遺産分割協議が整わない場合の特例適用
2025年11月19日
Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社
Q:相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなかった場合には、相続税の計算において適用のできない特例があると聞きました。
A: 遺産が未分割の場合には、配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられません。ただし、一定の手続を行うことで、遺産分割が行われた後に適用できることがあります。
解説
(1) 遺産が未分割の場合の特例適用
相続税の申告期限までに遺産が未分割である場合には、相続税額を大きく軽減できる配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられないこととされています。
(2) 特例の適用を受けるための手続
① 申告期限後3年以内の分割見込書の提出 未分割申告後において各種特例の適用を受けるためには、当初の申告書を提出する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して提出することで、その後遺産が分割された場合に、各種特例を適用する旨の更正の請求を行うことができます。この書類の添付を失念すると、分割が確定した後に特例の適用を受けることができません。
「申告期限後3年以内の分割見込書」には、分割がされていない理由や今後の分割見込みの詳細について記載します。
② 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書の提出
相続人間で争いがある場合などは、申告期限後3年以内に分割ができないこともあります。この場合には、その3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し承認された場合には、申告期限から3年を経過した後であっても特例の適用を受けることができます。
なお、やむを得ない事由については、以下の四つの事由が定められており (相令4の2①), これらの事由を証明する書類(事件係属証明書など)の提出も求められています。この場合、例えば、当事者間の不仲を理由とした申請は認められないものと考えられます。
イ 相続又は遺贈に関する訴えの提起がされている場合
ロ 相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合
ハ 遺産の分割が禁止され、相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されている場合
ニ その他やむを得ない事由がある場合 (相続人が行方不明の場合など)
(3) 配偶者に対する相続税額の軽減と小規模宅地等の特例 遺産分割後に適用を受ける特例等として、最も多いのが配偶者に対する相続税額の軽減及び小規模宅地等の特例です。 それぞれの特例適用に当たっての注意点は以下のとおりです。
① 配偶者に対する相続税額の軽減 相続税法において、更正の請求の期限は、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内とされています(相法32①一)。
しかし、この特例については、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内と、国税通則法の規定による更正の請求期限である期限内申告書の提出期限から5年を経過する日のいずれか遅い日まで適用が可能となるため、適用期限についての注意を要します(相基通32-2)。
② 小規模宅地等の特例
イ 調停等の途中で一部分割が行われた場合 調停が進められる中で、一部の財産について分割の合意がされることがあります。更正の請求期限は、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内とされていますので、小規模宅地等の特例が適用できる土地等が調停の途中で分割された場合には、調停自体が継続していたとしても、その一部分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をしなければなりません。
ロ 一部の遺産について分割が行われた状態で未分割申告を行った場合 未分割申告は、すべての財産が未分割の場合だけではありません。一部の財産について分割が行われた状態で申告を行うケースもあります。 特例対象の土地等について分割が行われていた場合、当初申告では特例の適用を行わず、将来遺産のすべてが分割された際に小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求をしようと考えていても、その土地等については特例の適用を行うことはできません。これは当初申告において、その土地等について小規模宅地等の特例の適用を行わないと選択したものと考えられるためです。
(4) 関係者間の連携
前述のとおり、未分割申告後に各種特例の適用を受けるための手続には、一定の期限が設けられています。遺産が分割された場合には4か月以内に更正の請求を行わないと、小規模宅地等の特例の適用はできなくなるため、調停の依頼を受けた弁護士、申告業務の依頼を受けた税理士及び納税者が調停の進捗を共有しておくことが大切です。
上記(3)②イのとおり、分割協議や調停等の途中で特例対象の土地等が分割された場合、その分割日の翌日から4か月以内の手続が必要になりますが、この点は関係者に確実に説明をしておかないと共有漏れが起きやすくなります。そのため、一部分割であっても納税者、弁護士及び税理士の三者が進捗を共有できるよう連携を図ることが大切です。
また、上記(2)②で記載した、遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請を行う場合,申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に申請が必要であり、申請期限が非常に短くなっています。この申請は申請書の作成だけではなく、やむを得ない事由があることを証明する書類が必要であり、その書類の取得及び提出には三者間の連携が大切になってきます。
