行政契約
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
ガイダンス
行政主体が行政目的を達成するために締結する契約を行政契約といいます。行政契約にも契約自由の原則が妥当しますが、司法審査の対象は、私法上の契約と異なり、そのまま妥当するわけではありません。例えば、市町村が水道水を供給するために住民との間で締結する給水契約の場合、水道事業者がする水道水の供給契約の申込みを拒むことはできません(水道法15条1項)。
事件の概要
1995(平成7)年、A県B知事から廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づく産業廃棄物処分業の許可を受けているYは、B町との間で、産業廃棄物の最終処分場の設置・使用について、「処分場の使用期限を2003(平成15)年12月31日までとし、期限を越えて産業廃棄物の処分を行ってはならない」とする条項(旧期限条項)を含む公害防止協定(旧協定)を締結した。その後、Yは、処分場の規模を拡大するための施設増設変更許可をB知事から受けたため、1998(平成10)年、B町との間で、改めて公害防止協定(本件協定)を締結したが、本件協定にも旧期限条項と同じ内容の期限条項(本件期限条項)があった。
Yが使用期限を経過しても処分場の使用を継続したため、B町はYに対し、使用の差止めを求める訴えを提起しました。訴訟が第1審に係属中、Bは合併によりX市となり、Xは、Bの訴訟上の地位を承継しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
判例ナビ
Yが使用期限を経過しても処分場の使用を継続したため、BはYに対し、使用の差止めを求める訴えを提起した。訴訟が第1審に係属中、Bは合併によりX市となり、Xは、Bの訴訟上の地位を承継しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
公害防止協定
旧協定の締結された廃棄物処理法(平成9年法律85号による改正前のもの。以下、単に「廃棄物処理法」という。)は、廃棄物の排出の抑制、適正な処理、処理等を行い、生活環境を清潔にすることによって、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とするが、その目的を達成するために廃棄物の処理に関する事業等を行おうとするものである。そして、同法は、廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該事業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(14条4項)、知事は、所定の要件に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず(14条6項)、また、許可を受けた者(以下「処分業者」という。)が許可を要する行為をしたときは法令に違反したときは、知事は、許可を取り消し、又は期間を定めてその事業の全部もしくは一部の停止を命ずることができると定めている(14条の3)。これらの規定は、知事が、処分業者としての適格や処理施設の設置基準適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制するものである。したがって、許可を受けた者については、許可処分業者としての地位に基づいて、上記の知事の許可がなければ、許可処分業者が有する限り事業や処理施設の使用の継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。かえって、処分業者にこのような義務を課すと請求又は命令において知事は、処分業者としての地位とは別に、知事に対する処分業者の意に反する対応方針、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束する旨を約束するものであり、その約束を自発的に履行することを期待できるとしても、許可処分業者が有効期間内に事業や処理施設が同法の趣旨に反する行為を行うことはできないと解される。したがって、旧期限条項が同法の趣旨に反するとの判決に至ることはできないのであって、旧法によっても、変更されないものの、同法の趣旨によって、本件期限条項が本件協定締結の際に有効であったとしても、その後の法改正によっても無効とならないということはできない。そして、旧期限条項が本件期限条項が知事の許可の有無を法的な意味において問われるものではない。
以上の設定により明らかであるから、旧期限条項及び本件期限条項は、本件条例15条が予定する協定の基本的事情であるから、これに違反するものでもない。以上によれば、Bの地位を承継したXとの間において、原審の判示するような理由によって本件期限条項の法的効力を否定することはできないというものである。A廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例のこと。その2条は、住民又は市町村の長が、各施設の設置との間において、生活環境の保全のために必要な事項に関する協定を締結しようとするときは、市町村長が必要な助言を行うものと認める。
解説
公害防止協定とは、公害の発生原因となるような事業を営む事業者と地方公共団体の間で、事業者が公害防止措置を採ることを約束することを内容とする協定をいいます。本判決は、産業廃棄物最終処分場の使用期限を定めた約束の期限が法的拘束力を有することから、事業者が協定に違反することを認めました。
過去問
廃棄物の処理および清掃に関する法律における産業廃棄物処分業等の許可・処理施設の設置許可等を定める規定は、知事が、処分業者としての適格性や処分施設の設置要件を判断し、同法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、知事の許可は、処分業者に対し、許可処分を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものであるから、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断ではできない。(公務員2012年)
