探偵の知識

行政不服審査法

2025年11月19日

『国家試験受験のためのよくわかる判例〔第2版〕』 西村和彦著・2024年9月6日
ISBNISBN 978-4-426-13029-9

【ガイダンス】
行政不服審査法は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的としています(1条1項)。不服申立ての手続には、審査請求、再調査の請求、再審査請求があります。

【事件の概要】
不服申立適格(最判昭53.3.14)

Y(公正取引委員会)は、A(社団法人日本果汁協会)らの申請に基づいて、果汁飲料等の表示に関する公正競争規約*(本件規約)の認定をした。これに対し、X(主婦連合会)は、本件規約が、果汁含有率5%未満または果汁を全く含まない飲料について、その旨の表示に代えて「合成着色飲料」「香料使用」とだけ表示すれば足りるとていることは、一般消費者に果汁を含有しないことを誤りなく伝えるものではないから違法であるとして、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)に基づいてYに不服申立てをした。

*事業者または事業者団体が、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な商品の選択を確保するため、内閣総理大臣および公正取引委員会の認定を受けて自主的に設定するルール(景表法31条)。

【判例ナビ】
Yが、Xには不服申立てをする資格(不服申立適格)がないとして申立てを却下する旨の決定をした。そこで、Xは、東京高等裁判所に審決の取消しを求める訴えを提起しましたが、請求を棄却されたため、上告しました。

■裁判所の判断
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)10条1項により公正取引委員会がした公正競争規約の認定に対する行政上の不服申立は、これに「行政上の不服があるもの(行訴法」という。)の適用を排除され(景表法11条)、専ら景表法10条6項の定める不服申立手続によるべきこととされている(行審法1条2項)が、行政上の不服申立の一環にほかならないのであるから、景表法の一般に「処分について不服……について不服申立をする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。」と解すべきである。けだし、現行法制のもとにおける行政上の不服申立制度は、原則として、国民の権利・利益の救済を図ることを主たる目的とするものであり、行政の適正な運営を確保することは行政上の不服申立に基づく国民の権利・利益の救済を通じて達成される間接的な効果にすぎないものと解すべく、したがって、行政庁の処分に対し不服申立をすることができる者は、法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消等によってこれを回復すべき法律上の利益をもつ者に限られるべきであり、そして、景表法の右規定が自己の法律上の利益にかかわりなく不服申立をすることができる旨を特に定めたもの、すなわち、いわゆる民衆訴訟を認めたものと解しがたいことは、規定の体裁に照らし、明らかというところであるからである。
ところで、右にいう法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人の利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益を指し、それは、行政法規が他の目的、なかんずく公益の実現を目的として行政権の行使を制約している結果たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである。このことを公正競争規約の認定に対する不服申立についてみるに、景表法の目的とするところは公益の実現にあり、同法1条にいう一般消費者の利益の保護もそれが直接的な目的であるか間接的な目的であるかは別として、公正競争の一環としてそれであるというべきである。してみると、同法の規定により一般消費者も国民を消費者として利益のうえからもとういうべきであり、景表法により保護されている一般消費者の利益は、公正取引委員会による同法の適正な運用によって実現されるべき公益の保護を通じ間接的に保護されるにすぎないものであって、同法の規定が個々の消費者の有する利益を保護することを目的としてその保護のため行政権の行使に制約を課している結果として保障しているものではないというべきである。もっとも、右の利益が景表法によって保護されていること自体は否定しえないのであるが、景表法上から保護されている消費者の利益は、同法の規定が目的とする公益の保護を通じてその結果として保障されるものにすぎないのであって、右利益が個々の消費者にその個人的利益として帰属し法律上保護されているものということはできない。したがって、仮に、公正取引委員会のした公正競争規約の認定が違法であったとしても、一般消費者としては、景表法の規定の適正な運用によって図られるべき反射的な利益ないし事実上の利益が害される結果になったにとどまり、その本来有する法律上の地位には、なんら消長はないといわなければならない。そこで、単に一般消費者であるというだけでは、公正取引委員会による公正競争規約の認定につき景表法10条6項による不服申立をする法律上の利益をもつ者であるということができないのであり、これを更に、「果汁飲料を常用する」という点において、他の一般の消費者と区別された特定範囲の者と限定してみても、それは、単に反射的利益を享受するにすぎない一般消費者の範囲を部分的に限定したにとどまるにとどまり、反射的利益がもたらすにすぎない者であるという点において何ら変りはないのであるから、これをもって不服申立をする法律上の利益をもつ者と認めることはできないといわなければならない。また、右のように主張する商品を正しく特定させる権利、よりよりよい表示により商品を知って購入する利益、表示内容について信頼し容易に商品選択できる利益ないし表示と内容の不一致を告げられず不利益を受ける権利は、ひっきょう、景表法の規定とその適正な運用による公正競争の確保の結果もたらす反射的利益にすぎないものというべきであって、これらの利益があることをもって不服申立をするについて法律上の利益があるということはできず、Xは、本件公正競争規約の認定につき景表法10条6項に基づく不服申立をすることはできないものというべきである。

