行政手続法
2025年11月19日
『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9
行政手続法
【ガイダンス】
行政手続法は、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることによって国民の権利利益を保護することを目的とした法律です(1条1項)。そして、この目的を達成するために、処分、行政指導、届出、命令等の制定の各手続について、共通する事項を定めています。
【事件の概要】
建築士免許取消処分と理由の提示(最判平23.6.7)
一級建築士として建築士事務所の管理建築士を務めていたXは、その設計行為が建築士法10条1項2号及び3号(現1項1号、2号)に当たるとして、国土交通大臣から、一級建築士の免許を取り消す処分(本件免許取消処分)を受けた。本件免許取消処分の理由書には、処分の理由として、札幌市内の複数の土地を敷地とする建物の設計者として、建築基準法中に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させたこと、構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったことが建築士法10条1項2号、3号に該当し、一級建築士に対し社会が期待している品位及び信用を著しく傷つけるものであるとの記載があった。
【判例ナビ】
本件免許取消処分がされた当時、建築士に対する懲戒処分については、意見の聴取の手続を経た上で、「建築士の処分等について」と題する書面において処分基準(本件処分基準)が定められ、これが公にされていました。そこで、Xは、Y(国)に対し、本件免許取消処分は公にされている処分基準の適用関係が理由として示されておらず、行政手続法14条1項本文に反する違法な処分であるとして、処分の取消しを求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともに、Xの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■判旨の判断
建築士免許の取消しについては、処分基準が定められており、その基準に照らして「免許取消しが相当」ということになれば処分を取り消すという仕組になっていたのです。しかし、その基準が非常に複雑で分かりにくいものであるため、処分を受ける建築士としては、単に処分の原因事実(耐震性の基準を満たさない建築物の設計をした)と処分の結果(「右設計行為は建築士法10条1項2号(同3号)に該当する」として厳重な行為をした)同3号(現2号)を示されただけでは、なぜ、免許取消しという最も重い処分を受けなければならないのか分かりません。そこで、本判決は、処分基準の適用関係まで示さなければ、処分理由を提示したことにならないとし、控訴審判決を破棄し、Xの請求を認容しました。
【この分野の重要判例】
◆旅券発給拒否処分と理由の提示(最判昭60.1.22)
旅券法は、外務大臣が、同法の規定に基づき一般旅券の発給をしないと決定したときは、すみやかに、理由を付した書面をもって一般旅券の発給を申請した者にその旨を通知しなければならないことを規定している。一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由を付記した各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである…。旅券法が右のように一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしているのは、一般旅券の発給を拒否する、憲法22条2項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥与を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解すべきであり、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該処分の基礎とされた事実関係をも当然知りうるといえる場合を別にとして、旅券法の要求する理由の付記として十分ではないといわなければならない。この見地に立って旅券法13条1項5号(現7号)をみるに、同号は「前各号に掲げる者を除く外、外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」という概括的、抽象的な規定であるため、一般旅券発給拒否通知書に同号に該当する旨が付記されただけでは、申請者において発給拒否の基因となった事実関係をその記載自体から知ることはできないというべきをなしとしない。したがって、外務大臣において旅券法13条1項5号の規定を根拠に一般旅券の発給を拒否する…
…事項は、申請者に対する書面に個別に該当すると判断したのみでは足りず、いかなる事実関係を認定して申請者が同号に該当すると判断したのかを具体的に記載することを要すると解するのが相当である。そうであるとすれば、単に「旅券法13条1項5号に該当する」と付記されているにすぎない本件一般旅券発給拒否処分の通知書は、同法14条の定める理由付記の要件を欠くものというほかはなく、本件一般旅券発給拒否処分に右違法があることを理由としてその取消しを求めるXの本訴請求は、正当として認容すべきである。
【解説】