判例は、産業廃棄物処理法の規定は、知事が、処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、知事の許可が、処分業者に対し、許可が有効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないとしています。そして、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えるとしています(最判平21.7.10)。
水道供給契約(最判平11.1.21)
事件の概要
X不動産会社は、Y市にマンションを建設する計画を立て、建築予定戸数408戸の給水申込みをした。Yは、水道事業給水規程で「開発行為又は建築で合計戸数20戸以上」のものは「共同住宅で20戸を超えて新築する場合は合計21戸」に該当しないと定めていたため、給水を拒否した。
判例ナビ
Xは、Yの給水拒否は「正当な理由」がある場合に限って給水を拒否できるとする水道法(注)15条1項に違反すると主張して、Yに対し、給水申込みの承諾等を求める訴えを提起しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審は、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
裁判所の判断
水道法15条1項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒絶せざるを得ない理由を指すものと解されるが、具体的にいかなる事由がそれに当たるかについては、同項の趣旨、目的のほか、法令全体の趣旨、目的が関連する規定に照らして目的的に解釈するのが相当である。…水道が国民にとって欠くことのできないものであることからすると、市町村は、水道事業を経営するに当たり、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、可能な限り水道水の需要を満たすことができるように、中長期的展望に立って合理的かつ余裕のある給水に関する計画を立て、これを実施しなければならず、当該供給能力によって対応することができる限り、給水契約の申込みに対して応ずべき義務があり、みだりにこれを拒否することは許されないものというべきである。しかしながら、他方、水が限られた資源であることを考慮すれば、市町村が正常な企業努力を尽くしてもなお水の供給に一定の限界があり得ることは否定することはできないのであって、給水義務は絶対的なものと解すべきでなく、給水契約の申込みがそのような合理的な給水計画によって対応することができないものである場合には、法15条1項にいう「正当の理由」があるものとして、これを拒むことが許されると解すべきである。以上の見地に立って考えると、水の絶対量が間に合っているにもかかわらず、自然的条件としていては給水区域内で現実に水の需要を増加させることになり、ひいては水道事業者である市町村としては著しい給水人口の増加が見込まれるために、近い将来において導水管容量が上回り給水不足が生ずることが確実に予想されるという地域にあって、その結果として、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講ずることがなければならないのであるが、困難な自然的条件を克服して水量を確保できる限り速やかに第一になされるべきであるが、それによってもなお不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を採ることも許されるべきである。右のような状況の下における措置の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することは、法15条1項にいう「正当の理由」があるということができるものと解される。
解説
水道法15条1項は、「正当の理由」がある場合に限り、水道事業者が給水の申込みを拒むことを認めています。本判決は、「正当の理由」の意味を明らかにしたうえで、大規模マンションの分譲業者に対する給水拒否に「正当の理由」があるとしました。
この分野の重要判例
指導要綱による給水拒否(最決平18.1.24)
原判決の認定によると、Yが本件マンションを建設中のX及びその購入者から提出された給水契約の申込書を受理することを拒絶した時期には、既に、Xは、Yの宅地開発に関する指導要綱に基づく行政指導には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も、入居に当たり給水が現実になされるかどうかが重大な問題であると認識している。このような時期にあったことは明らかであった。Yは、分譲用マンションの購入者に対する時間的に給水を必要とするという要請を考慮すると、原判決の認定によると、Yは、右の指導要綱を実効あらしめるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないとXの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することによって自ら給水義務を負うことになるような事情もなかったというのである。そうすると、原判決が、この給水契約については、たとえ水道事業者として、たとえ指導要綱に従わない事業者からの給水契約の締結であったとしても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、Yには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。
解説
