配偶者に対する相続税額の軽減
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q: 配偶者は、遺産を取得してもほとんど相続税がかからない制度があると聞きました。
A: ご質問の制度は、「配偶者に対する相続税額の軽減」といいます。この制度は、被相続人の配偶者について一定額までは財産を取得しても相続税がかからないようにするための相続税の税額控除をその内容とします。 この特例は、未分割の財産に対して適用できないことから、申告期限までに遺産分割が行われない場合には、一定の手続を行うとともに、未分割の財産が分割された場合には、期限内に更正の請求の手続を行うことに注意を要します。
解説
(1) 相続税の計算の仕組み 相続税の計算は、大きく以下の四つの段階に分けて行います(後記24(1)①参照)。
① 各相続人・受遺者ごとに取得した財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産や、相続時精算課税適用財産・暦年課税贈与の生前贈与加算を含みます。)や負担する債務・葬式費用を集計し、各人ごとの正味の財産(課税価格)を合計して、課税価格の合計額を計算します。
② ①で計算した課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算し、各相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものと仮定して求めた各相続人ごとの取得金額に税率を乗じて各相続人ごとの税額を計算します。
③ ②で計算した各人の相続税額を合算して相続税の総額を計算し、各人ごとの正味の財産の比率に応じ、相続税の総額を配分します。また、財産を取得した者の中に被相続人の孫や兄弟姉妹など、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人がいる場合には、相続税額の2割加算が行われます。これは、偶然性の高い財産の取得は、より担税力が高いこと等を鑑みた措置となっています。
④ ③で配分された各人ごとの相続税額に対し、適用できる相続税の税額控除がある場合には適用します。税額控除は、二重課税の排除や各人ごとの担税力に応じた税負担額に調整することを目的としています。税額控除は、以下の順番に従い適用することが定められています。
・贈与税額控除(暦年課税贈与)
・配偶者に対する相続税額の軽減
・未成年者控除
・障害者控除
・相次相続控除
・外国税額控除
・贈与税額控除(相続時精算課税贈与)
(2) 配偶者に対する相続税額の軽減 配偶者に対する相続税額の軽減とは、被相続人の配偶者が相続又は遺贈により取得した相続税を計算する上での正味の財産額が、次のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないようにするための相続税の税額控除です
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分相当額
(3) 配偶者に対する相続税額の軽減の注意点
① 相続税の申告書の提出が必要
配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けるためには、相続税額がゼロとなる場合であっても、相続税の申告書の提出が必要となります。なお、申告書については、期限後に提出する申告書や従前に提出した相続税申告書の修正申告書等も含まれます (相法19の23)。
② 二次相続の相続税額も考慮
前述のとおり、配偶者に対する相続税額の軽減を適用することにより相続税の納税額は減少します。しかし、税額軽減があるからと配偶者に多くの財産を取得させると、残された配偶者に二次相続が発生した場合に、配偶者固有の財産に相続等により取得した財産が上乗せされ、多額の相続税額が課されることもあります。相続税の納税が見込まれる場合、配偶者が相続等により取得する財産の額については、一次相続と二次相続を通して検討することが好ましいといえます。
③ 未分割の財産がある場合
配偶者に対する相続税額の軽減は、配偶者が相続又は遺贈により取得することが確定した財産の額をもとに計算します。このため、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象となりません (相法19の2②)。 相続税に関する特例は、相続税の申告期限までに遺産分割の内容が確定していることを要件とするものが複数あります。相続税の申告期限までに遺産分割の内容が確定しない場合、各種特例の適用を受けることができず、一時的であっても多額の相続税の納税が必要となる場合もあり注意を要します。
④ 未分割の場合に必要とされる手続
相続税の申告期限において財産が未分割の場合、一定の手続を経ることにより、財産の分割が行われた際に配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けることができます(手続については後記26(2)参照)。
⑤ 未分割の財産が分割された場合の更正の請求の手続
未分割の財産が分割された場合には、更正の請求を行うことにより配偶者に対する相続税額の軽減を受けることができます。なお、その請求には、一定の期間が定められていることから、適用期限を徒過しないよう注意を要します (後記26(3)①参照)。