本件は、「一般旅券の発給を申請したXが『旅券法13条1項5号(現7号)に該当する。』との理由を付記した書面により発給拒否処分(本件処分)をした外務大臣Yに対し、処分の理由の付記に不備がある等として処分の取消しを求めたという事案です。一般旅券発給拒否通知書に付する拒否理由の記載について、本判決は、単に発給拒否の根拠規定を記載しただけでは原則として不十分であり、どのような事実関係に基づいて、どの法規を適用して発給が拒否されたのか、申請者が通知書の記載から了知できるものでなければならないとし、本件処分を取り消しました。
【過去問】
◆青色申告に係る更正と理由の提示(最判昭38.3.1)
一般に、法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその濫用を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおいては処分自体の取消を免がれないものといわなければならない。ところで、その程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由を告知した各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決すべきであるが、所得税法(昭和37年法律による改正前のもの。以下同じ)45条1項の規定は、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による記録を正しくしたものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保証したものであるから、同条2項(現155条2項)が附記すべきものとしている理由には、特に帳簿書類の記載以上に信憑性のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明示することを必要とするものと解するのが相当である。しかるに、本件の更正処分通知書に附記されている理由を示したに、帳簿に基づく売上高と査定漏れをなしたところ、帳簿外において売上高309,422円を144,995円と更正したというにとどまり、いかなる勘定科目についてどの程度の金額が、それぞれ、その根拠となる帳簿に基づくものか、また調査発見なるものかいかにして算定され、それによることがどうして正当なのか、右の記載自体から納税者がこれを知るに由ないものであるから、それをもって所得税法45条2項にいう理由附記の要件を満たしているものとは認めがたい。
【解説】
本件は、青色申告書により確定申告をし、税務署長によって所得金額を更正された納税者が、更正通知書に附記された理由の記載が抽象的で趣旨が不明であるとして、更正処分の取消しを求める訴えを提起したという事案です。理由をどの程度記載すべきかについて、本判決は、処分の性質と理由を付記した法律の趣旨・目的に照らして決定すべきであるとの一般的基準を示した上で、青色申告に対する更正においては、帳簿の記載以上に信憑性のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする必要があるとしました。
【過去問】
一級建築士免許取消処分をするに際し、行政庁が行政手続法に基づいて提示した理由が不十分であったとしても、行政手続法は手続の瑕疵が不十分であった場合の処分の効力に関する規定は置かれていないから、その違反により直ちに当該処分を取り消すことはできない。(行政書士2017年)
旅券法に基づく一般旅券の発給拒否通知書に付すべき理由については、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して拒否されたかに関し、その申請者が書面に了知しうる事情の下であれば、単に発給拒否の根拠規定を示すだけで足りる。(行政書士2021年)
1. × 判例は、理由の提示が不十分な免許取消処分は、行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であり、取消しを免れないとしています(最判平23.6.7)。
2. × 一般旅券の発給拒否通知書に付すべき理由が、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がなされたかを、申請者がその記載自体から了知できるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは不十分です(最判昭60.1.22)。判例は、「当該処分の根拠とされた事実関係をも当然知りうるといえるような特別の事情」としていますが、本問の「いかなる申請者にも基づきいかなる法規を適用して拒否されたかに関し、その申請者が書面に了知しうる事情」があっても、発給拒否の基因となった事実関係を記載自体から知ることはできませんから、やはり発給拒否の根拠規定を示すだけでは不十分です。
運輸審議会の管理手続(最判昭50.5.29)
【事件の概要】
バス会社Xは、バス路線を延長するため、運輸大臣(現国土交通大臣)に対し、道路運送法に基づいて一般乗合旅客自動車運送事業の免許を申請した。Yは、運輸審議会にこれを諮問し、同審議会は、公聴会を開催してXおよび利害関係人らの意見を聴取した上で、Xの申請を却下すべきである旨をYに答申した。Yは、この答申に基づいてXの申請を却下した(本件却下処分)。
【判例ナビ】
Xは、本件却下処分の取消しを求める訴えを提起しました。第1審はXの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
■裁判所の判断
