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弁護士の知識

公益法人や社団法人等への遺贈

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:私の財産の一部を公益法人へ遺贈したいと考えています。公益法人 であれば税金は発生しないと考えてよろしいですか。

A:相続税は、原則として法人には課税されません。また、公益法人認定 法に基づく公益認定を受けた公益法人の収益事業に該当しない事業から生ず る所得は、法人税も課税されないこととされています。ただし、一定の場合には、法人への遺贈に対して課税関係が生じるケースがあるため、事前に課税さ れない要件を満たすか確認が必要です。

解説
(1) 遺贈を受ける公益法人等の課税関係

相続税は、個人に対する課税を原則としていますので、法人については、通 常相続税が課税されることはありません (相法1の3)。また、法人税につい ても、公益法人等が遺贈を受けた金額(受贈益)は収益事業に該当しないこと から、課税されないこととされています (法法4①,6)。

ただし、このような課税関係を利用して、遺贈をした人の親族等の相続税が 不当に減少する結果となると認められる場合には、その法人を個人とみなして 課税されるケースがあります(相法66④⑥)。

① 持分の定めのない法人(相法66④)

持分の定めのない法人とは、以下に掲げる法人をいい2、具体的には一般社 団法人,一般財団法人,学校法人,社会福祉法人,更生保護法人,特定非営利活動法人,宗教法人、持分の定めのない医療法人などをいいます 。
イ 定款,寄附行為若しくは規則(これらに準ずるものを含む。以下「定款等」といいます。)又は法令の定めにより、その法人の社員、構成員(その法人へ出資している者に限る。以下「社員等」といいます。)がその法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができない法人

ロ 定款等に、社員等がその法人の出資に係る残余財産の分配請求権又は払戻請求権を行使することができる旨の定めはあるが、そのような社員等が存在しない法人
持分の定めのない法人は、あくまでも法人ですので、原則として相続税や贈与税の納税義務者にはなりません 。

しかし、持分の定めのない法人を利用した租税回避行為について防止するため、相続税法では次のような取扱いが定められています 。

イ その法人に対して、贈与や遺贈を行った者の親族、その他特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果になる場合には、その法人は個人とみなされ、相続税や贈与税の納税義務者となります(相法66④,相令33③④) 。

ロ 法人が個人とみなされて課税されるケースとは異なりますが、持分の定めのない法人へ財産の贈与又は遺贈を行うことで、その法人の設立者や社員等並びに贈与や遺贈を行った人又はこれらの親族等が、その法人から特別の利益を受ける場合には、贈与又は遺贈を行った人から、その利益を受ける人が、その受ける利益の価額に相当する金額を贈与又は遺贈により取得したものとみなして課税されます (相法65) 。

② 特定の一般社団法人等

一般社団法人等のうち、以下の要件のいずれかを満たす一般社団法人等(以下「特定一般社団法人等」といいます。)の理事である人(以下「被相続人」といいます。)が亡くなった場合、次の金額をその被相続人から遺贈により取得したものとみなして、その特定一般社団法人等を個人とみなした上で相続税が課税されます(相法66の2①) 。

イ 特定一般社団法人等の要件 (いずれかを満たす場合、相法66の2②三)

相続開始直前の同族理事数/総理事数 > 1/2

相続開始前5年以内のうち、「同族理事数/総理事数 > 1/2」の期間が3年以上あること

ロ 遺贈により取得したとみなされる金額

特定一般社団法人等の純資産額 / (死亡時における同族理事数 + 1)

(2) 公益法人等に財産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税特例
被相続人が、公益法人等に対して、譲渡所得の基因となる資産など一定の資産を遺贈する場合には、遺贈を行った被相続人に対して所得税が課税されます (所法59①)(前記16(2)②参照) 。

しかし、公益目的事業の促進を促すという趣旨の下、寄附先の法人が公益目的事業を行う法人として国税庁長官の承認を受ける場合には、その財産の遺贈はなかったものとみなされ、被相続人への譲渡所得課税は行われません (措法40①後段) 。なお、この特例は、公益法人等を設立するための財産提供の場合においても適用を受けることができます 。また、国や地方公共団体に対する寄附の場合にも、同様に非課税となります (措法40①前段) 。

○ 承認申請期限

この特例の適用を受けるためには、相続人及び包括受遺者が、被相続人の納税地の所轄税務署に対して、寄附の日から4か月以内 に「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」を提出しなければなりません 。

なお、この期限以前に、寄附日の属する年分の所得税の確定申告期限が到来する場合には、その申告期限までに申請が必要です 。つまり、遺贈による寄附について、この特例を適用する場合、通常は準確定申告の期限までに申請が必要です 。したがって、遺言執行者についても迅速に寄附手続を行うことが重要となります 。