弁護士の知識

小規模宅地等の特例

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:私は、自宅と賃貸アパート3棟を所有しており、推定相続人は私の妻と子供3人です 。自宅や不動産賃貸を行っている土地については、相続税の計算上、その評価額を割り引く特例があると聞きました 。

A:ご質問の制度は、「小規模宅地等の特例」といいます 。被相続人が事業や居住の用に供していた宅地等につき一定の要件を満たすものについて、宅地等の相続税評価額を80%又は50%減額するという特例です 。

解説

(1) 小規模宅地等の特例の概要
次の要件を満たす宅地等については、相続税の計算上、一定の面積まで相続税評価額を80%又は50%減額することができます。
・個人が相続又は遺贈により取得した宅地等であること。
・その宅地等は、建物又は構築物の敷地として利用されていること。
・建物又は構築物の敷地として利用されている宅地等のうち、被相続人等2の居住の用又は事業の用に供されているものとして、一定の要件を満たす宅地等であること。
・特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人・受遺者全員の合意により、小規模宅地等の特例の適用を受けるものとして選択を行っていること。
・特例の適用を受けるものとして選択した宅地等のうち、限度面積要件を満たしていること。
小規模宅地等の特例は、特例対象宅地等の選択、特例の適用を受けられるか否かにより、相続税額が数百万円,数千万円単位で変わることもあるため、特例の適用を受けるための検討や特例の適用を受けるための手続について正確を期すことを要します。

(2) 特例の適用を受けられる限度面積・減額割合

各区分に応じ、次の表のとおり定められています 。
なお、被相続人が、特定事業用宅地等,貸付事業用宅地等などの複数の特例区分の宅地等を所有していた場合の限度面積については、一定の調整計算を行った限度面積の範囲内でのみ、特例の適用が可能です 。


(3) 主な特例対象宅地等の内容
小規模宅地等の特例は、被相続人の残された親族の生活基盤の確保をその制度趣旨としています。主な特例対象宅地等の要件は、それぞれ相続開始直前と申告期限の二時点に分けてその要件が定められています。

① 特定居住用宅地等(被相続人の配偶者取得: 措法69の4③二)
イ 相続開始直前に被相続人等の居住の用(※)に供されていた宅地等
(※) 被相続人が老人ホームに入居していた場合
(イ) 被相続人が要介護認定・要支援認定を受けていた。
(口) 養護老人ホーム等の一定の施設に入居。
◆居住の用に供されなくなる直前の被相続人の居住の用を含む。
ロ 取得者要件 配偶者の取得であること。

② 特定居住用宅地等(被相続人の同居親族取得: 措法69の4③ニイ)
イ 相続開始 申告期限 イ 相続開始直前に被相続人等の居住の用(※)に供されていた宅地等
(※) 被相続人が老人ホームに入居していた場合(上記①イ(イ)と同様)
ロ 取得者要件 被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた親族 (≒同居親族)であること。
ハ 居住継続要件 相続開始直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること。
二 保有継続要件 相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること。

③ 特定居住用宅地等(家なき子特例: 措法69の4③二口)
イ 相続開始直前に被相続人等の居住の用(※)に供されていた宅地等
(※) 被相続人が老人ホームに入居していた場合(前記①イ(イロ)と同様)
ロ 取得者要件 配偶者・被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物に居住していた人以外の親族であること。
ハ その他の要件
(イ) 居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない人ではないこと(納税義務者区分は前記(1)参照)。
(ロ) 被相続人に配偶者がいないこと。
(ハ) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと。
(二) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者,取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋 (相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがないこと。
(ホ) 相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
(へ) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること。

④ 貸付事業用宅地等 (措法69の4③四)
イ 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等
(イ) 相続開始前3年超,被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等。又は、
(ロ) 相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていた被相続人等が、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地等。
ロ 取得者要件
被相続人の親族であること。
ハ事業承継要件及び保有継続要件
貸付事業用宅地等に係る事業承継要件及び保有継続要件は次のとおり。

⑤ 特定事業用宅地等(措法69の4③
イ 被相続人等の事業の用に供されていた宅地等
(イ) 相続開始前3年超,被相続人等の事業(不動産貸付業等及び準事業を除く。)の用に供されていた宅地等。又は、
(ロ) 被相続人等が一定の規模以上で行っていた事業(特定事業)の用に供されていた宅地等。
ロ 取得者要件 被相続人の親族であること。
ハ 事業承継要件及び保有継続要件 特定事業用宅地等に係る事業承継要件及び保有継続要件は次のとおり。

⑥ 特定同族会社事業用宅地等 (措法69の4③三)
イ 一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除く。)の用に供されていた宅地等 被相続人が特定同族会社へ賃貸借契約で宅地等又は建物及びその敷地を貸し付けている。
ロ 相続開始前の特定同族会社の事業の状況
特定同族会社がその宅地等の上で事業(不動産貸付業等及び準事業を除く。)を行っている。
ハ 取得者要件
宅地等を取得した親族が、相続税の申告期限においてその法人の役員であること。
二 保有継続要件
その宅地等を相続税の申告期限まで保有していること。
ホ 事業継続要件 相続税の申告期限まで引き続き、その法人の事業の用に供されていること。

(4) 小規模宅地等の特例の注意点
① 被相続人の親族が、相続又は遺贈により取得した特例対象宅地等のみが特例の対象となる
小規模宅地等の特例は、宅地等の取得者が被相続人の親族である場合のみ、 その適用を受けることができます。したがって、被相続人の親族以外の者が遺贈により取得した宅地等については特例の適用対象外となります。また、相続又は遺贈(死因贈与を含みます。)により取得した宅地等のみが特例の対象となるため、被相続人から贈与(死因贈与を除きます。)により取得した宅地等は特例の対象外となります。
② 特例の適用を受けるためには相続税の申告書の提出が必要 小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続人・受遺者全員の相続税額がゼロとなる場合であっても、相続税の申告書の提出が必要となります(措法69の4⑦)。
③ 一度選択した特例対象宅地等の選択替えは認められない 小規模宅地等の特例対象宅地等の選択について、原則として、相続税の申告期限後においては選択のやり直しをすることはできません。
④ 適用を受ける特例対象宅地等の選択については全員の合意が必要 小規模宅地等の特例対象宅地等の選択については、特例対象宅地等を取得したすべての者の合意が必要とされます (措法69の4①、措令40の2⑤)。特例対象宅地等につき遺産分割が確定していない場合、同特例の適用を受けることはできません(措法69の4④)。 ただし、相続税の申告期限において特例対象宅地等について遺産分割が確定していない場合であっても、一定の手続を経ることにより、特例対象宅地等の分割が行われた際に小規模宅地等の特例の適用を受けることができます(手続については後記26(2)参照)。
⑤ 取得費加算の特例を適用する場合 相続によって取得した土地を譲渡した場合、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算することができます(後記57参照)。この場合、譲渡の対象となる土地に小規模宅地等の特例を適用すると、その土地に係る相続税額が減少するため、取得費に加算する相続税相当額も減少することになります(後記57(3)参照)。