから、本件通達が直接国民の権利義務の変動を求める作用は有しないものとして却下すべきものである。

解説
本判決は、通達が法規としての性質を持つものではなく行政組織内部における命令にすぎないこととを理由に一般国民及び裁判所がそれに拘束しないことを明らかにした。そして、本件通達は直接に墓地経営権、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受忍義務を課したりするものではないとして、取消訴訟の対象である処分(行政事件訴訟法3条2項)に当たらないとして、Xの上告を棄却しました。

■事件の概要:都市計画と公害防止計画 (最判平11.11.25)
1991(平成3)年3月、建設大臣(現国土交通大臣)Yは、都市計画事業として、東京都知事に対して環状6号線道路新設事業を認可(都市計画法(以下「法」という。)59条2項)した。また、首都高速道路公団に対して中央環状新宿線建設事業を承認(同条3項)した。これに対し、右都市計画事業の事業地の不動産につき権利を有するXが、事業地の周辺に居住する者もしくは通勤・通学者であるYらは、(1)旧都市計画法の下で決定された環状6号線整備計画は、法附則13条が要求する公害防止計画に適合しない、(2)中央環状新宿線建設計画は、東京地域公害防止計画に適合しない等と主張して、認可処分および承認処分(本件各処分)の取消しを求める訴えを提起した。

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第1審、控訴審ともに、Xらのうち事業地内の不動産につき権利を有する者の原告適格は認めましたが、事業地周辺居住者、通勤・通学者の原告適格を認めませんでした。そして、本件各処分をいずれも適法としてXらの請求を棄却したため、Xらが上告しました。

裁判所の判断
都市計画法2条によれば、旧都市計画法(大正8年法律第36号。以下「旧法」という。)の下で違法、有効に決定された都市計画は、改めて法の規定する手続、基準に従って決定し直さないでも、そのまま法に基づいて決定、有効に決定された都市計画と認められ、法の都市計画に関する規定が適用されることになると解される。したがって、旧法の下で違法、有効に決定された都市計画において定められた都市施設を整備する事業を行う場合には、新法は直接には適用されず、その変更とされる法9条1項の規定も適用されない。しかし、旧法の事業の内容が旧法の下においては都市計画の基準として公害防止計画に適合することを要求するとされてはいなかったのであるから、旧法の下において決定された環状6号線整備計画は、その後定められた公害防止計画に適合するか否かにかかわらず、現行法においてもそのまま有効な都市計画とみなされるものというべきであり、右整備計画に適合するものとしてなされた環状6号線道路整備事業の認可に違法はない。

法13条1項柱書後段は、前段のとおり、都市計画が公害防止計画の妨げとならないようにすることを規定したものであると解される。そして、公害防止計画とは、「当該地域において実施されるべき公害の防止に関する施策に係る計画」のことをいうのであって(公害対策基本法〔昭和42年法律第132号〕19条1項〔現環境基本法17条〕)から、そこで扱うこととされている施策を妨げるものであれば、都市計画は当該公害防止計画に適合しないことになるのである。法13条1項柱書後段の右趣旨と無関係に公害を増大させることを都市計画の妨害と解していることには無理があるというべきである。そして、両者の適合に関して満足すべき事実関係の下においては、中央環状新宿線建設計画が本件公害防止計画の妨げとなるとしている施策の妨げとなるものではないことは明らかであるから、右建設計画は、本件公害防止計画に適合するというべきであり、法13条1項柱書後段に違反しない。

解説
本件では、まず、Xらの原告適格が問題となりました。本判決は、原告適格について規定する行政事件訴訟法9条1項の趣旨が「法律上の利益を有する者」を、「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」をいい、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する」とした上で、Xらのうち、事業地内の不動産について権利を有する者の原告適格は肯定しましたが、事業地の周辺居住者・通勤・通学者の原告適格は否定しました。もっとも、9条は、2004(平成16)年改正で2項が追加され、同項を適用し原告適格を肯定する判断が平成17.12.7によって判断変更が行われています。

さらに本件では、都市計画が公害防止計画に適合するかどうかが問題となりましたが、本判決は、都市計画が公害防止計画において執られる施策の妨げにならなければ適合するとしました。

この分野の重要判例
都市計画と裁量審査(最判平18.1.12)
都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)は、都市計画事業の認可の基準の一つとして、事業の内容が都市計画に適合することを掲げているから(61条)、都市計画事業が適法であるためには、その前提となる都市計画が適法であることが必要である。

(続きの判断)

都市計画法は、都市計画について、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条)、都市施設の整備に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならず、当該都市について公害防止計画が定められているときは当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書き)、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号)、このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する施設の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって、裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が法の趣旨に反してなされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に反する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事項を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると認めるべきものと解するのが相当である。

解説

本件は、小田急線の一部区間の高架事業について、周辺住民が都市計画事業認可の取消しを求めたという事案です。最大判平17.12.7が周辺住民の原告適格を認めたのを受けて、本判決が事業認可の適否について実体判断を示しました(結論は上告棄却であり、原告の請求は認められませんでした)。

都市の円滑活動を支え、生活に必要な都市の骨組みを形成する都市計画施設に定めることができるものを都市施設といいます(都市計画法11条1項)。小田急線のような都市高速鉄道もその1つです。都市計画に定められた都市施設を都市計画施設といい(4条6項、11条1項)、都市計画施設を都市計画事業(4条15項)として整備するには、都道府県知事等の認可等が必要です(59条)。本判決は、都市施設に関する都市計画の決定・変更には、政策的、技術的な見地からの判断が不可欠であり、その判断は行政庁の広範な裁量に委ねられているとしました。そして、行政庁の裁量権の行使が裁判所の審査によって違法とされる場合を明らかにしました。