一般に、行政庁が行政処分をするにあたって、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的理由がないかぎりこれに反する処分をしないように要請することにより、当該行政処分の客観的な適正と公正とを確保することをその趣旨としているためであると考えられるから、かかる場合における諮問機関に対する諮問の趣旨は、極めて重大な意義を有するものというべく、したがって、行政処分が諮問を経ないでされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が当該機関に対する諮問に意義と効果を要望した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消を免かれないことになるものと解するのが相当である。
ところで、...右の運輸審議会における審理並びにこれに基づく決定の手続については、道路運送法及び運輸審議会令に規則ないし詳細な規定が置かれている。しかし、これらの手続規定がいかなる趣旨、目的を有するものであり、したがってその手続の運用についていかなる配慮を致すべきものであるかは、これらの規定自体からは明らかではなく、専ら答申の前提となるに照らしてこれを決すべきものであるからこそ、公聴会の審理を主宰する運輸省、前記のとおり、免許の許否に関する運輸審議会の権限のある公正かつ中立的な決定(答申)を保障することにあるにかんがみると、右は、運輸審議会の公聴会における審理を単なる資料の収集及び調整の一形式として定めたにとどまり、右規定に定められた形式を尽さぬとすれば、その具体的な具体的方法及び内容のいかんを問わず、これに基づく決定(答申)を適法なものとぞ主張しであるとすることはできないのであって、これらの手続規定のもとにおける公聴会審理のあり方は、具体的には、実質的に前記のような要請を満たすようなものでなければならない。かつ、決定(答申)が、このような審理の結果に基づいてなされなければならないと解するのが相当である。すなわち、...運輸審議会の公聴会における審理手続もまた、右の趣旨に沿い、その内容において、これらの関係者に対し、決定の基礎となる政策事項に関する聴取の証拠その他の資料と意見を十分に提出してこれを審議会の決定(答申)に反映させることのできる機会を保障したとみるようなものでなければならないと解すべきである。特に免許申請者に対する関係においては、免許の許否が自らのその後の職業選択の自由に影響するものである関係上、免許の許否の決定におけるその判断の方法につき特段の配慮を必要とするのであって、前記のような許認可基準の抽象性と基準適用の判断の不明確性のために、行政庁側からみてその申請計画に問題点があると思われる場合であっても、必ずしもその点が申請者には認識されず、そのために、これについて提出しかつ追加の意見や証拠の提出機会が失われるおそれがあることを考慮に入れることが十分である。これらの点について申請者の注意が喚起され、あるいはまた、他の利害関係人の反対意見の理由の骨子に対して反論の機会が与えられるようにする等、申請者に意見と証拠を十分に提出させることの保障をせしめるような手続を保障することが、公聴会審理を要求する法の趣旨とするところであるといわなければならない。
右の見地に立って本件を見るに、...Xの事業計画における旅客及び貨物の輸送時間の比較及びこれとXの間に設ける輸送連絡(意見)と見込んでこれらの点について補足資料の明確な説明をしたりあるいは陳述を具体的に明らかにし、...運輸審議会が右補足資料と口頭での陳述を問題視して、右運輸審議会の判断の理由としたのであれば、この点において、本件公聴会審理がXに主張立証の機会を与えるための手段の措置はとられておらず、この点において、本件公聴会審理がXに主張立証の機会を十分に与えるに必ずしも十分でないとみることができる。したがって...一般に運輸審議会が、公聴会審理において具体的にXの申請計画の問題点を指摘し、この点に関する意見及び資料の提出を促したとしても、なお申請計画の問題意識とこれを左右するに足る意見及び資料を追加提出しうる可能性があったと認め難いのである。してみると、右のような事情のもとにおいて、本件免許申請についての運輸審議会の審理手続における上記のとき不備は、結局において、前記公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、右審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないから、右諮問を経てなされた運輸大臣の本件却下処分として取り消す理由とはならないものといわなければならない。
【解説】
本件では、諮問機関である運輸審議会の公聴会でXに主張・立証の機会が十分与えられなかったという不備がありました。しかし、本判決は、かかる不備がなかったとしても審議会の判断を左右する可能性はなかったとして、運輸大臣の処分を取り消す理由にならないとしました。
【過去問】
一般旅客自動車運送事業の免許拒否処分につき、公聴会審理において申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかったとしても、運輸審議会(当時)の認定判断を左右するに足る資料等が追加提出される可能性がなかった場合には、当該拒否処分の取消事由とはならない。(行政書士2012年)
○ 公聴会審理において申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかったとしても、運輸審議会(当時)の認定判断を左右するに足る資料等が追加提出される可能性がなかったような場合には、公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないので、免許拒否処分の取消事由とはなりません(最判昭50.5.29)。