【解説】
不服申立てをすることができるのである(不服申立適格)、「不服がある者」に認められます(行政不服審査法2条)。本判決は、「不服がある者」を「自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」と捉えています。さらに、本判決は、「法律上保護された利益」(不服申立の利益)と「反射的利益」を区別し、景表法の規定によって一般消費者が受ける利益は公益保護の結果として生ずる反射的な利益ないし事実上の利益にすぎないとしてしました。

この分野の重要判例
◆国税徴収法上の第二次納税義務者の滞納処分取消しの申立適格(最判平18.1.19)

国税徴収法39条は、滞納者である本来の納税義務者が、その国税の法定納期等の1年前の日以後にその財産について無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分を行ったために、本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた第三者に対し、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、本来の納税義務者の滞納に係る国税の第二次納税義務を課している。
同条に定める第二次納税義務は、本来の納税義務者に対する主たる課税処分等によって確定した主たる納税義務の税額につき本来の納税義務者に対して滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合に、前述のような関係にある第三者に対して補充的に課される義務であって、主たる納税義務が主たる課税処分によって確定されるときには、第二次納税義務の基本的内容は主たる課税処分において定められるものであり、違法な主たる課税処分によって主たる納税義務の税額が過大に確定されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額は当然に大きくなり、第二次納税義務の範囲も拡大となって、第二次納税義務者は直接具体的な不利益を被るおそれがある。他方、主たる課税処分の一部又は全部がその違法を理由に取り消されれば、本来の納税義務者からの徴収不足額が消滅又は減少することになり、第二次納税義務者は消滅するか又はその額が減少し得る関係にあるのであるから、第二次納税義務者は、主たる課税処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するというべきである。
そうすると、国税徴収法39条の第二次納税義務者は、主たる課税処分につき国税通則法75条に基づく不服申立てをすることができるものと解するのが相当である。

国税徴収法39条の第二次納税義務者は、前述のとおり、本来の納税義務者から無償又は著しく低い額の対価による財産譲渡等を受けたという取引相手にとどまり、常に本来の納税義務者と一体性を有し親近性のある関係にあるということはできないのであって、第二次納税義務を確定させる納付告知があるまでは、不服申立ての適格があることを確実に認識することはできないといわざるを得ない。その反面、納付告知があれば、それによって、主たる課税処分の存在及び第二次納税義務が成立していることを確実に認識することになるのであって、少なくともその時点では明確に「処分があったことを知った」ということができる。
そうすると、国税徴収法39条の第二次納税義務者が主たる課税処分に対する不服申立てをする場合、国税通則法77条1項所定の「処分があったことを知った日」とは、当該第二次納税義務者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日であると解するのが相当である。

【解説】
第二次納税義務者とは、国税を滞納した本来の納税義務者に対して滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合に、補充的に納税義務を負う第三者をいいます(国税徴収法32条)。第二次納税義務者となるのは、本来の納税義務者と一定の関係にある第三者で、例えば、本来の納税義務者の財産を無償または著しく低い価額で譲り受けた者などがこれにあたります。
本判決は、主たる課税処分について、第二次納税義務者に不服申立適格を認めました。さらに本判決は、第二次納税義務者が不服申立てをする場合、「不服申立期間を定める国税通則法77条1項の『処分があったことを知った日』」とは、当該第二次納税義務者に対する納付告知(納付通知書の送達)がされた日をいい、不服申立期間の起算日は納付告知がされた日の翌日であるとしました。

【過去問】

法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分がされていないと思料するときは、行政不服審査法に基づく審査請求によって、当該処分をすることを求めることができる。(行政書士2022年)

1. × 行政不服審査法に基づく審査請求は、「行政庁の処分に不服がある者」がすることができます(行政不服審査法2条)。「行政庁の処分に不服がある者」とは、当該処分について不服申立てをする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者をいいます(最判昭53.3.14)。法令違反の事実を是正するためにされるべき「処分がされていないと思料するとき」というだけでは、審査請求をすることができません。