本件は、宅地開発指導要綱において、「一定規模以上の中高層建築物を建設する事業主は教育施設負担金を提供することを求め、これに従わない場合には上水道の使用等について必要な協力を得られないことがある」等を定めている高崎市が、同市内にマンションを建設しているXに対し、教育施設負担金を拠出しないこと等を理由に給水契約の申込みの受理を拒否したところ、「正当な理由」なく給水契約を拒否することを禁止する水道法15条1項に違反するとして起訴されたという事案です。本決定は、「正当な理由」なしとして、Yを有罪としました。なお、「正当な理由」ありとした最判平11.1.21と結論が異なるのは、最判平11.1.21が水不足が避けられない状況にあったことを重視した給水拒否を含むものではないのに対し、本件は給水能力に問題がないことが前提に置かれていることが背景にあると考えられます。そして、給水拒否の目的のためではなく、公衆衛生の向上と生活環境の改善に寄与するという水道法制定の目的との関連性が薄いこと等が影響していると考えられます。
給水契約における差別的取扱い(最判平8.7.14)
普通地方公共団体が経営する簡易水道事業の利用方法は地方自治法244条1項所定の公の施設に該当するところ、同条3項は、普通地方公共団体は住民が公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いをしてはならない旨規定している。ところで、普通地方公共団体が設置する公の施設を利用する権利には、当該普通地方公共団体の住民でない者が地区内に住所を有しているか、事業所、家屋敷等を有し、その普通地方公共団体に対して地方税を納付する義務を負う者と住民とを同じ立場にあると認められるものがこれに該当すると解されるところである。そして、同項の住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いについては具体的規定にしたものであることを考えれば、上述のような住民に準じる地位にある者による公の施設の利用関係に地方自治法244条3項の適用が及ばないものと解するのは相当でなく、これらの者が公の施設の利用権を有することは当然で、当該公の施設の性質やこれら当該施設を設けた趣旨、目的に反しない限りにおいて、何ら合理的な理由なく差別的取扱いをされることは、同項に違反するものというべきである。
別荘給水契約については、Aの区域内に定住する本来的住民とはいえないが町の住民とは異なるが、同町の区域内に別荘を有し定住する住民と同様の便宜に浴するという生活を異にするものであることからすると、同町民の使用に供する本来的住民もあるということであるが、本件改正条例による別荘給水契約の基本料金の改定が地方自治法244条各号にいう不当な差別的取扱いに当たるか否かについて、以下のように判断する。
給水契約の水道使用量に大きな格差があるにもかかわらず、Aの主張によれば、本件改正条例による水道料金の改定は、ホテル等の大規模給水施設に係る給水契約者を含む別荘以外の給水契約者の1件当たりの年間水道料金の平均額と別荘給水契約者の1件当たりの年間水道料金の負担額がほぼ同一水準になるようにするとの考え方に基づいて別荘給水契約者の基本料金が定められたというのである。公営企業として営まれる水道事業において水道使用の対価である水道料金は原則として独立採算制にする個別原価に基づいて設定されるべきものであり、このような原則に照らせば、Aの主張に係る本件改正条例における水道料金の設定方法は本件別表における別荘給水契約者と別荘以外の給水契約者との間の料金設定の大きな格差を正当化するに足りる合理性を有するものとはいえない。また、同町において簡易水道事業のため一般会計から毎年多額の繰入れをしていたことなどを論拠が指摘する諸事情は、上記の基本料金の大きな格差を正当化するに足りるものではない。
そうすると、本件改正条例による別荘給水契約者の基本料金の改定は、地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たるというほかはない。
以上によれば、本件改正条例のうち別荘給水契約者の基本料金を改定した部分は、地方自治法244条3項に違反するものとして無効というべきである。
解説
本件は、A町が、簡易水道事業給水条例を改正して(本件改正条例)、町内に別荘を所有し給水契約を締結している者(別荘給水契約者)の基本料金をそれ以外の町の基本料金よりも増額したことにより両者の間に大きな格差が生じたため、別荘給水契約者が、水道料金を定める改正後の本件条例の基本料金の部分について、これが地方自治法244条3項に違反し無効であるとして、改正前の基本料金の差額分に関し、支払料金について債務不存在確認、支払い済み料金について不当利得返還等を求めて訴えを提起したという事案です。本判決は、簡易水道事業の施設はこの施設(地方自治法244条1項)に当たり、これを利用する別荘給水契約者は住民に準ずる地位にあるとしました。そして、別荘給水契約者の基本料金をそれ以外の住民の基本料金よりも大幅に高く設定することは不当な差別的取扱い(同条3項)に当たり無効であるとしました。なお、本件では、本件改正条例の制定が無効の訴え(行政事件訴訟法3条4項)の対象となるか否か、処分性の有無も問題となりました。本判決は、本件改正条例は水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではないことを理由に処分性を否定しました。
過去問
自然的条件において、取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予想されるという地域にあっては、水道事業者である市町村は、もっぱら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策をとることも、やむを得ない措置として許される。(行政書士2019年)
水道事業である地方公共団体は、建築基準要綱に従わないことを理由に行政指導を継続する必要があったとしても、これと水道事業給水規程を遵守させるために他の行政と連携する必要があるといった事情がある場合には、給水契約の締結を拒否することを許されません。(最決平18.1.24)
判例は、簡易水道事業の給水料金を定めた別荘給水契約者の基本料金と別荘以外の給水契約者の基本料金との間に大きな格差を生じたという事案において、このような基本料金の改定が地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たり無効であるとしています(最判平8.7.14)。
