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弁護士の知識

未成年者控除・障害者控除

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:未成年者や障害者は、相続税の計算上、一定の控除があると聞きました。
A:ご質問の控除は「未成年者控除」、「障害者控除」といいます。この制度は、未成年者については18歳に達するまでの年数×10万円を、障害者については85歳に達するまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)を控除することとされています。 これらの控除は、配偶者に対する相続税額の軽減と異なり、財産が未分割であったとしても適用を受けることができます。 なお、未成年者自身又は障害者自身が財産を取得しない場合は、この控除を受けることができません。
解説
(1) 相続税の計算における控除する順番
未成年者控除及び障害者控除は、7種類ある相続税の税額控除のうち3番目と4番目に適用する税額控除となっています。相続税の計算における税額控除をする順番は、前記20 (1)④及び後記24(1)①を参照してください。
(2) 未成年者控除
① 未成年者控除の概要 未成年者が相続又は遺贈により財産を取得した場合、その後の養育費等の負担を考慮し、相続開始時から18歳に達するまでの年数1年当たり10万円を相続税額から控除します (相法19の3)。
② 適用要件 未成年者控除は、次の3点を適用要件とします。
・相続又は遺贈により財産を取得した個人で、居住無制限納税義務者,非居住無制限納税義務者又は特定納税義務者(※1)であること。
・民法第5編第2章の規定による相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。
・相続開始時において18歳未満(令和4年3月31日以前は20歳未満)の人であること。 (※1) 居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者については前記5 (1)を、特定納税義務者については後記23を参照。
③ 控除額
次の算式により計算した額を、未成年者の相続税額から控除します。
未成年者控除額=10万円×〔18歳(※2) - 相続開始時の年齢(1歳未満切捨て)〕
(※2) 令和4年3月31日以前開始相続に係る未成年者控除額の計算においては20歳です。
④ 未成年者控除の注意点
イ 未成年者自身が財産を取得する必要があること 未成年者控除の適用を受けるためには、未成年者自身が相続又は遺贈により財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産を含みます。)を取得する必要があります。 したがって、例えば遺言により未成年者が財産を一切取得しないような場合には、未成年者控除の適用を受けることはできません。
ロ 適用を受けるための相続税申告書の提出は不要 未成年者控除は、配偶者に対する相続税額の軽減とは異なり、その適用を受けるために相続税申告書を提出する必要はありません。このため、未成年者控除を適用した結果,相続人・受遺者全員の相続税額がゼロとなる場合には、相続税申告は不要です。
ハ未成年者自身の相続税額から控除しきれない場合 未成年者自身の相続税額から控除しきれない未成年者控除額がある場合(未成年者控除額>未成年者自身の相続税額の場合),未成年者の扶養義務者5の相続税額から、控除しきれない未成年者控除額を控除します。
二 未成年者が従前に未成年者控除を受けている場合 未成年者が、従前に他の相続で未成年者控除の適用を受けている場合,一定の未成年者控除額の調整計算を行います。
(3) 障害者控除
① 障害者控除の概要 障害者控除は、被相続人の死後に残された障害者の生活の安定に資する見地から、相続開始時から85歳に達するまでの年数1年当たり、一般障害者については10万円を、特別障害者については20万円を相続税額から控除します(相法19の4)。
② 適用要件 障害者控除は、次の3点を適用要件とします。
・相続又は遺贈により財産を取得した個人で、居住無制限納税義務者又は特定納税義務者(※3)であること。
・民法第5編第2章の規定による相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。
・相続開始時において、85歳未満の障害者であること。
(※3) 居住無制限納税義務者については前記5 (1)を、特定納税義務者については後記23を参照。
③ 控除額
イ 一般障害者の場合
障害者控除額=10万円×〔85歳-相続開始時の年齢(1歳未満切捨て)〕
ロ 特別障害者の場合
障害者控除額=20万円×〔85歳-相続開始時の年齢(1歳未満切捨て)〕
④ 障害者の定義
イ 一般障害者の定義 (相基通19の4-1)
・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が2級又は3級である人
・身体障害者手帳の障害等級が3級から6級までである人等 ロ 特別障害者の定義 (相基通19の4-2)
・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級である人
・身体障害者手帳の障害等級が2級以上の人 等
⑤ 障害者控除の注意点
イ 障害者自身が財産を取得する必要があること 障害者控除の適用を受けるためには、障害者自身が相続又は遺贈により財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産を含みます。)を取得する必要があります。 したがって、障害者自身が財産を一切取得しないような場合には、障害者控除の適用を受けることはできません。
ロ適用を受けるための相続税申告書の提出は不要 障害者控除は、配偶者に対する相続税額の軽減とは異なり、その適用を受けるために相続税申告書を提出する必要はありません。このため、障害者控除を適用した結果、相続人 受遺者全員の相続税額がゼロとなった場合には、相続税申告は不要となります。したがって、相続人の中に年少の障害者がいるような場合には、障害者控除によりそもそも相続税申告が不要となる場合があります。
ハ相続開始時に障害者手帳の交付を受けていない場合 相続開始時において精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていない人、身体障害者手帳の交付を受けていない人等であっても、相続税の期限内申告書を提出する時において、これらの手帳の交付を受けているか又はこれらの手帳の交付を申請中であり、かつ、一定の資格を有する医師の診断書により、相続開始の時の現況において明らかにこれらの手帳に記載される程度の障害があったと認められる場合には、相続税の障害者控除の適用を受けることができます(相基通19の4-3)。
二 障害者が未成年者である場合 障害者が18歳未満(令和4年3月31日以前開始相続においては20歳未満)である場合には、未成年者控除と障害者控除の重複適用が可能です。
ホ 障害者自身の相続税額から控除しきれない場合 障害者自身の相続税額から控除しきれない障害者控除額がある場合(障害者控除額>障害者自身の相続税額の場合)、障害者の扶養義務者の相続税額から、控除しきれない障害者控除額を控除します。
へ 障害者が従前に障害者控除を受けている場合 障害者が、従前に他の相続で障害者控除の適用を受けている場合、一定の障害者控除額の調整計算を行います。