【ガイダンス】
行政手続法は、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることによって国民の権利利益を保護することを目的とした法律です(1条1項)。そして、この目的を達成するために、処分、行政指導、届出、命令等の制定の各手続について、共通する事項を定めています。
【事件の概要】
建築士免許取消処分と理由の提示(最判平23.6.7)
一級建築士として建築士事務所の管理建築士を務めていたXは、その設計行為が建築士法10条1項2号及び3号(現1項1号、2号)に当たるとして、国土交通大臣から、一級建築士の免許を取り消す処分(本件免許取消処分)を受けた。本件免許取消処分の理由書には、処分の理由として、札幌市内の複数の土地を敷地とする建物の設計者として、建築基準法中に定める構造基準に適合しない設計を行い、それにより耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させたこと、構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行ったことが建築士法10条1項2号、3号に該当し、一級建築士に対し社会が期待している品位及び信用を著しく傷つけるものであるとの記載があった。
【判例ナビ】
本件免許取消処分がされた当時、建築士に対する懲戒処分については、意見の聴取の手続を経た上で、「建築士の処分等について」と題する書面において処分基準(本件処分基準)が定められ、これが公にされていました。そこで、Xは、Y(国)に対し、本件免許取消処分は公にされている処分基準の適用関係が理由として示されておらず、行政手続法14条1項本文に反する違法な処分であるとして、処分の取消しを求める訴えを提起しました。第1審、控訴審ともに、Xの請求を棄却したため、Xが上告しました。
■判旨の判断
建築士免許の取消しについては、処分基準が定められており、その基準に照らして「免許取消しが相当」ということになれば処分を取り消すという仕組になっていたのです。しかし、その基準が非常に複雑で分かりにくいものであるため、処分を受ける建築士としては、単に処分の原因事実(耐震性の基準を満たさない建築物の設計をした)と処分の結果(「右設計行為は建築士法10条1項2号(同3号)に該当する」として厳重な行為をした)同3号(現2号)を示されただけでは、なぜ、免許取消しという最も重い処分を受けなければならないのか分かりません。そこで、本判決は、処分基準の適用関係まで示さなければ、処分理由を提示したことにならないとし、控訴審判決を破棄し、Xの請求を認容しました。
【この分野の重要判例】
◆旅券発給拒否処分と理由の提示(最判昭60.1.22)
旅券法は、外務大臣が、同法の規定に基づき一般旅券の発給をしないと決定したときは、すみやかに、理由を付した書面をもって一般旅券の発給を申請した者にその旨を通知しなければならないことを規定している。一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由を付記した各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである…。旅券法が右のように一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしているのは、一般旅券の発給を拒否する、憲法22条2項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥与を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解すべきであり、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該処分の基礎とされた事実関係をも当然知りうるといえる場合を別にとして、旅券法の要求する理由の付記として十分ではないといわなければならない。この見地に立って旅券法13条1項5号(現7号)をみるに、同号は「前各号に掲げる者を除く外、外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足りる相当の理由がある者」という概括的、抽象的な規定であるため、一般旅券発給拒否通知書に同号に該当する旨が付記されただけでは、申請者において発給拒否の基因となった事実関係をその記載自体から知ることはできないというべきをなしとしない。したがって、外務大臣において旅券法13条1項5号の規定を根拠に一般旅券の発給を拒否する…
…事項は、申請者に対する書面に個別に該当すると判断したのみでは足りず、いかなる事実関係を認定して申請者が同号に該当すると判断したのかを具体的に記載することを要すると解するのが相当である。そうであるとすれば、単に「旅券法13条1項5号に該当する」と付記されているにすぎない本件一般旅券発給拒否処分の通知書は、同法14条の定める理由付記の要件を欠くものというほかはなく、本件一般旅券発給拒否処分に右違法があることを理由としてその取消しを求めるXの本訴請求は、正当として認容すべきである。
【解説】