普通地方公共団体が経営する簡易水道事業の施設は地方自治法244条第1項所定の公の施設に該当するところ、同条第3項は、普通地方公共団体は公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いをしてはならない旨規定している。したがって、簡易水道事業給水条例の改定により基本料金改定された場合において、条例の当該部分が地方自治法第244条第3項にいう不当な差別的取扱いに当たると解釈されるときには、当該部分は同項に違反するものとして無効である。(公務員2012年)
指名競争入札における村外業者の排除(最判平18.10.26)
事件の概要
土木建設業者Xは、A村が発注する公共工事の指名競争入札において、1985(昭和60)年ごろから1998(平成10)年度まで継続的に指名を受けてきたが、1999(平成11)年度から2004(平成16)年度までの間は、A村長から違法に指名を拒絶されたと主張して、A村(その後、合併によりY市)に対し、国家賠償を求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、Xの請求を一部認容しましたが、控訴審は、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
裁判所の判断
地方自治法等の定めは、普通地方公共団体の締結する契約については、その経緯が住民の税金で賄われること等にかんがみ、機会均等の理念に最も適合し公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという見地から、一般競争入札の方法によることを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解することができる。また、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は、公共工事の入札等について、入札の過程の透明性が確保されること、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならない(3条)と、前記のとおり、指名競争入札に参加する資格について定めたことの基準を事前に公表してその履行を徹底するため、定め(義務違反)、以上のように努める。
以上のとおり、地方自治法等の法令は、普通地方公共団体が締結する公共工事の契約に関し、大きな裁量権、機会均等、公正性、透明性、経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしているものということができる。
地方公共団体が、指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、①工事現場等への距離の近さに関する知識を有していることから契約の確実な履行が期待できることや、②地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し、地元企業を優先して指名を行うことについては、その合理性を肯定することができるものの、①又は②の観点からは村内業者と同様の条件を満たすべき村外の業者もあり、価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点をも考慮すれば、考慮すべき他の諸事情にかかわらず、地元企業の保護を絶対的なものとし、一律に村外の業者を指名から除外するという運用について、特に合理性が乏しい裁量権の範囲内であるということはできない。
Xは、平成6年以降の代表者等の転職後も含めて長年にわたり村内業者として指名及び受注の実績があり、同9年以降も、A村から受注した工事に関して工事の工期を遅延させたこと等がうかがわれず、地元企業としての性格を相当程度有していたといえる。また、村内業者と村外業者の客観的で具体的な判断基準も明らかではない状況の下で、Xについては、村内業者の判断の利益にもなお及ぶ微妙であったということができるし、仮に形式的には村外業者に当たるとも、工事内容その他の諸条件いかんによってはなお村内業者と同様に扱って指名をすることが合理的であった工事もあり得たものと考えられる。このようなときに、上述のような方法との趣旨に反する運用を厳格に適用して、主たる事務所が村内にないとの事情から形式的に村外業者に当たると判断し、そのことのみを理由として、他の条件いかんにもかかわらず、およそ一切の工事につき平成12年度以降全く入札を指名せず競争入札に参加させない措置を採ったとすれば、それは、考慮すべき事項を十分考慮することなく、一つの考慮要素にすぎない村内業者であることのみを重視している点において、極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず、そのような措置に裁量権の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない。
解説
指名競争入札とは、国や地方公共団体が公共事業を発注する際に、特定の条件により特定多数の者を指名し、指名した業者に入札によって競争させることによって契約者を定める方式です。本判決は、村内業者でないと入札に参加できないこととされ、指名されなかった村外業者が、村長を相手に村内業者のみを指名するのは違法であると主張しました。これに対して、最高裁は、合理的な理由の範囲であるとしたものの、村内業者を優先する運用の存在を認めつつも、そのような運用について一定の基準を定め、競争入札の趣旨(義務違反)があるか否かなどについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しました。
過去問
地方公共団体が指名競争入札に参加させようとする者を指名するにあたり、地元経済の活性化にも寄与することなどを考慮して地元企業を優先的に指名することは、合理的な裁量の範囲として許容されると考えられる。(行政書士2012年)
