弁護士の知識

連帯納付義務

2025年11月19日

Q&A 弁護士のための相続税務70
中央経済社

Q:弟がすべての不動産を相続し、私は現預金を相続する旨の遺産分割を行い、相続税の申告と納税を済ませたところ、このたび、税務署から「完納されていない旨のお知らせ」という書面が届きました。どうすればよろしいでしょうか。
A :弟様が相続税の納期限までに納付していない場合には、税務署から他の相続人(「連帯納付義務者」といいます。)に「完納されていない旨のお知らせ」が送付されます。これは、納税がなされていない事実を知らせるためのものであり、直ちに連帯納付義務者に納付を求めるものではありませんが、弟様が滞納を続けると、連帯納付義務者は、相続税の納付義務を負うことになります。
解説
(1) 相続税の連帯納付義務
相続税は、相続税を納めるべき各相続人が納付するのが原則ですが、自身の相続財産に課された税金を既に支払っていても、自身が相続で得た財産を上限に、滞納している相続人の負担分を納税する連帯納付義務を負います(相法34①)。 相続税の連帯納付義務は、相続税徴収の確保を図るため、各相続人に課された特別の責任であり、各相続人の固有の納税義務が確定すれば、法律上当然に生ずるものと解されています。(最判昭和55年7月1日(民集34巻4号535頁) )
なお、相続税の連帯納付義務の時効は、申告期限から5年間です。
(2) 相続税滞納から連帯納付義務発生の流れ
相続税を滞納している相続人に対し、税務署は申告期限から50日以内に督促状を発送します。そして、滞納している相続人へ督促状が送付されてから1か月経過しても完納されないときは、連帯納付義務者に「完納されていない旨のお知らせ」が送付されます。 相続税を納めるべき相続人がさらに滞納を続けると、連帯納付義務者に「納付通知書」が送付されます。納付通知書が届くと、記載されている納税額を納める義務が生じます。
(3) 連帯納付義務者の納付
連帯納付義務者は、納付通知書が送られてから2か月が経過する日か、督促状が送られた日のいずれか早い日までに相続税を納付しなければなりません。 なお、連帯納付義務者が連帯納付義務に係る相続税に併せて納付する延滞税については、一定の要件の下、延滞税に代えて利子税を納付します(相法51の2)。
(4) 連帯納付義務者が滞納した場合
納付通知書の送付から2か月しても連帯納付義務者が納付しない場合,督促状が送付されます。督促状が届いた後の期間は、原則年14.6%の延滞税が課されます。 なお、滞納が続くと差押処分の対象となります。

(5) 求償権の発生とみなし贈与
本来相続税を納付すべき相続人の代わりに相続税を納めた連帯納付義務者は、その相続人に対し、相続税や利子税の返還を求める求償権を取得します。
求償権は放棄することも可能ですが、この場合、連帯納付義務者が代わりに納税した金額は、本来相続税を納付すべき相続人に対する贈与とみなされます(相基通8-3)。したがって、贈与を受けた相続人(求償権の放棄を受けた相続人)は、贈与とみなされる金額が暦年課税贈与の基礎控除額を超える場合には、贈与税の申告と納税を行う必要があります。
(6) 贈与税の連帯納付義務
贈与税を納付すべき受贈者が贈与税を滞納した場合についても、贈与した財産の価額に相当する金額を限度に贈与者は連帯納付義務を負います(相法34④)。この場合、滞納から連帯納付義務発生の流れや延滞税の代わりに利子税を納付することなどは相続税と同様です。相続税と違うところは、贈与税の連帯納付義務の時効が原則6年という点です。 なお、不動産の贈与や自社株式の贈与を行おうとする場合、受贈者に納税資金の不足が見込まれるときは、納税資金に充てるための現金も併せて贈与することや相続時精算課税制度を利用することも検討します。