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弁護士の知識

遺産分割協議が整わない場合の申告期限

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q: 昨年父が亡くなってからまもなく9か月が経過しようとしています。相続税の申告は10か月以内に必要とのことですが、まだ遺産分割協議がまとまっておらず、申告期限を過ぎる見込みです。どうすればよいでしょうか。
A: 相続税の申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。これは遺産分割協議が整っていない場合においても同様です。各相続財産の取得者が決まっていない場合は、法定相続分で取得したものと仮定した申告書を作成し、申告期限までに申告・納税を行います。
解説
(1) 遺産分割協議が申告期限までにまとまらない場合
相続人間で話し合いがまとまらず調停や審判になるケースや相続人が所在不明で遺産分割協議が進まなかった場合など、相続の開始があったことを知った日から10か月以内に遺産分割協議がまとまらないこともあります。 このような場合には、民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算します(相法55)。
(2) 一部未分割の場合の課税価格の計算方法
遺産分割協議は、すべての財産について一度に分割する必要はなく、一部の遺産から分割することも可能です。また、一部の遺産については遺言によって取得者が指定されているケースもあります。 第5章 相続税の申告・納税 113 このような一部未分割のケースにおける課税価格の計算は、「積上げ方式」と「穴埋め方式」による計算が考えられますが、現在は「穴埋め方式」により計算するのが相当であるとされています。
① 積上げ方式による計算 未分割財産について相続分や包括遺贈の割合に基づく計算を行い、分割済財産に加算する方法により課税価格を計算する方法です。
② 穴埋め方式による計算 分割済財産を含むすべての相続財産に対する自己の相続分相当額から分割済財産の価額を控除して課税価格を計算する方法です。
(3) 申告期限後に遺産が分割された場合 遺産が未分割であることにより、民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格を計算して、相続税の申告を行っていた場合において、その後遺産が分割されたことにより、その分割に基づき計算した相続税額と当初申告で計算した税額が異なることとなった場合には、修正申告又は更正の請求を行うことができます。 修正申告は、遺産が分割されたことにより取得した財産に係る課税価格が、当初申告時の課税価格よりも増加した場合に行います。
これに対して、更正の請求は、取得した財産に係る課税価格よりも、当初申告による課税価格が過大となっている場合において行うことができる手続です。遺産分割により当初申告の課税価格と異なることを知った日から4か月以内に限り行うことができますので、期限の管理については注意が必要です。
なお、当初申告後に遺産分割が行われた場合において、分割後の相続税総額と当初申告の相続税総額に相違がない場合には、相続人間による税額の調整を行えば足りるため、必ずしも修正申告や更正の請求を行う必要はありません。