判例は、地方公共団体が指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、地元経済の活性化にも寄与することなどを考慮して地元企業を優先的に指名することを行うについては、その合理性を肯定することができるとしています(最判平18.10.26)。
行政主体が行政目的を達成するために締結する契約を行政契約といいます。行政契約にも契約自由の原則が妥当しますが、司法審査の対象は、私法上の契約と異なり、そのまま妥当するわけではありません。例えば、市町村が水道水を供給するために住民との間で締結する給水契約の場合、水道事業者がする水道水の供給契約の申込みを拒むことはできません(水道法15条1項)。
事件の概要
1995(平成7)年、A県B知事から廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づく産業廃棄物処分業の許可を受けているYは、B町との間で、産業廃棄物の最終処分場の設置・使用について、「処分場の使用期限を2003(平成15)年12月31日までとし、期限を越えて産業廃棄物の処分を行ってはならない」とする条項(旧期限条項)を含む公害防止協定(旧協定)を締結した。その後、Yは、処分場の規模を拡大するための施設増設変更許可をB知事から受けたため、1998(平成10)年、B町との間で、改めて公害防止協定(本件協定)を締結したが、本件協定にも旧期限条項と同じ内容の期限条項(本件期限条項)があった。
Yが使用期限を経過しても処分場の使用を継続したため、B町はYに対し、使用の差止めを求める訴えを提起しました。訴訟が第1審に係属中、Bは合併によりX市となり、Xは、Bの訴訟上の地位を承継しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
判例ナビ
Yが使用期限を経過しても処分場の使用を継続したため、BはYに対し、使用の差止めを求める訴えを提起した。訴訟が第1審に係属中、Bは合併によりX市となり、Xは、Bの訴訟上の地位を承継しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却したため、Xが上告しました。
公害防止協定
旧協定の締結された廃棄物処理法(平成9年法律85号による改正前のもの。以下、単に「廃棄物処理法」という。)は、廃棄物の排出の抑制、適正な処理、処理等を行い、生活環境を清潔にすることによって、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とするが、その目的を達成するために廃棄物の処理に関する事業等を行おうとするものである。そして、同法は、廃棄物の処分を業として行おうとする者は、当該事業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(14条4項)、知事は、所定の要件に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず(14条6項)、また、許可を受けた者(以下「処分業者」という。)が許可を要する行為をしたときは法令に違反したときは、知事は、許可を取り消し、又は期間を定めてその事業の全部もしくは一部の停止を命ずることができると定めている(14条の3)。これらの規定は、知事が、処分業者としての適格や処理施設の設置基準適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制するものである。したがって、許可を受けた者については、許可処分業者としての地位に基づいて、上記の知事の許可がなければ、許可処分業者が有する限り事業や処理施設の使用の継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。かえって、処分業者にこのような義務を課すと請求又は命令において知事は、処分業者としての地位とは別に、知事に対する処分業者の意に反する対応方針、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束する旨を約束するものであり、その約束を自発的に履行することを期待できるとしても、許可処分業者が有効期間内に事業や処理施設が同法の趣旨に反する行為を行うことはできないと解される。したがって、旧期限条項が同法の趣旨に反するとの判決に至ることはできないのであって、旧法によっても、変更されないものの、同法の趣旨によって、本件期限条項が本件協定締結の際に有効であったとしても、その後の法改正によっても無効とならないということはできない。そして、旧期限条項が本件期限条項が知事の許可の有無を法的な意味において問われるものではない。
以上の設定により明らかであるから、旧期限条項及び本件期限条項は、本件条例15条が予定する協定の基本的事情であるから、これに違反するものでもない。以上によれば、Bの地位を承継したXとの間において、原審の判示するような理由によって本件期限条項の法的効力を否定することはできないというものである。A廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例のこと。その2条は、住民又は市町村の長が、各施設の設置との間において、生活環境の保全のために必要な事項に関する協定を締結しようとするときは、市町村長が必要な助言を行うものと認める。
解説
公害防止協定とは、公害の発生原因となるような事業を営む事業者と地方公共団体の間で、事業者が公害防止措置を採ることを約束することを内容とする協定をいいます。本判決は、産業廃棄物最終処分場の使用期限を定めた約束の期限が法的拘束力を有することから、事業者が協定に違反することを認めました。
過去問
廃棄物の処理および清掃に関する法律における産業廃棄物処分業等の許可・処理施設の設置許可等を定める規定は、知事が、処分業者としての適格性や処分施設の設置要件を判断し、同法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、知事の許可は、処分業者に対し、許可処分を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものであるから、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断ではできない。(公務員2012年)