A: 遺産が未分割の場合には、配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられません。ただし、一定の手続を行うことで、遺産分割が行われた後に適用できることがあります。
解説
(1) 遺産が未分割の場合の特例適用
相続税の申告期限までに遺産が未分割である場合には、相続税額を大きく軽減できる配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられないこととされています。
(2) 特例の適用を受けるための手続
① 申告期限後3年以内の分割見込書の提出 未分割申告後において各種特例の適用を受けるためには、当初の申告書を提出する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して提出することで、その後遺産が分割された場合に、各種特例を適用する旨の更正の請求を行うことができます。この書類の添付を失念すると、分割が確定した後に特例の適用を受けることができません。
「申告期限後3年以内の分割見込書」には、分割がされていない理由や今後の分割見込みの詳細について記載します。
② 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書の提出
相続人間で争いがある場合などは、申告期限後3年以内に分割ができないこともあります。この場合には、その3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し承認された場合には、申告期限から3年を経過した後であっても特例の適用を受けることができます。
なお、やむを得ない事由については、以下の四つの事由が定められており (相令4の2①), これらの事由を証明する書類(事件係属証明書など)の提出も求められています。この場合、例えば、当事者間の不仲を理由とした申請は認められないものと考えられます。
イ 相続又は遺贈に関する訴えの提起がされている場合
ロ 相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合
ハ 遺産の分割が禁止され、相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されている場合
ニ その他やむを得ない事由がある場合 (相続人が行方不明の場合など)
(3) 配偶者に対する相続税額の軽減と小規模宅地等の特例 遺産分割後に適用を受ける特例等として、最も多いのが配偶者に対する相続税額の軽減及び小規模宅地等の特例です。 それぞれの特例適用に当たっての注意点は以下のとおりです。
① 配偶者に対する相続税額の軽減 相続税法において、更正の請求の期限は、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内とされています(相法32①一)。
しかし、この特例については、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内と、国税通則法の規定による更正の請求期限である期限内申告書の提出期限から5年を経過する日のいずれか遅い日まで適用が可能となるため、適用期限についての注意を要します(相基通32-2)。
② 小規模宅地等の特例
イ 調停等の途中で一部分割が行われた場合 調停が進められる中で、一部の財産について分割の合意がされることがあります。更正の請求期限は、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内とされていますので、小規模宅地等の特例が適用できる土地等が調停の途中で分割された場合には、調停自体が継続していたとしても、その一部分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をしなければなりません。
ロ 一部の遺産について分割が行われた状態で未分割申告を行った場合 未分割申告は、すべての財産が未分割の場合だけではありません。一部の財産について分割が行われた状態で申告を行うケースもあります。 特例対象の土地等について分割が行われていた場合、当初申告では特例の適用を行わず、将来遺産のすべてが分割された際に小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求をしようと考えていても、その土地等については特例の適用を行うことはできません。これは当初申告において、その土地等について小規模宅地等の特例の適用を行わないと選択したものと考えられるためです。
(4) 関係者間の連携
前述のとおり、未分割申告後に各種特例の適用を受けるための手続には、一定の期限が設けられています。遺産が分割された場合には4か月以内に更正の請求を行わないと、小規模宅地等の特例の適用はできなくなるため、調停の依頼を受けた弁護士、申告業務の依頼を受けた税理士及び納税者が調停の進捗を共有しておくことが大切です。
上記(3)②イのとおり、分割協議や調停等の途中で特例対象の土地等が分割された場合、その分割日の翌日から4か月以内の手続が必要になりますが、この点は関係者に確実に説明をしておかないと共有漏れが起きやすくなります。そのため、一部分割であっても納税者、弁護士及び税理士の三者が進捗を共有できるよう連携を図ることが大切です。
また、上記(2)②で記載した、遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請を行う場合,申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に申請が必要であり、申請期限が非常に短くなっています。この申請は申請書の作成だけではなく、やむを得ない事由があることを証明する書類が必要であり、その書類の取得及び提出には三者間の連携が大切になってきます。