本件は、「一般旅券の発給を申請したXが『旅券法13条1項5号(現7号)に該当する。』との理由を付記した書面により発給拒否処分(本件処分)をした外務大臣Yに対し、処分の理由の付記に不備がある等として処分の取消しを求めたという事案です。一般旅券発給拒否通知書に付する拒否理由の記載について、本判決は、単に発給拒否の根拠規定を記載しただけでは原則として不十分であり、どのような事実関係に基づいて、どの法規を適用して発給が拒否されたのか、申請者が通知書の記載から了知できるものでなければならないとし、本件処分を取り消しました。
【過去問】
◆青色申告に係る更正と理由の提示(最判昭38.3.1)
一般に、法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその濫用を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおいては処分自体の取消を免がれないものといわなければならない。ところで、その程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由を告知した各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決すべきであるが、所得税法(昭和37年法律による改正前のもの。以下同じ)45条1項の規定は、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による記録を正しくしたものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保証したものであるから、同条2項(現155条2項)が附記すべきものとしている理由には、特に帳簿書類の記載以上に信憑性のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明示することを必要とするものと解するのが相当である。しかるに、本件の更正処分通知書に附記されている理由を示したに、帳簿に基づく売上高と査定漏れをなしたところ、帳簿外において売上高309,422円を144,995円と更正したというにとどまり、いかなる勘定科目についてどの程度の金額が、それぞれ、その根拠となる帳簿に基づくものか、また調査発見なるものかいかにして算定され、それによることがどうして正当なのか、右の記載自体から納税者がこれを知るに由ないものであるから、それをもって所得税法45条2項にいう理由附記の要件を満たしているものとは認めがたい。
【解説】
本件は、青色申告書により確定申告をし、税務署長によって所得金額を更正された納税者が、更正通知書に附記された理由の記載が抽象的で趣旨が不明であるとして、更正処分の取消しを求める訴えを提起したという事案です。理由をどの程度記載すべきかについて、本判決は、処分の性質と理由を付記した法律の趣旨・目的に照らして決定すべきであるとの一般的基準を示した上で、青色申告に対する更正においては、帳簿の記載以上に信憑性のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにする必要があるとしました。
【過去問】
一級建築士免許取消処分をするに際し、行政庁が行政手続法に基づいて提示した理由が不十分であったとしても、行政手続法は手続の瑕疵が不十分であった場合の処分の効力に関する規定は置かれていないから、その違反により直ちに当該処分を取り消すことはできない。(行政書士2017年)
旅券法に基づく一般旅券の発給拒否通知書に付すべき理由については、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して拒否されたかに関し、その申請者が書面に了知しうる事情の下であれば、単に発給拒否の根拠規定を示すだけで足りる。(行政書士2021年)
1. × 判例は、理由の提示が不十分な免許取消処分は、行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であり、取消しを免れないとしています(最判平23.6.7)。
2. × 一般旅券の発給拒否通知書に付すべき理由が、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して処分がなされたかを、申請者がその記載自体から了知できるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは不十分です(最判昭60.1.22)。判例は、「当該処分の根拠とされた事実関係をも当然知りうるといえるような特別の事情」としていますが、本問の「いかなる申請者にも基づきいかなる法規を適用して拒否されたかに関し、その申請者が書面に了知しうる事情」があっても、発給拒否の基因となった事実関係を記載自体から知ることはできませんから、やはり発給拒否の根拠規定を示すだけでは不十分です。
運輸審議会の管理手続(最判昭50.5.29)
【事件の概要】
バス会社Xは、バス路線を延長するため、運輸大臣(現国土交通大臣)に対し、道路運送法に基づいて一般乗合旅客自動車運送事業の免許を申請した。Yは、運輸審議会にこれを諮問し、同審議会は、公聴会を開催してXおよび利害関係人らの意見を聴取した上で、Xの申請を却下すべきである旨をYに答申した。Yは、この答申に基づいてXの申請を却下した(本件却下処分)。
【判例ナビ】
Xは、本件却下処分の取消しを求める訴えを提起しました。第1審はXの請求を認容しましたが、控訴審はXの請求を棄却しました。そこで、Xが上告しました。
■裁判所の判断