判例は、産業廃棄物処理法の規定は、知事が、処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し、産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり、知事の許可が、処分業者に対し、許可が有効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないとしています。そして、処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えるとしています(最判平21.7.10)。
水道供給契約(最判平11.1.21)
事件の概要
X不動産会社は、Y市にマンションを建設する計画を立て、建築予定戸数408戸の給水申込みをした。Yは、水道事業給水規程で「開発行為又は建築で合計戸数20戸以上」のものは「共同住宅で20戸を超えて新築する場合は合計21戸」に該当しないと定めていたため、給水を拒否した。
判例ナビ
Xは、Yの給水拒否は「正当な理由」がある場合に限って給水を拒否できるとする水道法(注)15条1項に違反すると主張して、Yに対し、給水申込みの承諾等を求める訴えを提起しました。第1審は、Xの請求を認容しましたが、控訴審は、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
裁判所の判断
水道法15条1項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒絶せざるを得ない理由を指すものと解されるが、具体的にいかなる事由がそれに当たるかについては、同項の趣旨、目的のほか、法令全体の趣旨、目的が関連する規定に照らして目的的に解釈するのが相当である。…水道が国民にとって欠くことのできないものであることからすると、市町村は、水道事業を経営するに当たり、当該地域の自然的社会的諸条件に応じて、可能な限り水道水の需要を満たすことができるように、中長期的展望に立って合理的かつ余裕のある給水に関する計画を立て、これを実施しなければならず、当該供給能力によって対応することができる限り、給水契約の申込みに対して応ずべき義務があり、みだりにこれを拒否することは許されないものというべきである。しかしながら、他方、水が限られた資源であることを考慮すれば、市町村が正常な企業努力を尽くしてもなお水の供給に一定の限界があり得ることは否定することはできないのであって、給水義務は絶対的なものと解すべきでなく、給水契約の申込みがそのような合理的な給水計画によって対応することができないものである場合には、法15条1項にいう「正当の理由」があるものとして、これを拒むことが許されると解すべきである。以上の見地に立って考えると、水の絶対量が間に合っているにもかかわらず、自然的条件としていては給水区域内で現実に水の需要を増加させることになり、ひいては水道事業者である市町村としては著しい給水人口の増加が見込まれるために、近い将来において導水管容量が上回り給水不足が生ずることが確実に予想されるという地域にあって、その結果として、そのような事態を招かないよう適正かつ合理的な施策を講ずることがなければならないのであるが、困難な自然的条件を克服して水量を確保できる限り速やかに第一になされるべきであるが、それによってもなお不足が避けられない場合には、専ら水の需給の均衡を保つという点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策を採ることも許されるべきである。右のような状況の下における措置の一つとして、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することは、法15条1項にいう「正当の理由」があるということができるものと解される。
解説
水道法15条1項は、「正当の理由」がある場合に限り、水道事業者が給水の申込みを拒むことを認めています。本判決は、「正当の理由」の意味を明らかにしたうえで、大規模マンションの分譲業者に対する給水拒否に「正当の理由」があるとしました。
この分野の重要判例
指導要綱による給水拒否(最決平18.1.24)
原判決の認定によると、Yが本件マンションを建設中のX及びその購入者から提出された給水契約の申込書を受理することを拒絶した時期には、既に、Xは、Yの宅地開発に関する指導要綱に基づく行政指導には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も、入居に当たり給水が現実になされるかどうかが重大な問題であると認識している。このような時期にあったことは明らかであった。Yは、分譲用マンションの購入者に対する時間的に給水を必要とするという要請を考慮すると、原判決の認定によると、Yは、右の指導要綱を実効あらしめるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないとXの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することによって自ら給水義務を負うことになるような事情もなかったというのである。そうすると、原判決が、この給水契約については、たとえ水道事業者として、たとえ指導要綱に従わない事業者からの給水契約の締結であったとしても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、Yには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。
解説