A: ご質問の制度は、「配偶者に対する相続税額の軽減」といいます。この制度は、被相続人の配偶者について一定額までは財産を取得しても相続税がかからないようにするための相続税の税額控除をその内容とします。 この特例は、未分割の財産に対して適用できないことから、申告期限までに遺産分割が行われない場合には、一定の手続を行うとともに、未分割の財産が分割された場合には、期限内に更正の請求の手続を行うことに注意を要します。
解説
(1) 相続税の計算の仕組み 相続税の計算は、大きく以下の四つの段階に分けて行います(後記24(1)①参照)。
① 各相続人・受遺者ごとに取得した財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産や、相続時精算課税適用財産・暦年課税贈与の生前贈与加算を含みます。)や負担する債務・葬式費用を集計し、各人ごとの正味の財産(課税価格)を合計して、課税価格の合計額を計算します。
② ①で計算した課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算し、各相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものと仮定して求めた各相続人ごとの取得金額に税率を乗じて各相続人ごとの税額を計算します。
③ ②で計算した各人の相続税額を合算して相続税の総額を計算し、各人ごとの正味の財産の比率に応じ、相続税の総額を配分します。また、財産を取得した者の中に被相続人の孫や兄弟姉妹など、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人がいる場合には、相続税額の2割加算が行われます。これは、偶然性の高い財産の取得は、より担税力が高いこと等を鑑みた措置となっています。
④ ③で配分された各人ごとの相続税額に対し、適用できる相続税の税額控除がある場合には適用します。税額控除は、二重課税の排除や各人ごとの担税力に応じた税負担額に調整することを目的としています。税額控除は、以下の順番に従い適用することが定められています。
・贈与税額控除(暦年課税贈与)
・配偶者に対する相続税額の軽減
・未成年者控除
・障害者控除
・相次相続控除
・外国税額控除
・贈与税額控除(相続時精算課税贈与)
(2) 配偶者に対する相続税額の軽減 配偶者に対する相続税額の軽減とは、被相続人の配偶者が相続又は遺贈により取得した相続税を計算する上での正味の財産額が、次のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないようにするための相続税の税額控除です
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分相当額
(3) 配偶者に対する相続税額の軽減の注意点
① 相続税の申告書の提出が必要
配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けるためには、相続税額がゼロとなる場合であっても、相続税の申告書の提出が必要となります。なお、申告書については、期限後に提出する申告書や従前に提出した相続税申告書の修正申告書等も含まれます (相法19の23)。
② 二次相続の相続税額も考慮
前述のとおり、配偶者に対する相続税額の軽減を適用することにより相続税の納税額は減少します。しかし、税額軽減があるからと配偶者に多くの財産を取得させると、残された配偶者に二次相続が発生した場合に、配偶者固有の財産に相続等により取得した財産が上乗せされ、多額の相続税額が課されることもあります。相続税の納税が見込まれる場合、配偶者が相続等により取得する財産の額については、一次相続と二次相続を通して検討することが好ましいといえます。
③ 未分割の財産がある場合
配偶者に対する相続税額の軽減は、配偶者が相続又は遺贈により取得することが確定した財産の額をもとに計算します。このため、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象となりません (相法19の2②)。 相続税に関する特例は、相続税の申告期限までに遺産分割の内容が確定していることを要件とするものが複数あります。相続税の申告期限までに遺産分割の内容が確定しない場合、各種特例の適用を受けることができず、一時的であっても多額の相続税の納税が必要となる場合もあり注意を要します。
④ 未分割の場合に必要とされる手続
相続税の申告期限において財産が未分割の場合、一定の手続を経ることにより、財産の分割が行われた際に配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けることができます(手続については後記26(2)参照)。
⑤ 未分割の財産が分割された場合の更正の請求の手続
未分割の財産が分割された場合には、更正の請求を行うことにより配偶者に対する相続税額の軽減を受けることができます。なお、その請求には、一定の期間が定められていることから、適用期限を徒過しないよう注意を要します (後記26(3)①参照)。