一般に、行政庁が行政処分をするにあたって、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的理由がないかぎりこれに反する処分をしないように要請することにより、当該行政処分の客観的な適正と公正とを確保することをその趣旨としているためであると考えられるから、かかる場合における諮問機関に対する諮問の趣旨は、極めて重大な意義を有するものというべく、したがって、行政処分が諮問を経ないでされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が当該機関に対する諮問に意義と効果を要望した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消を免かれないことになるものと解するのが相当である。
ところで、...右の運輸審議会における審理並びにこれに基づく決定の手続については、道路運送法及び運輸審議会令に規則ないし詳細な規定が置かれている。しかし、これらの手続規定がいかなる趣旨、目的を有するものであり、したがってその手続の運用についていかなる配慮を致すべきものであるかは、これらの規定自体からは明らかではなく、専ら答申の前提となるに照らしてこれを決すべきものであるからこそ、公聴会の審理を主宰する運輸省、前記のとおり、免許の許否に関する運輸審議会の権限のある公正かつ中立的な決定(答申)を保障することにあるにかんがみると、右は、運輸審議会の公聴会における審理を単なる資料の収集及び調整の一形式として定めたにとどまり、右規定に定められた形式を尽さぬとすれば、その具体的な具体的方法及び内容のいかんを問わず、これに基づく決定(答申)を適法なものとぞ主張しであるとすることはできないのであって、これらの手続規定のもとにおける公聴会審理のあり方は、具体的には、実質的に前記のような要請を満たすようなものでなければならない。かつ、決定(答申)が、このような審理の結果に基づいてなされなければならないと解するのが相当である。すなわち、...運輸審議会の公聴会における審理手続もまた、右の趣旨に沿い、その内容において、これらの関係者に対し、決定の基礎となる政策事項に関する聴取の証拠その他の資料と意見を十分に提出してこれを審議会の決定(答申)に反映させることのできる機会を保障したとみるようなものでなければならないと解すべきである。特に免許申請者に対する関係においては、免許の許否が自らのその後の職業選択の自由に影響するものである関係上、免許の許否の決定におけるその判断の方法につき特段の配慮を必要とするのであって、前記のような許認可基準の抽象性と基準適用の判断の不明確性のために、行政庁側からみてその申請計画に問題点があると思われる場合であっても、必ずしもその点が申請者には認識されず、そのために、これについて提出しかつ追加の意見や証拠の提出機会が失われるおそれがあることを考慮に入れることが十分である。これらの点について申請者の注意が喚起され、あるいはまた、他の利害関係人の反対意見の理由の骨子に対して反論の機会が与えられるようにする等、申請者に意見と証拠を十分に提出させることの保障をせしめるような手続を保障することが、公聴会審理を要求する法の趣旨とするところであるといわなければならない。
右の見地に立って本件を見るに、...Xの事業計画における旅客及び貨物の輸送時間の比較及びこれとXの間に設ける輸送連絡(意見)と見込んでこれらの点について補足資料の明確な説明をしたりあるいは陳述を具体的に明らかにし、...運輸審議会が右補足資料と口頭での陳述を問題視して、右運輸審議会の判断の理由としたのであれば、この点において、本件公聴会審理がXに主張立証の機会を与えるための手段の措置はとられておらず、この点において、本件公聴会審理がXに主張立証の機会を十分に与えるに必ずしも十分でないとみることができる。したがって...一般に運輸審議会が、公聴会審理において具体的にXの申請計画の問題点を指摘し、この点に関する意見及び資料の提出を促したとしても、なお申請計画の問題意識とこれを左右するに足る意見及び資料を追加提出しうる可能性があったと認め難いのである。してみると、右のような事情のもとにおいて、本件免許申請についての運輸審議会の審理手続における上記のとき不備は、結局において、前記公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、右審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないから、右諮問を経てなされた運輸大臣の本件却下処分として取り消す理由とはならないものといわなければならない。
【解説】
本件では、諮問機関である運輸審議会の公聴会でXに主張・立証の機会が十分与えられなかったという不備がありました。しかし、本判決は、かかる不備がなかったとしても審議会の判断を左右する可能性はなかったとして、運輸大臣の処分を取り消す理由にならないとしました。
【過去問】
一般旅客自動車運送事業の免許拒否処分につき、公聴会審理において申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかったとしても、運輸審議会(当時)の認定判断を左右するに足る資料等が追加提出される可能性がなかった場合には、当該拒否処分の取消事由とはならない。(行政書士2012年)
○ 公聴会審理において申請者に主張立証の機会が十分に与えられなかったとしても、運輸審議会(当時)の認定判断を左右するに足る資料等が追加提出される可能性がなかったような場合には、公聴会審理を要求する法の趣旨に違背する重大な違法とするには足りず、審理の結果に基づく運輸審議会の決定(答申)自体に瑕疵があるということはできないので、免許拒否処分の取消事由とはなりません(最判昭50.5.29)。