本件は、宅地開発指導要綱において、「一定規模以上の中高層建築物を建設する事業主は教育施設負担金を提供することを求め、これに従わない場合には上水道の使用等について必要な協力を得られないことがある」等を定めている高崎市が、同市内にマンションを建設しているXに対し、教育施設負担金を拠出しないこと等を理由に給水契約の申込みの受理を拒否したところ、「正当な理由」なく給水契約を拒否することを禁止する水道法15条1項に違反するとして起訴されたという事案です。本決定は、「正当な理由」なしとして、Yを有罪としました。なお、「正当な理由」ありとした最判平11.1.21と結論が異なるのは、最判平11.1.21が水不足が避けられない状況にあったことを重視した給水拒否を含むものではないのに対し、本件は給水能力に問題がないことが前提に置かれていることが背景にあると考えられます。そして、給水拒否の目的のためではなく、公衆衛生の向上と生活環境の改善に寄与するという水道法制定の目的との関連性が薄いこと等が影響していると考えられます。
給水契約における差別的取扱い(最判平8.7.14)
普通地方公共団体が経営する簡易水道事業の利用方法は地方自治法244条1項所定の公の施設に該当するところ、同条3項は、普通地方公共団体は住民が公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いをしてはならない旨規定している。ところで、普通地方公共団体が設置する公の施設を利用する権利には、当該普通地方公共団体の住民でない者が地区内に住所を有しているか、事業所、家屋敷等を有し、その普通地方公共団体に対して地方税を納付する義務を負う者と住民とを同じ立場にあると認められるものがこれに該当すると解されるところである。そして、同項の住民が公の施設を利用することについて、不当な差別的取扱いについては具体的規定にしたものであることを考えれば、上述のような住民に準じる地位にある者による公の施設の利用関係に地方自治法244条3項の適用が及ばないものと解するのは相当でなく、これらの者が公の施設の利用権を有することは当然で、当該公の施設の性質やこれら当該施設を設けた趣旨、目的に反しない限りにおいて、何ら合理的な理由なく差別的取扱いをされることは、同項に違反するものというべきである。
別荘給水契約については、Aの区域内に定住する本来的住民とはいえないが町の住民とは異なるが、同町の区域内に別荘を有し定住する住民と同様の便宜に浴するという生活を異にするものであることからすると、同町民の使用に供する本来的住民もあるということであるが、本件改正条例による別荘給水契約の基本料金の改定が地方自治法244条各号にいう不当な差別的取扱いに当たるか否かについて、以下のように判断する。
給水契約の水道使用量に大きな格差があるにもかかわらず、Aの主張によれば、本件改正条例による水道料金の改定は、ホテル等の大規模給水施設に係る給水契約者を含む別荘以外の給水契約者の1件当たりの年間水道料金の平均額と別荘給水契約者の1件当たりの年間水道料金の負担額がほぼ同一水準になるようにするとの考え方に基づいて別荘給水契約者の基本料金が定められたというのである。公営企業として営まれる水道事業において水道使用の対価である水道料金は原則として独立採算制にする個別原価に基づいて設定されるべきものであり、このような原則に照らせば、Aの主張に係る本件改正条例における水道料金の設定方法は本件別表における別荘給水契約者と別荘以外の給水契約者との間の料金設定の大きな格差を正当化するに足りる合理性を有するものとはいえない。また、同町において簡易水道事業のため一般会計から毎年多額の繰入れをしていたことなどを論拠が指摘する諸事情は、上記の基本料金の大きな格差を正当化するに足りるものではない。
そうすると、本件改正条例による別荘給水契約者の基本料金の改定は、地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たるというほかはない。
以上によれば、本件改正条例のうち別荘給水契約者の基本料金を改定した部分は、地方自治法244条3項に違反するものとして無効というべきである。
解説
本件は、A町が、簡易水道事業給水条例を改正して(本件改正条例)、町内に別荘を所有し給水契約を締結している者(別荘給水契約者)の基本料金をそれ以外の町の基本料金よりも増額したことにより両者の間に大きな格差が生じたため、別荘給水契約者が、水道料金を定める改正後の本件条例の基本料金の部分について、これが地方自治法244条3項に違反し無効であるとして、改正前の基本料金の差額分に関し、支払料金について債務不存在確認、支払い済み料金について不当利得返還等を求めて訴えを提起したという事案です。本判決は、簡易水道事業の施設はこの施設(地方自治法244条1項)に当たり、これを利用する別荘給水契約者は住民に準ずる地位にあるとしました。そして、別荘給水契約者の基本料金をそれ以外の住民の基本料金よりも大幅に高く設定することは不当な差別的取扱い(同条3項)に当たり無効であるとしました。なお、本件では、本件改正条例の制定が無効の訴え(行政事件訴訟法3条4項)の対象となるか否か、処分性の有無も問題となりました。本判決は、本件改正条例は水道料金を一般的に改定するものであって、限られた特定の者に対してのみ適用されるものではないことを理由に処分性を否定しました。
過去問
自然的条件において、取水源が貧困で現在の取水量を増加させることが困難である一方で、著しい給水人口の増加が見込まれるため、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予想されるという地域にあっては、水道事業者である市町村は、もっぱら水の需給の均衡を保つという観点から水道水の需要の著しい増加を抑制するための施策をとることも、やむを得ない措置として許される。(行政書士2019年)
水道事業である地方公共団体は、建築基準要綱に従わないことを理由に行政指導を継続する必要があったとしても、これと水道事業給水規程を遵守させるために他の行政と連携する必要があるといった事情がある場合には、給水契約の締結を拒否することを許されません。(最決平18.1.24)
判例は、簡易水道事業の給水料金を定めた別荘給水契約者の基本料金と別荘以外の給水契約者の基本料金との間に大きな格差を生じたという事案において、このような基本料金の改定が地方自治法244条3項にいう不当な差別的取扱いに当たり無効であるとしています(最判平8.7.14)。
