ホーム

弁護士の知識

プロベート手続と申告期限

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:米国籍を持つ米国居住の被相続人に相続が開始し、米国でプロベート手続を行っています。現地の弁護士によれば、日本の相続税申告期限までには手続が完了しないとのことです。
A: たとえプロベートが完了しなくとも、日本の相続税の申告期限が延長されることはなく、申告期限までに申告と納税を行わなければなりません。プロベートが完了しないと送金を受けられないケースが多いため、申告期限までに納税資金を用意できない場合には、換価猶予などの方法を検討する必要があり ます。
解説
(1) プロベートとは
プロベートとは、主に英米法の国において、相続が開始した際に、一般的に行われる裁判手続です。これらの国では、相続が開始すると、被相続人の財産は、まず遺産財団 (Estate) に帰属し、裁判所の監督下で遺産財団が被相続人の債務を弁済し、各種租税公課を納付の上、残余財産を相続人へ分配します。 この一連の裁判手続を、プロベートと呼びます。プロベートは長ければ数年かかることもあり、日本の相続税の申告期限 (相続の開始を知った日の翌日から10か月)までに完了しないことも多々あります。
(2) プロベートが申告期限までに完了しない場合の問題点
国際相続であっても、日本の相続税の申告期限は、あくまで相続の開始を知った日の翌日から10か月です。この期限が延長されることはなく、申告期限内に、相続税申告書の提出と相続税の納税を完了しなければなりません。 税理士が相続税申告書を作成するに当たり、プロベートの裁判資料が参考資料として必要となりますが、日本の相続税の申告期限までにプロベートが完了しない場合には、相続税申告書の作成に必要な情報が入手できません。また、取り急ぎ入手可能な情報に基づき申告書を作成できたとしても、プロベートが完了しなければ相続人は相続財産の分配を受けることもできないため、納税資金がなく、相続税の納税ができないという問題があります。
(3) プロベートが申告期限までに完了しない場合の申告方法
日本国内のみで完結する相続であっても、相続税の申告期限までに遺産分割協議が確定しない場合には、未分割申告を実施し、遺産分割協議確定後に、修正申告又は更正の請求を行います。また、申告期限までに金銭一括での納税が困難である場合には、延納、物納、換価猶予といった手続を行うことが考えられます。
プロベートが完了しない場合の申告方法として、ひとまず、申告期限までに 入手可能な資料情報に基づき相続税申告書を作成し、期限内申告を行った後、プロベート完了後に、修正申告又は更正の請求を行う方法が考えられます。この場合、プロベートが完了していないことで、財産の分配が未だ確定していないと整理するのであれば、未分割申告を行います。なお、例えばトラスト(信託)内の財産や受益者の指定のある金融資産など、プロベートの対象外で分配が確定している財産があれば、一部分割の申告となります。 未分割申告を行う際の注意点として、相続財産が未分割である場合の課税価格は、民法の規定による相続人及び相続分に従ってその財産を取得したものとして計算しますが(相法55),被相続人が外国籍である場合には、被相続人の本国法の規定による相続人及び相続分をもととして計算することとなります (法の適用に関する通則法36)。
(4) プロベートが完了していない場合の納税手続
納税については、換価猶予を実施することが考えられます。一般的には納税資金捻出のための不動産の換価などを想定した手続ではありますが、プロベートでは、プロベートが完了するまで財産の分配を受けることができないため、送金が完了するまでの期間、納税の猶予を受けることを検討しなければなりません。
ただし、換価猶予には、原則として担保提供が必要であり、プロベート中の国外財産を担保に供することはできません。そのため、担保提供ができない状況で換価猶予を実施したい旨を、事前に所轄税務署へ相談することが望ましいといえます。
また、場合によっては、プロベートの完了前であっても、日本の相続税申告納税分の資金を先行して送金してもらえるケースもあるため、日本の相続税申告の仕組みについて現地の専門家の理解を得て対応してもらえるよう働きかけることも有効と考えます。
(5) プロベート完了後の対応
日本の相続税の申告期限までに未分割の期限内申告を行い、その後、プロベートが完了した際には、その分配に応じ、修正申告又は更正の請求を行います。その際、プロベート手続の中で、例えば外国の相続税に相当する税額の支払があった場合には、外国税額控除の適用も検討します。