弁護士の知識

申告スケジュール

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q: 相続税申告のスケジュールと留意点を教えてください。
A: 相続税の申告と納税は、相続人等が相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に終える必要があります。相続税計算上の各種特例の適用に当たり、遺産分割協議が成立していることを前提とするものも複数あることから、この期日までに遺産分割協議を成立させる方が好ましいといえます。 また、特別代理人や成年後見人の選任と相続税申告の両方が必要となる事案では、一連の手続に関するスケジュールがタイトになるため、相続税申告を担当する税理士との密な連携が大切です。
解説
(1) 相続税の申告書を提出すべき者等
① 相続税の申告書の提出義務者(相法27①) 相続税の申告書の提出義務者は、次の三つの要件のすべてを具備する個人を原則とします。ただし、例外として、持分の定めのない法人、人格のない社団若しくは財団又は特定の一般社団法人等で個人とみなされて相続税の課税を受ける場合(前記17参照)には、これらも提出義務者に含まれます。
イ 人的要件
相続又は遺贈(死因贈与を含みます。)により財産を取得した人、その相続に係る被相続人から相続時精算課税贈与を受けた人であること。
ロ 遺産総額に係る要件 同一の被相続人から相続又は遺贈によって財産を取得したすべての人の相続税の課税価格(正味財産) の合計額が遺産に係る基礎控除額(※1)を超えている こと。この場合の相続税の課税価格には、相続開始前7年以内(令和5年12月31日までの贈与については3年以内) に贈与があった場合の贈与財産(生前贈与加算) 及び相続時精算課税贈与により取得した財産 (相続時精算課税適用財産。令和6年以後の贈与については同制度の基礎控除後の金額)の価額も含みます(前記12参照)。
ハ 各人ごとの相続税額に係る要件
相続、遺贈又は相続時精算課税贈与により財産を取得した人ごとに、配偶者に対する相続税額の軽減を除く税額控除(贈与税額控除・未成年者控除・障害者控除・相次相続控除・外国税額控除)のうち、適用を受けることのできる税額控除を適用してもなお納付すべき相続税額があること。
(※1) 相続税の基礎控除額は、以下の算式により計算します。 基礎控除額=3,000万円+600万円×相続税法上の法定相続人の数 この場合の、相続税法上の法定相続人の数は、民法第5編第2章(相続人)の規定による相続人の数とし、相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数によります。また、被相続人に養子がいる場合には、被相続人の実子の有無に応じ一定の養子の数の算入制限が設けられています(相法15) (前記 (2)②参照)。
(※2) 相続税の計算体系については、次ページの図のとおりです。 なお、適用を受けるためには相続税の申告が必要とされる特例(小規模宅地等の特例:前記19参照、配偶者に対する相続税額の軽減:前記20参照)の適用を受ける場合には、たとえ相続税額がゼロであったとしても相続税申告が必要となります。
② 還付を受けるための申告書を提出できる人 相続時精算課税制度の適用を受けた受贈者で、次の算式に該当する場合には、贈与税の合計額が納付すべき相続税額を超える金額について還付を受けることができます(相法21の15③, 21の164, 273, 33の21)。

その人が納付すべき相続税額(贈与 税額控除(暦年) から外国税額控除 までの税額控除適用後の相続税額) < 被相続人から受けた相続時精算課税 贈与により納付した贈与税の合計額

還付を受けるための申告書は、相続開始日の翌日から5年を経過する日まで提出することができます(相基通27-8)。
なお、相続時精算課税贈与に係る贈与税額控除以外の相続税の税額控除 (暦年課税贈与に係る贈与税額控除、配偶者に対する相続税額の軽減等)について控除不足額が生じた場合には、このような相続税額の還付を受けることはできません。

(2) 相続税の申告期限
① 相続税の申告期限
相続税の申告は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません(前記1参照)。
② 相続の開始があったことを知った日
相続の開始があったことを知った日とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいいます(相基通27-4)。自己のために相続の開始があったことを知った日とは、自らが相続により財産を取得することを知った日と解されています(前記1(2)参照)。
(3) 相続税申告書の提出先
相続税申告書の提出先は、被相続人の住所が日本国内にあるか否かにより分かれます。
① 被相続人の住所地が日本国内にある場合 被相続人の死亡時の住所が日本国内にある場合には、被相続人の死亡時の住所地の所轄税務署に相続税申告書を提出します(相法附則3)。
② 被相続人の住所地が日本国外にある場合 被相続人の死亡時の住所が日本国外にある場合の相続税申告書の提出先は、次のとおりです。
イ 日本国内に住所を有する相続人等 相続人等の日本国内の住所地を所轄する税務署(相法62①)。
ロ 日本国内に住所を有しない相続人等 相続人等自らが納税地を定め、自らが定めた納税地を所轄する税務署(相法622)。
この場合、納税管理人の選任・届出が必要となります (通法117①)。一般的には、この納税管理人の住所地に合わせて納税地を定めます。
(4) 相続税の申告義務を負う者が死亡した場合
相続税の申告義務を負う者が相続税の申告期限前に死亡した場合(例: 被相続人の配偶者が相続税の申告期限前に死亡した場合)の申告をすべき人と申告期限は、以下のとおりとなります(相法27②)。
申告をすべき人 : 「死亡した人の相続人又は包括受遺者
申告期限:申告義務を負っていた人の相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内
(5) 共同申告
相続税申告書は、相続人,受遺者及び相続時精算課税適用者のいずれか2人以上いる場合において、上記(3)の申告書の提出先が同一であるときには、各相続人等が個別に相続税申告書を提出するのではなく、共同して一つの申告書を提出することができます (相法27⑤)。ただし、この取扱いはいわゆる「できる規定」のため、例えば相続人間で争いがあるような場合には、別々に相続税申告書を提出することも認められています。
(6) 相続税の納税
相続税の期限内申告書を提出した人は、その申告期限までに相続税申告書に記載した相続税額を国に納付しなければなりません(相法33)。
(7) 特別代理人選任・成年後見人選任と相続税申告のスケジュール
特別代理人選任には遺産分割協議書案が、成年後見人選任については遺産分割未了の相続財産についての相続財産目録が、原則として必要とされています。 一方,相続税申告においては、各種特例適用等の観点から相続税の申告期限までに遺産分割協議を完了させることが望ましいといえます。 このため、特別代理人選任や成年後見人選任が必要であり、かつ、相続税申告も必要と見込まれる場合には、早い段階で相続税申告を担当する税理士と連携を図り、遺産分割協議書案や相続財産目録の作成,特別代理人選任・成年後見人選任と遺産分割協議までのスケジュールをすり合わせておく必要があります。