普通地方公共団体が経営する簡易水道事業の施設は地方自治法244条第1項所定の公の施設に該当するところ、同条第3項は、普通地方公共団体は公の施設を利用することについて不当な差別的取扱いをしてはならない旨規定している。したがって、簡易水道事業給水条例の改定により基本料金改定された場合において、条例の当該部分が地方自治法第244条第3項にいう不当な差別的取扱いに当たると解釈されるときには、当該部分は同項に違反するものとして無効である。(公務員2012年)
指名競争入札における村外業者の排除(最判平18.10.26)
事件の概要
土木建設業者Xは、A村が発注する公共工事の指名競争入札において、1985(昭和60)年ごろから1998(平成10)年度まで継続的に指名を受けてきたが、1999(平成11)年度から2004(平成16)年度までの間は、A村長から違法に指名を拒絶されたと主張して、A村(その後、合併によりY市)に対し、国家賠償を求める訴えを提起した。
判例ナビ
第1審は、Xの請求を一部認容しましたが、控訴審は、Xの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
裁判所の判断
地方自治法等の定めは、普通地方公共団体の締結する契約については、その経緯が住民の税金で賄われること等にかんがみ、機会均等の理念に最も適合し公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという見地から、一般競争入札の方法によることを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解することができる。また、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は、公共工事の入札等について、入札の過程の透明性が確保されること、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならない(3条)と、前記のとおり、指名競争入札に参加する資格について定めたことの基準を事前に公表してその履行を徹底するため、定め(義務違反)、以上のように努める。
以上のとおり、地方自治法等の法令は、普通地方公共団体が締結する公共工事の契約に関し、大きな裁量権、機会均等、公正性、透明性、経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしているものということができる。
地方公共団体が、指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、①工事現場等への距離の近さに関する知識を有していることから契約の確実な履行が期待できることや、②地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し、地元企業を優先して指名を行うことについては、その合理性を肯定することができるものの、①又は②の観点からは村内業者と同様の条件を満たすべき村外の業者もあり、価格の有利性確保(競争性の低下防止)の観点をも考慮すれば、考慮すべき他の諸事情にかかわらず、地元企業の保護を絶対的なものとし、一律に村外の業者を指名から除外するという運用について、特に合理性が乏しい裁量権の範囲内であるということはできない。
Xは、平成6年以降の代表者等の転職後も含めて長年にわたり村内業者として指名及び受注の実績があり、同9年以降も、A村から受注した工事に関して工事の工期を遅延させたこと等がうかがわれず、地元企業としての性格を相当程度有していたといえる。また、村内業者と村外業者の客観的で具体的な判断基準も明らかではない状況の下で、Xについては、村内業者の判断の利益にもなお及ぶ微妙であったということができるし、仮に形式的には村外業者に当たるとも、工事内容その他の諸条件いかんによってはなお村内業者と同様に扱って指名をすることが合理的であった工事もあり得たものと考えられる。このようなときに、上述のような方法との趣旨に反する運用を厳格に適用して、主たる事務所が村内にないとの事情から形式的に村外業者に当たると判断し、そのことのみを理由として、他の条件いかんにもかかわらず、およそ一切の工事につき平成12年度以降全く入札を指名せず競争入札に参加させない措置を採ったとすれば、それは、考慮すべき事項を十分考慮することなく、一つの考慮要素にすぎない村内業者であることのみを重視している点において、極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず、そのような措置に裁量権の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない。
解説
指名競争入札とは、国や地方公共団体が公共事業を発注する際に、特定の条件により特定多数の者を指名し、指名した業者に入札によって競争させることによって契約者を定める方式です。本判決は、村内業者でないと入札に参加できないこととされ、指名されなかった村外業者が、村長を相手に村内業者のみを指名するのは違法であると主張しました。これに対して、最高裁は、合理的な理由の範囲であるとしたものの、村内業者を優先する運用の存在を認めつつも、そのような運用について一定の基準を定め、競争入札の趣旨(義務違反)があるか否かなどについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しました。
過去問
地方公共団体が指名競争入札に参加させようとする者を指名するにあたり、地元経済の活性化にも寄与することなどを考慮して地元企業を優先的に指名することは、合理的な裁量の範囲として許容されると考えられる。(行政書士2012年)
判例は、地方公共団体が指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、地元経済の活性化にも寄与することなどを考慮して地元企業を優先的に指名することを行うについては、その合理性を肯定することができるとしています(最判平18.10.26)。